ヒカルの依頼を聞いてみよう
そろそろお昼時。適当に落ち着いた飯屋で話を聞こう。
「で、依頼ってなんだ?」
俺、ヴァン、ヒカル、パイモンが一緒。
何故ついてくるのかは知らん。キアスは入店できんかった。
「我が国ヤマトの祭りに来ないか? 三日後だ」
「前に言っていたな。なんかでかい収穫祭とかだったか?」
「そうだ。食べ物も豊富。イベントも豊富だ」
ううむ……カップルとか多そうでしんどい。
だが食い物にはちょっとだけ興味がある。
「オレも何年か招待されててな。今回も行くつもりだぜ」
「いいですねー。賑やかで好きですよー」
「でもクエストなんだろ? しかも俺の力をある程度知っていてだ」
猛烈に嫌な予感がする。また鎧で解決するタイプのクエだよきっと。
「風と愛の噂で強いと聞いている。何度か共闘もしたが、一切底が見えん。それ故に依頼したい」
「愛関係ない。あと見えないんじゃなくて、最初っから底なんだよ。俺は弱いの」
長いことしゃべらないとダメそうだ。ちょっとお茶を飲む。
冷たいお茶が美味い。
椅子もふかふか。これは話が長いと寝るかもしれんな。
「いまさら隠します?」
「気を抜いてはいけないぞ。いつ何時変なやつが出るかわからん」
油断大敵。本来他人が困っていようがどうでもいい。
金と単位のためだ。義理人情とか二の次三の次である。
「まあ強いとしてだ。祭りを楽しみつつ、国が対処できないレベルの危険が迫ったら解決して欲しい」
「むっちゃくちゃなこと言ってんの理解してるか?」
「我の愛をもってしても半信半疑だ」
「そもそもヒカルよ。俺がそこまで強いとどこで知った? 精々がBランクいくかいかないかレベルだと解釈するのが普通だ」
一緒にヴァルキリー倒したりもしたが、神を殺せるレベルだとは思わないはず。
ちょっと不自然だ。そこまで何かイベントあったっけ?
「あまり公にしたくないようだから、断片的に話す。ベルは魔界出身だ。魔星玉に力を入れる地位のな」
「うーわ、あの場にいたのか」
「あれれ? ボク気が付きませんでしたよー?」
「極力目立たないようにしているからだ。今のやつは執事。注目していなければ気づかん。ただでさえ魔王が集結しているからな。人混みに紛れるのだ」
「なんだよ、ベルさん魔王なのか」
ということは最低でも俺が終結させた事件を知っている、というか感じている。
ううむ……意外なところに知り合いがいたものだ。
「安心しろ。口の軽い男ではない」
「ベルって名前で魔王か……まあオレから詮索はしないでおくぜ」
「聞かなかったことにする。他人の秘密なんて抱え込むだけ無駄だ」
無駄なイベントを増やしてはいけない。
俺は三人で手一杯です。そっちの事情に踏み入りません。
「話が逸れたな。本題に入ろう。この時期の収穫祭は一大イベントでもあり、裏では預言者たちにより一年の吉兆を占ってもらうのだ」
「裏で?」
「裏でだ。あくまで予言であり、民衆をパニックにしたくはない。腕利きの預言者だけを集めて行われる、まあ保険だ。こっそり対策を練る保険。愛の生命保険だな」
「死ぬほど胡散臭いから改名しとけ」
この世界は普通に魔法があるからな。
本物の預言者がいても不思議はないか。
そういう方向に分化が進むのも頷ける。
「その予言が『ごめんなさい、もう無理。私たち……終わりにしましょう』と出てな」
「離婚か。嫁さんが実家帰ったみたいな感じやめろ」
「しっかり書き置きしてあった。お互い、幸せになりましょうと書かれて」
「完全に離婚調停終わった後だな」
国政ってそんなアホみたいな感じで通用するのか?
