決戦前夜

 二回戦が終わり、三回戦は明日の朝からとなった。

 俺たち四人は宿泊先の高級宿へ移動した。さっさと自室に行って会議して、早めに寝よう。


「なんだかんだ勝てるんだよなオレら」


「だが油断できんぞ。モデルCはまたも圧勝だった」


 宿の廊下は俺たち以外誰もいない。高級だからか、廊下で騒ぐ集団もいないのだ。


「用心していれば、僕たちなら勝てますよ!」


「相性は悪くない……とは思う」


 四人で行動することにも、多少は慣れてきたと思う。

 誰が何を得意とするか程度でもわかれば、対策は取れる。

 そんな事を考えていたら、モデルCの男が歩いてくる。

 俺たちの前で立ち止まり、初めてその灰色の髪と目を見せた。


「ルシード・A・ラティクス」


「オレとどこかで会ったことがあるのか?」


「お前を倒し、Aの器など不要だと知らしめてやる」


「どういう意味だ?」


 こちらを睨みつけ、説明もせず早足で去っていった。


「説明しろ」


「オレにもわからん」


 じゃあ誰にもわからん。気にせず俺の部屋へ向かった。

 広い部屋には俺のギルメン三人。ヴァンとソニアにクラリス。

 カムイとソフィアに、ルシードのギルメン四人。人が多いよ。


「相変わらずルシードを見てたな。なんかやらかしてんじゃねえの?」


「顔をちらっと見たよ! でも私もルシードもわかんない。子供の時から一緒だから、知り合ってたら絶対どっちかは覚えてるよ!」


 カグラとルシードは幼馴染らしい。


「オレらもお手上げだ。ぶっちゃけ部外者だな」


 ヴァン陣営はごたごたが存在しない。俺と同じ部外者枠だ。


「僕も知りません。王族や貴族の有名人ではないはずです」


「私もわかりませんの。ダイナノイエの民かどうかも不明ですわ」


 全員心当たりなし。結構珍しいぞ。大抵どこかの情報網に引っかかるのに。


「んじゃいいや。で、ルシードの鞘はどういうことだ?」


「アークのことか」


「我輩はアーク。ルシードの相棒である。以後よしなに頼むである」


 どう受け止めりゃいいんだろうか。迷っていたらリリアが口を挟む。


「アークよ、おぬしアーマードールじゃな?」


 場が少しざわつき、わずかに緊張が走る。


「……お前管理機関の人間だったのか」


「アークは魔装人形(マジックドール)だ」


「そんな言い訳が通じるとでも?」


「実は敵側だったってことかい?」


 あいつらにプラスのイメージはない。人体改造とクローン技術で、世界征服みたいなことをしようとしている悪の組織って感じだ。


「敵? 待ってくれ! ルシードもアークも悪いやつじゃねえ! 悪いこともしてねえよ!!」


「そうですね、悪事を働く場面は見たことがありません」


「身内の保証など信用できないかもしれませんが、できれば事情だけでも聞いていただきたいのです」


 ルシードの仲間であるカグラ、ヒビキ、レグルス、ケニーが擁護に入る。

 

