意外と早く死んだなベレト

 シャハリーザさんとアフロが戦うようです。

 一国の最大戦力ってどんなもんか見てみよう。


「ではいきましょう」


 シャハリーザさんの右手が歪み、どこかへ消える。


「幻覚か?」


 何をしているのかわからないが、それが面白い。

 結果はすぐに出た。アフロの顔の横に右手が現れ、火球の爆発が襲う。


「ぬあぁ!?」


 まともにくらったようだが、それでも顔に焦げ目すら無い。

 頑丈だねえ神様って。


「この程度では死にませんか。まあいいでしょう」


 操られている兵士の足元から鎖が飛び出し、体を拘束する。

 どう見ても舞台の床から出ているが。


「これで誰も傷つけずに済みますよ」


「感謝する」


「ありがとうございます! シャハリーザ様!!」


「リリア、解説頼む」


「空間操作と錬金じゃな。無と魔力をこねて物を作る。作ったら空間を飛ばして操作する。修練の必要な技術じゃ」


 それがどれだけ大変な作業なのか検討もつかん。


「おのれ小癪な!」


「ジュナイザーを真似ましょうか」


 再び火柱が飛び、アフロの顔を焼く。

 そして過ぎ去った炎は空間を飛び越え、もう一度アフロに襲いかかる。

 炎による一発二撃。


「げ……うあがぁ!?」


 そしてアフロが口から火を吐き出した。いやなんでだよ。


「炎は体内に侵入できないようですが、口が空いていれば、その隙間に移動させるくらいはできるみたいですね」


 ヤマトのトップはえぐい技しか持ってねえのか。


「ベレト! さっさとそいつらを殺せ!」


「わかってんだよ! テメエも働けや!」


 仲間割れしているところに閃光を受けて怯む敵さん。

 顔に直接撃てる魔法って強いな。


「神を舐めるなよ!」


 アフロの指先から赤いビームが飛ぶが、なんか外れっぱなしだ。

 シャハリーザさんの動きは俊敏ではないし、むしろ遅い。

 なのに攻撃は当たらず、徐々にアフロの被弾率が上がっていく。


「避けているというより……当てようとしていないように見えるわ」


「リリア、あれ解説できる?」


「無茶言うなって」


「簡単じゃよ。水じゃ」


 できるんかい。お前凄いな。

 しかし水ねえ……わからん。

 体術が拳法っぽいのはなんとなくわかった。


「あくびすると涙で視界が滲むじゃろ? ほんの少しだけ、薄くて少量の水をアフロの眼球に触れないぎりぎりの場所に転移させておる。炎の魔法で撹乱して、目全体ではなく、一部に水が飛ぶから判別できんのじゃ」


