ヒロインとそれ以外の関係
一夜明け、通行証使ってギルメンとナスターシャの五人で列車移動。
今回は比較的ゆっくりと走っている。
座り心地のいいソファーに深く腰掛け、外の景色を眺めていよう。
幸い個室に五人だ。ある程度自由にくつろげる。
「こっちの列車ってこのタイプなのか」
「フルムーンに行く時に乗ったのは、今の魔導科学全部を足して作られた最新鋭のものじゃ。広く世界に普及しておるものではないのじゃ」
今乗っている列車は揺れもほぼ無い。
これだけでも凄いが、内装も結構綺麗で落ち着く。
そこそこ値が張る部屋だからかね。
「逆にお兄様が乗って行ったのは、比較的新しくてお値段がかかるものですわ」
ナスターシャがテーブルに書類を広げ、読みながらついでに答えてくれる。
今度販売する鎧のデザインらしい。
仕事なら邪魔しないであげよう。ちょうどあっちは別の椅子だし。
「アジュが難しい顔でナスターシャちゃんを見ています」
シルフィが何か不満のありそうな顔で寄ってくる。
最近しっかりかまってやれなかったからなあ。
「別に変な意味はないぞ」
「それはわかってるけどさー。ちょっとくらい遊んでください!」
勝手に寝転がり、膝枕の体勢に入られる。
素早い。俺の死角を的確に理解して動きやがって。
「しばしリラックスタイムじゃ。飲み物でも用意するかの」
「シルフィこのままでいいのか?」
「そうやって遊ぶという事実を積み重ねることが大切よ」
イロハは忍者鎧をどう作るかとナスターシャに聞かれ、少し難儀している。
里の秘密を公開はできないので、忍者っぽいデザインを見てくれと言われているようだ。
「ふへへー。こうやってごろごろするの久しぶりー」
「はいはい、ナスターシャいるんだから、あんまり甘えないようにな」
一応過激なスキンシップは取らない。
分別があるんだかないんだか。
「仲がよろしいのですわね」
「不思議なことにな」
「これが運命というものよ」
相当にこじれて捻じ曲がった運命だこと。
後悔はないけどさ。
「こういうのも悪くはないわ」
「あったかいよー」
「そういう……ものなのでしょうか?」
「こればかりは本人の問題じゃな」
俺も正直全面的に受け入れたわけじゃないと思う。
けれど納得いくかどうかと、居心地がいいかどうかは別だ。
この環境は悪いもんじゃない。
「申し訳ございません。余計な事を聞いてしまいましたわ」
「別にいい。気にするな」
少しほっとしたような顔だ。よくわからんな。
魔王拷問ショーの件で怯えているという雰囲気ではない。
「ナスターシャちゃんは何をそんなに気にしておるのじゃ?」
気になっていたことを直球でリリアが聞いてくれる。
素晴らしい気配りだすばらしい。
「……失礼ですが、サカガミ様がなぜお怒りなのか見当もつかず……どうしていいものかと」
「おいかり?」
ちょっとマジでわからん答えが帰ってきた。
ナスターシャに怒らなきゃいけないようなことなんて何もない。
むしろ真面目で責任感のあるいい子を巻き込んでしまった俺が怒られる側だろう。
「怒っていることなんてないぞ」
「そうだよ。みんなナスターシャちゃんがいい子だってわかってるよ!」
駅で売っている弁当からおすすめ教えてくれたり、俺とギルメンがくつろげるスペースに近寄らなかったり、育ちのいい子だなあ。
「立派だと思うわ」
「そうじゃそうじゃ」
みんな同意である。
この子の心情を考えると、同行を願い出る時点で尊敬の念とか出ちゃうって。
「まず前提として怒っていない。できればそう思った理由を話してくれ」
少し視線を彷徨わせ、その後で気を遣いながらゆっくりと話し始めた。
「サカガミ様はその……あまりわたくしとお話してくださいませんし、視線も合わせないようにされているといいますか……何か一線引かれているような感覚ですわ」
「それがどう怒ることに繋がるんだ?」
年頃の娘さんは、多感な時期だけあって思考が読めない。
他人の思考なんざどうでもいいが、ここまでしてもらって怯えさせるのも納得いかん。
「どこか距離を取られているといいますか……」
「違うのじゃよ。ナスターシャちゃんが気に入らぬわけではないのじゃ」
リリアがフォローに入る。
そこで他の二人も気づいたようだ。
「繊細っていうか、優しい子だねナスターシャちゃん」
「アジュはこういう人よ」
首をかしげるナスターシャ。そりゃそうだよな。意味わからんもの。
