異世界でお買い物

 飯食い終わって今はお昼。学園内にある商店街までやって来たわけだが。


「広いだろうなという予感はしてたけど」


 普通に商店街として機能している。俺の地元の商店街より大きいぞ。

 今いるところは雑貨店や食い物屋が並んでいる区画だ。

 区分けされているみたいで、お菓子屋の横に鍛冶屋があったりはしない。

 両方の匂いが混ざってえらいことになりそうだしな。


「生徒やギルドがお店を出したりもしてるからねー。かなり多いよ。暇な時に見てみようね」


「そうだな。暇があったら来てみるか」


 多いのにゴチャゴチャしていない。大通りも脇道も広めで綺麗だ。

 その中でシルフィオススメの店に入る。あんまり女の子っぽくない。

 もっとピンクとかフリルに溢れているかと思ったけど普通だ。


「アジュならこのくらいシンプルなお店のほうが良いでしょ?」


「ああ、女の子の店はしんどい。助かるよ」


 この辺の気配りが俺の中でシルフィの株をガンガン上げている。


「えーっとわたしが使ってるのが赤で」


「私が青よ」


「んじゃ俺が緑で」


「わしがピンクあたりにするかの」


 戦隊ものみたいだな色分け。

 俺とリリアのコップとか歯ブラシとかフォークとかを色で分けていく。

 共同生活の実感がちょっとでてきてよくわからないけど緊張する。


「意外に安く済んだわね。あとは夕飯の材料かしら?」


「調理器具も買わないとな」


「アジュ料理できるの?」


「できるぞ。プロ並だったりはしない。あくまで家庭の家事の範囲でな」


「意外じゃのう」


 確かにな。だがこれには理由がある。


「俺みたいなモテない男はな、自分で家事ができるようにならなきゃいけないんだ。やってくれる人間なんて一生現れないからな」


「なぜ行動原理が一々マイナス思考なんじゃ」


「動いてプラスになったことがないからさ」


 ここで言ってて悲しくなる奴は二流だ。

 俺はもう諦めの境地に片足どころか全身突っ込んで体育座りしているからな。

 料理がちょっと楽しいまである。


「聞いてはいけないことだったみたいね」


「だ、大丈夫だよ! わたしが作ってあげるから! これからは作ってくれる人がいるよ!」


「………………マジで?」


 女が料理作るとか言い出したよ。すげえよ異世界って。俺に対する反応が全然違う。

 たとえこれが同情十割でも歴史的快挙だよ。


「なぜそんな顔なのよ」


 そら変な顔にもなりますわ。いかん、このままでは雑貨屋で暗い雰囲気になるという黒歴史が爆誕してしまう。急いでごまかそう。


「いや、朝早かったから眠いんだよ」


「あまり女の子関係の話はしてやるでない。そっとしておくのじゃ」


「今のでよくわかったわ」


「よくわかんないけどわかったよ」


 理解されても惨めさが増すだけだからやめて。

 雑貨をリリアが、調理器具を俺が持って店を出る。


「そういやみんな料理できるのか?」


 料理当番とか決めないとダメだしな。みんなできないと俺の負担が大きくなる。


「わしもできるのじゃ」


「わたしもできるよー」


「得意分野よ。一通りのものは作れるわ」


「んじゃ分担できるな」


 そうか、一緒に住むと俺の分も飯が出てくるのか。新発見だな。

 そうこうしているうちに食品が並ぶ区画にやって来る。

 八百屋とか果物屋とかだな。店先にずらっと並んでいる商品に目がいく。


「んじゃ晩飯のメニューでも考えるか。肉多めだと嬉しいな」


「そだね、お肉っきゃないね」


「ちゃんと野菜も食べなさい」


「肉と一緒に焼けば食べるじゃろ」


 人を野菜嫌いの子供みたいに言いやがってからに。確かにそんな好きじゃないけども。


「サラダではダメかしら?」


「それだと肉ばっかり食べるじゃろ。焼いて両方一つの皿で出した方が……」


