ゲンジ・ヒカル出陣

『オレを生かしておけば危険な存在になる。だから事故に見せかけて殺そうとしたのだ!』


 そんなシリウスの発言により、場が騒然となってまいりました。


「違う!」


『オレは襲撃をくぐり抜け、襲いかかる敵と、ヤマトの兵から逃げおおせた』


「お前は突然の爆発事故で姿を消した! 死んでいるはずがないと願い、捜索隊も出した!!」


『オレを見つけて、確実に殺すためだろう?』


「本当に知らぬ! 誤解だ!!」


 拗れに拗れております。

 俺の童貞ぼっちくらい拗らせてんなあ。

 じゃあ修復不可能じゃないか。


「コタさん。あなたとフウマなら、この王宮に爆薬仕掛けて、シリウスを狙うって可能ですか?」


「ちょーっと厳しいでござるよ」


「おや、意外じゃのう」


 俺も意外だ。楽勝でできるイメージがある。


「秘密の施設の見取り図を手に入れて、ただ暗殺すればいいだけなら、まあ可能でござる。しかしわざわざ爆破などという目立つことをするとなると……それにたとえ殺せても、メリットがわからんのでござるよ」


「どういうことです?」


「悪政を働く王族を殺した暗殺者なら、裏で引く手数多かも知れぬ。しかし存在すら認知されておらぬ王族を殺しても信用されないでござる。陽動にしても爆破は目立つでござるよ。どうも雑というか杜撰というか」


 プロからすれば雑な仕事らしい。

 まず大国の王子を殺すということは、一生裏に隠れて生きるということ。

 そもそも王宮の奥にある施設へ、人数揃えて吶喊なんてできるわけがない。


「まずシャハリーザさんかジュナイザーさんいた時点で詰むじゃろ」


「詰むだろうね」


 今も神様と絶賛光速バトル中だもんね。

 あんなのと正面から戦えるわけねえだろ。


「人数を増やすのも見つかる原因。倒されれば足がつく。そこから芋づる式に悪事はばれる。あるいは本当に事故なのかもしれませんな」


「そんな偶然があるものですか?」


「偶然でなければ……すべての行動に何か裏の意図があるとしか……」


「難しいところじゃな」


 そんなものが本当にあるのかすら疑わしい。

 ならば考えても答えは出ないだろう。

 だが妙に引っかかる。


『それからの五年間でオレは凶兆の力を取り込み、完全に支配した。引き出し方を教えてくれた師匠には感謝せねばなるまい。おかげでベレトのようなやつらも従えることができた』


「師匠がいたとは、我々すら初耳だね」


『言う必要はない。お互い身の上話に花を咲かせるタイプではなかろう』


「それもそうか。目的さえ達成できればそれでいい」


『アフロディーテ、そろそろ決めろ』


「わかっている。逃げ回るだけでは神に勝てぬと教えてやろう!」


 よくわからんが基礎スペックはアフロが上だろう。

 だがシャハリーザさんの空間移動術で急襲と回避を行い、二人がかりでえぐい技をぶっこみ続ける。

 これは大変神経を逆撫でするわけさ。


「シリウスよ、つまり何がしたい? 我々の首を取ることか? 国の支配者になることか?」


『今更この国に戻れるとは思っておらぬ。ただ虐げられ、殺されかけた落とし前をつけ、オレがゲンジより上だということを証明したい。それだけだ。あとはアフロディーテが好きにすればよい』


