ヴァンVSタイプC2

 とうとうモデルCとの決戦の日がやってきた。


『さあ準決勝第一試合! チームカムイVSチームモデルC!!』


 今回はただ広いだけの舞台だ。前回のように入り組んだ地形は面倒だが、こういう場所って実力差出るからな……つまり俺が戦闘に向いていない。


『豪快にして豪放。操る爆炎は死の香り! 赤き謎のマスクマン、クリムゾンマスク!!』


『対するは謎に包まれし集団モデルCから、タイプC2! 戦闘スタイルすら不明だが、圧倒的強さで勝ち抜いてきたぞ!!』


 観客が湧いている中で、堂々と手をふるヴァン。こういうの慣れているんかな?

 対してフードのC2は微動だにしない。


『ルールはシンプル! 四回戦って、より多く勝ち星を稼いだチームの勝ちだ! リングアウト負けも無し! 数が同じなら、勝った連中でさらに戦う! 長くなりゃ泥沼の潰しあいだぜ! 気をつけな!!』


「それじゃ、まずは軽く一勝してみますかね」


「お前が誰であろうと関係ない。ルシード・A・ラティクスの殲滅こそが我らの証となる」


『試合開始いいいぃぃ!!』


 C2がフード付きコートを脱ぎ捨てると、そこには昨日の夜出会った男と同じ顔があった。


「似ているな」


「髪の色も目の色も一緒ですね」


「なるほど、クローンかなんかだなあれ」


 管理機関が真っ当に子作りしているイメージが沸かない。

 一応は双子の可能性もあるが、似すぎている。

 人工的にガキ作る技術くらいあったしなあ……科学が進んだ世界ならできるはず。


「消えな」


 超高速で移動したC2の蹴りは、ヴァンの剣で受け止められた。


「おおっと、すばしっこいやつだ」


「抵抗するなよ。痛みが増すだけだぞ」


 両足に刃のついた装具をつけている。どうも蹴り主体っぽい。


「そう簡単には負けねえよ」


 お黄金剣を二分割して、飛び回るC2のキックをさばいている。

 どうも風魔法で滞空時間を伸ばしているようだが、足から火が出ているのもわかる。ブーストかけているな。


「うざいな。早く倒れろよ」


『開幕からとてつもない攻防だ! クリムゾンマスク選手、C2選手のスピードに負けていない!』


 一見互角の勝負だが、ヴァンは一度も被弾していない。すべて防御か回避でさばいている。


「豪火弾!」


「甘いよ」


 炎をものともせず突っ込んでいく。だがパワーではヴァンに分がある。

 C2の攻撃を弾き飛ばすと、一瞬だけ隙ができる。そこで距離を詰めていくのだ。


「全力ぶった斬り!!」


「ちっ、やっぱうざいな」


 大振りの一撃がぶつかれば、やはり押し負けるのはC2だ。


「ルシードを狙う理由は何だ? 倒れる前に吐いちまいな」


「はあ……関係ないだろ。部外者のくせに」


「狙いはルシードか? アークか?」


「オレたちにアークなんていらない。旧型ごときにでかい顔はさせない」


「旧型?」


「もう死ね」


 速度を上げてヴァンに蹴りかかるが、その一瞬が明暗を分けた。


「ソウルエクスプロージョン!」


 インパクトの瞬間だけ強化魔法をかけていた。

 あれなら消耗を抑えて一撃の威力を高められる。


「がっ……こいつ!」


『おおっと! C2選手の右足が吹っ飛んだああぁぁ!! これは戦闘不能……か……?』


「どいつもこいつも甘いよ」


 切断面から大量にコードと機械部品が現れ、瞬時に足を再生させた。


『足が再生したあああぁ!? どうなってんだC2選手!!』


「てめえ何やった!?」


「お前が想像もつかないこと」


「あやつは、人間をやめかけているのである」


 アークは何かわかったらしい。データ分析できるやつって便利だな。


「大量のナノマシンと魔力回路で動いている。全身に改造手術でもされているのであろう」


「サイボーグか」


「似ているのである」


「よくわかりませんけど、クリムゾンさんは大丈夫なんでしょうか?」


 あいつはあの程度で負けたりはしない。だが嫌な感じだ。

 距離をとったC2が動かない。


「はあ……面倒だな。カーマイン、動け。あいつ殺すぞ」


 足の装具が輝き、質量を無視して巨大化しながらC2の全身に装着されていく。


「やはりアーマードールか」


