戦闘は重労働です
「よーし、来い!」
目付きの悪いウサギと戦うことを決意する。ケルベロスに比べりゃ大分マシ。
剣を向けたまま、相手の動きを見る。
「もう一匹は動きを止めておくわね」
ウサギに向けて手裏剣を投げるイロハ。ウサギの影に刺さる。外した?
「これで相手は動けないわ」
ええぇ……なんだその能力。影縫いの術とかそんなん? ずるくね?
「ほれほれ敵から目を離すでない」
ツッコんでくるウサギに慌てて剣を向ける。
全員ちょっと離れた所から見ている。俺がやるしか無い。
「はっ!」
俺の身長よりも高く跳ぶウサギ。
言われた通りに横に回りこみ、落ちてくるタイミングで突き刺す。
うまいこと喉あたりにヒットして声もなく消えてゆくウサギ。
「おお、いけ……た? よっしゃいけた!」
なんかちょっと動けるようになった? レベル5だから?
「それじゃ、もう一匹いくわね」
ウサギの影に刺さっている手裏剣に手裏剣を当てて弾く。
イロハの手裏剣の上手さに目がいくわ。
なんかこっちをチラチラ見てくるのは何故だ。
「おー、すごいすごい。忍者凄いなー」
とりあえず褒めてみる。
「……ふふっ、それほどでもないわ」
パーカー着てても隠せないくらい、しっぽフリフリしているイロハさん。
やってやったわ……みたいな顔してるけど、褒めて正解だったのか?
「ほら来てる来てる!」
「横に回り込む練習じゃ」
アドバイス通りにウサギの横へ横へと動き続ける。
くるくる回りながらゆっくり近付く。
「バランスを崩さぬように、余力を残して横に斬るのじゃ」
「よっと!!」
一歩踏み出して、鎧を着ている時のことを思い出しながら横に払う。
……外した!?
「はいすぐに横に回る!」
余力を残して振ったおかげで、さっと横に飛べる。
そこを狙って真っ直ぐ飛んで来るウサギ。
急いで剣を構えて、もう一度横に振る。今度はしっかり手応えあり。
「よっしゃいけたぜ!!」
雑魚なんだろうけど嬉しい。達成感というのはゲーム以外で味わうことができるんだな。
「おー初めてなら上々じゃな」
「そうね、ここから苦手意識を消していきましょう」
「いいねいいねー。じゃあここからは一緒にやっていこう」
ここからパーティーで狩りに入る。
ウサギを見つけては、リリアとイロハがアシストし、俺とシルフィが狩る。
俺が倒しやすいように足止めしたりしてくれる。感謝感激だな。
「ここで俺が運動不足ということが判明する」
「わかりきっとるじゃろ」
「体力はつけて損はないわよ」
「そだねー。わたしもトレーニングとか手伝うよ?」
シルフィのトレーニングか……なんだろうとりあえず百キロ走れとか言われそう。
もしくは手ぶらで山登り。死ぬわ。
「ここで苦戦するようなら考えないとなあ。でもシルフィのトレーニングついていけないと思う」
「毎日歩くだけでも変わるわよ」
「その辺からだな。戦って移動を繰り返すのって疲れるんだな」
ほんときっつ……よくみんな動けるなあ。
「目標二十匹だからあと三匹だね。終わったら帰る?」
「できれば帰らせてくれ。そういや魔物が消えた時、なんか拾ってたよな?」
「あの石は持って帰ると換金できるのじゃ。あのタイプは臓器が無いから、ピンチの時は核を見つけて狙うのもアリじゃな」
「臓器が無い?」
「うむ。ついでに生殖能力や器官。性欲も無いのじゃ。ただ世界と生物に害をなすため……」
説明中に出てくる邪魔なウサギ達。五匹位か。
「疲れてるんだから。ちゃっちゃといくぞ」
『ヒーロー!』
キーをさして、剣を数回振る。真空波によりウサギたちの首と胴体がゆっくりズレる。
ズレた首が落ちる前に霧となって消える。
「よし、終わりだな。鎧着てスタミナあるうちに戻ろう」
「よーし休憩して撤収! 帰ってご飯だ!」
森にはいくつかの開けた場所があり、中央に焚き木の後がある広場のような場所もある。
その中で入口に近い広場で休息を取る。
「今日は何にしましょうか?」
「先に寝たい。でも寝ると深夜に起きちまう……うおぉ……」
疲れを取るには寝るのが一番。ただし夕方に寝てしまうとピンチだ。
高確率で深夜に起きる。そして二度寝できない。
「寝ても起こしてあげるよ。晩ご飯まで寝たら?」
「いいのか? ってか晩飯は自宅で食うの?」
「まあ節約できるならしましょう」
待てよ? これ外食しなければ毎日誰かの手料理コースか?
