乙女の護り手と戦乙女
アイドル六人が集められた会議室。
そこへ踏み込んだ俺とキアスは、処女を守るべく、貞操の大切さを教えることにした。
「とりあえず白髪と金髪は問題なし。歌も踊りも悪くない。汚れないように生きろ」
「よくわかりませんけど、わかりました!」
「が、がんばります」
よしよし。こいつらは被害者だ。責めるのは筋違い。気をつけよう。
次はオレンジとピンク。
『片思いの末、結ばれた二人。アイドルなどやりたくはないのだろう?』
「……別にそんな」
「本来歌手になりたかったんじゃないのか? 歌っている時だけ楽しそうだったぞ」
「そういえば、歌手志望だって聞いたような」
白髪の発言で、あからさまにうろたえる。
ラナリーさんも知らなかったようで、ちょい驚いているな。
「だって……アイドルのほうがイベント多いし。仲間が売れれば便乗できそうだったから」
「ファンを騙すのは悪いことだけど、一度始めたし……引くに引けなくて」
「それじゃあいずれ破滅する未来しか無いぞ」
こいつらは他にやりたいことがある。そして彼氏がいる。
別の道に行かせるのが一番だ。
『筋肉からして戦闘経験があるな?』
「鍛えてはいます」
「一年だけ戦闘系の科にいました」
なるほど。他の子よりがっしりしているのはそれでか。
「まず二人が何をやりたいのか聞かせてちょうだい」
ラナリーさんはプロデューサーだしな。そのへんはお任せしよう。
「その……もっと本格的な歌手というか……明るい歌と、愛とか恋とかそういうのを歌いたくて……アイドルにもそういうのあるし……楽器も得意なので活かせないかと」
「アクションスターっていうか、ミュージカルで派手にこう……劇とかやりたかったんですけど。そっちの科が公演間近で入るタイミングなくて。パフォーマンスしながら思いっきり歌いたいんです」
「ファンにはちゃんと、別にやりたいことができましたって言いなさい。そっちの才能はあるんだから」
『そうなのか?』
キアスに聞かれて、ステージ風景を思い出す。
悪いとは思わなかったな。レッスンは真面目にやっていたのだろう。
「ステージ見た感じ、ギターソロはかっこよかったぞ。ピンクも一番ダンスアクションが大きかった。二人でコンビ組んで歌手でもやりゃいいんじゃね」
「それよ! 悪くないわ!」
「私達が二人で……?」
「まあ、いいかもね。レッスンで一番マジだったの知ってるし。相棒になってあげましょうか」
がっしりと握手しているオレンジとピンク。
『話がまとまりそうだが、ファンを裏切っていたのは事実だ。その姿勢は必ず油断と傲慢さを生む。同じことをすれば今度こそ次はない』
「う……すみません」
「反省しています」
キアスがいいこと言った。神獣が言うと凄いありがたい格言みたいになるね。
「そうだな。ある意味プロ根性がないとも言える。ファンのおかげで活動できて、飯が食える。男に夢中になって成功できる世界でもないんだろ?」
「もちろんよ。今まで以上にレッスンは厳しくなるわ」
「耐えてみせます。今度こそ。しっかりトップ目指します!」
よしよし、綺麗にまとまってきた。
金髪と白髪も応援している。ここまではいい。
処女と、幼馴染との恋愛なわけだよ。
「問題はお前らだ。このクソビッチが」
『見下げ果てたものだ』
「別にわたしらの年だったら、そういうことに興味あって普通でしょ?」
「興味どころか極めつつあるだろうが。アイドルがやることじゃないんだよ」
こいつ反省の欠片もないな。こういう汚物が混ざっていると、清純派の看板に傷がつく。取り除きたい。
『緑よ、三人に抱かれているな。我が処女千里眼はごまかせん』
「うぐっ、やるわね。キモいけど」
「話せ。三人は多すぎる。あり得んぞ」
「セクハラじゃない?」
「くだらんね。メンバーもファンも裏切り、情欲に溺れるアホに、俺が欲情するとでも? 事情聴取さ」
そもそも女とかうざい。男もうざい。ひとりが好きなので、誰かに欲情や執着ってあまりしない。やはりあいつら三人は特別なんだなあ。
「話してくれるかしら。あなたたちをプロデュースした身としては、知っておく義務があるわ」
「別に……イケメンでいいなーと思ったやつに迫ったら、やっちゃった感じ」
『クズだな。場の雰囲気に流されるか』
「そんときは好きだったし。でももっとイケメンで貴族のやつ見つけて、そいつに切り替えた。そこから知り合った、童貞臭い金持ってそうなやつにまた切り替えただけ」
「ドクズじゃないか。燃やして殺菌消毒でいいだろこいつ」
学園にも汚物はいるのね。異物混入ですよ。消毒でいいだろう。
「流石に殺すのはちょっと……」
「こんなん死罪でもぬるいんだけどなあ」
『唾棄すべき愚物である』
メンバーがドン引きしている。しかも緑髪に。
こういう場面で俺が引かれないって珍しいな。
