カムイVSタイプC3

 一回戦はヴァンの勝利。ここで次に出るのは。


「じゃあ僕が行ってきます」


「いやおかしいだろ。どう考えても俺だって」


 あかん。これ止めないと俺が死ぬ。


「ルシードは因縁があるから大将だ。わかるな?」


「そうですね。なので次は僕です」


「なんでだよ。俺が三人目に勝てるわけねえだろ。ここで頑張るけど負ける的なアレだろうがこれ」


「負ける前提はやめろ」


「大丈夫ですよ。サカガミさん」


 何か秘策でもあるのだろうか。カムイはバカじゃない。策があるなら聞いてみよう。


「サカガミさんの強さは僕だって知っています。僕はサカガミさんとルシードさんを信じていますから!」


 ああぁぁ……違う、この子ピュアなだけだ……作戦とかじゃないこの子。


「精神論はやめとこうか。真面目に考えるぞ」


「わかりました。では戦力と風水を照らし合わせて……」


 こうしてなんとか説得しようとした結果。


『二回戦! カムイ王子VSタイプC3!! はじめえええええぇぇ!!』


 どうにもなりませんでした。いやあしんどいわ。泣くぞ俺。


「王子様が相手か。手加減はしないよ?」


 はい同じ顔ですよ。なんでやねん。クローンであることを隠せや。


「必要ありません。カムイ、参ります!」


 全身に流れる風と水を纏い、カムイが駆ける。


「真正面から勝負するつもりはないんだよね」


 バックステップで距離を取りつつ、攻撃魔法を連打している。

 だがそれを踊るように避け、瞬時に距離を詰めてカムイのラッシュが始まった。


「はああぁぁぁ!!」


 全動作が流れるように続く。風魔法でC3の腕に傷をつけるが、やはり再生している。ずるくないかね。


「C2さんと同じですか」


「我々はモデルC。Aなどという旧型とは違う。完全なる上位互換さ」


「ならもっと手加減無しでいきます!!」


『カムイ選手の猛攻! C3選手これをうまく捌き続けています! 多少の傷などお構いなし! 便利だなその体!』


 致命傷を与えるか、再生不可能なレベルまで攻撃を続けるしか無いのだろう。


「クリムゾンマスクのやった手段は使えないよ。既に戦闘データからアップデートは済ませてあるんだ」


「よくわかりませんが、内部からの破壊は難しいんですね」


「そういうこと」


 やめろ。俺の詰み要素を増やすのはやめろ。迷惑です。


「再生を超える! 激走風流牙!!」


 風と水の混ざった牙が、C3の体を切り裂いた。


「無駄さ」


 だが当然再生していく。その間にも攻撃は続くが、単純に体術で拮抗している。

 そのため決定打が与えられないようだ。


「面白いお人だ。だが相手があなたでよかった」


「どういう意味です?」


「どうやら相性がいいようだ。起動しな、キャンバス」


 C3が白い装甲に包まれる。特徴的なのは腕だろう。巨大な銃口と長い毛のようなものが見える。


『C2選手と似た装備だ! まさかの全員支給か! これは大ピンチだカムイ選手!』


「タイプC3、キャンバス。勝たせていただきますかね」


 右腕の砲門から赤い何かが飛び出す。


「うわわっ!」


 急遽体を捻って回避すると、赤い水が付着した地面が猛烈な勢いで燃え始めた。


「これは……」


「どの色で死にたいんだい? 好きに彩って差し上げよう」


「カムイ! 足元だ!」


 俺は敵が水色の水滴を飛ばしているのを見逃さなかった。


「あっ! ぶない……」


 反射的にその場を飛び退いて、氷の槍が刺さることを阻止しているが、あれは色と属性が関係しているようだな。


「舞台を塗り潰そう。ふふふふふ」


 照準など定めずに、ひたすら舞台を赤い絵の具で塗り潰していく。

 即座に全域が火の海に変わっていった。


「親切にも教えてあげるよ。絵の具の効果は私には通用しない。この装甲に塗って放火することは無意味だ」


「そんなもの、全部洗い流せばいいだけだ!!」


 大津波で舞台の絵の具を洗い流そうという魂胆だろう。

 事実押し流せてはいる。これで供給される絵の具が無限じゃなけりゃいけるはず。


「甘いんだよねえ。ふふふふふ。対策がないと思ってるの?」


 水色で氷の壁を作り、水の流れを防ぎつつ、カムイ側に黄色の絵の具を撒き散らす。


