アイドルが非処女でいいわけねえだろ

 アイドルのライブ見ながらかき氷食ってたら、関係者という人に声をかけられた。


「今のお話、詳しく聞かせていただいても?」


 なんだか美形の女性に声をかけられた。髪の長い人だ。

 まあ女の容姿なんて知った事か。


「関係者さん? いえこっちは一般人の雑談なんで。というかどちら様で?」


「失礼、私はラナリー。商業科と芸能科役者専攻でして。役者とプロデュース業を学んでいます。ステージは私も演出に一枚噛んでおりまして」


「ほほう、売り込みまで自分でやるとは熱心じゃのう」


「芸能界ではできることが多いに越したことはありませんから」


「みなさんもいかがです? 三人とも可愛いじゃありませんか」


 ナチュラルに俺が省かれましたね。まあいいですよ。なろうとも思わないし。


「わしはこやつのものだから却下じゃ。他の男に媚びを売る気はないのじゃよ」


「私は本業がありますので」


「ボクは男ですよー」


「おと……? いえ、それはそれでいけるかも……」


 なんだかんだいけそうなのが怖いよな。男女どっちに売り込むのか知らんけど。


「その話は別の場所でやってくれ。とりあえずリリアはアイドルにはさせません」


「と、ギルマスが言うておる。よって無理じゃ。わしもやりたくない」


「残念です。天下も取れそうな逸材……ですが、本人にその気がないなら諦めます」


「意外と潔いのですね」


「無理なスカウトは悪評も立ちますし、やる気がなくては続きませんよ」


 だろうな。どう考えても特殊な業界。それは素人の俺でも想像がつく。

 よっぽど好きか、一獲千金狙いじゃなきゃやらないだろう。


「で、あの子達にアイドルはできないと?」


「どうしても業界にいたいのなら、歌手とか役者やらせましょ。アイドルは無理」


「最近は人妻アイドルとか、ニッチな需要もあるじゃろ」


「どう考えても十代で清純派狙いだろあいつら。二十代の大人の女が、本格的にユニット組んでるわけじゃないんだぞ。学生の売り全部台無しだろうが」


 十代から非処女の女をどう応援すればいいんだよ。

 完全に彼氏にも献金しちまうだろ。


「そもそも何故わかるのです? ただの直感でしょう?。まさか処女を見分ける装置のようなものが……」


「はっ、そんな装置がなければ見抜けないようなやつが、偉そうに処女厨名乗るとか、滑稽の極みだな」


「今のおぬしが一番滑稽じゃぞ」


「まあそうだな。じゃあ証拠でもつけます? ユニコーン呼べますけど」


「ユニコーンを? 男性が?」


 困惑している女。ラナリーだっけ。まあもう会うこともないだろうし、覚える気があんまりない。


「同じ処女厨という険しき道を歩く同志です」


「つまりアホの集いじゃ」


「直球はやめろ。貞操観念は大切なんだぞ。あの二人だけでも隔離してあげてください。ヘタすると他の非処女に巻き込まれるかも」


「まさか。いい子たちですよ」


「男隠してアイドルやってるやつのどこがいい子ですか」


 完全にファンを裏切る行為だ。誰のお陰で飯が食えているのか自覚していない。


「まだそうだと決まったわけでは……」


「別に信じてもらわなくても結構。俺の感想ですし」


 よく考えたら、貴重な夏休みを消費するほどの価値がない。


「ですが、みなさんあの二人を選んだ。つまり何かある。協力して欲しいのです」


「隊長はプロデュース業なんて素人ですよー」


「うむ、ろくなアイドルが育たんじゃろ」


 まあそういう評価だよな。俺も育てられる気がしない。


「本当ならば調べねばなりません。ユニコーンともどもご協力をお願いしたい」


「非処女には割いてやる時間も膜もない。無駄な時間だ」


「なんじゃいそのキモさ全開の台詞は」


「お館様がだめな人に……」


「駄目なのはもとからじゃよ」


「うっさいわ」


 呆然とするラナリーは放置。そのまま帰って欲しいな。

 かき氷ももうすぐ食べ終わるし。俺も家に帰ろう。


「食い終わったら帰るぞ」


「武器どうする気なんじゃ?」


「……どうしよう。完全に帰る気分になってしまったぞ」


「そこはちゃんとしましょう。ボクも付いていきますか? ひとりでお家に帰れます?」


「帰る前に眠くなりそう。うーわどうしよう。アイドルのせいだ」


「そこに行き着くのですね」


 眠くなるともうだめ。体の疲れは俺を蝕むのさ。


「回復魔法の練習しとったじゃろ」


「あーコリをほぐすあれか」


「ではお館様の疲れをみんなでほぐしますので」


「ラナリーさんに協力してあげましょう」


 面倒だが協力することに。もちろん報酬あり。

 女に無報酬で手を貸すなんざ気に入らない。


「んじゃ今のステージ終わったら、こっそりユニコーン会わせましょう。その対応でわかるはず」


「いっそアイドル科のチェックでもすればよい」


「一日全部使いそうだから却下で」


 そしてライブ終了。控室から出たアイドルたちは、貸し会議室に連れてこられた。


「なにここ?」


「これも何かの企画でしょうか?」


「集まったわね。それじゃあ始めるわよ」


 ラナリーさん登場。ざわつく室内。

 俺達は隣からマジックミラー的な部屋で監視中。多分魔法技術だろうな。


