賊の討伐と次の目標

 炎に包まれ始めた街の中、夕焼けがさらに街の赤を深めていく。


「盗賊の練度どんなもんだ?」


「低め。ただしシンプルな命令が存在すると予想」


「了解。逃さないように狩るぞ」


 ボスの合図を待って魔法をぶち込もう。広場には盗賊団が集まり、退路を確保している。陣地的にボスが退路側から。俺達が広場を広域に殲滅かな。


「ボス発見」


 遠くにボスともう一人誰かいる。旗みたいなものを持っているが、あれが合図だろうか。


「盗賊が逃げる。魔力準備開始。錬金伝達」


 盗賊は奪ったものを運ぶ係が先に行くらしい。外へ続く道へ移動し始めるのを見計らい、旗が振られた。


「ライトニングフラッシュ!!」


「アイアンスパイク!!」


 石造りの道が鋼の棘となって敵を縫い付け、俺の広範囲魔法で焼き尽くす。

 更に上空よりボスの生み出した岩石が降り注ぎ、道を塞ぎながら敵を潰す。


「よしっ!」


「敵を逃さない効果的な魔法。ボスの判断力は高め」


「だな」


 戦闘慣れしているのだろう。敵対すると始末に手間がかかりそう。このままいい義勇軍でいてくれないかなあ。


「おつかれさん」


「お疲れ。おそらく撃ち漏らしはない」


「上出来だ。ミツキは?」


「街の人の救助。強いので問題ない」


「いいぞ、こっちの部下も救助に回している。火も消え始めたな」


 消火活動が開始されており、どうやら兵隊もそっちに行っている。つまり街はほぼ鎮圧できたのだろう。


「敵の大将は?」


「捕獲した。けど何も言わねえし兵士に取られた。調査が終わるまでここにいる。次の予定はまだ決まってねえ」


 流石に全計画を把握できているわけではないようだ。二箇所的中させただけでも凄いけどな。


「こっちの怪我人の治療と、宿の手配だけやらせている。お前らもしばらく休め。後で連絡入れるから、街から出るんじゃねえぞ」


「了解。残党がいるかもしれん、気をつけてな」


「あいよ」


 ボスは元気に去っていった。俺も一応は救助している格好だけ見せるかね。回復魔法くらいできるし、消毒液ぶっかけてヒーリングすればいいのでは。


「いよう少年。また会ったな」


 俺に声をかけてくる、大きな荷物を担いだ男。なんか見覚えあるな。


「ああ、確か…………包丁の」


「そう、包丁と小麦粉売ったお兄さんだ」


「どうしてここに?」


「普通に行商さ。まさかこんなことに巻き込まれるとはね。助かったよ」


 また災難だな。前も敵に襲われていたし、そういう現場に出くわすのめんどいよね。俺もトラブル続きだからわかっちゃうぜ。


「傷薬とかいるかい? お安くしておくよ」


「怪我しちゃいないので大丈夫です。この騒動が何故起こったか知っていますか?」


「いんや全然。突然暴動が起きた。取引終わって飯でも食おうって時にこれさ」


 誰が煽っているんだこれ。順当に行けば9ブロックのはず。6ブロックを弱体化できる。だが他のブロックにやって何の意味がある? 遠すぎてちょっかいかけても制圧できないだろ。極端な話1ブロックを少し領地にしても、補給も援軍もできない。


「なーにが起きているんだろうねえ。これ、犯人とかいないんじゃない?」


「……いない? 自然と不満が吹き出したってことですか?」


「かもしれない。これだけの範囲を操れる誰かなんて、学園が気づくはずだろ? さっきの騒動、演技にしちゃ悪質だし、そういう精神操作なのかもね。まあお兄さんはそっち方面わかんないけどさ」


