愛の国ヤマト到着
ヒカルからの依頼を受け、ギルメン四人にこっそりコタロウさんを入れて、やってきましたヤマト。
学園から列車に揺られてついたそこは、なんともお祭りムードである。
「ヤマトっていうから和風かと思ったが」
魔法で近代化させたローマの街って感じだな。
綺麗に整備された石畳。街灯もあるし、木組みとそれ以外の家がうまいことマッチしている。いい感じだ。嫌いじゃないぞ。
「フウマが特殊なんじゃよ」
「そりゃそうか」
陽は温かいのに、風が涼しい。
もう秋だからか、もしかしたらそういう場所なのかも。
「歓迎するぞ。ようこそヤマトへ!」
ヒカルとベルさんも同じ列車だった。
愛の邪魔はしないと言われ、完全に別行動だったけど。
変な所で気を回すよな。
「ひとまず王宮まで案内しよう」
「王宮? なんで?」
「そちらのメンバーを王に伝えたところ、挨拶もなしでは礼を失すると言われてな。すまないが王宮で寝泊まりしてはもらえないだろうか」
「えぇ……宿じゃダメなのか?」
まさかの展開だ。いやそうでもないのか。
そういやこいつらお姫様だったね。
「無論最高級の宿くらい手配できる。だが各国の貴族や王族も来ている。つまり」
「つまり?」
「各国の挨拶合戦になるぞ。そのたびに横にいる男は誰ですかと聞かれ、存在が知られていく」
「よし、王宮に行こう。止めて悪かった」
ヒカルに感謝しましょう。
こいつ本当に気が回るな。人間ができているというか。
俺と対極にいるわ。
「気にすることはない。そして安心するがいい。学友として紹介する。門番に止められては洒落にならんだろう?」
まあ非常事態に敵と勘違いされても困るか。
ここは素直に直通の精霊車に乗ろう。
今回の精霊さんは獅子が二匹。
たてがみがふわふわでおしゃれさんだ。
「なぜかちょっとかわいい。そしてかっこいいなこいつ」
「王族を運ぶものだからな」
でかいんだよ。二メートルは確実に超えているだろう。
でもなんか瞳が優しそう。
「いざとなれば賊など一薙ぎで壊滅させられる」
「怖いな!? ちくしょうふわふわしてるくせに……」
アホなこと考えつつ乗車。中も豪華で椅子がゆっくりと体に馴染む。
リラックスできる高級なやつだな。
「アジュ結構動物好きだよね」
「結構好き。唯一打算無しで俺に近づいて、優しくすればなついてくれたのが動物だからな」
「今度動物園に行く計画でもたてるのじゃ」
「それだ! それなら一緒に来てくれる?」
「考えておく」
否定はしない。こっちの生き物は不思議で新鮮だし。
キアスのブラッシングして背中乗るの好き。
もうちょいそっち方面を探索するかな。
「とりあえず今はイロハを撫でておくのじゃ」
「そうね。そうしましょう」
「断る。ヒカルとベルさんがいることを忘れるな」
ヒカルとベルさんは扉を挟んで前の部屋にいる。
他人に、しかも送ってもらっているのだから自重しましょう。
「何も聞こえんな。だが愛の波動を感じた。そちらの声だけを聞こえないよう、防音の魔法でも掛けるとしよう」
「そういう気の利かせ方をするんじゃない!」
流石は愛の伝道師と褒めてやりたいところだ。
だがその気遣いは逆効果だぜ。
「そろそろ抵抗もなくなってきたじゃろ」
「ううむ……しかしそれは……」
「ならばいつもの陣形じゃ」
リリアが俺の膝に座り、シルフィとイロハが両脇を固めるという、もうなんか見慣れた自分がいるスタイル。
これくらいならいいと思う自分と、常習化したり過激になることを危険視する自分がいます。
「このまま城まで行くのじゃ」
「何か否定するとすぐ次を繰り出してくるようになったな」
「人間は環境に適応していくのよ」
そんなやりとりがあって、しばらくしたら扉がノックされる。
その瞬間、全員が素早く俺から離れた。
凄いなお前ら。適応力高すぎませんか。
「ついたか」
「うむ、案内しよう」
またどでかい城だな。
フルムーンをファンタジーの城とするのなら、これは英国の城かな。
まあ詳しい違いとか知らないけどさ。
あとちょっとインド入っている気がする。
「中も豪華だな」
「国が豊かなんじゃろ」
城内には当然の権利のようにメイドと執事が整列している。
そんなん時間と労力の無駄だろうに。
他国の王族が来る時だけらしいけどな。
「おかえりなさいませ!」
「今帰ったぞ! 息災であるか!」
「はい!」
「坊っちゃんこそ、お元気そうで何よりです!!」
なにやら慕われているご様子。
ヒカルは行動があれだが根は善人。慕う人間がいてもおかしくはない。
「さて、謁見の間へ案内しよう」
うむ、一刻も早くここを去りたい。