「今日はあなた達に特別ゲストが来ているわ」


「どういうこと? これもなにかのイベント?」


「さ、入って」


 キアスさん入場。さらにざわつく室内。不意打ちで出たらびびるわな。


「ユニコーン!? どうしてここに!」


「言ったでしょう。特別ゲストよ」


「きれーい! 撫でてもいいですか?」


 最初に興味を示したのは、明るい金髪の子。

 ユニコーンの意味を知っているかどうかも微妙だ。


「いいわよ。今度動物と共演も考えているの。動物は食いつきがいいのよ。客の好感度が上がるわ」


 そのへんはどの世界でも変わらんのね。


「よしよし、噛まないでねー」


 そっと手を出す女の子。キアスには喋るなと伝えてある。

 撫でやすいようにかがみ、頭を女の子に向けた。


「おぉ、かしこいね。うわーさらさらだよ!」


 おとなしく撫でられている。あいつの毛並みマジさらっさらだからな。


「ほらほら、撫でてみなよ!」


 金髪と白髪は仲良しなのか、ユニコーンを撫でさせようとする。

 しかし、ちょっと戸惑っているようだ。


「妙だな。俺の見立てでは処女のはず……まだ完全にこちらの常識を把握していなかったか」


「いや、あれは動物が苦手なだけじゃな」


 なるほど、その線は考えていなかった。キアスちょっと大きいもんな。


「その子は賢くて大人しいわ。人の言うことも理解しているの」


 ゆっくり頷くキアスに、少しだけ警戒心が薄れたのだろう。

 おそるおそる手を出し、軽く触れる。


「あ、凄い。さらさら」


「ね、凄いでしょ!」


 キアスは触れられれば100%見抜ける。

 なにもしないということは、この子も間違いないだろう。


「さ、安全なのはわかったでしょう? 動物に耐性をつけておきなさい」


 和み空間が作られている背後で、他のメンバーが明らかに距離を取っている。


「どうしたの? 動物は苦手じゃないでしょう?」


「う……それは……」


「まさか……彼氏でもいるの?」


「えぇ!? みんな彼氏とかいるの!?」


 どうやらメンバーも知らないらしいな。

 混乱している室内。そろそろかな。


「ほれ、出番じゃよ」


「わかってるよ。しょうがない報酬のためだ」


「隊長ファイトですー」


「一応見守っていますね」


 見送られて隣の部屋へ。さて、クエスト貰ったし、ちゃんとお仕事しますかね。


「ここからは俺が説明しよう」


「誰!?」


 真っ白な騎士のような服装に、顔全てを覆う白い仮面。

 ご丁寧に声まで変えてある。


「俺はナイト。処女の護り手、ヴァージンナイト」


 だって素顔は晒せないし。どうせなら遊ぼうと思いました。


「そのユニコーンのマスターだ」


「ラナリーさん。不審者がいます」


「なにあいつ頭おかしいわよ」


 まあそういう反応ですよね。知ってた。だが気にしない。


『乙女の純血は我とマスターが守っている』


「喋った!?」


 更にざわつく室内。よしよし、混乱の中で話を進めちゃおうね。


「あんたらなんでそんなもん守ってんのよ?」


「守ろうとするのではない。守ってしまうのがヴァージンナイト」


「……うざい」


「そこの緑髪。お前、少なくとも二人の男に抱かれているな?」


「なんで……」


 二の句が継げないようだな。甘いんだよビッチが。


「えーはっきり言っておく。アイドルが非処女でいいわけねえだろ!!」


『貞操も倫理も脱ぎ捨てた愚か者め』


 さて、ちゃんと個別に診断していこう。


「そこのオレンジ髪! 片思いの幼馴染か何かと結ばれたな? さっさとアイドル以外の道へ行け!」


「なんでわかるのよ!」


『そこの桃髪。長く付き合っている男がいるな? 清純度が極端に小さいぞ』


「なによ清純度って!?」


 こいつらは純愛と言えば聞こえはいい。長いこと片思いというか、初恋の相手がハーレムにいる俺の言えたことじゃない。いやハーレムじゃないけど。

 危ねえ気を抜くと認めそうだ。ハーレムはしていません。


「えーそしてそこの茶髪。お前最悪だ。日常的に抱かれてるだろ。積極的に男漁ってるな? 八回死ね」


『死に方は毎回変えろ』


「なんでそこまで言われなきゃいけないのよ!!」


「そこまでのことをやってるからだよ! ファンを何だと思ってやがる!」


「別に彼氏の有無とアイドル関係ないじゃない!」


「使い古しの女なんぞに金が出せるかボケェ!!」


 かわいこ振りやがって。貴様らは人間のクズだ。清い心を失いやがって。


「お前らは夢と希望を売る商売だ。お前ら自身が財産であり商品なんだよ。それを自分から傷つけるアホなわけだな」


「あ、あの。そこまで言うのは、ひどいと思います」


「みんな本当に彼氏いたの?」


 白髪と金髪がフォローに回る。相当戸惑っているな。

 そりゃメンバーが彼氏いるとか大惨事だろう。


「あの茶髪は彼氏すらいないぞ。最底辺のクズだ」


「うるさいわね! 適当なこと言ってんじゃないわよ!」


『ならば教えてやろう。貴様らがどれほど愚かで歪んだ存在かということを!』


 これからキアスと共に悪事を暴いてやる。覚悟しろアイドルもどき。

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