愛の国ヤマト編

男たちの休憩時間

 イロハと散歩に行った次の日。

 朝っぱらから魔法科に行き、一人で休憩中。

 校舎内の涼しい休憩スペースで一休み。

 建物の中は快適でいいねえ。


「おや、お昼前なのに隊長がいるではないですか」


「凄いだろう? 褒めていいぞ」


 パイモンだ。今日も今日とてゴスロリ着てふらふらしているようだな。

 テーブル挟んで向かいの席に座ってきた。


「隊長は偉いです。隊長の鑑ですよー」


「なんせ隊長だからな」


 はい脳内で推敲せずに喋っています。

 だって疲れたし。休憩中なんてそんなもんだろ。


「お疲れですねー」


「まず朝が眠い」


「ちゃんとおうちに帰れますかー」


「問題ない。最悪キアスがいる」


「最近そんな役回りになっているな」


 キアス召喚済み。ここは召喚獣使用許可な場所なのだ。

 強くて乗り心地がよくて処女厨という心強い存在である。


「キアスさんはいつもどこにいるのですか?」


「同志の領地だ。流石に完全放置するわけにもいくまい」


「学園から長期間離れるわけにもいかないからな。キアスに見てもらっていた」


 おかげでそこそこ情報は入ってくる。

 危険動物も少ないし、魔族が好き勝手に暴れることもないようだ。


「ちゃんとボクの軍でも管理しているのですよー」


「偉い偉い。魔王の鑑だな」


「ふふーん、なんせ魔王ですから」


 お互いに脳を極力使わない会話である。

 これが省エネだ。俺は燃費が悪いからね。


「魔王ってのはいいよな強くて。生まれたときから強いもんなのか?」


「一番強い隊長が言います? ボクも他の魔王も才能があって、努力を続けていますから。天才が努力を欠かさないので強いのですよー」


「魔王でも鍛錬は必要か……」


 やはり楽して強くなるというケースは少ないらしい。

 運が良かったなあ俺。それでも素の俺が弱い問題が残るけど。


「そうですよー。隊長もがんばりましょう。剣は教わっているのでしょう?」


「基礎だけな。武術の型にはまると小細工ができん」


「特定の流派に染まる気はないのですねー」


「ああいうのは、どれだけ効率よく相手をぶっ壊すかだ。そこは凄いと思う。けれど自分で動くから疲れちまう。訓練に耐えられんし」


 殺人……こっちだと人以外もそうか。

 とにかく殺しの技を覚えると楽ができるかもしれないが、今は魔法重視。

 変なことをすると、浮かびかけている魔法ができなくなりそう。


「効率よくストレスなく敵が殺せりゃいい」


「武術にも活人剣とかあるじゃないですか」


「ああいうのはな、殺人剣を極めて、相手の生殺与奪を完璧に掌握できたやつだけができる、新しいビジネスモデルだ。余裕の無い弱いやつがやるもんじゃない」


「だからといって、アジュみたいに何でも斬り捨てようとするもんでもねえぞ」


 こちらの話を聞いていたのだろう。

 歩きながら会話に加わってくるヴァン。

 珍しいところで会うな。


「よう、最近よく会うな」


「ああ。真逆の生活しているはずなのにな」


「お久しぶりですー」


「妙な縁もあるものだ」


 こうしてだらだらしているだけで人が来る。

 つまりくつろげない。もう増えんなよ頼むから。


「でなんだ? 剣の話か?」


「いや手っ取り早く強くなる方法とか……そんな感じだった気がする」


「ねえよ、んなもん。どうしてもってんなら鎧でいいじゃねえか」


「目立つからダメ。あれ強すぎるからな。世界壊れる」


 もう毎回宇宙行ってボス倒すのが恒例行事になりつつある。

 オルインが特別頑丈で、なるべく破壊しないよう加減していて、それでも壊してしまう。


「この世界と星はお気に入りだ。戦いの余波で壊したくない」


「スケールが大きいですねー。しかも余波ですか」


「実際のとこ、今どのくらい強いんだ? 星は壊せるんだろ?」


「全宇宙消せる。軽く指を振れば、どんな異世界だろうが、何千何億だろうが宇宙も世界も神も一瞬で消える。魔力でも、純粋な身体能力だけでもな」


 鎧は完全に俺と同化している。

 これでもかというほどに馴染んでおり、最早無敵とかそういう次元じゃなくなった。


「全知全能とか、無敵とか無限を超えた先だ。それでも限界なく成長し続けている。鎧はそういう代物で、おおっぴらに目立たせるものじゃない」


「コメントができねえ」


「目の当たりにしていなければ信じられんな」


「とうとうそこまでいっちゃいましたか」


 いってしまいましたよ。だからリミッターつきなのだろう。

 無制限に使うと厄介事しか呼び込まない。


「強いおかげで神でも殺せるから、あいつら守るのには便利だよ」


「弱点とかねえのか?」


「ない。あれば自動で更新されて効かなくなる。あらゆる世界の特殊能力を無効化して、殴れば殺せるようになり続ける」


「隊長の体と心を分離させるとかどうですか?」


