クエストと戦闘準備

 引越し作業を終えて、昼飯食って今は午後。

 四人で学園クエストカウンターにやって来た。

 なんだこの普通の役所みたいな場所は、窓口がいっぱいあって、換金所もある。

 何を換金するのかはわからん。


「なんか普通に窓口とかあるのな」


「貴方のイメージではどうだったのよ?」


「もっと鎧とか剣とか飾ってあったり、魔法の道具があって神秘的ってか前衛的なオブジェとかあって」


「まるっきり無駄じゃないのそれ」


「あーわたしちょっとわかるかも。おっきい水晶球っぽいものとかあるイメージでしょ?」


「話がわかるじゃねえか。それだ、そういうイメージだよ。ステンドグラスとかさ」


 ファンタジーでギルドってそのイメージじゃないか。むしろちょっとがっかりだよ。


「そんじゃいつもの説明タイムよろしく。リリア先生」


「うむ、AからFまでランク別のクエストボードに依頼がある。依頼は先生や生徒が出すもの。学園の内・外からくるものがある」


 それでやたら数が多いのな。

 クエストにどのランクでもいい、という仕事がないのも数が増える原因だ。

 基本的にランクが二個違えば、一緒に仕事をする機会はごく少数らしい。


「依頼は学園側の審査に通ったものが貼りだされるのじゃ」


「俺達にできるのは一番下なわけだな」


「ま、しょうがないよね」


「地道にいきましょう。四人なら無茶して稼ぐほどじゃないわ」


 大勢だと生活費だけでも大変そうだな。

 これ以上メンバー増やさないようにしよう。こいつら以外とか邪魔でしか無い。


「どうせならレベル上げたいな。このままじゃ不安だ」


「あのすごい鎧着ればいいんじゃないの?」


「ずっと着てるわけにもいかないだろ? 本体が弱いままじゃどこかで死ぬ」


 夏場とか絶対暑いだろ。アレ着て生活は無理じゃないかな。


「リリア、あの鎧は実際にどこまで戦える? どのくらいのことができる?」


 なんせあの鎧は強すぎて上限がわからない。調べようとして学園壊す訳にはいかない。


「本気で使えば星くらい軽く粉々にできるはずじゃが……まあオススメはしないのじゃ」


「壊すことにデメリットしかないからな」


 ノリノリで使って世界ぶっ壊さないようにしよう。居心地いい場所を壊したくない。


「ちょっと、ちゃんとコントロールできるのでしょうね? 巻き添えで死にたくないわよ?」


「そこまでの力には一応ロックが掛けてあるのじゃ。それにヒーローキーの真の強さは身体能力ではない。敵に必ずダメージが通るという点にある」


「攻撃が必中とかそういうことかな?」


「物理攻撃無効とか、魔法反射とか、霊体や概念のような存在でも、殴れば必ずダメージが入るのじゃ」


「ほー、そら便利だな」


 よくわからないが、攻撃が効かずに詰むことはないわけだろ。

 ゲームだと結構便利だよな。


「凄さがわかっとらんなおぬし。敵の無効化能力無効というのは絶大なアドバンテージじゃ」


「あって不利にはならないだろうな。んじゃそれを活かしたヤツでもないかね」


 そんなん言われたら試したいじゃねえか。

 幽霊退治でもやるか?


「Fランクに早々ないわよ。ペット探しとか、お店の雑用とかそういうものよ」


「レベル上げるにゃ、ちと微妙だな」


「無理して上げんでもよい。レベルはむしろ力を落とさないようにするためにあるのじゃ」


「力を上げるためじゃなくてか?」


 レベリングって強くなるためのもんだろうに。


「達人でも修行サボったら力が落ちるじゃろ? そんなん効率悪いのじゃ。だからレベルシステムは能力が下がらないため、主にストッパーとして機能するように使われておる。この世界ではの」


