アジュVSタイプC4

 いやあどうしよう本当に。俺の番が来ちゃったよ。


『第三試合、アジュサカガミ選手VSタイプC4選手!!』


「うわあマジかいな……クリムゾンもう一回出ない?」


「無茶言うなや」


「サカガミさん……頑張って……」


 椅子に寝かされ、救護班に回復をかけられているカムイ。


「お前はちゃんと回復しとけ」


 複数でかけ続けているので、命に別条はない。むしろやばいのは俺。


「っしゃあ! ダウンロード完了! これでおれの勝ちだぜ!!」


 何か知らんけど強化されたらしいよ。最悪だね。


『そんじゃあ前と同じ、リングアウトも場外負けもなし。降参するか戦闘不能になったら負けだ! 始め!!』


「見せてやるぜ! おれたちの絆の……」


「ライトニングフラッシュ!!」


 先手必勝。とりあえず広範囲攻撃で目くらまし。同時に分身をゆっくり前進させよう。


「ぐっ……てめえまだおれが喋ってんだろうが!!」


「ライトニングビジョン!」


 あとは舞台に攻撃魔法を撃ち込んで、煙に紛れて急接近だ。


「そこかあぁ!!」


 正面の分身を殴っているので、ささっと背後に周り、下から打ち上げるように魔法を解き放つ。


「プ・ラ・ズ・マ・イレイザアアアアァァ!!」


 俺の勝ち筋は唯一つ。敵が全力出す前に最速で潰す。

 そんなわけで、C4の上半身が吹っ飛んでいるのを見たら、煙に紛れて急速離脱。


「甘えんだよ!!」


 腰から大量のコードが飛び出して人体を作る。

 さらにさっきまで俺がいた場所に、赤い龍の首が食らいつく。


『おおおお! ありゃC2選手のやつじゃねえのか!』


「これがああああ絆パワーだあああああ!」


 アホか。ダウンロードってそういうことかよ。やっぱ二番手で戦っときゃよかった。


「野郎どこ行きやがったあああ!!」


『ほーら探してるぜ』


『いやあ戦いたくないですねえ』


 マイク向けられたので喋ってやる。

 そう、俺は実況の隣でテーブルに腰掛けていた。


「んああああぁあ!! てめえ何でそんなとこ座ってんだクソが!!」


『はっはっはっはっは! 実況泣かせだね君』


 この人も超人枠だろう。席に来る前に目が合った。俺の動きを完全に見切っているのだ。


『リングアウト負けも場外も無い。そうルールブックに書いてあったもんで』


『だからって普通実況席来る?』


『いやあここ見晴らしいいですね』


「ざけんなよ……ダブルドラゴン! あのふざけたクソ野郎を食い尽くせ!!」


『いや私いるからね? 実況してっからさ』


 実況が苦笑い気味ですよ。ちょっと申し訳ない。まあ勝つためだし、どうせ超人だから直撃しても死なないだろ。


「死いいいねえええええ!!」


 二匹の龍が実況席の俺めがけて飛んでくる。C4は両腕を龍に変えるタイプっぽい。そして実況者を避けて、俺にだけ食らいついた。


『おおっと残念! 見事に策にハマっちまったぞC4選手!!』


「アァ? そりゃどういう……」


 これでドラゴンは遠ざかった。そっとC4の背中に触れて、一気に魔力を流し込む。