「魔法に抵抗のない民間人が洗脳されている?」


「あくまで可能性さ」


 先導者がいなければ集団は機能しない。しないから突発的に起きる。無理矢理くっつけた理屈だな。だが手がかりはない。


「護身用の煙幕とか閃光弾いる? 発煙筒もあるよ。質がいいぜ」


「本当に質がいい。シンプルで初心者にも使いやすい」


「お嬢ちゃんはわかるんだねえ」


 イズミの目利きで問題ないなら本当なのだろう。少し興味が湧く。


「こういうのは誤作動がな……威力よりは不意打ちが好きなんですが」


「ならこっちだな。音か光か煙が基本だよ。殺傷能力はないけどね」


「無い方が余計なアクシデントは少ないだろう。戦闘プランも組み立てやすい。んじゃそれを少しと……」


 そんな感じでアイテムを買っておいた。マジックアイテムとかもそうだが、未知の小細工できそうなアイテム好き。もっと色々な店に行ってみようかな。


「おーい、お前らの宿決めるぞ。オレと一緒だついてきな」


 ボスが迎えに来た。二人の男女と一緒だ。多分義勇軍。


「了解。そこそこいい宿で頼みたい」


「待ちな」


 なんか知らん奴らが待ったをかけてきた。こちらを睨んでいる。かなり警戒されているようだが、なんなのかね。


「お前たち、よそものだな?」


「よそものって、国自体ができて一ヶ月過ぎていないだろ」


「なっはっは! そらそうだ!!」


 ボス大うけである。それがこいつらには癪に障ったらしい。顔つきが引き締まったね。顔も態度も変な連中になったぞ。


「余計なことを言うな。ついてこい」


「どこに? 理由は?」


「つべこべ言わず従ってもらおうか」


「断る。オレはこいつらの安全を守る義務がある。ボスだからな。ここじゃ話せないようなやましい理由なのかい?」


 やだ、ボスかっこいい。交渉事にも慣れているのか。ますます出自が謎だ。逆にボスが黒幕だったら相当にしんどい戦いになるのでやめて欲しいです。


「今回の騒動を起こした犯人を裁く」


「そりゃ兵士に任せろよ。盗賊団は叩き潰しただろ」


「あんたらがそうじゃない保証なんてないじゃないか!」


 まあそうだけどさ。とりあえず助けてもらったんだから、少しは下手に出ろよ。まずお礼が先だろ。俺でもわかるぞそんなの。


「オレらは義勇軍だ。偶然立ち寄ったんで鎮圧に協力した。よそ者が嫌いなら出て行ってやるよ」


「だめだ! そうやって逃げる気かもしれないだろうが!」


「なら正規兵に引き渡せばいいだろ。ちゃんと裁判を受けさせろ」


「その裁判を我々がする」


「何の権限で?」


「街の人間の総意だ」


「主語でっけえなおっさん」


 戦闘員がいるようには見えないし、攻撃してきたらぶちのめしておこう。こういう連中は生かしておいても何の得にもならない。


「イズナ、こっそり準備だ」


「了解。1?」


「0で」


 1はHP1だけ残せ。0はゼロにしろ。つまり殺せ。町から町への移動中、ちょっとスパイごっこっぽくて面白いので、暗号とか作って遊んでいた。ぶっちゃけ暇。


「あんたらが独断で裁くというのなら、それはもう暴徒と同じだ。ちゃんとした手続きをしろ」


「我々を暴徒と呼ぶか!」


「我々ってのが怪しいねえ。あんたらいつからの付き合いだい?」


「時間は問題ではない。この街の和を乱すならば街で裁く」


「その裁きを裁判所でやれっつってんのがわかんねえのか?」


 おかしい。こんなアホばっかりじゃないはず。妙な力でも働いているのか。


「何を騒いでいる!」


 ほーら兵隊さんが来たよ。これでアホも静かになるだろ。


「こいつらはよそものだ! 犯人の仲間かもしれない!」


「取り調べはこちらでする。調べてから然るべき対応をする。これで話は終わりだ。すまないが、一応来てもらえるか? 手間を掛けさせる」


「いやいいさ。んじゃさっさと離れよう」


 兵隊はまともなのね。民衆の中に煽っている敵がいるのかも。


「信用できるか! あんた兵隊のくせにこいつらをかばうのか!」


「怪しいというだけで殺しはしない。公正な調査と裁判のもと、結論を出す。それが人のあるべき姿だろう。私たちは獣ではない。理性ある人間なのだから」


 うーわ兵士さんめっちゃまともだ。ここは従ってあげよう。こういう人のお仕事の邪魔はしないでおこうね。


「兵隊さん、俺達はそっちの詰め所に行けばいいですか?」


「ああそうだな。すまない、面倒かもしれないがご同行願う。それと、私達の同胞に死人が出なくて助かったよ。ありがとう」


 物凄く真面目な人だ……こういう人間っているのね。ちゃんと一緒に行こう。


「逃げるのか!」


「卑怯よ! そうやってすぐ逃げて!」


「むしろ逃げない行動だろこれ」


『トーク』


 ちょっと反撃しておこう。声をあっちの民衆の中から出す。それもさっきした声に変えて。


『言い過ぎだぞみんな!』


『兵隊さんなら安心よね!』


『兵隊さんを悪く言うな!』


 そっちが民衆を煽るなら、俺も煽るだけさ。もっとバレないようにな。様々な声に変えて、人混みの中心あたりや端っこから声を出してやる。


『おいあいつ何リーダー面してやがるんだよ』


『偉そうにしやがって!』


『もしかして敵なんじゃね?』


『このおっさん怪しいぜ!』


「なっ、何を言うんだ!?」


 はい偉そうなおっさんが距離を取られています。こんなおっさんの言葉に乗ってしまうような民衆なんて声のでかいアホの群れだ。自分で考える頭がないから、多数の声のでかいやつに乗ってしまう。


