ベッドは一つ

「ふはーお腹いっぱいだー」


 食事が終わり、食器も片付けて。テーブルでぐでーっと伸びているシルフィ。


「はしたないわよシルフィ」


「いーの。今日からここはわたし達の家なんだから。気を抜いても良いのさー」


「いいこと言うのう。くつろいでいいのじゃよ」


「ゆっくりすればいいさ。お泊りってなにするのか知らねえし」


 個人の部屋以外は最低限の家具は揃っている。

 テーブルと椅子。ソファーや食器棚とかな。

 ちなみにウチは靴脱いで上がるタイプの家だ。床が汚れにくくていい。


「うーんなにかしようよー」


 俺とリリアはソファーに座っている。食休みだ。

 シルフィとイロハは近くのテーブルで同じくお茶飲んで食休み。


「なにかっつってもな。しくじったな。遊ぶもの買ってくりゃ良かった」


「ご飯食べたばっかりでお菓子も運動もどうかと思うしねー」


「それではお風呂沸かしたので入ってくると良い。シルフィとイロハからじゃ」


「私達から? いいのかしら」


 もう一度お風呂場でエンカウントは避けよう。気まずいに決まってる。


「行ってきたら良いんじゃないか? こういうのは客が先さ。俺は最後でいい」


「もうーお客じゃないんだってば」


 ふくれっ面のシルフィ。どうも他人との距離をとってしまうクセが抜けないな。


「悪い、でも先に入れ。また鉢合わせとかしんどいだろ?」


「そうね、先にお風呂いただくわ」


「うあぁ……忘れてたのに……また思い出しちゃったじゃんもう」


「そこで覗こうという気概を見せんか」


「断固拒否で」


 同居で覗くとか最悪だろ。覗きがバレても同居が続くと地獄になる。

 そこまで見たいとも思わない。

 しかし一人になると俺のやることが無くなるな。


「俺は自分の部屋に戻ってるよ」


「では、わしもアジュの部屋にいるのじゃ」


「なぜに?」


「ベッドでごろごろしてるうちに寝るじゃろおぬし?」


 その可能性は控えめにいって100%だ。


「お目付け役ってわけか。いらん。お前も入って来い」


「ほいほい、ついでにシルフィ達の部屋も決めるのじゃ」


「えーお泊りなんだし一緒の部屋じゃないの?」


「これから住む部屋を決めるのじゃ」


 話しながらぞろぞろ出て行く。部屋戻ってなにするかな。

 寝てたらリリアが起こしてくれるだろう。

 部屋があるのは二階だ。これもうソファーでうだうだしてるほうが良いや。


 そして案の定ソファーで寝ている俺がリリアに発見され、起こされた結果風呂に入ることとなる。

 ここまではよかった。風呂あがりに自分の部屋に帰るとそこには。


「遅いよー。待ってたよー」


「だからリリアと一緒にいればよかったのよ」


「まったくだらしないのう」


「悪かったって。いやはやあんなにスッと眠れるソファーがあるとは、完全に油断したぜ」


 パジャマの三人がそこにいた。

 シルフィが赤と白の縞々パジャマで、前をボタンで止めるやつ。

 イロハが温泉浴衣みたいなやつの青。

 リリアが黒いなんていうの? ネグリジェであってる? 長袖でスカートみたいになってるやつだ。名前わからん。


「一応聞くけど、なんでここにいる?」


「このままじゃお泊り感が出ない! 出にくい!」


「というよりベッドも布団もないのよ」


 無いってなんだよ。客用のベッドが無いってのか。


「新居じゃからのう。わしはここで寝るからベッドも布団も必要ないのじゃ」


「それは買えよ」


「そうね、ずっとじゃ不便でしょう」


「っていうかズルいと思います! わたし達のベッドは明日来る予定だから、ここ以外で寝れる場所なんて無いよーだ。さあお泊りの本番はここからだ!」


 打ち切りエンド臭すごいっすね。


「ベッドが大きいから四人で十分眠れるわね」


「わしの言った通りになったじゃろ?」


「まさかの展開だよ。預言者か何かか」


「にゅふっふ。もっと崇め奉るのじゃ」


 女の子連れ込むならベッドは大きい方が……とか言ってたっけな。

 本当に連れ込むことになるとはね。


「ああ、まだ実感ないけどさ。俺の人生バグりっぱなしだな」


「これからもこんな日々が続くのじゃ。わしのおかげじゃぞ」


 両手を腰に当ててふんぞり返るが、ちっとも胸がない。

 でもサラサラ銀髪ロングヘアーは、夜に見ると神聖さが出ているような気がしてなんとなく見入ってしまう。


「どうしたボーっとしおって」


「いや、リリアはえらいなってな。リリアがいなかったら俺は……」


 自然に頭に手が伸びる。

 ゆっくり撫でると手触りもよく、なぜか懐かしさすら感じた。


「ん、悪かったな勝手に撫でて」


