ルシードVSタイプC1

『待たせたな! そんじゃあ最終戦いってみようかああああぁぁ!!』


 俺の試合の後、臨時の休憩タイムとなった。

 舞台にクレーターできたので、修復作業で中断したのだ。

 作戦立てる時間もできたので、まあよし。


「気をつけろ。どうやら全員のデータ使えるくさいぞ」


「わかっている。それでもオレは負けん。オレだけ負けて帰るのもみっともないからな」


 そう言って笑うルシードには、特別気負っている雰囲気はない。


「焦らず行ってきな!」


「どうかご武運を」


「ありがとう。行ってくる」


『さあもう後がないモデルC! 最後の選手はタイプC1!!』


 既に舞台で待っているC1は、やはり同じ顔だった。こいつがオリジナルなのか?


『対するはブシドーを掲げるクールな男、ルシード・A・ラティクス!!』


「お前たちに恨まれる筋合いはないし、泣き寝入りするつもりもない。勝ってすべてを聞かせてもらうぞ」


「聞く耳が残っているかな?」


 舞台にて対峙する二人にどんな因縁があるのか、いまいちわからん。だがルシードが勝ってくれると助かるな。


『はあああじめえええええ!!』


「出し惜しみはしない。コンプリート、起動しろ」


「アーク、レディ!!」


「委細承知!」


 初手からお互いのアーマードールを展開し、装着していく。


「オレは……勝ってすべてに決着をつける!」


 物理法則を無視して変形・分解し、全身に装着される鞘。

 三メートル以上ある全身装着型の蒼い鎧。

 あれがルシードのアーマードールか。


「ルシード、油断は禁物である」


「当然だ」


 目の部分が光り、背中に六個の棒が現れる。それはまるで翼の骨のようだった。

 すぐに背中から青い光が放射され、羽のように広がり空を舞う。


「出たなAよ。だが私の力は、そんなものを超えている!」


 C1の頭部には、龍の頭をイメージさせる兜が装着され、全身を金色の装甲が覆う。それは龍の鱗に似ていた。C1の装甲も同じく3メートルほど。

 大きさは同じ。あとは性能と装者の技能次第だ。


「私は唯一Cのすべてを使える者。完全なる適合者! CがAより上だと証明する者だ!!」


「ルシード・A・ラティクス、参る!!」


『先に仕掛けたのはルシード選手だ!』


 正面から高速で近づいて斬りかかる。音速を楽勝で突破しているが、C1の左腕が金の龍となってそれを阻む。


「やはりチームの力が使えるのか」


 足の裏から青いブーストを吹かし、龍の顔を焼くことで強引に隙を作り、刀を引っ張り出している。

 あの状態の戦闘に慣れきっているな。


「当然だ。やつらはそのために作られた」


 C1の背中から七匹の黄金龍が飛び出し、ルシードを追い回す。

 空中に逃げてもまだ付きまとうのは、正直うざすぎる。C2だか3より能力強化されていないか。


「アーク、ブラストソード!」


「準備万端」


 右腕の装甲が変形し、刀の柄の部分までをすっぽりと包み込む。

 そして青い光が巨大な刀身へと変わった。


「叩き斬る!!」


 龍の首を真っ二つに切り捨てた。攻撃が通るなら勝ち目はある。


「その程度が全力か」


 切断面からコードが伸び、瞬時に修復が終わる。だからずるいってあいつ。


「問題はあれをどう破るかだな」


 弱点らしい弱点がない。大出力で完全に消し去るか、何か弱点を見つけて倒すしか無いだろう。


「四の太刀、氷源!」


 刀身に冷気が満ちていき、太刀を振るえば龍の首が凍りついていく。


「凡人の判断だな」


 凍った龍の首が赤く染まり、炎を纏って氷を溶かす。


「キャンバスの能力……こいつやはり強い!」


「私との戦闘で集中を切らすとどうなるか」


 速い。ルシードの背後に音もなく忍び寄った。


「教えてやろう!!」


 C1本体との激しいラッシュが繰り広げられる。


『C1選手体術も得意なのか! 接近戦でルシード選手に負けていない!!』


 嫌な誤算とでもいうか、接近してしまえばルシード有利かと思えばそうでもなかった。しかも龍の首が手数の多さに繋がる。距離を取ったのはルシード側だった。


「コードキャノン!」


 アークの両肩に砲塔が出現した。膨大なエネルギーが連射されるが、龍の首は少し欠けた程度では修復されてしまう。


「いいぞ。足掻け。その無様な姿が私の心を満たす」


「余裕だな。だがお前にもコアがあるはず。いつまでも優位ではいられんぞ」


 機動力を活かしての一撃離脱戦法に切り替えたルシードは、C1に傷を入れつつアークにコアを調べさせている。


「一の太刀、彩色」


 ヴァンとの戦いで見せた刀身を消す奥義だ。あの状態でも使えるのか。 


「鬱陶しい。無駄だと理解する知能もないか」


 敵の装甲が硬すぎる。半端な攻撃では、かすり傷を負わせる程度で致命傷には至らない。


「無駄な事など無い。装甲の隙間を狙えば!」


 それでもルシードは諦めない。なんとか関節部分の隙間に刀を差し込むが。


「忘れたのか? 私の体は復元できる」


「再生が追いつかないほど、バラバラに切り刻む!!」


『ルシード選手猛攻撃! C1選手に反撃の隙を与えない!!』


「アーク、コードビット!」


「開放!」


 羽の部分が六枚のビットに変わり、舞台中を飛び回りながらレーザーを撃ちまくる。


「小賢しい。スペックの差を教えてやる。セブンスドラゴン!!」


 七色の龍がブレスを吐きながら猛突進する。ルシードもすべてを切り伏せることはできず、大きく吹き飛ばされた。