「あなたもご同行願いましょうか?」


「ふざけるな! 私が何をしたと言うんだ!」


「それを調べるんだよ。みんなお前が怪しいってさ」


 みんなという不特定多数の役立たずに期待するから、こういう反撃を許すのだ。


「貴様! 私を侮辱するか!」


 おっさんが拳を握りこっちへ歩いてくる。ようやく戦闘か。カトラスに手をかけ、いつでも抜き放てるようにする。


「なっなんだその手は? 暴力か? 本性を表したな! その剣に手をかけてどうする気だ! 結局は盗賊のように暴力でわからせようっていうんだな!」


「だとしたら俺達に勝てるのか? 盗賊ごときに逃げ回っていたあんたらとは違うぜ? いいんだな? 暴力ということにしても」


 めんどい。こいつらに生きていていい理由がない。恥ずかしくないのかよ。


『暴力振るおうとしたのはあんただろ!』


「誰だ! 今言ったのは誰だ!!」


 狼狽しているおっさん。だが誰もが知らぬ顔だ。だってマジで知らないからね。


「今のうちに行きましょう」


 ささっと兵隊さんの拠点へ。結構でかいな。警備もちゃんとしているし、壁も頑丈で小さな砦みたいだ。観光気分で入っていくと、俺もイズミもボスも、普通に客間に招待された。

 ちなみに三日月さんは合流させていない。そのまま敵とも義勇軍とも距離を取って潜伏しているように命令してある。


「さてすまなかった。どうも最近の町人はおかしい。原因がわからないことがもどかしいよ」


「オレらも外部から探りたくて義勇軍なんざやっちゃいるが、どうにも尻尾を出しやがらねえ」


 あんた姫のためだろ。認知されたくて動いているくせに。それでも善行なので黙っていよう。


「これは相談なんだが……この街を守り復興するだけで手一杯だ。謝礼は出すので攻めてくる9ブロックの連中と敵の賊を倒してくれないだろうか? 6ブロックの国王直下の生徒が視察に来るということで、できるだけ綺麗にしておきたいんだ」


「ほう、来るのは誰だ?」


 ボスの興味はそこだよな。でも姫って城から出ないんじゃないっけ。


「そこまでは知らない。これも外部には漏らさないで欲しい。どうだろうか?」


「活躍した義勇軍ってことで、女王様から直々に謁見と褒美がもらえるかもしれないな。そういうのあるかい?」


「私達からかけあってはみるが、期待しないで欲しい。ただ義勇軍とトップの名は報告しておく。それは約束だ」


「乗った」


 そんなこんなで一晩だけ砦近くの宿に泊めてもらった。結構いい部屋だ。一人部屋だし、今の状況をリリアに報告しよう。シルフィとイロハは友人とお泊りらしいので、通信できることを知られるわけにはいかない。


「というわけで義勇軍にいる」


『似合わないことやっとるのう』


「なんか成り行きでな。やっぱ似合わないか」


『おぬし義も勇もないじゃろ』


「確かに」


 一番遠い存在だよ。成り行きって怖いね。


「そっちに異常はないか?」


『ないのじゃ。シルフィもイロハもない。小競り合いはあるがのう』


「気をつけろ。本当に敵の正体と目的がわからん。今までと毛色が違いすぎる」


『うむ、勇者科や主人公補正の調査なら、試験をそのまま見ればよい。この状況がもう特殊すぎる。余計な手を入れるべきではないのじゃ』


「なんか滲み出る気持ち悪さがあるんだ。今までの管理機関やスクルドみたいな邪神とも違う。なんか根本的に別種なんだよ。超人でもない」


 得体の知れない気持ち悪さがある。完全に異物だ。これほど執拗に学園のブロックを狙う理由がない。学園を征服とかテロ行為は、下手な国を狙うよりも難しい。


「学園にも神にも超人にも利益がない。小競り合いを増やしても、それで全ブロックの人間が死滅したりはしない。大規模な障害が発生すれば学園側が動く」


『誰が何の理由で動いておるのか……こんな混沌とした状況にして、あと数ヶ月の国で何をしたいのか……この状況が最終目的か?』


「どういう意味だ?」


『混乱が続くことにこそ意味があるのかもしれぬ。それらが蓄積されると、ブロックの維持管理システムが壊れるとか』


「維持システム……各ブロックで気候からして違うからな」


 わからない話じゃない。そのへん学園の技術か神の御業か知らないが、壊して大混乱、もしくは殺したいやつがいる。またはシステムそのものが欲しいと。


「ただ完全に勘なんだが、オルインを知らん気がする」


『おぬしの勘は当たるからのう。それでも意味わからんのじゃ』


「手探りでじわじわ動いているような……だめだ言葉にできん。俺に解説とか無理」


『今は休むがよい。近いうちに合流できるかも知れぬ。6ブロックに少し援軍でも出そうと思っての』


「助かる。お前らがいないと不便すぎる」


『不便さと寂しさを感じながら眠るがよい。無茶はせんように。おやすみ』


「ああ、おやすみ」


 明日は敵と戦うことになる。手がかりが掴めるよう祈りながら眠りについた。

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