物凄く見られています。あいつ誰だよ感が漂っていますよ。
シルフィとイロハが堂々としているのは流石だ。
足に伝わる心地よい絨毯の感触も曖昧になるほどの場違い感を味わいながら、なんとか謁見に間に入った。
「ようこそヤマトへ! 歓迎いたしますぞ!」
玉座から立ち上がり、マントをなびかせ語る王様。
よく通る声だ。舞台とかで活躍できそう。
「先代ゲンジ・ヒカル。今はサイガ・ヒカルでございます」
そういう形で襲名していくのね。
高等部に入る時に襲名の儀は終わっているらしい。
「我が国が誇る祭りに、まさかフルムーン、フウマの姫君を招待できるとは光栄の至り!! 心から歓迎をいたしましょう! 愛をもって!!」
ヒカルを大人にして、ヒゲはやしてスケールでかくした感じだな。
オーバーリアクションだが不快感がない。
舞台向きだな。
「出迎える愛あれば!」
「もてなす愛もある!」
「そう、これもまた愛である!!」
なんか親子で熱く語っておられる。
仲の良い家族ってこういうことなのか? なんか違う気がする。
考えてもわからんし黙っておこう。
「お招きありがとうございます」
「お久しぶりです。突然の訪問にもかかわらず……」
王族っぽい会話が始まるので静かにしておこう。
俺はそういうのできません。
少しの談笑の後、王の目がこちらに向いた。
「ゲンジよ、そちらが」
「はい。学友のアジュ・サカガミとリリア・ルーンです。例の件も依頼してあります」
「そうか。よく来てくれた。歓迎するよ。これからも迷惑をかけるかもしれないが、仲良くしてやって欲しい」
「こちらこそ、ヒカルにはお世話になっています」
社交辞令くらい言えるのだ。
打ち合わせとかしましたよ。
「しばらくは城に滞在しながら楽しんで欲しい。外出は軽く護衛を付けるかもしれないが」
「理解しております。わしらはおまけで招かれた身、失礼の無いよう気をつけます」
「いやいや、寛いで欲しい。存分に。愛を育んでも見て見ぬふりをする覚悟が、我々にはある!!」
そんなこと力説されても困るのですが、この世界の王様ってどうしてこうキャラが濃いのだろう。
一般的な王族とは違うのかな。
「父上、そろそろ本題を」
「うむ、ジュナイザーとシャハリーザ以外は部屋の外へ」
国王の横に控えていた二人以外が素早く、ほぼ音もなく退出する。
全員手練だったりするのかも。
「我が誇り、愛の騎士団長ジュナイザーと魔導元帥シャハリーザだ。実質最高戦力だよ」
「よろしくお願いいたします」
二人してお辞儀され、こちらも礼を返す。
騎士さんは水色の髪で金色の目が特徴の青年。二十代後半くらい。
佇まいは正に騎士。正義の使者って面構えだ。
白い軽鎧がかっこいい。
「何か困ったことがあればおっしゃってくださいね」
元帥さんはエメラルドグリーンの長い髪と、水色の澄んだ瞳の女性だ。
袖もスカートも長い、魔法使いっぽいけれどお偉いさんが着る服。
優しそうだが、女性に深くかかわることはないか。
「ところで、そちらも一名護衛を隠しているという話だったね」
「ええ、失礼とは思いましたが。依頼が依頼ですので」
「気にすることはない。承知の上で招待したのだからね。ただできることなら、この場にいる三人だけでも顔を知っておきたい。先程から親愛と忠義の気配を感じるよ」
まあ当然だよな。ここまで全部事前に話が通っていた。
だって護衛忍ばせるとか、めっちゃ無礼じゃないか。
というかコタロウさんを認識できた?
もしかして強いのか王様。この世界の王族って全員強いのかな?
「コタさん」
「にんにん」
ここで俺の横にコタロウさん登場。今回はコードネームコタさん。
本名が半分入っているという、異例のコードネームである。
本人たっての希望だ。まあ千年前の人物だし、問題無いだろう。
「なんと……いつの間に……」
「気配すら感じなかった……相当の強者ですな」
「そちらもお若いのに修練を積まれているようで、拙者、脱帽でござるよ」
2トップは認識できなかったらしい。
やはり王様が上手か。愛による強化ってやつかもな。
「俺たちの護衛をしてくれているコタさんです」
「よろしくお願いいたします」
「立ち姿からして、ただ者ではありませんな。これは頼もしい」
懐の広い人だな。俺はそういう決断できない系だよ。
「では依頼のお話ですが」
そして真面目な話に突入する。
偉い人相手なので、失礼のないようにリリアとコタロウさんメインで。
俺はみんなに感謝しつつ、今後の予定を組み立てていった。
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