お祭りを楽しんでみよう

 難しい話も終わり、ようやく祭りに繰り出した。

 四人で他国の祭りって初めてかもな。


「派手にやってんなあ」


 垂れ幕も横断幕もあり、風船たちが空を舞い踊る。

 大通りを長いパレードが通っていく。

 やはりちょっとインドとか暑い地方の服っぽい。


「気候の問題じゃな。暖かい時期が長いのじゃよ」


「ほー……今日くらいがちょうどいいわ」


 日差しがほどよく、風も緩やかに吹く。

 これは一回寝たら起きないだろう。


「こっちのパレードは盛大にやるのね」


「これは毎年恒例でな。名物にもなっているのだ」


 お祭りのお面をつけたヒカル登場。

 王子がふらふらしていると問題なので仮面付きらしい。

 横には執事服のベルさん。


「愛ある仮面の調達に手間取った。我々は好きに楽しんでいるから」


「こっちはこっちで好きに遊ぶさ」


「うむ、打ち合わせ通りにのう」


 簡単にまとめよう。

 普通のチンピラは騎士団や警備兵が対処する。

 例年よりも警備を増やしてあるので、そいつらに任せろ。

 とてつもない危機で騎士団が負けるレベルの化け物が出たら戦え。

 それまで各自遊んでいていい。


「我とベル、もしくは紹介した2トップとその使いが連絡に来る」


「ん、わかった。気をつけろよ。王族狙ってくるって線もある」


「ほう、他人を気遣うようになったのじゃな」


「依頼だからな。未達成だと金が入らん」


 自分でも不思議だが、まあただ働きはお断りいたします。

 そんな感じでいい。難しいことを考える時間じゃない。


「ふっ、忠告は受け取っておこう。こちらも護衛が隠れている。そちらは愛を育んでくれ。ではさらばだ!」


 私服の警備を数人引き連れ、ヒカルは街へと消えていく。

 その中には、お面で顔を隠したジュナイザーさんがいた。

 かなりの手練らしいし、お任せしましょうか。


「よし、んじゃ適当にパレード見ながら屋台行くぞ」


「そうね。ゆっくり愛を育みましょう」


「はいはい。人が多いから、最低限近寄るのは許す。くっつきすぎるのは禁止な」


「こうして手を繋いでみたり」


 素早くシルフィとイロハに両手を繋がれる。

 柔らかいし体温も伝わる。

 ううむ、まだ外でこれやるのは抵抗あるな。


「飯食えないだろ」


「食べさせてあげるわ」


「それをやめろと言っている」


「それでも手を離さんのは成長じゃな」


 リリアは満足そうに俺たちをくっつけている。

 サポートの回ることが増えたのは、本気で攻略を進めているからだろう。


「好きに食いたいものを食え。俺ばっかり食ってもおかしいだろ」


「じゃああのジュース買おう!」


 シルフィが指さしているのは、もちろんストロー二本刺さっているやつだ。

 好きに買えとは言ったけれどさ。


「よい判断じゃな」


「果物か。悪くはないんだけど……」


「いらっしゃい! 何にします?」


 店員のおっちゃんが、もうセールストークを始めている。

 果物が多いな。そういう店なんだろうか。


「喉渇いたし……飲みやすくて味のきつくないやつだな」


「だったらこいつはどうだい? 一番人気だよ!」


 おすすめはリンゴとミルクを冷やしたジュースらしい。

 悪くない。すっきりする飲み物にしよう。


「んじゃそれお願いします」


「わしこっちのオレンジで」


「私はブドウで」


「よーし! 愛を込めてお作りしますよー!」


 不思議だ。二人は普通に一人用のやつを買っている。

 全員分やると思ったのに。


「ここはシルフィ担当じゃな」


「何度もやると飽きるでしょう? 次に何かあれば私がやるわ」


「さくさく進めるのじゃ」


 最近マジで攻略する気ですね。本気が怖いぞ。


「さあやってみよう!」


 歩きながら差し出されるジュース。

 これは飲まないといけないんだろうな。

 喉が渇いたのも事実。やるしかないのだ。


「やってる人も多いじゃろ。ここはそういうお祭りじゃよ」


 言われてみると多い。カップルが多い気もする。

 以前の俺なら絶対に近づかないタイプの祭りだ。


「はあ……やると言っちまったしなあ」


 覚悟を決めて飲んでみる。

 必然的にシルフィとの距離が近くなるわけで。

 これはどう捉えたらいいものかね。


「お、結構うまいぞ」


「ふふー、おいしいね。一緒に飲むともっとおいしいね!」


 味はいいものだ。

 新鮮ですっきりしたリンゴの味に、ミルクが混ざって飲みやすい。

 後味も悪くないし、喉が渇くタイプの甘さもないぞ。


「思った以上に味がいい。クオリティ高いな」


「とれたての果物なんじゃろ。今年の実り具合がよかったんじゃな」


「そういや収穫祭兼ねているとか言っていたな」


 新鮮さって生臭い方向に働くと最悪だが、これは味を引き出している。

