凶兆の王子

 パレードが一周し、城の前までやってくる。

 すると城のテラスより王様とヒカルが出てきて演説が始まった。


「長くなるなこれ」


 少し離れた場所からそれを眺める俺たち。

 外だというのに椅子が大量に置いてあり、食ったり飲んだりしながら聞いている連中が多い。

 気軽に飲み食いしながら聞くものらしいよ。


「美味そうなものを食べているな皆の衆! 今年も豊作だった! 存分に味わい、噛み締めながら聞いてくれ!」


「民の愛が作物にも届いたのだ!」


 客がいいぞーとか王様ーとか歓声をあげている。

 この演説は魔法と魔導器で王都に流れているらしい。

 なんか独特の技法なんだとか。


「この国のノリがわかってきたぜ」


「うむ、珍しい雰囲気じゃな」


 俺たちも飲み食いしながら聞いている。

 ティッカとかいうチキンがうまい。

 香辛料きいているのは、そういう料理なんだろうか。


「わたしは結構好きかも」


「それで平和を維持できているのなら、正解なのでしょう」


 別に他国の運営にちょっかい出す気はない。

 俺は普通の一般人。政など知らんのだ。

 お好きになさってくださいな。


「これぞ愛! この国が末永く運営できるよう、より一層の愛で諸君を包もう!」


 熱血しているところ悪いが、ちょっと飽きてきた。

 屋台で買ったチャウミンとかいうスパイシーな焼きそばが無くなりそうだ。

 食い終わるまでに終わって欲しい。


「では来年も豊かな国であること祈って……」


『何が愛だ』


 突然聞こえた声により、少し場がざわつく。

 明らかに暗く恨みのこもった声だ。


『偽りの愛によって栄えるこの国は、今日で終わりだ』


 突如として始まる地震。観客が慌て出し、揺れも大きくなっていく。


「リリア、やばそうなら四人だけに結界張るぞ。とりあえず離れるなよ」


「うむ、用意はできておる」


「あれ! お城が!」


「黒い……城?」


 もとから存在する城と対峙するかのように、突然城が現れる。

 蜃気楼のようにぼやけていた黒い城は、はっきりとその存在が見えるまでになった。

 その外壁は、今まで見ていた城と同じように感じる。


「次元を割って入ってきた? いや、なにかもっと別種の……元に戻る魔力の動きじゃな」


「どういうことだ?」


 意味がわからない。とりあえず城や広場の入口を塞ぐようにして、対となる城ができてしまい、黒い壁もできた。このままだと出られない。


「判断材料が少なすぎるのじゃ。これもイベントかもしれぬぞ」


「それは今聞く」


『トーク』


「ヒカル、お前にだけ聞こえる方法で喋っている。アトラクションの一環ならそう言え。間違って殺したくない」


 ここは保険をかけよう。

 敵だと思ったら、そういうイベントでしたじゃ最悪だ。

 殺せば報酬はなくなるかもしれない。


「わからぬ。予定外だ。とりあえず自分の身だけ守っていて欲しい。まだ全力は出すな」


「了解。というわけだ。地味にこっそり隠れていこう」


 ギルメンには聞こえるようにしておいた。

 あとはこちらに敵が来なければ問題はない。


「装備も似ておるのう」


 黒い城から黒い鎧の兵士が出てきた。

 どうもヤマトの装備と同じものっぽい。


「今の所誰かを襲う気配はないな。戦うには決め手が薄いが」


「少々お待ちを」


 背後に現れた半透明な女性。フード被っていて顔が見えない。


「シャハリーザです。分身を投影しています」


 そういや声が同じだ。魔導元帥ってくらいだ、こういう魔法も使えるのだろう。


「皆様は最低限襲ってきたものを迎撃、もしくは近くの兵士に任せてください。あれはこちらでも正体を掴みかねています」


「了解。そちらにお任せします」


「幻影はこのまま待機させておきます。何かあればお知らせください」


 そして無言になる幻影さん。妙に気になるがまあいい。


「コタさん」


「ここに」


 こちらにはコタロウさんも控えている。シュウマイ食いながら。

 まずは一安心だな。成り行きに任せよう。


『ようやく会えたな。偽りの王子よ』


