鍛冶屋で武器を作ってもらおう

 鍛冶区画へとやって来た。武器屋に戻るのかと思えば、また別の場所だ。

 二階建ての家が極端に少ない。というか見ないぞ。

 そんな場所に三人でやって来た。ももっちは呼び出されてどっか行ったよ。


「あの武器屋じゃないんだな」


「あそこは高い建物が多いじゃろ。音とか煙が迷惑になるのじゃ」


「ほー……そういうの無視して煙い武器屋とかありそうなもんだがな」


「建築科が半日で解体するからね」


 建築科おそるべし。やはり学園の生徒は半端じゃ務まらないようだ。


「視察も訪れる。隠そうにも、探偵科の目は欺けない」


「お待ちしておりました、お嬢様」


「お嬢様は勘弁してって。入ってくれ」


 通された室内はかなり広い。邪魔なものを置かないのだろう。

 見たことのある設備と、この世界独自のなにかが混ざり、なんとも面白そうだ。


「無駄なく清潔そのものって感じだな」


「当たり前だ。鍛冶道具は危ないんだよ。ひとつのミスで大事故に繋がる」


「ちゃんと大人しくしているよ」


 本当に大怪我に繋がるので、静かに待ちましょう。

 完全装備で制作に取り掛かるホノリと助手の皆様。

 手持ち無沙汰な俺とリリアの前に、武器屋で見たお姉さんが来た。


「お兄さんお兄さん。ちょーっとテストにご協力を」


「ああはい。そうでしたね」


 武器の属性耐久テストに協力する約束だった。


「これリリアが電撃使えばいいんじゃないのか?」


「おぬしとは魔力の質が別じゃ。どちらが上という問題ではなく別。よって必要なんじゃよ」


「そんなもんかね」


「そんなもんですよ。では、まずはこの普通の剣に電撃流して下さいな」


「普通に流しますよ?」


 付与ではなく、ただ電気垂れ流し。強めに放電して、柄の部分が焦げる。

 刀身からもちょっと煙が出た。もうひび入ってやがる。


「今更ながら、もったいないことをしているな」


「実験は必要なのですよ。ふむふむ、安物ではこれが限界ですね。次はもっと安いやつです」


 そんな感じで実験スタート。サンダーフロウによる付与もやってみる。

 こちらは刃に魔力の雷をまとわせるものだ。

 どうやら剣の寿命はこちらのほうが長持ちするらしい。理屈は謎。


「なるほど。素人が流す魔力に耐える剣にしたいんだな」


「正解です」


 リリアの魔法は完成されている。一部の隙もない。

 それじゃあ剣を買いに来る人間はというと、当然素人も混ざる。

 雑な魔力に耐えるものじゃなきゃいけないのか。


「素人には素人の役割があるわけじゃよ」


「実感した。そしてこれきっつい」


 ひたすら魔力を剣に流す。強弱を変えて。俺の耐久テストをされている気分だ。


「マジックポーションは常備してありますよー」


 これは逃げられないな。ホノリが武器制作に入っているので、どの道逃げるという選択肢はないわけだが。


「もっと容赦なくめっちゃくちゃに流していいですよー」


「お主の周囲に小さい結界を張っておる。思いっきり適当にやるのじゃ」


「はいよ。雑にサンダーフロウもどき!」


 もう集中もへったくれもない。流れも威力もころころ変える。


「うーわ、きっついきっついこれ」


「修行になるじゃろ」


「これは初心者も上級者もきついですからね」


 今できる自分の限界を流し続ける。つまり成長しようがずっときつい。


「つくづく俺に向いていないな」


 クエストとして受けてしまったのできっちりやる。


「アジュ、ちょっとこれ持って電撃流してみて」


「これって取ってきたやつか?」


 まだうっすら青く光を放つ小さな石。結構苦労して取ってきたやつだ。


「その欠片。これと剣持って同時に頼むよ」


「貴重じゃないのか?」


「だから欠片なのさ」


 本当に道端の石ころより小さいかもレベル。

 まあいい。こっちの法則なんて考えるだけ無駄だ。


「全力サンダーフロウ!!」


 離れて集中し、電撃流し再開。

 相当バチバチいっているが、俺の魔力なのでダメージはない。


「はい次はこのスロットにはめて、はい流す」


「はいよーっと!」


 そんな感じでしばらく実験に付き合う。しんどい。


「ふはー…………うむ、限界っぽい」


「お疲れ様ー。いやあいいデータが取れましたよお兄さん」


「助かったよアジュ。きっちりいいもの作ってやる」


「ああ、任せたぜ」


 後半は雷流しながら剣を振るとか繰り返した。

 これは筋肉痛確定ですね。


「あ、お兄さん。もう一個のクエスト」


「ああ、忘れていた。ちょっと全員後ろ向いてくれ」


 ここで疑問に思いながらも従ってくれるところが好き。

 召喚機のスロットから、レッドドラゴンの牙一個と爪二個を出す。