「簡単じゃよ。アジュは積極的に人と関わるとか、関係をよくするために努力とかせんのじゃ」
「……そうだったんですの。お知り合いになったら、仲良くなろうとするものではなくて?」
「別に全員と仲良くなる必要はないさ」
物凄く根っこが真面目な子なんだろうなあ。
鎧が無骨だったり派手だったりの差はあれど、真面目なお嬢様らしい。
「まず他人と関わるの嫌い。そういう努力とか反吐が出る」
「それだと誰とも仲良くなれないのでは?」
「知らん。こいつら以外はどうでもいい。何の興味もない。勝手に生きていけ」
他人の思想や行動に関心がない。そいつらはそいつらで生きている。
だから勝手にすりゃあいい。俺に攻撃してこなきゃ殺さない。
「アジュは超選民思想でぼっち行動しまくるからのう」
「それについて来ることが可能なやつは、この世で三人だけだ」
「来るものは拒むし、去るものは追わぬ。裏切り者は斬る。本来取り付く島なんてないのじゃよ」
「あまり共感を得られる生き方ではありませんのね」
「他人に共感や称賛してもらおうと思ったことはない」
はっきり言ってクソの役にもたたん。
欲しいものは手に入っている。なら欲張らずに自然体で生きるのみ。
「それとあれだ……あんまり俺に関わらせないよう、無意識に避けたのかもな」
「どういことですの?」
「俺には似合わないが、ちょっと真面目な話をする。カジノ魔王がいい例だ。ああいうのが出たのは一回や二回じゃない。そのたびに叩き潰してきた」
「あんなことが何度も?」
「やり方は毎回違うけれどな」
もちろんこの子も強い。だが神話生物との殺し合いができるレベルじゃない。
正体不明の敵。アカシックレコードやヴァルキリー。
魔王や魔界貴族。とにかく敵は厄介だ。
「最低限下級神と殺し合いができるやつじゃないと厳しい。常に守らなきゃいけなくなる」
「わしらはアジュとともに生きるもの。足手まといになりたいわけではないのじゃ」
「深入りはするな。君の人生は生まれも才能も、そこから繋がっている縁もいいもんだ。そこに俺は繋がるべきじゃない」
納得はできているようだが、それでいいものかと良心がささやくのだろう。
「別にこいつらと関わるなって言っているわけじゃない。感謝していないわけでもない」
「ここまでずっとありがとう。ナスターシャちゃん!」
「サカガミ様は、ずっと四人で生きていくおつもりなのですか?」
「前も誰かに言ったな。俺の両手と膝の上はもう予約されている。誰かが入る余地はない。俺はそれでいい」
他のやつもそうだ。俺を友人と思っているかどうかは知らない。
どうしても解決できない問題ができた時に依頼を持って来るか、偶然敵が一致したら、なんとなーく邪魔しないように敵ぶっ飛ばせばいい。
その程度の気楽な関係が好きなのさ。
「二度と会わないと言っているわけではないの。依頼や偶然出くわせば協力するわ」
「そういう生き方の人間もいるってだけさ。難しく考えても無意味。所詮は俺の戯言だ」
そして列車が学園前についたというアナウンスが流れる。
「世話になった礼だ。鎧が好きなんだろ?」
「え?」
このまま不完全燃焼で、嫌な思いだけさせてお別れは気に入らん。
借りがあるなら返しましょう。部屋の出口まで行って鍵を取り出す。
『ヒーロー!』
「見せるのは一度きりだ」
白銀の鎧と純白のマントは芸術品としても超一級の品だ。
鎧に入った装飾にはそれ単体でも相当の美しさがある。
「これは……なんて美しい……その鎧をどこで!!」
「それは秘密だ。これがないと勝てない連中と、殺し合いをするためにあると言っておく。じゃあな。ここまで世話になった」
「ありがとうナスターシャ。忍者鎧の話はまた今度するわね」
鎧を解除し、そのまま個室を出て列車の外へ。
軽く挨拶を済ませて解散した。
「これであいつが無関係になりゃいいんだがねえ」
「気遣いの下手なやつじゃな」
「守らなきゃいけないのがめんどくっせえだけだ」
「私たちは守り守られ、補うことができるわ」
「けどそれを誰かに強要しちゃいけないってことでしょ?」
「そういうことだ」
さて帰ったら二度寝でもして、明日からの予定でも考えますかね。
できればバトル少なめの予定を立てよう。それだけは決めた。
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