アイスオブヘブンを超えろ

 なんかヒメノとザトーさんが来た。

 ソニアとクラリスも来た。

 もう帰りたい気持ちでいっぱいですわ。


「これは死ぬかもしれんぞ」


「いやあきっついねえ。クリアできねえんじゃねえかな」


「わたくしの愛で癒やして差し上げますわ!」


 ヒメノが回復魔法をかけてくれる。

 最上級神だけあって、ストレスも疲労も完全に消えてなくなった。


「おー……こういうのできるんだったな。助かる」


「女神ですもの!!」


 身振り手振りが大げさでうざい。

 しかしどうしたもんかね。素の状態で戦えるやつがいないぞ。


「アイスオブヘブン」


 はいもう無理。一面銀世界でございます。どうしろというのかね。


「詰んだな」


「いやあオレもきっついわ……」


「別に殺しゃしないさ。そんなことしたら大問題だよこれ」


 どこまでもにこやかなザトーさん。

 そっちに殺す気がなくても死ぬからね俺は。


「リベリオントリガー!」


 さっさとライジングギア発動。これでどうなるとも思えんが。


『言い忘れたけど、別にガチバトルとかしなくてもいいぜ。勝てなくてもいい。満足いくレベルアップができりゃいいんだよ。壁を超えな!!』


「と、解説も言っている」


「ヴァン、私とクラリスが見ててあげるから、ちゃんとやりなさい!」


「身体の心配はしなくていいわ~」


 いざという時の救護役と融合待機だそうだ。

 あっちはあっちで色々事情ってもんがあるのだろう。


「やるしかねえな。フレアエクスプロージョン!!」


 ヴァンの全身が赤いオーラで包まれる。

 強化魔法だろうか。結構苦しそうな顔だが、制御が完璧じゃないのだろうか。


「身体能力を爆発的に上げるために、魂が燃え上がり続ける。全身火薬庫にして、推進力も爆上げする。アジュとシャルロット先生の魔法を見よう見真似でやってみたぜ」


「無茶しやがる。これも若さってやつかねえ」


「それノーリスクじゃないだろ」


「おう、素のセンスはアジュの方が上みてえだな。身体がきしむぜ」


 ヴァンがいれば勝機はあるかもしれない。

 あっちも殺すことが目的じゃないだろうし、最悪逃げる手段はある。


「いいねえ若いって……不老不死の話受けりゃよかったぜ」


「来たんですか」


「知り合いの神からな。まあなる時は若返って受けるさ」


 自由だなこの世界。ごく普通に不老とかいるんだろうなあ。


「おしゃべりはここまで。気合い入れてかかってきな」


 ザトーさんの身体が氷の中へと消えていく。

 するりと水中を漂うように浮き、溶け込んでいった。


「アイスロック」


 全方位を氷の壁が塞ぎ始めている。

 まずいな。一点突破で脱出しよう。


「ライジングドリル!!」


 削ってみるが、思いのほか分厚い。


「爆拳!!」


 ヴァンの加勢があって大幅に砕けるも、まだ外にたどり着けない。

 むしろ穴が埋まりつつある。


「これはあれか……びっちり氷で埋まってんのか」


「正解だ」


「がんばってくださいまし!!」


「もっと気合い入れるのよヴァン!」


 声援が聞こえるが、氷に阻まれて姿は見えない。


「簡単に言ってくれるぜ」


「めんどい……苦労とか嫌いだ……ふっ!」


 雷の矢となって上空へ。それを見たヴァンも飛び上がる。


「うーわ……」


 やたら広い塔の最上階を埋め尽くさんばかりに氷である。


「ライジングナックル!」


「全力ぶった切り!」


 自然と同時に下へ攻撃。氷が爆裂する様を見届ける。

 だが壊したそばから冷気が復元させていく。


「終わんねえだろこれ」


「そろそろ攻撃もしてみるかねえ」


 氷の壁からおびただしい量の氷柱が飛んでくる。


「ライトニングフラッシュ!!」


「炎烈旋風斬!!」


 ライトニングフラッシュでも消しきれない。

 炎の竜巻が爆発しながら暴れてくれるおかげでなんとかなっている。


「アジュ、足場くれ」


「自力で飛べないのか」


「勉強中だ」


 腕を一本作って伸ばし、でっかい手のひらを足場にしてやる。


「サンキュー。これなんで痺れねえんだ?」


「俺が表面を魔力でコーティングしてやってんだよ」


「何から何までほんと悪ぃな」


「そう思うならもっと氷柱をぶっ壊せ」


「仰せのままに。イイイイヤッハアァァ!!」