「即興の目隠しね……思いついても簡単にできることじゃないわ」


「やあぁ!!」


 驚くことにベレトとアフロの接近戦に適応し、するりと避けては反撃する。

 体術にも攻撃魔法をミックスしているな。


「あの人魔法特化じゃないのか」


「オルインで特化というのは、他もできるが超得意分野があるということに近いのじゃ。むしろそれくらいでなければトップにはなれぬ」


 なーるほど。人間レベルが異常に高いんだっけ。

 その中で一国のトップになるんだ。そりゃ強いわな。


「ダブルローズ……スラッシュ!」


「その技をやめろっつってんだよ!!」


 ベレトの動きが鈍重になり続けている。

 無理もない。ジュナイザーさんの技は傷口を丸く開く。

 言ってしまえば傷口が塞がらない状態だ。

 縛って血管を止めるにも限界はある。


「出血多量か」


「じゃな。あやつは魔族。神ではないし、臓器も血も必要なタイプじゃ」


 長期戦になればなるほどガン不利になる。

 しかも少しかすっただけで発動する極悪技だ。

 敵はどうしたって慎重になるし、判断力も鈍り続けるだろう。


「まず一人、倒しておきましょう」


「この程度でやられると思ってんじゃねえぞ!!」


 斬り刻まれたベレトは本来の姿を表し、紫と青の皮膚をした化物へと変わっていた。

 しかしそれでも戦況が大きく変わることはない。

 それほどの差があった。


「これ以上……この国と民の愛を汚させはしない」


 ジュナイザーさんの魔力が舞台とベレトに染み渡る。

 傍目からでも感じ取れるほど膨大なそれは、血の足りないベレトの体を急速に冷やしていく。


「体が……動か……」


 勝負は一瞬だった。

 冷気を纏ったジュナイザーさんは、素の俺には見えない速度で斬りかかる。


「秘剣、氷閃散華」


「う……おぉ……こんな……ところで……」


 一太刀で全冷気がベレトへ侵入。

 内側から大量の氷槍に突き破られ、まるで氷像のように固まったベレトは、凍りついたまま砕け散った。


「おぉ……あれがジュナイザー様の絶技」


「素晴らしい……流石は騎士団長!!」


「ジュナイザー様の勝ちだ!!」


 客からも歓声が上がる。

 舞台の色も白に変わっていく。

 いいとこなしで終わったなベレト。ちょっとかわいそうなやつだ。


「ベレトめ、大口をたたいておいてそれか。使えんやつよ」


「余裕があるね。君だけで我ら二人を相手しようというのかい?」


「そのつもりさ」


 アフロディーテの魔力が膨れ上がり、自身を赤く紅く染めていく。


「見せてあげよう。人と神の絶対的な差を」


 帯がジュナイザーさんに伸びる。

 それを剣で受け止め……舞台端まで吹っ飛んだ。

 ついでに鎧も一部砕かれている。

 どんな強度だ帯よ。


「ぐああ!!」


「ジュナイザー!」


「よそ見をしていていいのかい?」


 いつの間にかシャハリーザさんの正面にいる。

 さっきまでとは段違いのスピードだ。

 だが接近したことで攻撃魔法を顔に食らっている。

 もろに入ったな。いかに神でもきついだろう。


「その程度かね?」


「そんな!?」


 まーったく動じていない。

 瞬時に理解し距離を取り、攻撃魔法を撃ち続けている。

 だが帯の防御もあり、決定打にはならない。

 一発一発が俺のプラズマイレイザーより威力も精度も高いのに。


「人が神と対等に戦えると思っていたのか? 傲慢だな」


 さらに高速接近。

 魔法をものともせずにシャハリーザさんへ拳打を浴びせ、首を掴む。


「うあぅ!?」


「このまま首をへし折ってやろう」


「その手を放せ!!」


 強化魔法で金色のオーラがついたジュナイザーさんのカットで九死に一生を得る。

 ここまで戦力に差が出るものなのか。


「無事か!」


「ありがとう。なんとかいけそうよ」


「協力して叩くぞ!」


「まだ歯向かうか。不敬だな」


 そして超高速戦闘へと発展。

 魔法の弾ける音と閃光。

 武器のぶつかり合う金属音だけが場を支配する。

 いやアフロの武器、帯だよな? なぜそんな音するのさ。


「そしてアジュさんの目では追えないのであった」


 ナチュラルに光速へと達しようとするの本当に怖い。

 この世界こんなやつばっかりか。


「恐ろしく速いわね。アフロディーテという神、異常よ」