全員逃げるって相当だぞ。
「国から逃げたのですか?」
「正確には避難させたのだ。死なれては一大事だからな。そして予言が書かれていた。祭りの日に国を揺るがす凶兆現る。王族に秘めたる力と愛による歪みが明るみに出る時こそ、運命の主はその姿を表すだろうと」
「ごめん絶対関わりたくない」
お前これ100%危険だろうが。
友人に紹介する案件じゃないぞ。
「無論警備は例年より遥かに厳重にする。そのうえで頼めるかな?」
「頼むなよ! そんな危険な場所にあいつら連れて行けないからな。行くなら俺だけで、半日くらいで帰れないと無理」
「難しいか……解決には運命すらねじ伏せるアジュが最適だと判断したが」
前に見せたカードのあれか。運の良さを上げてイカサマに勝つやつ。
あれの影響でオファー来たのか。そんな昔のことよく覚えてんな。
「絶対におすすめできんのじゃ」
はいリリア登場。毎回思うけど、どうやって俺を見つけてんだろう。
「おぬしの魔力探知くらいできるのじゃ。それに指輪の効果とか忘れとるじゃろ?」
そういやあったような……なかったような……こいつなら探知くらいできるか。
「リリアさんじゃないですかー。今度ゴスロリのモデルしませんかー? 似合うと思いますよー」
「お断りじゃ。そっち方面で目立つ気はないからのう」
しれっと俺の横に座り、早くも紅茶を注文している。
いっつも手際いいな。
「リリア殿、理由を聞いてもよいかな?」
「要するに極悪人に狂人ぶつけて消してもらおうということじゃろ?」
「誰が狂人だこの野郎」
「言い方は悪いがそういうことだ」
「ちょっとは否定しろや!」
お前らの前で残虐行為をした覚えはないぞ。
俺の評判どうなってんだよ。
「それがいかんのじゃ。極悪人が多すぎて、面倒だから国ごと消そうとならぬ保証がないじゃろ」
「……確かに」
「納得すんな! 俺って一般的には知名度ゼロだよな? お前らそれどこで聞いた?」
「どこでも何も、逆にごく少数から尾ひれがつくことなく伝わっている」
伝わるようなことをやっちまっているわけか。
まだごく少数しか知らないだろうから、これ以上の被害は避けよう。
「オレはアヌビスぶっ殺したときまで一緒だろう」
「ボクは魔星玉の一件と、それから何度か一緒にいますし」
「別に都合よく便利屋として使う気はない。我の事情を知っていて、一番強い友人を頼っている。友情を口実に推し進めるつもりはない。気に障ったなら謝る。すまない」
「使い潰そうとしているのがばれたら、確実に殺されますからねー」
そういう形で友情を確認するの嫌い。
友人などいた事はないが、なんとなく違う気がするのだ。
「ならそんな友人いなくなりゃいいと考えるタイプだからな」
「危険じゃろ。わしらがいないと制御できんぞ」
「当然だが同行してもらう予定だった。交通費や宿の手配などはこちらで負担しよう」
「危険な場所に連れて行きたくない」
「おぬし妙な所で用心深いのう」
「今回は危険が迫るとはっきり出ているだろうが」
俺単騎で行くなら悪くはない。
こっそり敵だけ殺して終われる。
だがちょっと慎重になるのは、久遠の件があったからだろう。
「それを承知で頼む。ジョークジョーカーよ、文字通り切り札となって欲しい」
「ジョーカーには道化とか愚か者って意味もあってな」
「何もなければ友人を招待しただけ。慎重過ぎた愚か者の我を笑えばいい。愛の道化師として、笑いの種にくらいなってみせるさ」
冗談で言っているようには見えない。
真剣に自国を憂いているのだろう。
「わしらなら心配いらぬ。危なくなればおぬしに任せる」
「以前より愛の波動が強いな。愛を深めるためにも、祭りは最適だぞ」
「そうじゃな。恋人お試し期間中じゃ。イベントごとには首を突っ込むのも悪くないじゃろ」
「ほう、ついにそこまで行ったか。もうちょいじゃねえか。頑張れよ」
「うむ、やってやるのじゃ」
やるなやるな。焚きつけるな頼むから。
お試し期間を結構受け入れている現状がなんか怖い。
「実際楽しいものだぞ。保証する。カーニバルも屋台もある。有名な達人も来るぞ」
整理しよう。今じゃなくていいが金がいる。
警備もいるだろうし、金はそっち持ち。
万が一何か起こったらまずはそいつらが動く。
それでも勝てない神話生物が出たら処理するだけ。
それで大金が入る。業者も呼んでもらえる。
「ギルメンにも確認は取るが……」
「受けてくれるか?」
「まあ……俺は受けてもいいかなと。内容は詰める必要があるけれどな」
「うむ、やってみればよいじゃろ」
「そうか! 感謝する!!」
受けちまったらやるしか無い。
どこかに連れて行ってやるとも言った。
何もなければ遊んで帰ってきたらいいのさ。
そんなわけで予定が決まった。
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