「実況席の俺も偽物だ。ライトニングバスター!!」


「ウオアアァァァ!?」


 躊躇も容赦もない量を流し込んだ。溢れ出した雷が柱となって天へと登る。


『えっぐい戦い方しやがるなおい』


 当然だが距離を取っている。まだ復活しそうだからね。

 これでダメなら斬撃と攻撃魔法じゃ無理だな。

 心を尊厳までへし折るか、虚無で消し飛ばすか……あまり長期戦はしたくない。


「くっそ……なら実況席に出てる間、本体はどこだったんだよ!!」


「舞台の端っこに降りてしゃがんでた」


『君も大概エンターテイナーね』


「ガアアァァ!! めんどくっせえ真似しかできねえのかてめえはああぁぁ!!」


 いい具合に挑発できているな。こいつ行動が雑だし、このまま勝機を見つけよう。


「いやあだって俺戦士とかそういうジャンルじゃないし」


 遠距離から魔法を連発しながら会話してみる。


「ウオオオオ!? じゃあ何で参加した!!」


「期末テストの課題だから?」


「意味がわかんねえんだよおおぉ!!」


「そこだけはごもっとも」


 少し同情する。だがこれも俺の試験なのだ。やれるとこまでやらないと、後でどんな課題が出るかわかったもんじゃない。


「食い尽くせエエェ!」


「ライトニングジェット!」


 龍の口の中にクナイを投げ入れてみる。

 普通に貫通してC4の頭に刺さるが、素手で引っこ抜かれた。


「コアがわからん……どうしたもんかな?」


 ライトニングバスターで魔力を流しながら、C4の体内を調べたのだ。まさか手がかりすら出てこないとは思わなかったぞ。


「ああもう……負けてくれよめんどいな……」


「どんな言い草だてめえ!!」


「リベリオントリガー!!」


 しょうがないので強化魔法だ。できことを試してやる。


『サカガミ選手姿っていうか色が変わった! これは強そうだぞ!!』


 できる限り高速移動して、C4の前後に分身を出す。


『また分身だあぁ! C4選手正解を選べるか!!』


「どっちも食っちまえばいいんだろうがああぁぁ!!」


 両腕を広げて両方を狙いに来たか。わかりやすくて助かるぞ。

 長巻を抜いて、左側から斬りかかる。


「残念、どっちもハズレだ。雷光一閃!!」


 まず首を跳ね飛ばす事はできた。斬撃も通ると言えば通るわけか。

 次は首と胴のどっちに意識があるかを調べる。


「サンダードライブ! とスマッシャー!」


 胴体を囲むように複数の地を這う電撃を、同時に頭にビームを飛ばす。

 まずどこまで何が見えているかこれで探れる。


「負けるかアアアァァ!!」


 ダメージ無視してこっちにコードを飛ばしてきた。首からも胴体からも。

 一応振り返っていたし、体もこっちに走ってくるので、何かで感知はしているらしい。


「お前クソめんどいな」


「こっちのセリフなんだよオオォォォ! こうなったら起動しろ! コネクト!!」


 肌に機械の回路みたいな模様が浮かび上がり、機械的なパーツがC4を包んでいく。生み出される部品は舞台すらも取り込んでいった。やがてコードと金属が束ねられ、巨大なC4が誕生した。