「なんかわたし達すごい子供扱いされてるね」


「あまり反論できないのが痛いな」


 行動パターンが早くも読まれ始めている。まあ俺の当番の時に肉料理出せばいいか。


「いいんじゃないか? いろんな人の料理食えると思えば面白いさ」


「楽しみにしておこっか」


 笑いかけてくるシルフィに笑い返す。誰かと笑うというのは存外いいものだな。


「これと、これと……こっちがいいわね」


 イロハが野菜の目利きをしている。野菜の見分けつくとか一種の才能だろ。

 犬って嗅覚凄いんだっけ。それでわかるとか?


「狼よ。犬じゃないわ」


「なぜ考えていることがわかった」


「言われ慣れているのよ。フウマの祖先はフェンリルという強大な力を持った狼と言われているわ」


「魔獣とか神様なんじゃないかとか色々言われてるみたいだよ」


 聞いたことあるような、ないような。

 俺の神様知識なんてゲームか漫画の中だけだ。そりゃ曖昧にもなるってもんさ。


「んじゃなんでフウマなんだ?」


「不思議な術を使うフウマを名乗る男に惚れて、人間の女性の姿で生涯添い遂げたからよ」


「なるほど、忍者っぽいのはそれでか」


 フウマがなんなのかちょっとわかってきたけど、同じものか判断できないな。


「あら、忍者が何か知っているのね。意外だわ」


「俺のいた場所でも、昔忍者がいたみたいだからな」


「買い物終わりじゃ。ちゃっちゃと帰るのじゃ」


「お肉買った?」


「ちゃんと買ったわよもう」


 流石に手がふさがっているので、食料はシルフィとイロハに持ってもらう。

 よし、今から帰って作れば夕飯時だな。


「よーし帰ろう。泊まりに来る用意はしてあるな?」


「ええ、ちゃんと持ってるわ」


 二人の背負っているリュックの中に色々入っているんだろう。


「準備バッチリだよ」


 なんかもぐもぐ食ってるぞシルフィ。手に持ってるのはクレープ?


「あっちで売ってたのじゃ」


 リリアも食っとる。いつ買ったんだよ。


「アジュも食べる?」


「せっかくだけど両手が塞がってる」


「夕飯食べられなくなっても知らないわよ?」


 そういうイロハも食ってるじゃないか。


「ちゃんと四人分買ってあるのじゃ」


「はい、口開けてー」


 クレープを差し出してくるシルフィ。このまま食えってのか?

 めっちゃ恥ずかしいんですけど。ほらなんか道行く人にちょっと見られてるじゃないか。


「いやちょっとまて。それはどうかと」


「ほーらもったいないでしょ。はいあーん」


「食わねば終わらんと思うのじゃ」


「観念するのね」


 なんだよこのイベント。ゲームだと、これもうちょい好感度上がらないと発生しないだろ。

 自分がやる側になると恥ずかしいぞこれ。


「ん、あー……美味いな」


 駄目だ照れる。世の中のリア充はどうやってこんなん普通にやってんの?

 数回食べさせてもらって。無理やり食い終わった。ゆっくり食ってたら駄目だ。

 数分しか経っていないのに、何時間も食べていたような気がする。


「よーし食べ終わったら新しい家にのりこめー!」


「おー!」


「元気有り余ってるなあ」


「いいんじゃないかしら。誰かの家に泊まるなんてめったにないもの」


 そういや二人とも寮暮らしだもんな。


「俺も経験ないな。何すればいいかわからん」


「とりあえず、食事の準備を手伝ってもらえるかしら」


「邪魔にならないよう努力します」


「助かるわ」


 ドンドン先に行ってしまうシルフィとリリアを追いかける。

 そういや俺の部屋以外は家具もベッドもないけどこいつらどうする気なんだろうな。

 寝る場所ないだろうに。

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