 ここでちゃんと足場から飛んで攻撃してくれるところがポイント高い。

 正直暴れるヴァンを支えきれないからね。


「減らねえ……壁の相手は飽き飽きだぜ」


 強化されたヴァンは徹底的に氷解を破壊していく。

 圧倒的かつド派手な光景だ。


「なら兵士をプレゼントだ」


 氷でできた兵隊が、氷の階段を登って攻めてくる。

 実態のあるイロハの影みたいなもんかね。

 つまり敵に回すと最悪だ。


「サンダースマッシャー!」


「燃えちまいな!」


 兵士そのものは弱い。氷を細かく兵士の形にしているからだろう。


「足場が少なすぎる。こりゃきついぜ」


「せめてそれだけなんとかなりません?」


「そこは創意工夫ってやつさ。これでも手は抜いてるんだよ」


 足を杭に変え、地面に数本刺す。


「これでなんとか……」


「足が冷えると体に悪いぜ、若くてもな」


 氷が急速に電撃を囲う。


「あっぶね」


 あわてて氷結部分を分離して空中へ。

 これクソめんどい。


「ヴァン、地面思いっきり燃やせ」


「どうするつもりだ?」


「このままじゃやられる。一気に降りて強い技で徹底的に壊す」


「乗った」


「乗らせないよ」


 氷の拳が飛んでくる。もう一軒家くらいのでかさじゃないか。


『ソード』


「ヴァンは下な」


「引き受けた」


 カトラスのスロットを三個貯めておいた。

 いつもの剣も出して、氷の両拳を切り裂いてやる。


「雷光双閃!!」


「爆炎全力斬り!!」


 本日一番の大爆発が巻き起こる。

 水蒸気が立ち上る中で、久々に地面を踏みしめた。


「さてどうするキャプテン」


「誰がだ。本体がいるなら倒せば終わりだが」


「全部が本体だったら?」


「背筋が凍るね」


「足元みたいにか?」


 再び凍り始めている床を踏みつけ、炎と電流を流す。


「もう一息ですわアジュ様!!」


「そのままじゃ負けるわよヴァン! 本体探すか、まとめて消しなさい!」


「オレこの状態維持すんのきっついんだが……」


「雷が妙に相性悪いぜ。ちょいと厳しいか」


「ならばこれを貸そう。若人よ」


 どこかで見た神様が、ハンマーを近くの床に投げてきた。


「トール? 急に出てきてどういうつもりですの?」


「同じ雷ということで興味が湧いた。特別にミョルニルを貸そう。使いこなせるとは思わぬが、足しにはなる」


「アジュ様はわたくしのですわよ」


「お前のもんじゃねえよ! ハンマーはありがたく借ります。助かります!」


 柄を握っただけでわかる。やっべえ神器だ。武器の格が違う。

 ソードキーほどじゃないが、同じハンマーは絶対に作れないだろう。


「ここまでダイレクトに魔力が伝わるか」


 今まで使った分が上乗せされて、増幅までされるというおまけつき。

 完全に回復した。むしろ絶好調だよ。


「ヴァン、できる限り上に飛べ。ちょっと横にずれるんだ」


「また空の旅かい?」


「冥府の旅になるよかマシだろ」


 軽い。あまりにも軽い武器だが、いける。

 絶対にこれでいけるという確信がある。

 ヴァンが天高く飛んだことを確認し、盛大に後先考えずに、ハンマーを床に叩きつけた。


「だああぁぁりゃああぁぁ!!」


 塔から放たれる雷の塊は、雲を突き抜けて雷光の柱を作り出す。

 氷の欠片すら残さず焼き尽くした。


「こいつは……やばいな」


 語彙力が消えるくらいやばい。

 全力放電で一切疲れていない。魔力が減っていないんだ。


「いくらでも撃てるなこれ」


「そいつは困るねえ。トールは反則じゃないかい?」


「そろそろいいか。来いソニア! 身体が痛くてきっつい!」


「はいはい、無茶して未完成の強化魔法なんて使うからよ」


 魔法剣士ヴァニア登場。これで形勢は逆転した。


「がんばって~ソニア~」


「ついでに足場も確保しよう」


 いつもの剣で俺たちの周囲を斬る。

 円を描くように、侵入する魔法だけを消すように。


「ん? 氷が進まない? 隠し玉多すぎないかい」


「ザトーさん、ここから限界まで暴れます。本体は退避させておいてください」


「面白い。やって見せてくれ」


 限界を超えてみよう。できるかどうか知らんけどさ。

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