混沌まみれの事後処理

 宿の一室。そこそこ広いので窮屈ではないが。


「あれメフィストさん。お久しぶりですわね」


 なんかうっすら発光しているヒメノと。


「アマテ……今はヒメノさんでしたかな? お久しぶりでございます」


 シルクハットとタキシードが似合う老紳士メフィストさんがいる。

 正直もう帰りたいけど、ここ俺の泊まっている部屋なんですよ。

 いやあどうすんのこれ。


「大物が揃っておるのう」


「俺完全に場違いだな」


「メフィストフェレス様、お久しぶりでございます」


 パイモンとナスターシャがかしこまった挨拶を始める。

 俺たちも魔星玉の件以来ですねとか軽く話す。

 ううむ、こういう席は慣れない。


「い、いいい今お、お茶を……」


「そんなに怯えなくても心配ありませんよ。あなた方を罪に問うことはありません」


 ナスターシャに優しく微笑むメフィストさん。

 優しそうなおじいちゃんだが、なんかオーラが違う。

 魔界で偉くなるってことは、本人に強さが求められる。

 人間社会のように親のコネや金でトップにい続けることは難しいのだ。


「お困りのアジュ様の元へと舞い降りる女神ことわたくし。しかも都合のいいことに宿! 熱烈な夜のお礼が期待できますわ!」


「この状況でよく色ボケられるなお前!?」


 どうしてここまでぶれないのだろう。

 ちょっと尊敬しそうになるぞ。


「ご安心を。避妊はいたしますわ」


「つまみ出すぞ」


 正直帰って欲しいけれど、自体の収集とか報告があるためそれも不可。

 最近で一番しんどい状況かもしれん。


「そこまでよ。本題に入らないとアジュの好感度が落ち続けるわよ」


「それは不本意ですわ。では本題に入りましょう。わたくしからでよろしくて?」


「ええどうぞ。ついでにお茶をいれましょう。最近はまっておりましてな」


 パイモンがめっちゃ恐縮している。

 そんな魔界組を気にすること無く、楽しげにお茶の準備を始めるメフィストさん。

 この世界強いやつほどフリーダムだな。


「うーむ、いい香りだ」


「お茶菓子もありますのね」


 茶菓子を目ざとく見つけて寄っていくヒメノ。


「お前マジで帰らせてやた子呼ぶぞ」


「やた子ちゃんへの信頼度高くありませんこと?」


「なんだかんだ世話になっているからな」


「悪い子じゃないよね。フリストちゃんもいい子だし」


「魔界土産でも買っていってやるかね」


 はい話が逸れました。収集つかないんですけど。


「嫌われないうちに進めますわ。まず機関と繋がっていたという資料と剣はどちらに?」


「これか?」


 ニュートリノソードを出してやる。ちょっと欠けたけど我慢して欲しい。


「それとこれじゃ」


 資料も提出。しばらく見たり触ったりしているが、わかるもんなのかね。


「間違いありませんわ。これを証拠品として持ち帰ります」


「スルトから貰ったっつってたぞ」


「言うておったのう」


 あんな強欲カラスと繋がっているのだ。どうせろくなやつじゃない。


「あれも邪神よりですわ。アテナと会っていた神のリストにも入っておりますし」


「限りなく黒ね。そちらは神の間で解決できるものかしら?」


「できる限りやってみますわ。人間をごたごたに巻き込むのは不本意ですもの」


 ヒメノは破天荒を極めているが、善人寄りである。

 無益な殺生とか、破壊略奪なんかをする神ではない。

 侵略や征服などもしようとしない。

 そこだけは評価する。割と役立つこともあるし。


「頼むから鎧で解決するような事態にはしないでくれ。本当に深入りしたくない」


「当然ですわ。アジュ様は自由気ままに学園生活してくださいまし」


「じゃあ機関の色々は任せるぞ」


「任されましたわ!!」


「では次は私ですかな」


 全員分のお茶持って戻ってくる。

 動作全部がハイソサエティだな。

 お茶も本当にいい香りだ。フルーツの匂いが混ざっている。


「これはまた……」


「おいしいです! 口の中がすっきりして」


「心が落ち着くタイプのものじゃな」


 全員リラックス。萎縮してしまう魔界組を気遣ったのかも。

 本当に気配りのできる紳士だ。かっこいいぜ。


「まず魔王討伐の件ですが、話を聞く限りまた無茶な要求をしていたようですな」


「また?」


「最近過激なやり方を続けておりまして、近々戦争になるやもと。密偵に調査させておりましたが、数年前から急に増長し始めたらしく……その頃にはもう機関と繋がっていたのでしょう」