「クハハハハハ! どうだ! これでもう負ける要素は無いぞ!!」


『なんとC4選手巨大化したああああああ!!』


 いかんな。20メートルはあるぞこいつ。


『これはサカガミ選手大ピンチかあぁぁ!!』


「ぶっ飛びなアアァァ!!」


 巨大な拳が迫る。しょうがない、少しパワー比べをするか。

 ライジングギアを発動。両拳を雷化し、巨大化させて飛ばす。


「ライジング、ダブルナックル!!」


『サカガミ選手も巨大化……じゃない! 不思議な技術で応戦だ!』


 両者がぶつかり、多少の拮抗を見せるも、俺が撃ち負ける。

 打ち切りの魔法とダメージ無視のパンチじゃ無理もないか。


「ライジングブレイド!」


 両腕を剣に変換して伸ばす。目が弱点だったらいいなーと期待して攻撃するが。


「無駄なんだよオオオオオオ!!」


 はい無意味でございます。しかも俺の腕にコードが伸びてくる。

 反射的に剣を消し、捕まらないように移動した。


「にいいいいがすかああああ!!」


 目と口からビームが来る。コードも伸びてくるし、でかい拳も飛んでくるわけで、もうなんだよこいつ。


『言っておくけど観客を取り込んだら反則負けにするぞ。無力な一般人犠牲にするのはNGだから』


「わかってんだよんなこたあああぁぁ!!」


 暴れられるとかなりきつい。大型相手に素の俺はとてつもなく相性が悪いのだ。

 雷速移動して上空へ逃れ、できるだけでかい杭に変えた足で蹴ってみる。


「パイル!!」


「効かねえなアァァアア!!」


 頭にめり込んだだけ。しょうがない……無駄に魔力を消費する前に決着をつけるか。


「やるしかない」


 右手の人差指に魔力を集中。虚無の生成に入る。


「まだなんかやる気かアアァァ!」


『本当に引き出し多いなサカガミ選手』


「おれの友情に! 仲間との絆に! 完全ダウンロードされた技術に勝てるものかあああぁぁ!」


「くだらん。お前の友情とやらは、その装置の力だろ」


「どういう意味だアアァァ!」


「所詮群れたチンピラと同じさ」


 よーしよーし、攻撃が止まった。こいつがアホで本当によかった。

 挑発しつつ虚無を溜め込もう。


「仲間だと言うなら、お前はその仲間より何か秀でているか? うまく使えるか? お前だけお荷物なんじゃないのか?」


「おれたちの友情を否定するやつは許さねえぞオオオォォ!!」


「アホが。他人の強さを自分の強さと勘違いし、いつでも使えると思い込んでいるだけだ」


 よし、充填完了。あとは頭を狙うか胴体を狙うかだが。脳か、心臓か、もしくはコアが別の場所にあるか。


「言っただろ。群れただけ。数に頼る時点で、お前はこの世界をわかっちゃいない」


 オルインは数より質だ。軽いパンチで銀河を消せるやつ相手に、一般人が何億集まっても無意味である。そこがわかるかどうかで生存率は上がるのだ。


「こうやって1対1の勝負になっちまえば、友情なんぞ何の役にも立たん。使いこなせない力が増えただけだ」


「違う!」


「そうやってザコが群れると、自分の強さと偉さを勘違いする。本当に強いやつってのは、たった一人でも全員ぶち殺せるやつだよ」


「黙れエエエエエェェェ!!」


 大振りの右ストレートが来た。これを避けて飛び、頭に狙いをつける。


「死イイイィィねエエェェ!!」


 C4の胸が開き、巨大な機械の龍が飛び出す。

 その生成過程で、わずかに結晶のようなものが見えた。


「狙ってみるか。インフィニティヴォイド!!」


 虚無の弾丸は、正確に龍の口の中を突っ切って胸に吸い込まれていった。


「こんなもんが効くかアアアァァ…………アァ……ア?」


 やがて動きが止まり、C4の胸から背中から大量の電気がシャワーのように流れ出す。


「アアアァ……なんっ……だ……修復……修復できねえ……コードが……飲まれ……」


『おおっとC4選手完全に動かない! 胸から火花が流れ出ております!!』


 ここで畳み掛ける。さらに上へ飛び、両手に虚無を集中。

 ビームにできないなら、さらにでっかい玉にする。


「まだ魔法名は浮かばないが、今できる最大火力だ」


 弾丸ではなく砲弾へ。さらに大きく、さらに深く、虚無の構築を続ける。

 紫色の雷が膨れ上がり、核を形成していく。


「溜めが長すぎるなこれ。要改良だ」


「動け……動け……クソが……」


 相手が止まっていなきゃ厳しいなこれ。だがおおよそ完了。

 C4の頭に向かって、虚無の玉を振り下ろした。


「消えてなくなれええええぇぇ!!」


「吸収できない……おれが……魔法に食われる……」


 吸収も防御もできず、上半身から虚無に分解されて消えていく。


「頼むC1……助けてくれ……」


「C4へ特殊コード発動。アーマードールのデータを場外へ排出しろ」


「な……にを……」


 助けを求めたC4だったが、データメモリのようなものがC1へと飛んでいった。


「Cの器は私だけでいい。もうお前は不要だ」


「そんな……おれたちは仲間で……」


「そう思っていたのはお前だけだ。その男の言う通りな」


 C4はそれっきり何も言えず、虚無へと飲まれ、最後に残ったのはボロボロの本体だけだった。消し残しの指先から生えてきたように見えたな。

 もう喋る気力もないのだろう。完全に戦闘不能だ。


『勝者サカガミ選手!!』


「便利な連中だな」


「ならお前もなるか? アジュ・サカガミ」


 C1からお誘いが来るが、そこはきっぱりお断り。


「お断りだ。人間に執着もないが、人間以下のおもちゃになる気もない」


「それは残念だ」


 もっと早く消すべきだったか……しくじったな。

 とりあえず死なないように頑張ってくれルシード。

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