「そうか? 神ってそういうもんじゃないのか?」


「まだ目で追えるけど、強すぎるかな。ちぐはぐっていうか、サイクロプスやエリスより強いと思えないのに、なんだろ? なんか不思議」


 神の血が入っているシルフィとイロハは、何か異変に気づいているようだ。

 しかも目で追えているらしい。

 君らも大概あれだよね。達人に片足突っ込んでいるよね。


「トリックがあるってことか」


「じゃな。高位の神ではないはずじゃ」


 よくて中級神に届くかどうかレベルのはずらしい。

 どっちにしろ強いことは強いのかな。


「我は信じている。ヤマトの精鋭は、神に劣ることはないと!」


『滑稽だなゲンジよ。所詮愛を謳おうともザコはザコのままだ』


 王家の会話も発展があるっぽいので聞いておこう。

 面倒だが、実は悪いやつじゃない展開とかあると面倒だし。

 本当に面倒だし。報酬減っちゃうだろ。


「なぜだシリウス。教えてくれ。なぜ城から姿を消した? いったいお前に何があった! なぜ城を出た!」


『なぜだと? 黙って消されろとでも言うつもりか!』


「我が兄シリウスよ。このまま戦っても我には真実が見えぬ。理由もわからず戦うことはできぬ」


『…………仕方があるまい。予定が早まるが聞け。凶兆の子がどういう扱いを受けるか!』


 やっとか。そこさえ聞いておけばいいだろう。

 王家に責任があると困るんだよ。


『凶兆の子は厳重に力を封印される。使いこなすことは子供にはできんからだ』


「そして我の凶兆の力もシリウスに入ったと」


『そうだ。力そのものは兄弟がいれば受け継ぐものが出る。それは前例もある』


「兄弟で力を受け継いでしまったものはその力を厳重に封印し、長い年月をかけて制御できるようにし、影から王家に尽くす。決して王位を継ぐこともない。それで我を恨んだか」


『違うな』


 即答したな。

 双子の兄で王位を逃して影に生きる。

 それが嫌なんじゃないってことか。


『正確には少し恨んだこともある。城の立ち入り禁止区域からほぼ出ることができず、地下に建造された施設で育った。外出は庭に出るだけ。お前の見ている眩しい景色とは違うものだろう。オレは存在そのものが消されているのだからな』


「父上、何故公表されなかったのですか?」


「凶兆の子は、ただでさえ慎重に扱うのだ。そしてお前たちの力は強すぎた。悪の手に渡ることも考慮し、影に生きる宿命のために秘匿した。これも前例がある。施設もそのための修行場であり、生活空間として設計されている」


「地下にそのような場所が……」


『地下牢のような場所を想像したか? 予想外に快適だったよ。お前と比べれば窮屈極まりない生活だろうが、衣食住があり、粗末な扱いではなかったはずだ』


「当然だ。お前は私の子。そこまでの不自由はさせん」


 どうも要領を得ない。

 特別施設は広くて快適ではあるらしい。

 行動範囲が狭いことは狭いだろうが、粗雑な牢獄ではないっぽいし。


「施設……立ち入り禁止区域……まさか、爆発事故が起きたあの!!」


『事故などではない。あれはオレを消すために装われた計画的な犯行だ』


 なんか数年前に爆発事故があり、王宮が大騒動になったことがあるそうだ。


『オレが十歳の頃だ。力のコントロールを覚え、影として生きることに心の整理もついてきた頃だよ』


 その年で人生に折り合いつけるとか半端ないな。

 どんだけ人間できた人だよ。敵だけどさ。


『突然施設が爆破され、オレを殺すため王の刺客が乗り込んできた』


「馬鹿な!」


「違う! 私はそんな事を指示したりしない!」


『凶兆の子とその処置について知っているものは、ごく僅かだ。ゲンジですらはっきりとは説明できまい。つまり王よ! オレの情報を持ち、オレを殺す理由と権力、兵を持つものはお前だけだ!』


 状況証拠としちゃ十分だな。

 本来知られていない存在。王宮を爆破という荒業。

 殺すために刺客を城内に潜ませるという不可能なミッション。


『俺を生かしておけば危険な存在になる。だから事故に見せかけて殺そうとしたのだ!』


「違う! 本当だ! 本当に知らないんだ!!」


 さて真実はどこにあるのか。

 ちょっと興味が出てきたぜ。

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