「ありそうですわね」


 準備が整ったと思っていたのだろう。

 自分には神も機関もついていると。それがまるごと疫病神なわけだが。


「……カジノって資金調達施設なんじゃね? 金の動き探ったらアテナ出てこないかね?」


 なんとなくバックボーンが存在するなら、カジノという大金せしめるにはうってつけの場所があるんだし、装備や実験に使われていてもおかしくはない。


「それですわ!!」


「おぉ……隊長がまともで真面目ですー」


「たまに物凄く勘がいいよねアジュ」


 こんなもん調べていけば後で出てくるだろう。ちょっと大げさじゃないかね。


「早速調べておきます。不正に手を染め、魔界に反乱を企てていたとしてナベリウスは処罰されたことにいたしましょう。領地は私預かりとし、いずれ再配分いたします」


「あとは通行証か」


「そちらも全員分お持ちしました。学園まで問題なく通れるはずです」


 こんなにほいほい事が運ぶとは驚きだ。

 えらい都合よく終わってくれるもんだな。


「アテナと黒幕の思惑が、ほんの少しでも判明すればいいのですが」


「そもそも機関入り込みすぎじゃね?」


「いくらなんでもこう世界各国にいるものなのかしら?」


 外出すると高確率で遭遇する。

 これは呪いのたぐいですかね。ちゃんと業者さんは機関処分しておいて。


「魔界はほぼ潰し終えておりますよ。残党もほぼ消え、おそらくアテナとスルトが匿っている分で終わるかと」


「どうせ黒幕は機関ではありませんわ。どこかで機関ごと使い捨てられるでしょう」


「お約束だな。後は今後の予定か」


「ボクは一度領地に帰ろうかと。色々と処理しなければいけない問題もありますし」


「お兄様に変わり、責任持ってご案内いたします」


 頑固というか律儀だなこの子は。

 パイモンと一緒に帰っておくのが安全だと説くが、それでも引かない。


「ではわたくしも一緒に行きますわ!!」


「来なくていい。お前は仕事あるだろ」


「うううぅぅぅ……二人の愛は離れていても永遠ですわ!!」


「ないんだよ愛なんて」


 こいつの奇行を全スルーできる魔界組は、凄いを通り越してかっこいいわ。


「しばらくこの地は忙しくなるでしょう。昼までには次の領地へいくことをおすすめいたします」


「今回ばかりは仕方がないか」


「大丈夫。ちゃんと起こしてあげるから」


 俺に早起きはできるのだろうか。

 とりあえずシルフィに任せよう。


「何から何までお世話になります」


「これは本来こちら側の仕事ですから。ある意味不手際なのですよ」


「魔王と神々で始末をつけなければいけないはずなのですわ」


「このお礼はどこかでしないといかんのう」


「そうだね。わたしたちばっかりお世話になっちゃって」


 メフィストさんが紳士だからかね。どうにも借りを作りっぱなしは気分が悪い。


「お礼! アジュ様に何かして貰える権利ですわね!」


「でしたらラグナロクにいらしてください」


 ヒメノがボケる前に提案してくる。

 ナイスカットですメフィストさん。


「そういえば誘われていたわね」


「戦いたくない……マジで目立ちたくない……けど恩はある」


「今回も招待客はたくさんいらっしゃいます。特別目立つことはないかと」


「皆様王族ですもの。むしろいて当然の空気がありますわ」


「神とか魔王の戦いだろ? じゃあ……こいつらを戦わせたりしないで、本当に大会見るだけなら……」


 かなり悩みどころだが、このまま恩も返せないとどうなるかわからんし。

 正直興味がある。ほぼ行く方向でギルメンとも相談していた。


「そこまで心配しなくてもいいのよ」


「そうだよ。出るなら頑張るよ!」


「無駄に心配性じゃな」


「そりゃ俺だからな」


 あまり目立たせると何が起こるかわからん。

 神が集結するなら身内ばかりで固めておけばいいのだろうが。

 それでも不測の事態ってのはあるもので。


「ちゃんと気軽に参加できる催しもありますわ。当日はわたくしもやた子ちゃんもフリストちゃんも、ラーやポセイドンも来ますわよ」


「魔界からもアモン・バエル・パイモン・マーラ・アスモデウスなど出られる限りフルメンバーでございます」


 逆に萎縮するわ。そーっと行ってそーっと帰ってくればいいか。


「フウマとフルムーンも出るわよ。確かヤマトからも来るはず」


「マジでフルメンバーかよ……なら事故に巻き込まれる可能性は低いか」


「むしろそこで喧嘩売れば死ぬじゃろ。お祭り台無しになるわけじゃ」


「わかりました。行きます。ラグナロク」


「お待ちしております」


 開催までまだ結構時間がある。

 魔界漫遊して帰っても問題はないだろう。

 後は簡単な打ち合わせがあって、ようやく終わり。


「では引き続き魔界を楽しんでください。旅の資金は足りているでしょう?」


 言外に荒稼ぎしたことがばれていると言われている。

 情報網どうなってんだろ。


「返さなくてもいいと?」


「それはカジノで稼いだもの。ここのルールに則って手に入れたものですから」


 どうやら金は返さなくていいらしい。もう分配しちゃったからね。

 手間かからなくていいや。


「それでは遠慮なくいただきます」


 七千億くらいあったので、まずギルメン四人でそれぞれ千億に分ける。

 将来のために二千億貯金。

 パイモンとナスターシャに迷惑料と口止め料として十億。

 これ以上の受け取りを全力で拒まれた。

 客や兵士にばらまいた分をさっぴいたら、後は生活費にあてる。

 武器とか備品とか必要になるからね。


「助かりました。ヒメノもな。土産でも買っていく」


「楽しみにしておりますわ!」


「メフィスト様もありがとうございました」


「それではまたお会いできる日を楽しみにしておりますぞ」


 全員でお礼を言って見送る。

 ひとまずなんとかなりそうで安心した。


「疲れた……今日はもう寝るぞ。明日だ明日」


「そうですねー色々あって大変ですよ」


「ゆっくり休んで、明日の朝学園に帰るのじゃ」


「ちゃんと起きるのよ?」


「全面的にシルフィに任せる」


「がんばるよ!」


 寝よう。さっさと寝て、明日家に帰ろう。

 それで普通の学園生活に戻れる。

 そんな期待をしながら、さっさと寝る準備を始めるのであった。

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