「本当にあの爆発は原因不明の事故だ。それだけは言っておく。お前が信じなくても、暗殺者など送り込んではおらん。今でも我が息子であることに変わりはない」


『黙れ。最早和解などありえん。ゲンジを超える。それを民の前で知らしめる。それだけだ』


 こいつは説得できんな。

 どうあっても意見を変えず、最終的に自分がどうなろうとも構わない。

 そういうやつは目的を果たすまで止まらないもんだ。


「ラブサイクロン!」


 ピンクの竜巻がアフロディーテを襲う。

 前も見たが、あれ結構威力高いんだよな。


「ベル!」


「既に運んでおきました」


 その隙にヤマト2トップを回収して帰ってくるベルさん。


『どういうつもりだ?』


「選手交代だ。我が兄シリウスよ、真偽はわからぬ。本当に王宮の何者かが命を狙っていたのかも知れぬ。だが悪に染まる兄弟を見過ごすことはできぬ」


『ほう、ようやくその気になったか』


「ベル、アフロディーテを任せる」


「かしこまりました」


 そこで一応ゲンジに声をかけておく。

 まだトークキーの効果は持続させている。


「正直家族のいざこざを他人が暴力で解決しても無意味だ」


「わかっている。シリウスは我が相手をする。民に何かあれば頼む」


「わかった。なら俺が合図したら全力で会場の連中を隠せ。目くらましでも煙幕でもいい。鎧を使う時に目立ちたくない。正体を知られる訳にはいかない」


「うむ。頼りにしているぞ。我が友アジュ」


 舞台へと踏み出すヒカルへ、ジュナイざーさんが待ったをかける。


「なりません。我々はまだ戦えます!」


「止めなければ死ぬまで戦い続けるだろう? 二人はヤマトにとって必要な人材だ。ここで失うわけにはいかぬ」


「ならばゲンジ様こそ必要ではありませんか!」


「これは家族の問題だ。戦争ではない、ただの兄弟喧嘩だ。我が出る」


 おそらく情が湧いたというか、シリウスを殺したくはないのだろう。

 それでもダメなら当事者である自分が始末をつけると。

 王様ってのも大変だねえ。


「ようやくだ。ようやくオレの力を見せつける機会がやってきた。偽りの王国に、口先だけの愛に、オレが強さを刻みつける!」


「本当に家族だというのなら、喧嘩の一つもしてみるもの。相手をしようシリウス」


 壇上でにらみ合う二人。こうして見ると似ているな。

 本当に兄弟なのだろう。


「執事ごときに神の相手が務まるとでも?」


「これも主の命ですから」


 そして最終タッグマッチが始まる。


「ラブアーマー!」


 金をあしらった桃色の鎧を纏うヒカル。

 いや何だあれ。どうコメントすりゃいいんだろう。

 急所を守る装甲と、最低限頭を守るヘッドギア。

 デザインそのものはかっこいいんだけど、なんでピンク混ぜるかね。


「ラブセイバー!」


 桃色の斬撃が無数に飛ぶ。

 なんだかんだ強いんだよなあ。

 成績優秀だし、一国の王子として、戦闘の教育は受けているだろう。


「くだらん」


 右手を振り抜いて消し飛ばすシリウス。

 一歩もその場を動かず、飛来する攻撃魔法を薙ぎ払う。

 イケメンのくせにパワーファイターかあいつ。


「本気で来い。加減などしている貴様を倒しても意味はない」


「それはすまないな」


「よそ見をしていていいのかい? 王子様」


 アフロの帯がヒカルへと伸びる。


「失礼」


 それをベルさんが受け流し、逆に帯を掴んで引っ張る。


「ヌウゥ!?」


「ヤマトに関係ない神様はお帰りいただきましょう」


 ベルさんの殴打により、アフロが怯む。

 反撃を的確に捌き、舞台の端へと蹴り飛ばす。


「お手伝いいたします」


「うむ、ゆくぞ! ラブウィップ!」


 ヒカルの手のひらからピンクの茨が飛び出し、群れをなしてシリウスへ。

 その隙間を縫ってベルさんが肉薄する。

 チームワークという点ではこいつらが上だろう。


「セイッ!!」


 ベルさんの拳を受け止め、そのまま硬直する二人。

 下手に動けば隙を見せる。達人ムーブですね。


「貴様……ただの人間ではないな」


「私は坊っちゃんに仕える執事。それだけでございます」


「ならばその主を捨て、私に仕えよ。神の僕となるのだ」


 神の魔力が大渦となってヒカルを襲う。

 雑な一撃だが、そこは神。単純な威力が段違いだ。


「ベル」


「ここに」


 いつの間にか二人が並んでいる。

 同時に同じ方式で魔力を開放し、混ざり合う波動が一筋の光となって突き進む。


「ヒカル家奥義、王華愛閃砲!!」

 