それだけ汚いことやっちゃってるわけだ。
「あなたは追放よ。プロデュースもしない」
「はいはい。これまでか。また金持ち見つけないと……」
『残念だったな。そうはいかん』
キアスの魔力に酔よって手錠が作られる。
突然現れた光る手錠により、緑髪は捕獲された。
「ちょ、なにこれ?」
「お前はアイドル科追放だけでは納得いかん。きっちり学園側に引き渡し、教師と親御さん交えて判定してもらう」
「はあ!? ふざけんじゃ……」
『黙れ。もう貴様の声など聞きたくはない』
さらに魔力を増幅させ、全身拘束。
さるぐつわかけて、そのへんに転がしておく。
「どうする? オレンジとピンクの性事情ばれてるぜ」
『ふむ、洗脳か記憶改変でもするか』
「やりすぎよ。言わないように多少私と学園側で指導しておくわ。二人の門出を邪魔したりしない。今回限りね」
「ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」
これで緑は解決。ちなみにギルメンに催眠は通用しない。
俺はもちろん。リリアはあらゆる能力の上位互換的な存在だ。
シルフィは催眠にかかるという時間が来ないよう、オートガードがかかる。
イロハは耐性持ち。しかも影になれるから、かける人体がない。
『さて、お前はここで処分するぞ茶髪』
「茶髪って呼ぶのやめてくんない?」
「汚物に名前など必要ない。覚えようとも思わん」
俺の脳みそは汚物を覚えるために使わない。もったいないからな。
「お前は異常だ。緑も欲望まみれだが……十人以上に抱かれている貴様ほどではない」
「じゅ……嘘でしょう?」
信じられない者を見る目だ。どう足掻いても覆せない汚点。
醜い存在に、全員がたじろぐ。
「あーあ……つまんない。マジつまんね。なんなの? せっかく上手くいってたのにさ」
「いっていちゃまずいから来たのさ。なぜ抱かれ続けている?」
雰囲気が変わったな。人間のメスでも最下級の雰囲気だ。
「気持ちよくてお金もらえるとか最高じゃん。アイドルやって媚びるのもしんどいんだよね。まあ金払いはいいから続けてたけど。ぜーんぶ台無しだよ。クソだねあんたら」
「汚物にクソ呼ばわりされるとは心外だね」
「うっせえ! あんたらアタシに恨みでもあんの?」
「ただ死んで欲しいだけだ。この学園に、お前のような存在はいてはいけない」
そこでビッチが距離を取り、でっかい魔力の斧を飛ばしてきた。
「効くと思ってんのか?」
右手でキャッチして握り潰す。
実は俺の白い服装は、ミラージュキーで幻影を貼り付けている。
下は鎧。女を警戒し、保険をかけてこそ俺だ。
「うっざ。お前も強いのかよ。あーあムカつくやつばっかだ。あんたらはいいよねえ、好きな男に抱かれてさ」
なんか自嘲気味になったな。性格も猫かぶっていたようだ。
「スクルドはあの人に抱かれてるってのに、アタシはそのへんの男。スケグルはなーんか気に入られてたし、なんでアタシだけ抱かれないんだよ!」
わけのわからん事を言いながら、更に魔力の刃を生成し、無数の斧を飛ばしてきた。
「キアス、アイドル」
『無論だ』
キアスがアイドルたちに接近しバリア。
俺が斧を全部叩き落とす。
「ラナリー、全員避難させろ。こいつは俺が消しておく」
「できれば生かしておいて。学園に引き渡すわ」
『存在ごと消すことをおすすめするが?』
「プロデュースした子が突然消えたら困るのよ。私の経歴に傷がつき放題じゃない」
そこはちょっと同情するよ。授業の一環で手伝ったら汚物混ざっているとか、俺なら切れるわ。
「安心しろ。事情が事情だ。学園長に話せばいい」
「学園長? あなたたち……なんなの?」
「気にすんな」
『できれば忘れろ。我が責任持って外まで連れて行く』
「あいよ。期待してるぜ」
アイドルご一行様はキアスに任せ、部屋の外に出す。
「うっざいねあんた。そこまでアタシを殺したい?」
「当然。てめえヴァルキリーだろ」
スケグルとスクルドでわかった。こいつもヴァルキリー。しかも敵側だ。
「あぁ? なんでわかったん? もしかしてあんたか? アタシらの駒潰しまくってんの」
「なんのことかわからんね。よければ全部話してくれるかな」
「話すかよバーカ!」
懐から数本ペンを取り出し、それを二メートルほどの斧に変えてぶん投げてくる。
「それがお前の能力か。なんか普通だな茶髪ビッチよ」
「うっせえ! アタシはスケギオルドだ! あんたこそバカっぽい名前のくせに生意気なんだよ!」
「まあいい。ヴァルキリーでいてくれてありがとう」
「なに? 狂ってんの?」
「これで気兼ねなく殺せるよ」
さっさと潰して終わりにしよう。
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