「ガハアァ!?」


『C1選手の攻撃がクリーンヒット! ルシード選手大丈夫かあぁ!』


「ふん、装甲の硬さに救われたな」


 アークに傷はついたものの、戦闘続行は可能だろう。

 中にいるルシードが無事ならだが。


「このまま攻撃を続ける。いいなアーク」


「無論。勝つまでやるのである」


「喋る機能がついても、ガラクタはガラクタだなあ!」


 お互いのボディに傷が増えていく。

 傷そのものの多さはルシードだが、深さはC1だ。

 つまりルシードの技量が勝っている。


「このまま装甲ごと鉄くずになれ! Aの器とともに!」


「教えろ。Aの器とは何だ? なぜオレを狙う」


「何もわからんまま殺される気はないのである」


「……機関最高傑作にして、その製造技術の一切が消されたアーマードール。それがAだ。お前はその器。お前らがいる限り、私たちは代用品でしかない。Aがあればと望まれ続ける存在だ」


 よくわからん。自分たちより優れていると断言されるのが気に入らないって感じだな。面識なかったんだし、これ逆恨みじゃねえか。


「ラティクスの家系は器として登録され、突然管理機関から脱走した。その真相は知らされていない。わかっているのは、すべての可能性を秘め、全アーマードールを倒せるものということだけ」


「聞いたことがない話だな」


「我輩も知らんである」


「構わない。お前さえ倒せば、Aを破壊できれば、私たちが最高傑作だ!」


 C1の攻撃が激しさを増す。スタミナも欠損も考慮せず動けるやつは卑怯だと思うよ。


「お前もまとめて取り込んでやる。支配下に置いて、ボロクズになるまで使い潰してやるよ!」


「アーク、ビットをしまえ。ここからは一気に行くぞ」


「承知」


 ビットを翼に戻し、コードの束となった龍から逃げる。

 だが舞台空中を埋め尽くすように侵食され、龍本体もさばくのは無理があったようだ。


「捕らえたあぁ!」


『ルシード選手捕まったああぁ! これは苦しい展開だぞ!!』


「さあここからだ。究極のCもAも超えた存在となる!!」


 アークに取り付き、データを読み込みながら取り込もうとしている。

 装甲とルシードに蓄積されたダメージで、逃げることもすべてを振り払うこともできなくなっていく。


「何だ……? どうした? なぜデータが来ない!!」


「これは……ルシード、勝ち筋が見つかったやもしれぬぞ」


「どういうことだ?」


 何かトラブルが起きているようだ。C1が見るからに動揺している。


「機関の敵と繋がったことで、隠された機能がアンロックされたのである。叫べ! コードオールクリア!!」


「いいだろう。コードオールクリア!!」


 突然アークの全身が眩い光に包まれていく。


「こっこれは!?」


 アークのボディに光の線が模様を描き、一回り大きくなった装甲からエネルギーが迸っていた。


「受け取れルシード! おぬしの武士道を見せてやれ!!」


 ルシードの目の前に、アークであるはずの鞘が浮かんでいる。

 アーマードールはそのままに、新たに鞘だけが出たということか。


「いいだろう。オレたちの道は、オレとアークで切り開く!!」


 鞘に刀をしまうと、ボディと同じ光が満ちてく。

 やがて左右に開くと、巨大なビームブレードとなった。

 その美しさは完成された刀のようで、うっすらと流麗な波紋が見える。


「それがどうした! 派手な刀だけでどう立ち向かう! セブンスドラゴン!!」


「一刀両断!!」


 七龍のうち四匹の首を跳ね飛ばす。だが龍は再生を……しない。

 しないどころか切断面から消滅していく。


「ありえん! 機関の最新技術が! 叡智のすべてが!!」


「アークは管理機関がオルインに攻め込んだ場合の保険だったんだ。悪を斬り、世界を守るために、おじいちゃんがオレに託したプレゼントさ」


「タイプCだろうとBだろうと、一刀の元に斬り伏せ浄化する。それがオールクリアである」


「できるはずが……そんな旧式ごときに!!」


「少々小言がうるさいが、アークはオレの相棒でな。この程度の無茶は聞いてくれる」


 ルシードが刀を振るたびに、龍が復元できずに刈り取られていく。


「おじいちゃんに教わったよ。本当に守りたいものがあるからこそ、男の武器は輝くんだってな。決めるぞアーク」


「委細承知である!!」


 膨大なエネルギーが刃に集約されていく。

 研ぎ澄まされた力はただ敵を切るために、世界の悪を振り払うために純度を上げる。


「真の太刀、聖龍!!」


 神々しいとすら思える光が龍となり、C1の邪念と野望ごと、黄金の鎧を飲み込んでいった。


「こんなはずは……なぜだ…………私たちは選ばれたはず……うああああああぁぁぁ!!」


 あとに残ったのは、人間サイズになり、アーマードールを失ったC1だけだった。


「オレの大切な仲間を、世界を、お前たちのいいようにはさせん」


 既に意識がないのか、うつ伏せに倒れこんだC1を見て、実況が勝敗を告げる。


『決まったああああぁぁぁ!! 勝者、ルシード選手!!』


「やったールシードさん!」


「やるじゃねえか!!」


「かっこよかったぜ」


 ゆっくりと舞台に降り立つルシードは、神聖さすらある。

 とりあえず健闘を讃えよう。これで四戦全勝。準決勝も俺たちの勝ちで終わるのであった。

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