やっぱり普通に終わらないじゃないか

 華々しく勝利を飾った俺たち四人は、なぜか舞台中央に集められていた。


『えーなんか大会運営からお知らせ? が来てるぜ。準決勝二試合目はこの舞台で行うけど、勝利したチームカムイは別の場所で待機……えっ、マジで聞いてねえんだけど』


 天から筒状のエネルギーが降りてきて、舞台をすっぽり包み込む。

 足元には魔法陣が出現した。


『おいおい聞いてねえって! そもそも運営オレじゃねえの!? 主催者だぞ!!』


「どう思う?」


「とても不吉な予感がします」


 魔法陣は俺たちを乗せて上へと上がっていく。魔法陣のエレベーターだなこりゃ。


『おおーい決勝戦までには帰ってこいよー!!』


「無茶言いやがるぜ」


 雲すらも突き抜けた先に天井が見えた。穴の空いている部分にそのまま入っていき、下の会場と同じコロシアムへと辿り着く。観客はおらず、無人に見えて嫌な雰囲気だけは漂っている。


「気をつけろルシード。機関の技術である」


「ようやくメインイベントってわけかい?」


「どうして……どうして俺のイベントはまともに終わらないんだ……俺が何をした……」


 毎回綺麗に終わらねえじゃねえか。どうしてトラブルに遭遇する必要があるんですかねえ。


「この場所、不吉な気配で溢れています。気をつけてください」


「まずは勝ち抜けおめでとう。と言っておこうか」


 声のした方に全員が振り向く。そこには白衣を着た男がいた。


「C1……いや違う。少年というより青年だな」


「あと髪が長え」


「オリジナルってことか」


 モデルCと同じ顔だ。あれを二十代にすればいい。


「ああそうさ。私がオリジナルだ。クローンが世話になったね」


 きっぱり認めおった。少なくともクローンを作れる技術があって、この世界に隠れ住んでいるわけか。潰しておいた方がよさそうだが、さてどうしたもんかね。


「本来優勝者を呼ぶつもりだった。だが先程の戦いを見て、どうせ君たちの優勝は確定だと思ってね。少し早く招待した」


 敵は余裕の態度を崩さない。こちらの頭から爪先までをじっくり観察しているようだ。


「それで? 優勝トロフィーでもくれるのかい?」


「欲しければあげるよ。そのくらいすぐ作れる」


「いらん。目的だけを話せ」


「私は科学文明と管理する世界の力を混ぜることが好きでね。つい研究に熱が入って壊してしまうこともある。いつも実験体の確保は苦労するよ。ただでさえこの世界じゃ機関の活動は難しいっていうのに」