 黒い城のテラスに誰かいる。

 髪の色こそ銀色だが、ヒカルとよく似た男だ。

 こんな登場の仕方でなければ、兄弟と言われても納得しそうだな。


「何者だ、貴様がその城の主か?」


『私の名はシリウス。本来であれば、この城ではなくヤマトの主となっていた男よ』


 よく通る声だ。通信技術によって声を届けているな。

 しかし予言って当たるんだねえ。


「シリウス……そんなはずは、あの子はもう……」


『覚えていたか王よ。愛のために憎しみを、黒き思いを封じられし兄弟のことを!』


「先程から何を言っているのかわからんが、貴様は敵ではないのか?」


『何も知らされておらんか、ゲンジよ。私は貴様の双子の兄だ』


 まさかの兄弟ですか。そりゃ似ているわけだよ。

 兄が反乱。そしてヒカルは兄を知らず。

 なにやらきな臭くなってまいりましたよ。


「我の動揺を誘おうという魂胆か?」


『現実であることは、隣の王が証明しているであろう。聞け、国民よ!』


 さっきまで王の演説で、こっからまたなんか聞くのかよ。

 もう焼きそば無くなっちゃったぞ。


『我が名はシリウス! 災いを呼ぶとして、王家から切り捨てられしもの!』


 ざわめきがより一層広がっていく。

 これは根が深そうだし、事情だけ聞いておこう。


『ゲンジよ。お前も王族なら知っているはずだ。兄弟といえど、王はただ一人。より愛・仁・知・勇に優れたものがなる』


「当然だ。故に愛と力を磨く。王に相応しきものへと至るために」


『ならば私と戦え。真に優れたものがどちらか、今この場で証明してくれる!』


 両方の城のテラスを繋ぐ、白と黒の半透明な橋がかかる。

 その端は中央で混ざり合い、灰色の足場となった。


『戦わなければ私の軍が民を襲う。愛とやらを捨て、逃げ出すか?』


「父上、あの男は本当に……」


「お前の兄だ」


 父親公認ですよ。

 お家騒動に巻き込まれるのも面倒だ。じっとしていよう。


『さあ私と戦え。愛とやらを見せてみろ』


「王に手出しはさせん!」


 ジュナイザーさんと兵士数人がテラスへ上がる。

 そのまま倒してくれ。こんな観衆の中で暴れたくない。


『よかろう。こちらの軍事力も見せねばならぬ。アフロディーテ、ベレト』


「お呼びかな?」


 また誰か増えたよ。シリウスの横に金髪美女が出現。

 服は白。昔のギリシャみたいな服だ。


「やれやれ、ようやく出番か!!」


 盛大なファンファーレとともに、黒い城から飛び出してくる馬。

 乗っているのは男だろうか。

 ヤマトの全身鎧を黒くしたものを着用。顔が見えない。


「急に人が多くなって覚えられん」


「どうせ何人か減るじゃろ」


「敵が減ってくれりゃあいいな」


「それより、アフロディーテと言ったわ」


「アテナと同じ、敵の可能性があるやつじゃな」


 そうか、やた子がそんなこと言っていたような気がする。

 予定変更。あいつだけは捕獲したい。

 どう戦うのか知らんが、なんとか一命取り留めてくれ。


『前哨戦だ。あいつらを討ち取れ』


「ああいいさ! やってやるよ! やりゃあいいんだろ!!」


 なんで半ギレなんだよあいつ。気持ち悪いわ。


「この国とは違う愛の形、お見せしよう」


 灰色の舞台へと歩き出すアフロとベレト。

 アフロは光る帯のようなものを動かしているが、あれは武器なのだろうか。


「ゲンジ様。ここは我々にお任せを」


「しかし……」


「お願いします。ここであなたを失うわけにはいきません」


 神妙な顔で会議を始めている。

 結局は戦うしか無いのだ。ならばとヒカルが折れる形となった。


「…………すまない。頼んだ」


 ジュナイザーさんと騎士団が出るようだ。

 シャハリーザさんは温存かな。


『この舞台は愛と憎しみを表す。本当に国民が愛に溢れていれば、お前が勝つさ、ゲンジ』


 こうして両軍ほぼ初見のため、応援に力の入らない勝負を見ることになった。

 知らない人同士の戦闘か。まあ参考になればいいなあ。

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