 どっちも俺の身長よりデカい。


「はいこっち向いていいぞ。これ使ってくれ」


「おおおおぉぉぉぉ! ほぼ傷がない! 上物ですね!」


 ドラゴンの材料確保もクエにしてもらった。お得だね。

 目が輝いているお姉さんとホノリ。


「ふふふ……ふはははは! はーっはっはっは!」


 ホノリがおかしくなった。なんだ大丈夫か。怖いわ。


「はいしゅーごー!」


 お姉さんの声で、職人っぽい格好の人達が集まってくる。


「今から新商品を作ります!」


「おおおおぉぉぉ!!」


 なんだこの空間。怖いわ。凄く怖いわ。逃げたいわ。


「俺はどうしてりゃいいのさ?」


「ああすまない。しばらくかかりそうなんだ……」


「いいぜ。ちょっと外にいればいいんだろ? 武器見てるか近場にいるよ」


「わしがついておる。迷子にはならんのじゃ」


「時間がかかる。半日以上かかるようなら、明日にでも完成品を取りに来て欲しい」


 まあ武器作成って数十分でできるものじゃないしな。

 しばらくふらついて、無理なら明日以降でもいいや。


「あいよ。頑張れ」


「ありがとうございましたー! クエストは二個とも達成報告しておきますねー!」


 とりあえず見送られ、やることもないのに外へ出た。


「しくじったな。暑いぞ」


「そら夏じゃからのう。素直に武器屋でも見るのじゃ」


「どうせなら涼しい場所行こうぜ。武器はもう貰うんだし」


「うむ、では適当に冷やかすのじゃ」


 そんなこんなで商店街を歩く。かき氷屋とかないかな。


「冷たいかき氷ですよー。暑い日にはかき氷ですー」


 都合がいいことに屋台がある。しかもテーブルと椅子まで。

 出張してきているらしいが。


「お前……さてはパイモンだな? 白くなってもごまかせんぞ」


「見抜かれましたか。まさか隊長にお会いするとは思いませんでしたよー」


 今日は白ゴスロリのパイモンだ。なにやってんだこいつ。


「いつからかき氷屋になったのじゃ」


「ちょっとしたお手伝いですー。鍛冶屋の作業場って熱いでしょう? 儲かるらしいですよ。隊長とリリアさんはなぜここに?」


「武器作ってもらいにな。俺メロンで」


「わしイチゴで」


「はいなー。かき氷二つ入りましたー!」


 適当なテーブルで待つ。なぜか隣にパイモンがいるけれど気にしない。


「お館様じゃないですか。珍しいですね、このへんにいるなんて」


 麦わら帽子の女。久々登場ヨツバさんだ。手には三色かき氷。


「ヨツバか。今日は珍しいやつに会うな」


「ご一緒しても?」


「よいぞ」


「好きにするがいい」


 なぜか偉そうに承諾。暑いからね。そりゃ会話も雑になるよ。

 適当にパイモンとヨツバの紹介も終わり、かき氷が来たので食う。


「ヨツバは武器屋に?」


「いえいえアイドルさんの護衛をしておりました。あっちで歌っているでしょう?」


 ステージで歌って踊るアイドルグループ。まあ歌は上手い方だと思うが。


「護衛さんがここにいていいのですか?」


「もう交代です。任務完了。あとは後任の人達がやることです」


「あまり人気のアイドルではないようじゃな」


 客はそこそこいる。だがまあ超人気ってわけでもないな。


「プロデュースしている人達も困っていましたね」


「はっ、無理に決まってんだろ。プロデューサーとやらも節穴だな」


「ほほう、隊長……やけに自信がお有りですね」


「パイモン、あのグループで応援するなら誰だ? 直感でいい」


 さて六人組のアイドルだ。誰を選ぶかで素質がわかる。


「えぇ……そうですねえ……右端の金髪の子ですかね」


「垢抜けていない子じゃな。わしもその子じゃ」


「私だったら、その隣の白髪の子ですね」


「三人ともいいセンスだ。処女厨の素質があるぞ」


「欲しくないです」


「ないですねー」


 ちょっと引かれた。なぜだろう。褒めているのに。


「人を見る目があるってことさ。あの二人だけが処女だ」


「わかるんですか?」


「処女厨をなめるなよ」


「なんじゃその意味のわからん決め台詞は」


 あの程度の衣装と動きでは、俺の目はごまかせない。

 アイドルというものは、どこかモテない男を下に見ているものだ。

 その中でも異質な空気。完全に男を知ったものの顔である。


「あの……今の話、本当ですか?」


 知らない人が声をかけてきた。完全に知らない人だ。

 俺は知り合いそのものが少ないので、覚えておけるのさ。


「アイドル科の、あの子達の関係者です。今のお話、詳しく聞かせてもらえませんか?」


 さて面倒事かな。できればのんびりしていたいなあ。

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