 間違いない。機関の粗悪品よりも洗練されている印象を受ける。

 全長3メートルくらいで、足にブレードとブースターがついていた。


「踏み潰すぞ。カーマイン、最高速度だ」


「会話機能はないんだな」


「我輩が特殊なのであろう」


 だがスピードは格段に向上しているようで、そろそろ目で追うのがしんどい。


「カーマイン、コード・ダブルドラゴン!」」


 両足が龍の頭に変形し、ヴァンを追尾するように動く。


「派手にすりゃ勝てると思うなよ!」


 黄金剣を一つにまとめ、魔力で強化して振り下ろす。

 龍をするりと切り飛ばしながら、全力でC2へと肉薄した。


「無駄だ。それじゃ無理。再生できる」


 いくら斬ってもコードと部品で繋げてしまう。

 爆発させても体側から作られていくため、斬っても斬っても終わらない。


「ちっ、さっさと倒れちまいな!」


「お前、その術長く続かないだろ。疲れてんの?」


 スタミナがあっても、あの強化魔法はきつい。全身火薬庫にしているわけだ。

 長時間使えば、その分消費する火薬の量も増えると思えばいい。


「いい具合に熱くなってきたところだぜ!」


 俺やルシードと違い、ヴァンの最終手段は融合だ。付属品や強化アイテムではないから、こういう勝負で使えない。そこが弱点とも言える。


『C2選手、切られてもすぐ再生するぞ! どういう魔法なんだ!!』


「まとめて燃やせばどうかな? 獄炎波涛掌!」


 前に見たライトニングフラッシュの炎と爆発版だ。

 なるほど、完全に焼いちまえば再生もクソもないな。


『ここにきて勝負をかけていく! この熱量には耐えられないかああぁ!!』


「はあ……本当に甘いよ、あんた」


 炎の中を直進してくる。アーマードールが魔法に強いのかもしれない。

 あれを全員が装備しているとなると、正直厳しいぞ。


「コード・ドラゴンドライブ」


 C2の両足が融合し、やがて全身が巨大な機会の龍となってヴァンに食らいつく。

 大口開けて胴体に噛み付いている姿は、噛まれているのがヴァンじゃなきゃ心配していたかもな。


「うぐっ! 噛みやがったな! 躾のなってねえペットだ!」


「マッハ5万といったところであるな」


「なるほど、カムイ、ルシード、頼んだぞ。俺無理だから」


「諦めるの早くないですか!?」


 じゃあどう勝つのよ。先鋒ってことは、次のやつはC2より強いだろ。


「このまま食いちぎれ、カーマイン」


「そうだな。きっちり噛み付いとけよ」


 龍の口に黄金剣を突き刺している。だが致命傷にはならないだろう。


「学習しないやつだね」


「いいやしたぜ。近距離で一気に魔力を流せば、その回路とやらを焼き切れる。狙うのはお前の中の魔力の流れだ。くらいな、我道炎爆進!!」


 溢れ出るおびただしい量の炎が、龍の口からC2の体内へと入っていく。


「そんな……体が……カーマインが崩れて……こんな小細工ができるタイプだと思わなかった」


「ああできないぜ。だからお前の全身を焼いたんだ。急所だけ狙うのも、動いているお前さんに使うこともできなかった」


「はあ……まあいいか。これでデータは取れた。クオリティは上げてやったよ、C1。オレはここまでだ」


 アーマードールが完全に剥がれ、うつ伏せに倒れ込むC2。背中から何かの結晶が飛び出し、チームの方へ飛んでいった。


『C2選手ダウン! これは立ち上がれなああああい!! 勝者! クリムゾンマスク!!』


 歓声を浴びながら、軽く手を振りこちらへ戻ってきたヴァンを讃えてやる。


「おつかれ。やはりうちのエースだな」


「いい勝負だったぞ」


「おめでとうございます!」


「おう、つっかれたぜ……しばらく休むわ」


 疲労が隠せていない。ヴァンが結構きついレベルか。いやあどうしようマジで。


「よくやったC2。お前の犠牲は無駄にはしない」


 敵陣では、結晶が誰かの胸に吸い込まれていった。

 よくわからんが、あれ強化アイテムよね? 何勝手にパワーアップしてんだよ。

 不安が残りつつ、試合は二回戦へと進むのであった。

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