「黄色……? いかんカムイ! 飛べ!!」


「遅いよお。ふふふふ」


 足元の水を伝って、電撃が舞台を満たしていく。

 回避が遅れたカムイは、まともにくらってしまう。


「うわあああぁぁぁ!?」


「カムイ!」


『ここにきて大ダメージが入ったあああぁぁ!!』


「追撃のおおぉぉ火炎攻めだよおおおぉぉ」


 痺れて動けないカムイのもとへ、火球の連打が襲う。


「くっ、水龍招来!!」


 水をかき集めて龍を作り、炎から身を守りつつ電気も遠ざけている。

 判断力は残っているようだ。


「やべえな。カムイのやつがここまで追い込まれるなんてよ」


「風水は方角や色と気の流れを感じ取ると聞いたことがある。自由に塗り潰してくるC3は厳しいのだろう」


 カムイは防戦一方だ。時折攻撃魔法を撃つも、絵の具が土や氷の壁を作る。


「かわいそうな王子様だあ。Aの器とチームを組んだばかりに、こんな不幸に見舞われるんだからさあ」


「違う。僕がルシードさんに会ったのは数日前だけど、悪い人じゃないのはわかる。あなたたちに恨まれるような人間じゃないはずだ!」


「君の思想なんてどうでもいいんだよね。このまま負けちゃいなよ」


「そうはいきません。将来国を導く立場……この程度の逆境には負けられない!」


 足元に巨大な魔法陣を展開。ゆっくりと風水版のような模様に変わっていく。


『おおっと! よくわからん魔方陣が出てきたぞ! ここから巻き返せるのか!!』


「魔法陣なら塗り潰せないということかい?」


「違う。この舞台と僕たちをリンクさせた」


 少し移動したカムイは、傷が少し癒えている気がする。


「風水盤の凶兆に立てば立つほど、体内の気は乱れ、弱点が増える」


 魔力を放出しながら、カムイが一気に距離を詰める。


「関係ないね。燃えちゃいなよ!」


 だが敵の炎は弱く、カムイが纏う水と風で消されていく。


「なんでだあ!?」


「お前のそれは、完全な機械でも魔法でもない。魔力とよくわからない装置が混ざって生まれるもの。なら着火の仕組みと、整備不良や失敗があるはず」


 不運が重なり、満足に機械が動かないということか。


「そこだああぁぁ!!」


 C3の右腕に集中攻撃を加えていく。再生されても無関係に、攻め続けていると、次第に再生が遅れていく。


「どうして……再生が追いつかない!!」


「あなたの気の流れが見える。どこを突けばいいか、どの方向から打ち込むと吉か。あなたの不運が見える!!」


 方向だけじゃなくて、人体の弱点まで見えるらしい。

 絵の具の吹き出しが弱くなっている。再生も遅いぞ。


「僕は不運がよく見える。僕の兄弟子は、生まれながらに災厄を操る能力があり、苦しんでいた。一緒に稽古していくうちに、凶兆や災厄に目が慣れたんだ」


「ならこいつはどうかなあ!!」


 C3の両腕が爆発し、二人を赤い絵の具が襲う。


「この距離でかわせるか? 終わりだよ王子様!!」


 猛烈な勢いで炎が暴れだし、火柱が上がる。

 それでもカムイは止まらない。風と水では避けられない量の炎の中、C3の懐に入り込んだ。


「ソフィアが……ソフィアが見ているんだ……みっともない姿は晒さない!」


 C3の体に手を当て、魔力を一点集中で固めている。


「あなたは頭部への攻撃を恐れていない。つまりやられても再生できる。ならコアは別の場所にあるはず。それさえ外部に打ち出してしまえば……」


「バカな!? わかるはずがない!! コアがどれだけ小さいと思っている!!」


「打ち貫く! 奥義、清流浸透掌!!」


 そしてすべての動きが止まった。


「こんなものかい……ふふふふふふ……こんなこっ!? うがう!?」


 大きく震えだし、C3の背中から暴風が吹き荒れる。

 間髪入れずに水の玉に包まれたコアが噴出し、舞台外の壁へと叩きつけられた。


「私が崩れ……そんな……そん……」


 アーマードールがバラバラになり、C3はうつ伏せに倒れた。


『勝者カムイ選手!!』


 声援に右腕を上げて答えるカムイ。かっこいいぞ。

 本当によくやったカムイ。さあて俺どうしようマジで。

 マジで勝てるイメージゼロなんですがそれは。

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