なんという……なんという……駄目だ言葉にできん。
料理できるのは昨日判明しているから、毎日楽しみだ。
「よし、材料足りなかったら買い足して、飯に……」
近くで聞こえる爆発音。二発、三発と続く。
「なに? あっちに何かあるの?」
「クエスト受けているのは私達だけではないわ。きっと誰か戦っているのよ」
「ふむ、どうするのじゃ? 見に行くかの?」
「あの爆発起こせるやつなら平気っぽいけどな」
爆発が魔法か別のものか知らんけど、耐えられる魔物がいるような場所じゃないだろう。
やがて爆発も止み、足音がこちらに近づいてくる。
鎧のままだったことに気付いて急いで解除する。
「おっと先客がいたか」
現れたのは短い赤髪で金色の目のガタイのいい男と、金髪碧眼でウエーブがかった長いツインテールをリボンで縛った女。
「お、確か勇者科だよな?」
男が話しかけてくる。身長百八十はあるだろう。ゴツい剣を背負っている。
顔がバレている? こいつどこかで見たような?
「ああ、そっちも勇者科だよ……な?」
そうだ、確か初日に教室にいたはず。
数少ない男ってことで、目立っていたから記憶にある。
「ああ、勇者科一年、ヴァン・マイウェイさ。で、こいつが」
「こいつ言うな。ソニアよ。ソニア・ブランシェ。よろしく」
気の強そうな女だ。ツンデレさんタイプだな。
先端に石のついた杖を持っていることから魔法使いか。
とりあえず、お互いに自己紹介を済ませる。
「思い出したわ。シルフィ・フルムーン。一部で死神とか呼ばれてるのに、なんでFランククエストなんて受けてるのよ?」
死神? 死神要素ゼロだろ。大天使だよ。
「シルフィをその名で呼ばないで」
イロハが睨んでいる。触れられたくない過去なんかな?
「あーごめん。まずいこと言った?」
「悪いな。こいつはその名前しか知らねえんだよ。呼ばれている理由は知らん。悪気はないんだ」
「いいよ。別に気にしてないから」
手をパタパタさせて否定するシルフィ。ちょっとテンション低めか。
「触れちゃいけないことだったみたいね。ごめんなさい」
ちゃんと謝ってくるソニア。見た目より素直な子だな。
「いいよ、悪気はないんでしょ?」
「まだ噂は完全に消えてはいないのね」
「その噂とやらは、わしらが聞いていいものかの?」
「ん、それは……」
シルフィが口ごもる。聞かれたくない秘密くらいだれにでもあるしな。
「話したくなるまで聞かねえって決めただろ?」
「それもそうじゃな。済まぬ」
「ん、いつかちゃんと話すね」
今はそれでいいさ。無理に聞き出そうとしない。
「Fランククエストで来てる理由は俺達が新設ギルドだからさ」
ちょっと強引に話題を変える。
「なるほどな。中途半端に雑魚の下につくより面白そうじゃねえか」
「そういうおぬしらも色々おかしいがのう」
「これくらい普通よ普通。さて、休憩終わりよヴァン。戻って報告しましょ」
「そうだな。腹も減ったしパフェかケーキでもつまむか」
甘党かヴァン。俺は甘すぎなければまあ好きくらいだな。
クリームとか多めだと胸焼けする。
「さて、休んで疲れは取れた。俺達も行くとするか」
「よーし夕飯のメニューでも考えながら行くのじゃ」
「肉だな」
「お肉は昨日食べたし、お魚でいこうよ」
腹は減るし眠くなるし疲れるし、戦闘ってのは大変だな。
とりあえずクエスト報告して帰ろう。
「ご飯の時にでも、話すよ。わたし達のこと」
どうやら寝てる暇なんかないようだ。
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