後始末する人のことも考えよう

 本物の魔王……名前なんだっけ。

 まあカラスと戦うわけだが。


「これが我の真の姿だ!!」


 なんか青黒い髪と羽のイケメンになったよ。

 全身の毛が鳥っぽい。足も鳥だこれ。


「まあ魔力が上がってんね」


「ぶっちゃけ地味じゃな」


 パイモンの方が強い疑惑。

 金髪黒ゴスロリの男より弱い魔王ですよ。

 心へし折れるだろそれ。


「あの肥えた豚が使っていたものとは比較にならん秘宝を見せてやろう!!」


「豚言ってやるなよ」


 なんか緑色に燃えている剣出してきたぞ。

 妙な炎だな。魔力でもないし、普通の発火ではない。


「スルト様が考案なさった炎の剣! この剣に切れぬものはない!!」


「うーむ、液状ニュートリノじゃな」


「なんだそりゃ?」


「よくわからん事を言うな小娘」


 敵もわかっていないみたいだぞ。

 よくわからんものをノリで使うなよ。


「なんか聞いたことある気がするぞ」


「まあ物凄いエネルギーじゃよ。それを科学の力で自然界から抽出し、液状にして循環させておるのじゃ」


「そうなのか?」


「スルト様は高度に専門的な知識をお持ちだ。我々には想像もつかぬ」


 完全に知らずに使ってんじゃねえか。


「機関の製品……試作品かのう」


「何だそっち側の敵か」


 どいつもこいつも機関のおもちゃを持ち込みやがって。

 はっきり言って迷惑です。異世界さんの景観壊れるだろ。


「スルト……スルト……なんだっけな。どっかで聞いたような……」


「戦いの最中によそ見か。くらえい!」


「こんな感じで?」


 剣を突き出してきたので、口を開けて前歯で挟む。


「なんだとおぉ!?」


 先端から少々噛み砕いてやりまして。


「フッ」


 スイカの種みたいに飛ばしてやる。


「ぬがああぁぁぁ!?」


 魔王に耐え切れるものではなく、全身傷だらけになっていらっしゃる。

 せっかく進化したのにぼろぼろだねえ。


「雑じゃな。戦いが雑じゃ」


「だってさっきのおっさんでもう満足だし」


 ぶっちゃけやる気ないです。

 ストレスは発散されちゃったし、もう殺して帰ろうかな。


「機関とどう繋がっておるのか聞くべきじゃな」


「あー……そうだ。注射器だ。あの注射器の声からスルトって聞こえたんだ」


 いつだったかの戦闘でスクルドが出してきた注射器。

 あれから聞こえた名前だったはず。


「完全に黒じゃな。あやつの羽より真っ黒じゃ」


「管理機関の下っ端なのかい?」


「これはスルト様より頂いた秘宝! 機関などという汚物の吹き溜まりごときと同列に扱うことは許さん!!」


 本人知らないパターンかな。

 なんか右腕が緑色に発光していらっしゃる。


「我が右腕はスルト様によって改造に改造を重ね、宝剣と同じエネルギーが流れている。これにより火力は更に増す!!」


「さっきちょっとかじっちゃったけども」


「あれ証拠品になるじゃろ」


「じゃあ剣だけ奪うか」


「ぬかせ! 地獄の業火をも超える焔よ! あの愚か者を焼き尽くせ!!」


 炎が渦巻き、周囲を溶かしながらこっちに迫る。


「いや城壊れちゃうだろ」


 右ストレートでカラスの左半身ごとふっ飛ばした。


「べぱいっ!?」


 おぉ……なんか生きている。やはり人間とは構造が違うのだろうか。

 剣と右腕から光が流れ出し、血液のように循環したかと思えば肉体を構築していく。


「おおー、なんか綺麗だな」


「右腕がニュートリノ循環を助けておるのじゃな。左腕まで元通りじゃ」


「鳥だけにニュー鳥の腕か?」


「うーわ言うてはならんことを」


「だって飽きちゃったし」


 もう脳がちゃんと考えることを拒否し始めている。


「もう許さん! あのハゲとその家族のように、貴様を惨たらしく醜い肉塊に変えてくれよう!!」


「うっさい」


 今度は確実に死ぬように魔力を込めて殴る。

 剣だけは先に奪ってからな。


「あびゃっはあああぁぁ!!」


 粉微塵に吹き飛んで、魔力が跡形もなく消えていく。

 完全に殺しきったけどさ。


「魔王って強さに差がありすぎじゃないか?」


 これとアモンさんは確実に同格じゃない。

 剣やニュートリノのバフ効果があっても、おそらくアスモさんに届かないだろう。


「修練を怠るからじゃな。おぬしも金に物を言わせて贅沢三昧だとこうなるのじゃ」


「マジかよ金使わないよう二度寝しよう」


「終わったみたいですねー」


 パイモンたちが柱の陰から出てくる。

 おかしいな。正面の扉から出ていったような。


「おう、終わったぞ」


「お疲れ様。でもあんまりひどいことしちゃだめだよ」


「お……おつかれさまですわ……どこかお怪我は……?」


 ナスターシャが完全にパイモンの後ろで怯えている。

 嫌な予感がしますね。


「おいまさか」


「隊長を助けるんだーってナスターシャが戻っちゃいまして」


「追いかけたら戦闘中だったわ」


 あっちゃー……見られたか。

 他人に見られると面倒なんだよなあ。

 言いふらされると……いや信じないか。でもいい気分じゃない。


「どっから見ていた?」


「爆笑しながら息子さん爆破したところからですねー」


「お部屋に入ったら爆発してたよ」


「結構長いこといたな」


 言いふらすタイプじゃないだろうし、パイモンは俺の力を知っているのでまだいい。ナスターシャをどう説得するかな。


「あーなんだ……あんまり俺が強いと他人に言わないで欲しい。ごく普通の一般人でいたいんだ」


「畜生行為の後では無理があるじゃろ」


「は、はい……その……わたくしは何も見ておりません。聞いておりません」


「そんなに怯えないでくれ。ナスターシャに何かするつもりはないんだって」


 いかんぞ。すげえ怯えられている。そんなドン引きします?