 シルフィも上機嫌だし、もっと屋台を見ていこう。


「よし、あの丸っこいの行こう」


 肉料理かたこ焼きっぽい物を発見。

 太めの紙コップみたいなやつに複数入っている、丸くてソースかかった食い物だ。

 木の串が爪楊枝っぽくついている。


「肉料理に敏感じゃな」


「あれどういうものなんだ?」


「外をかりかりにして、中に刻んだお肉とかお野菜を入れるやつだよ」


「チーズ入りや、地方の特産物で変わるものもあるわね」


「ざっくり言えば外がたこ焼き。中が小籠包じゃな」


 はいうまそう。これはうまいやつですよ。

 確実に俺好みの気配が漂っているぜ。


「中からじゅわっと汁が出るし、外のソースと絡んで味の変わる料理じゃな」


「よっしゃ食うか。まずシンプルなやつだ」


「はいまいど! 愛ある限り焼き続けますぜ!」


「ではわしがチーズ入りを買ってやるのじゃ」


「そして私が食べさせるわ」


「頑張ってイロハ」


 買って食うまでが非常にスムーズに進む。

 言い終わる前に行動が終わっているあたり、執念を感じますね。


「はいあーん」


「ん……やはりうまい。屋台で出るクオリティじゃないな」


 わかりきっていたがうまい。

 食いたかったのでさっさとあーんに応じてみたが、一口サイズで食べやすくて味が詰まっている。


「はい、もっと食べるでしょう」


「悪いな。そっちも食っていいぞ」


「なら私にもしてもらうかしら」


 俺がやるパターンは想定していなかった。

 なんか今日決意する機会多すぎませんかね。


「さあ食うがいい」


 よくわからんテンションでごまかす。

 ごく普通に食いおってからに。


「ほれ、こっちのも食べてみるのじゃ」


「たくさん食うと他の屋台に行けなくなるぞ」


 チーズ入りも美味でございます。具が減っていないところがグッドだ。


「喉が渇いたらジュースだよ!」


 またシルフィにジュースを飲ませてもらう。

 これカップルじゃなくて介護の域だな。


「次どうするかな……名産品とか行こうぜ」


「乗り気じゃな」


「おう、今日は機嫌がいいぞ。お前も食え」


 リリアにも食わせてやる。

 そのままシルフィにも食わせた。

 餌やってる感じになってきたので中止。


「もうなくなったか。じゃあ次は……」


「あのお菓子は?」


 小さい……なんだろう? 茶色くて丸い焼き菓子?

 クリームのいい匂いだ。


「鈴カステラクリーム入りみたいなもんじゃよ」


「ここ異世界ですよね?」


「異世界さんでも焼き菓子くらいあるじゃろ」


 やはり異世界さんは格が違った。

 何でもあるな。神とか達人が関係していそう。

 掘り下げると知っちゃいけないことにたどり着きそうなのでやめる。


「八個入りなら四人で二個。そこまで腹が膨れないじゃろ」


「いらっしゃいませー! ここはお菓子類が多いですよ。女の子には嬉しいスポットです!」


 ふんわりしていてクリーム、というかカスタードかなこれ。

 中身多めで素晴らしい。しつこくない甘さが好き。


「この辺全部甘いものか……もうちょいしょっぱいもん食いたいんですが、どっちにあります?」


「なら花火大会の会場近くですね。お客さん他国の人ですか?」


「うむ、お祭りは初めてじゃ」


「そうですか。楽しんでいってくださいね。愛の思い出を増やしてください!」


 本当に愛とか口にする人多いな。完全にお国柄ということか。

 独身の人とかどうしているのだろうと思ったが、恋愛だけが愛じゃないとのこと。

 店員のお姉さんにお礼を言って歩き出す。


「次の目的地は花火会場じゃな」


「ヤマトに花火ってあるのか?」


「フウマとフルムーンから職人を呼んで作らせるのよ。何回か依頼があって、先代が中忍を集めていたのを覚えているわ」


 本格的なやつか。楽しみになってきた。

 パレード見ながら行ってみようかな。


「まだ開始には早いわ。もう少し見て回りましょう」


「そういやヒカルが演説? というかスピーチ? まあなんかそういう感じの雰囲気のことするって言っていた気がほんのりするな」


「めっちゃぼんやりじゃな。国王が城から挨拶とかするんじゃよ」


 そうそうそんな気配が漂っていると俺の勘が告げている。

 決して忘れているわけではないぞ。


「一応警備に行くか?」


「狙うならそこだよね。一番警戒していると思うけど」


「だからこそ狙ってパニックにするかもしれないわ」


「しょうがない。興味はないが、行くだけ行こう」


 これも金のため。領地のため。

 花火大会までに異変がなければそれでいい。

 このまま楽しんで終わってくれないもんかねえ。

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