「あーあれじゃ。女の子に慣れるための練習として、あくまで練習として。撫でたくなったら別に撫でるくらい構わんのじゃよ」


「そこ! 二人の世界を作らない!」


 シルフィに言われてハッと正気に戻る。

 今地味に凄いことしてたな俺。現実感なくて正常な判断ができないんだな。


「それでは寝る場所を決めたいと思いまーす!」


 全員がベッドの上に座っているこの状況で決めるのはそれくらいか。

 なんか四人分枕があるな。何故だ。


「わしが人数分買っておいたのじゃ」


「まてや、じゃあ布団も……運べないか」


「自己完結禁止じゃ。ほれ、おぬしの枕じゃ」


 リリアに枕を渡される。白いカバーの掛かった俺がとっても寝やすい枕。


「私はシルフィの隣でいいわ」


「普通に考えて俺が端っこだろ」


 自分の枕をベッドの一番右側に置く。


「うっわつまらんこと言い出したのじゃ」


 常識で考えてくれ。真ん中はキツイって。


「真ん中はキツイとか考えてそうじゃな」


「ならアジュが真ん中だ!」


「おいやめろ。もう少し考えて発言してくれ」


 年頃の娘さんの発言じゃないぞ。俺じゃなかったら勘違いするぞ確実に。

 パジャマで腰まで届く髪を下ろしたシルフィはヤバイ。

 可愛さと大人っぽさの中間というか両立というか。


「わたしがまず布団に入る!」


「そしてスペースを開けてわしが入る」


「私はシルフィの左側に入るから」


「俺が右側……ええマジ無理だってこれ」


 順番は左からリリア・俺・シルフィ・イロハになるわけだ。

 シルフィとリリアに挟まれる形になるな。

 何がきついって、寝てる女の子の横に入っていくのが一番きつい。


「無理も何も入らねば眠ることすらできんのじゃ」


「別に変なことをするつもりはないのでしょう?」


「ないに決まってるだろうに。ああもうマジかなんだこの状況は」


 仕方ないのでゆっくり二人の間に入る。顔見れねえわ。


「うわわちょっと待ってなんかこれ恥ずかしいよ!?」


 無理もない。男が一緒の布団に入ろうとしてるんだし。


「貴女が言い出したのよシルフィ」


「そうだけどさあ……うわああぁぁ……助けてイロハ!?」


「私は眠くなってきたので拒否するわ」


「それ朝も聞いたよ!」


 流石に嫌がる女の子と寝るのはどうなんだろうな。

 適当に端っこで寝るとかしてもいいか。


「ほーれ、どーん」


 リリアが俺の腕を引っ張って強引に引きずり込む。

 枕に顔から突っ込む。新品の枕の匂いだ。

 あれ? なんで新品の匂いなんだ? 朝は別の匂いだったような?


「危ねえからやめろって。嫌なら端っこ行くぞ?」


「いいいいいいよ、アジュの部屋なんだし!」


「無理するなよ?」


「だだ、大丈夫! よろしくお願いします!」


「それはなにか違う気がするぞ」


 こんなんで眠れるのか今日。掛け布団かけて天井を見つめる。

 横を向いたらいけない。左右からいい匂いがします!!


「何か話して気を紛らわせてはどうじゃ?」


「そうだね、こういう時って何を話すんだろ?」


「好きな人暴露大会とかかのう?」


「修学旅行か」


 好きな人なんていなかったよ。

 女は最速で俺を嫌うからな。好きになる時間的猶予がない。


「私はいないわ。おやすみ」


「俺もいないな」


「わしもじゃな」


「わたしは……どうなんだろ?」


 こっちに聞かれましても。どう答えりゃいいんだ。


「この話は早くも終了じゃな」


「どうしてこうなった!?」


「あんまり騒ぐと余計眠気吹っ飛ぶぞシルフィ」


「ぐぬぬ……なんだよう、コイバナできないギルドだなあ」


「健全でいいんじゃね?」


 色恋にかまけてはいけません。どうせ最後に残るの俺だし。

 さっさと寝よう。イロハもう寝てるし。寝付きいいなおい。

 枕に顔を埋めてスースー寝息を立てている。

 あれって俺の枕じゃ……いやよそう。俺の勝手な判断で混乱させたくない。


「明日は引っ越しの色々があるじゃろ。早く寝るのじゃ。おやすみ」


「そうだな、おやすみ」


「えぇ!? ちょっまってよ!? わたしはコイバナを諦めないからね! いつか必ず舞い戻る!」


「はいはい、今度してやるから寝なさい」


「…………はーい。おやすみ」


 渋々寝始めるシルフィ。危なかった。茶化さなかったら意識しっぱなしだったよ。

 このまま流れに乗って寝よう。今日もなんだかんだで疲れたし。

 目を閉じるとそれだけで眠気が襲う。

 ベッドの寝心地が抜群なのも追い打ちをかけてくる。

 こんな日もたまには良いか。まさか毎日こんなじゃないだろう。

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