「わかった。すべて話す。隠したままでは支障が出て当然だ。ただし他言無用で頼む」


「学園長は知っておるんじゃろ?」


「ああ、今のギルドに誘ってきたのは学園長だ」


「顧問がシャルロット先生だよ!」


 まず聞いてからにするか。俺たちの素性を明かしたわけじゃない。

 聞いて判断すればいい段階だと思う。


「なら多少は信用できるな。まずアークが何なのかを頼む」


「アークは、今は亡きおじいちゃんからの贈り物だ。喋る鞘で、オレの相棒。少々うるさいがな」


「ルシードがまだ未熟だからである」


「黙っていろ。オレもおじいちゃんもダイナノイエの生まれだ。どちらかと言えば田舎町だったが、オレはそこで武術を、武士道というものを教わっていた」


「剣術とか、サバイバル術とか、難しい本とか、今思えば一人で生きられるようにって感じだったよ」


 管理機関との戦いにでも備えていたのだろうか。だとすれば事情を知っていたのかも。情報源が故人というのは厄介だな。


「アークはただオレを守ってくれるものだと、誕生日プレゼントにもらったんだ」


「我輩も目覚めたのはその時である」


「二人とも知らないと?」


「そういうことだ。管理機関という連中も、今年になって知った。誓って言うが、オレは生まれも育ちもダイナノイエだ」


 目に一切の曇りがない。腹芸できるタイプでもなさそうだ。


「言いたかねえが、そのおじいちゃんが管理機関じゃねえのか?」


「わからない。そんな話は一度として出なかった」


「アークのメモリーに何か残っていないのか?」


「我輩もわからんのである。戦闘形態と各種センサーは正常。しかし、ルシードの誕生日以前の記録はない」


 そこで情報が途切れるのね。機関との繋がりがあるにせよ、ルシード本人は何も知らず、悪の道に染まる気もないか。


「機関をどこで知ったの?」


「天使と組んで悪さしてやがったからぶちのめした。中々にうざってえやつらだったぜ」


 えぇ……ザコが組んでも無駄だろ。そもそも全滅しているはずじゃないのか天使。


「天使ってまだ残党がいたのか」


「善の天使は普通に生きておるんじゃろ。そして堕天使が生まれ、粗悪品が増えるわけじゃ」


 あの白いマネキンみたいなやつか。あんなもん増やしてどうするつもりなんだ。

 達人に秒殺されるザコ集団にどんな価値がある。


「あいつらなら大した問題にはならんだろ。出たら潰せばいい」


「マジ? おれら苦戦したんだけど。きっちーぞあれ」


「最上級の天使だったんじゃないの?」


「一応は~神が作ったものだから~、それなりには使えるのよ~」


 確かに上位個体の存在はうざい。それでもここの連中なら潰せるだろう。

 そもそもBODには腕利きが集まるんだ。ザコ天使なんていても無意味なはず。


「つまり、モデルCの連中もそっち関係の敵?」


「だと思うよ。アークを狙ってるとか?」


「Aなんて必要ない的なこと言ってたよな?」


「俺もそう聞こえた」


「すまないが……本当に心当たりがない」


 別に正々堂々と戦って、どっちが上か決めるだけ、ってんなら止めはしない。

 そういう健全な方向には絶対行かないという確信がある。


「結局本人に聞くしか無いってことだな」


「ならルシードとアークは気をつけろ。単独行動も控えておけよ」


「わかった。今日はこのまま部屋に戻る」


「おれたちが付いてるからよ。心配すんなって!!」


 数秒の話し合いの結果、それぞれ固まって過ごすことになった。これが一番安全だろ。


「サカガミさんはどうするんです?」


「俺たちは朝までこの部屋から出ない」


「わかった。んじゃオレたちは隣の部屋だから、なんかあれば呼んでくれ」


「カムイさんとソフィアさんはどうするの? 護衛の人がいるよね?」


「はい、僕とソフィアは部屋が隣です。護衛部隊も来ていますから、安心してください」


 軍の強い人らしい。どうせ達人超人の類だろ。なら問題なし。解散の流れとなった。


「……あれ? アジュくんとギルドのみんなはここでお泊りなの?」


「そう言っただろ」


「わしらはここでよい。元からそのつもりじゃ」


「お姫様と一緒に……ですか?」


「一応用心はしておかないとな。今回は特別に一緒の部屋で寝ることを許した」


 よくわからん。プロトネームレスの連中は何をどう考えて驚いているのか。やはり初対面に近い人間の思考は理解できんな。


「いかがわしい行為でもすると思っているのでしょう」


「いやまあそんな直球で言っちゃダメだと思うよフウマさん」


「誤解のないように言っておく。お姫様がそう簡単にいかがわしい行為をすると思うか? ありえんだろ」


「そっ、そうですよね。いやですわ私ったら。余計な心配をしてしまいましたわ」


 焦りの混ざった笑いが女性陣から出る。うちのギルメンとソニア、クラリスは除外。なぜなら内部事情を知っているから。


「というわけで、俺は風呂入って寝る」


「もう脱衣所に運んでおいたわ。眠くならないうちに入っておきなさい」


「夜食いる?」


「いらん。さっさと寝るぞ。明日はモデルCチームと戦うんだからな」


「わしらが眠ってしまう前にあがるのじゃ」


「はいはい」


 ようやく人の多い時間から解放される。やっぱ人の多い場所嫌い。


「なんだか流れが完成されていますわね……」


「サカガミさんはいつもああいう生活なのでしょうか」


「気にすんな。するだけ無駄だぜ」


「他人の事情を詮索しすぎるのもマナー違反さ。オレもアークのことを隠していた」


「それもそうか。悪いな。おやすみ!」


 今度こそ本当に解散。こうして四人の夜は何事もなく更けていく。

 できれば穏便に終わりたい……モデルCの動向に注意しようと誓った。

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