 なるほどな。レベル制にした結果として能力が維持できるのね。


「なんか難しい話してるねー。強くなるならそれでいいんじゃない?」


「シルフィの言うとおりじゃな。今はさっさと仕事にかかるのじゃ」


「体使うとなると……学園内の草刈りとか、依頼さえ受けなきゃ近場のダンジョン行っても良いんだけど」


 体力仕事はもやしっこにはきついけど、そうも言っていられないか。


「ギルドレベル上げるのが先か」


「これとかどうかしら?」


 イロハが指差したのは、付近の森の魔物討伐。

 体力つけるにゃいいかもしれない。いざとなれば鎧着よう。鎧万能説。


 ・Fランク依頼 旅立ちの森林魔物討伐。

 ギルド人数制限なし。二十匹討伐で単位1。最大単位1。魔物歩合制。


 クエストカウンターに依頼を持っていく。

 依頼書と学生書を受付で渡し、受付さんが登録してくれれば受注完了だ。

 俺達の担当場所の地図を貰う。


「そんじゃ行きますか」


 そろそろ本格的に魔物との戦い方も知っておく。弱い敵しかいないならチャンスだ。


「はーい、いってみよー!」



 そして担当場所にやって来たわけだ。

 学園の外壁から伸びるいくつもの道、その中の一つから外に出て、すぐの森。


「歩いて実感する学園の広さ。これFランクにやらせていいのかね?」


「上位ランクはもっと離れた場所に行くのよ。魔物が巣を作っていたらそれを狩ったりね」


「あの森は前に行ったでしょ? あそこに敵が少ないのはこうしてちょくちょく狩ってるし、必要なら結界張ったりするんだよ」


「なんでいつも張ってないんだよ?」


「魔物は都市部にだけ入らないようにしているわ。そのほうが戦う機会が増えるじゃない」


 生徒に戦闘経験積ませたいのか、学園校舎と都市部、居住区には魔物よけの結界があるとのこと。

 入ってこられたらおちおち眠れやしないからな。


「ほーら来たよー。じゃあ頑張ろうね!」


 ちょっと遠くにいるのは……リリアの半分くらいの身長の三匹の、ウサギ!?

 白い毛と赤い目だし、でかいけどウサギだよな?


「オイちょっと待てウサギ出てきたぞ」


「大丈夫、普通の敵だから。ドーンといこう!」


「アレ首跳ねてくるやつだろ!?」


「何を言っているのかわからないわ。爪と牙に注意して。動きは単調だから」


 え、俺がやんの? 爪尖ってるんですけど。あれ切られると痛いやつだろ。


「鎧なしでもソードキーは使えるはずじゃ。一本だけ出してそれで斬るがよい」


 言われるままに腕輪を籠手に変える。ソードキーをさしてみると。


『ソード』


 確かに使える。いつもの豪華な装飾の入った、いかにも伝説の剣っぽいやつが出た。


「連射はできぬ。鎧によってMPが爆上がりしているからできる芸当じゃ。ソニックキーも控えるのじゃ」


「大丈夫! 二匹はわたし達が倒すから」


「ちゃんと前を見る。その剣振れるわね?」


 イロハに言われて振ってみる。軽い、凄い軽くて逆に不安になる。


「ん、いけるみたいだ。すげえ軽い」


「ではいってみるのじゃ。特別に防御力も上げてやるのじゃ」


 リリアが扇子を開くと、俺の体が薄く青い力に包まれる。

 防御魔法か。よし、ここまでお膳立てがあればいけるかもしれない。


「うっし、やってみるか!」


「うむ、始めはかっこよく決めんでよい。突き刺すか一歩引いて斬ってみるのじゃ」


 ウサギがこっちに気付いた。鎧なしでどこまでできるか試してみようじゃないか。


「敵の動きに気をつけること。死ななければ回復できるわ」


「籠手は生半可な攻撃では傷一つつかぬ。盾として使うがよい」


 シルフィが前に出る。ウサギがジャンプして襲いかかる。


「ジャンプしたら着地まで無防備だから、回り込むか迎撃する」


 横に逸れて、逆にウサギの首をはねるシルフィ。

 断末魔もなく死体が霧となって消える。死体が出ない?


「こんな感じだよ!」


 なるほどよく分かる。できるかどうかは別問題だ。


「ってかこいつら仲間が倒されたのにリアクション一つ無いな」


「そんな感情などこのタイプには存在せんのじゃ。こやつらは世界に溢れている魔力が精霊と融合して核を作り、生物を模したタイプじゃ」


「複数のタイプがあるってことか?」


「うむ、魔物に共通する特徴として、最後の一匹まで生物を殺すためだけに淡々と……」


「解説してるとこ悪いが敵こっち来るぞ!」


「突進が怖いなら、剣の切っ先を軽く突き出しておきなさい。足腰に力を入れておけばいいわ」


 おお、これで正面から来れば敵に刺さるな。

 よしよし、言われた通り剣の先を向けておく。戦闘開始だ。

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