「わしら以外ならそういう反応が普通じゃぞ」


「アジュの常識はちょっと偏り始めています!」


「マジか。ちょっと気をつけるわ」


 どうせ親子三人抹殺するからいいやとはっちゃけてしまった。

 うーむ、ちょい自重しようかなあ。


「大丈夫ですよナスターシャ。隊長は理不尽な難癖つけて攻撃しなければ無害です」


「そうそう。魔王の妹なんだからもっとどーんと構えていな。俺のことなんか忘れりゃいい」


「善処いたしますわ……」


 まだ表情が硬いが、この子は無理に俺と関わる必要がない。

 さっさと忘れて楽しく生きていってくれ。邪魔する気はないからさ。


「とりあえずここを離れましょうか」


「そうだな。いつまでもいると誰かに見つかっちまう。宿まで撤収だ。金は……」


「全部換金しておいたわ」


「ナイスだ。んじゃ急いで離れるぞ」


 ついでに炎の剣を回収し、少し離れた高めの宿に泊まることにした。

 全員俺の部屋に集まって、今後の作戦会議を始める。


「まず機関のことを報告して剣を渡す」


「そっちはもうヒメノ一派に連絡済みじゃ」


「んじゃそっちは任せる。後は何だ?」


「魔王殺しちゃいましたけど、どうするんですかー?」


 そっちか。悪人だったからで全員納得してくれないもんかね。


「極悪人の外道だったからで……押し通せるもんでもないか? っていうかカラスの方とおっさんの方どっちが問題になるんだ?」


「ボクはカラスが本体だと知りませんでしたし、ひげおじさんの方では?」


「どちらでも問題ないのじゃ。本来機関はこの世界に来るだけでも重罪。ましてや結託して悪事を働こうとしていたなど絶対に許されぬ。それに資料は手に入れてあるのじゃ」


 何枚もの資料が机に広げられた。

 それはおっさんの悪事や密売ルートの資料だった。


「舞台の準備を終えた時に、必要じゃろうと探しておいたのじゃ」


「よくやった。ナイスリリア」


 リリアさん渾身のファインプレーである。

 なんか近寄ってきたので撫でてやろう。


「にゅっふっふ、わしの凄さを噛みしめるがよい」


「いいなーリリア」


「次は何だ?」


「この国どうするんです? 国王いなくなっちゃいましたよ?」


「パイモンがもらっちまえば?」


「いらないです。それじゃボクが攻め込んだみたいです」


 こういう事後処理ってめんどいよね。

 つっても一方的に魔王に喧嘩売ってきたからなあ……おっさんが悪いだろ。


「身内のごたごたに巻き込んでしまって、本当にお詫び申し上げますわ」


「気にするな。これは流石に予想できんだろ」


「誰もあなたを怒るつもりはないわ」


 こいつも被害者だしな。不意打ちでクソムーブかまされたかわいそうな子だ。


「かくなるうえは、責任持って学園までおともいたします」


「……あんまりおすすめできん」


「でもどうやって領地から出るの?」


「そうか通行証ないのか」


 通行証そのものは魔界で存在している。

 だから正規の手段で出るなら必要。

 でも発行するやつが死んだ。


「うーわめんどい。偉いやつ殺す時は退路考えるべきだな」


「まず殺すのを控えるのですよー」


「そりゃそうさ。けれど今回は特例だ」


「すべてはヒメノが来る明日じゃな」


 そこで扉がノックされる。

 反射的に魔王兄妹以外が戦闘態勢になった。


「ヒメノか?」


「早すぎるじゃろ」


 小声でリリアに問うも否定される。

 ヒメノ一派なら何か喋るはずだ。

 みんな声を潜めている。


「失礼、サカガミ様とパイモン様のお部屋で間違いございませんかな?」


 男の、どちらかといえば老人に近い声だ。


「…………メフィスト様ですかー?」


 パイモンが反応する。

 確か魔界ナンバー2で、マコの件で会っているはず。


「魔王ナベリウスの件で参りました。事後処理にお困りでしょう?」


「すげえ胡散臭いぞ……どうする?」


「外の魔力は御本人のものです。魔王として、お会いしないわけにはいきません」


「メフィストフェレス様……初めてお目にかかりますわ……」


 ナスターシャがさっきまでとは別の怯え方をしている。

 魔界ナンバー2は伊達じゃあないのね。


「考えても仕方がないか。いつまでも外で立たせるわけにも……」


 そこで窓の外が光る。めっちゃ光る。

 全員で部屋の中央まで退避した。


「今度は何ですかー!?」


「どうされました?」


「非常事態です! 最悪戦闘になる! ドアから離れていてください!」


 心配そうなメフィストさんに返して窓の外を見る。

 やがて光が収束し、窓を開けて人の形へと変わっていく。


「わたくしが……ピンチのアジュ様のもとに! 颯爽と登場いたしましたわああぁぁぁ!!」


 ヒメノだ。眩しいしうるさいしうざい。三重苦だ。

 リアクションできず固まる俺たち。


「失礼! どうされました!」


 騒ぎを心配してメフィストさんが入ってきた。

 うわあ……どうしてくれんのさこの状況。

 ちゃんと説明できる自信ないぞ。

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