 猛烈に嫌な予感がする。というかもうこの状況が最悪なんだけども。


「実験に使うならオルインの人間ほど優秀な素体はいない。他の世界と比べても圧倒的にスペックが高いからね」


「僕たちを実験台にする気ですか!」


「安心してくれ。Aの器であるルシードさえ手に入れば、あとは戦闘記録が欲しいだけだ。ここで死ぬまで戦ってくれればいい」


「結局実験台だし死ぬだろうが!」


 そんなことのために呼ばないで欲しい。今回完全にとばっちりだぞ。


「では対戦相手の入場だ」


「お前も大概話聞かねえな」


 観客席に誰か立っている。それぞれ四人ほどで固まっている連中は、なんか見覚えがあって。


「マジックアサシン?」


「こっちにゃ四剣豪もいるぜ」


 負けていったチームが複数並ぶ。いつの間に連れてきたんだよ。


「敗者復活戦か?」


「いかんである。これは人体から出る数値ではない。何かされているはずである」


「多機能だねアーク。使えるAが少し羨ましいよ。改造人間にはなりたくないがね」


「改造人間?」


「君の一族が何故アークを使えると思う? 答えは簡単だ。使えるように遺伝子を改良し、強化されて登録されたからさ。そうでなければ、装者は適合できない」


 ここにきて遺伝子改良種であることが発覚。まあ別に神とか魔王がいる世界だし、あんまインパクトないな。


「オレが……オレの家系にそんな秘密が……」


 本人は驚いている。外見が一般人と変わらないので、他人である俺にはその衝撃が伝わりにくい。


「自分の野望のために、他人の体を改造するなんて、許せません!」


「ところが少し事情が違う。私たちを裏切るために、ラティクスが自分の遺伝子をいじったのさ。君の一族は例外なんだ」


「それも薄汚い野望に気づいたからだろう」


「薄汚いとは心外だね。これも世界を平和にするための発明であり犠牲さ」


 おそらく私欲だ。大義というのは掲げていると手間が省けるし、アホが信じ込む。資金繰りがしやすくて、裏で実験するにはいいのだろう。


「さあ性能テストを始めよう」


「オオオォ……アアァァ」


 負けチームの反応が明らかにおかしい。目が濁っているにも関わらず、ぼんやりと輝いている。まるで意識など無いかのようにふらふらしているし、うめき声を上げっぱなしだ。


「そいつらに何をした!」


「機関の技術で洗脳させてもらった。私の命令で敵を屠るために動く。かなり時間はかかったがね。まだ学生とはいえ、オルインの人間は頑丈すぎる」


「洗脳……あなたたちはそんなことまで!」


 なんともお約束な悪の科学者だこと。こいつは殺しちまってよさそうだ。


「便利だろう? 大会出場者を殺せば、君たちはどう言い訳をする? 洗脳されただけの人間だぞ」


「お前ごと殺しちまえば同じさ」


「いやダメですよサカガミさん」


「すまないが助けたい。オレからも無理を承知で頼む」


 殺しちゃいけない系のやつらしいよ。くっそめんどいね。まあ後始末もめんどいし、こいつらに罪もないから本気で殺すつもりはない。C1オリジナルは殺す。


「アーク、レディ!」


「承知!」


 ルシードが装甲を纏うと同時に、洗脳組がこちらへ突っ込んできた。


「オオオオァァアァァ!!」


「ソウルエクスプロージョン!」


「リベリオントリガー!」


 最初から手加減はしない。近寄ってきたやつから叩き伏せる。


「雷光一閃!」


 長巻で重い一撃を入れるが、ふっ飛ばしてもゆっくり起き上がってくる。

 こりゃゾンビ映画みたいできついな。殺せないのが実にうざい。


「カムイ、大将から狙うぞ。プラズマイレイザー!」


「了解です! 風流狼牙!!」


 雷と風による嵐がオリジンへと向かう。だが途中で洗脳組が壁となった。


「便利だろう。私の指示で動けるし、敵と味方を区別できる」


「面倒なもん作りやがってお前……そういやお前なんて呼べばいい?」


「私? オリジンとでも呼んでくれ」


「そうかい。なら死になオリジン! 全力爆炎斬り!」


「やれやれ。学習して欲しいね」


 ヴァンの斬撃が飛ぶ瞬間、敵が壁を作ろうと動き出す。


「ライジングウォール!!」


 それを雷の壁で阻むのが俺のお仕事だ。

 見事直撃したが、さて本体の頑丈さはどれくらいかな。


「やった!」


「ほう、知恵が回るね」


 はい無傷だよ。研究者ってことで、ワンチャン弱いパターンも期待していたんだが、見事に期待を裏切りやがったな。


「私はモデルCのオリジナル。そこを考慮して攻撃することをおすすめするよ」


 気づかぬうちに敵チームがこちらを囲むために動いている。

 じりじりと迫る敵に対し、必然的に背中合わせになった俺たちは、なんとか次の策を練るしかない。


「クリムゾンマスク、お前融合しちまえ。楽勝だろ」


「お前さんこそ鎧使っちまえよ」


 敵に鎧をばらしたくない。あとルシードとカムイに見られると面倒だ。

 その点ヴァンならやってくれると淡い期待をしたのに、また期待が裏切られてるやん。


「四の太刀、氷源!」


 敵を氷漬けにして動きを封じる作戦らしい。


「水で流します! 流水裂波!」


 カムイは大量の水で押していく戦法か。


「あれだな。俺たちは攻撃特化すぎるな」


「ああ、ちょいと羨ましくもあるぜ」


 それでも動くしかないのだ。なんとかザコを退け、オリジンを倒そう。

 最悪鎧と融合で倒すしかないかもな。

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