「無理。精神と体を誰かと入れ替えても、鎧は俺の魂と一緒にある。俺にずっとついてくる。まあ入れ替え自体を鎧が防ぐけど」


 なんで弱点探しになったのだろう。

 そしてどんだけ強いんだ鎧。完全におかしいレベルだ。


「俺は凄く運が良かったんだなあ」


「なんで他人事みたいなんだよ」


「すまんピンとこないんだよ。貰いもんだし。大切に使おう」


 こいつのおかげで敵を潰せ、ギルメンは生きている。

 リリアによると、ギャグ漫画みたいな世界の連中も暴力で殺せるらしい。

 なんともありがたいじゃないの。


「この話はもういい。俺が喋らなくちゃいけなくて休憩できない」


「理由が実にアジュだな」


「ヴァンさんは、どうしてここにいるのですかー?」


「ヒカルと待ち合わせしててな」


「人増えんのかい」


 休憩にならん。どこか別の場所にでも行くか。キアスに乗っけてもらって。


「人の輪が増える。これも愛である。家族愛も師弟愛も友情も愛だ」


 はいヒカル登場。なんだよここ。見事に知り合いが集まってんな。


「俺の貴重な休憩時間が……」


「いつもだらだらしてんだろ?」


「最近そうでもない。金貯めてんだよ。地道に楽なクエとかして」


 実は金が必要である。面倒だねえ。

 いつの世も金と力は必要と。世知辛いったら無いよ。


「ほう、金銭に執着するタイプではないと思ったが。意外だな」


「欲しいもんでもあるのか?」


「領地の整備と、家がいる」


「あぁ……大変ですねー」


 俺の領地は新しく魔界にできた場所だ。

 他の魔王もそうだが、整備に金がかかる。

 一応の自宅とか必要だし。別荘みたいなもんかな。


「ボクも出費が……領地が増えるのはいいのですが」


「やることいっぱいでな。マーラから色々聞いて、もう少ししたら水道の整備だけでもしていくつもりだ」


「フルムーンかフウマにでも頼んでみちゃどうだ?」


「そういう形で借り作るのマジで嫌い。絶対に嫌」


 見返りに何を要求されるかわかったもんじゃない。

 そこまで他人に頼りたくないのである。


「今どのくらいある?」


「ドラゴンの素材とか全部売ったとして、まだ水道設備にすら届かんな」


 アホほど金がかかる。生活に関することでケチると取り返しがつかないので、ここはしっかりしておこう。


「家だって普通に建てちゃダメだろ」


「お城ですか?」


「そこまで巨大じゃなくていい。敵の侵入を防げるように。あと敵に籠城とかされない工夫も必要だな」


 この世界の城って多種多様だからね。

 自分が住みやすくて景観崩さないやつがいいな。


「しかし水道か。ならば相談してくれてもいいであろうに」


「業者にあてでもあるのか?」


「ヤマトは温泉街もあるし、水源のやたら豊富な国だぜ」


「マジで? いいとこ住んでんなあ……温泉は嫌いじゃない」


 ヒカルの一族が治める国ヤマト。

 昔の国王だか神の名前をちょいと拝借した国名らしい。


「信頼できる業者くらい知っているぞ」


「王族ってそういうことするのか?」


「何かと経営ってやつは金がかかるのさ。オレの家もそうだった」


 そして業者見つけても金が無い。

 荒廃した大地にはしたくないし、どうしたもんかね。


「工事で環境を壊したくはないが、最低限の水飲み場くらい確保せんとな」


「やっぱり行くしか無いのかラグナロク」


 ゲストとして行くことはほぼ決まっている。

 参加して1位取るとかなりの賞金が出るとも聞いた。


「お待ちしていますよー」


「お、アジュも出んのか」


「奇遇だな。これも愛のなせる縁だ」


 なんかみんな出るらしいんですが、そんな規模でかいの?

 正直行く気が削がれていきますよ。


「めっちゃめちゃ景品とか出るらしいな」


「大抵の望みは叶うぞ」


 そりゃ神様大量にいるお祭りだからな。

 願いなんて簡単に叶うだろう。


「あんまり目立ちたくない……神相手に鎧使ったらまずいだろ?」


「警戒されるか、新しい見世物ができたと喜ぶか」


「ラグナロクには行くかも。ただ見学のゲストになる。チケットもあるし」


 せっかくだし行きたいとギルメンに言われました。

 ポセイドンとかラーさんとかマーラも来るらしく、ぜひ来てくれと言われている。

 そう言われりゃ縁もあるしまあ……行く方向で固まるわな。


「でもお金を稼がないといけないのですねー」


「ふむ……我が友アジュよ。ヤマトに来る気はないか? 少し戦闘のあるクエストを作ろうと思う」


「聞くだけ聞く」


 ちょっとだけヒカルの顔つきが変わったのを見逃さなかった。

 こちらに気を遣いつつも、何か面倒事に巻き込んできそう。

 危険そうなら断ればいいか。聞くだけ聞いてみよう。

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