「バカな!?」


 大渦を吹き飛ばし、アフロに直撃。

 受けた両腕に軽い火傷が見られる。


「私の体に傷を……」


 いかに神の渦とはいえ、雑に撃たれた魔法だ。

 一点集中したビームに耐えるほどではない。

 というか二人が強い。


「チッ、使えん女神だ」


 アフロへの追撃はせず、距離的に近いシリウスへと駆ける。


「ラブウィップ!!」


「小細工が好きだな。ゲンジよ」


 何かとても不吉な気配を漂わせた暴風により、桃色の茨すべてが薙ぎ払われる。


「おい、あれなんかやばいだろ」


「おぬしが気づくほどか。あれは少々まずいのう」


「凄く嫌な、苦しい感じがする」


 感覚の鋭いシルフィが少し怯えている。

 どうやらただの魔力の塊じゃないようだな。


「さっさと操作でもしたらどうだアフロディーテ」


「やっている! こいつら私の愛の傀儡とならん!!」


「我は愛の伝道師。偽物の愛などに惑わされはしない!」


「生憎、まだ愛などわからぬ身でして。執事として未熟ですから」


 どうやら愛の束縛は効きが悪い相手が多いらしい。

 つまり身体能力高いだけの女神か。

 あんまり問題なさそうだな。


「我とベルを同時に相手することが失敗そのものだ。チームワークは乱れない。その力は無限大!」


「ならば分断すればいい」


 シリウスがおもむろに右手を上げ、下げる。

 それに合わせたかのように舞台に雷が落ちた。


「ラブスピード!!」


 危険を察知し、敵の動作が終わる前に行動は始まっていた。

 ピンクのオーラで身を包み、素早く左右に飛ぶ二人。

 おそらく強化魔法だろう。それよりも今の技は。


「あいつ俺と同じ雷属性か」


「いや……あれはただ雷が落ちただけじゃ。だからこそ危険じゃな」


 風と雷属性ではないらしい。

 非常に危険な気配だ。妙にざわざわする不吉な感じ。

 これが凶兆ってやつなのかもしれない。


「合わせろ!」


「かしこまりました」


 二人の蹴りがシリウスに迫る。

 だがそれを平然と受け止め、足を掴んで振り回す。


「仲良く飛んでいけ」


 上空へぶん投げられながらも姿勢を整えるヒカルと、サポートに回り結界を張るベルさん。

 そこへ二度目の雷が落ち、一気に舞台に叩きつけられたところをアフロが襲う。


「私の愛に捕らわれるがいい」


 帯をヒカルとベルさんに飛ばし、見事その腕に巻き付いた。


「よくやった。執事だけでもそのまま捕まえておけ」


 シリウスの右手から、青白いビームが放たれる。

 狙いはベルさんっぽい。


「残念だが、愛とは束縛することではない。お互いの生き様を尊重し、支え合うものだ!」


「いきますよ坊っちゃん」


 何と二人で帯を掴み、アフロをビームに向けて投げ飛ばした。

 結構パワーあるな。


「しまっ……!? 待てシリウス!!」


 待ても何もビームは撃っちゃってるからね。

 無事アフロに直撃。

 かなり焦っているようだが、外見上傷ついている箇所はない。


「がはっ!? ゲホッ、ゲホ……うぐ……」


 突然アフロが咳き込み血を吐き出す。


「何をしているのだ……邪魔をしに来たのか」


「いいからさっさと治せ。ウガハッ!?」


「…………使えんな。これでいいだろう」


 またビームを撃ち、アフロにあてて治したようだが。

 何やってんだろ。敵の能力がわからん。


「気取られることなく執事を始末したかったが、仕方があるまい」


「ほう、我に使う力ではないと?」


「ゲンジはあくまでも正面から叩き伏せたかった。無駄と言われれば無駄なこだわりだ。幸運だったな」


 隠し玉があるっぽいので、それに注意だな。

 頑張れヒカル。なんとかそいつ倒してハッピーエンド迎えてくれ。

 そんなよくわからん瘴気滲み出たやつと勝負したくないぞ。

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