新武器と魔法で暴れてみよう
トールからハンマーを借りたので、氷の山を崩していこう。
「そーれい!」
壁に叩きつけると、プラズマイレイザー並の電流がすっ飛んでいく。
それでいて魔力消費ゼロ。むしろ回復する。
「いやあ気持ちいいなこれ」
「オレも暴れるか。魔法剣!!」
赤いムチのようにしなる剣。あれも神器だからか、自在にヴァンに応えてくれる。
「オラオラオラァ! もっと出力上げていくぜソニア!」
「徹底的に砕く!!」
そびえ立つ氷山が粉々になっていくのは、ストレス発散にちょうどいい。
「ちょーっとピンチかね。やるじゃない」
「いいですわー! イケメン度120%増しですわよー!!」
「よっしゃさらに魔法剣を!!」
「わしの黄金剣を粗末に扱うでない!」
まーた知らない人増えたよ。
杖持っている三十代くらいの若々しさを保った中年かな。
「ザババか。やはりあの趣味の悪い剣は……」
「趣味の悪い? 金こそ頂点。金こそ王の証。すなわち神が持つに相応しきは金よ!」
「わたくしもちょっとどうかと思いますわザババ」
「アマテラスにセンスで引かれただと……そんなに金はまずいか?」
ザババという名前らしい。
トールとザババは知りあいらしい。
らしいばっかりだよ。だって会話聞いただけだし。
「そこの小僧! イシスの力に頼ってばかりで、全然わしの剣の魅力が引き出されておらん! もっとハッスルせんかい!!」
「ハッスルつったってなあ。具体的な手段とかあるかい?」
「柄のレリーフを両方中央に寄せて、左に二回。右に一回じゃ!」
言われたとおりに実行するヴァン。
すると剣がばらけ、刃が一定間隔で分離しているムチ……蛇腹剣とかいう形状に変わった。
「おぉ! こんな機能あったのかよ!!」
「なぜ知らん? 武器継承者に教わらなかったのか?」
「アキレウスとギルガメシュとかいうやつらだったはず」
「あのクソガキどもか! そりゃ知らんわけじゃわい!」
どうやら悪ガキらしいな。思い起こせばフリーダムなやつらだったなあ。
「まあいい。オレは使えるもんなら使っていくぜ!」
振り回される剣は、それはもう威力も速度も段違いだ。
するりとすり抜けるように氷を切断していく。
「ありゃりゃ、これは予想外だねえ。もうちょい意地ってやつを見せようかい」
上から氷塊が、下から巨大な氷の棘が襲う。
剣で切ったとはいえ、は院外の攻撃は逐一迎撃するしかない。
「さばききれんな……ヴァンが頼りか」
「サカガミといったな。限界まで魔力を無駄に放出してよいぞ。魔力切れの心配がないからこそ自由に開放してやれ」
「普段試せないことを好き放題やってみるチャンスですわ! 新魔法のためにもドバーっとやっちゃってくださいまし!」
なるほど。確かに今なら魔力切れはない。
日頃試したくても踏ん切りがつかない事もできるか。
「やってみます」
ハンマーにできる限り魔力を放出して固着。
供給源があるため無限に続く。
ある程度までいったら身体を雷化。
「さて、どうなるかやってみようじゃないか!」
ハンマーに貯めておいた魔力を俺に流し込む。
地面でも敵でもなく俺自身にだ。
「おおおおぉぉ…………こいつは……」
いける。魔力不足やコントロールの難しさを完全に補ってくれている。
今まで漠然としたものを慎重に操作していたが、これは新境地だ。
「何だ? アジュのやつまた変なことおっ始めやがったぜ」
「私にもいまいちわかんないわ」
「……面白い。ミョルニルを渡して正解だったか」
雷化状態で戦うだけなら、ライジングギアでいい。
そこからさらに先は勇者システムとの兼ね合いだ。
それだけでも魔力消費と操作が困難なのに、雷の純度を上げないといけない。
そのすべてが改善されている今だからできる。
「ここだあぁ!!」
ハンマーで氷山をぶっ叩く。叩くことを選択した。
「ぬっ!? おぉ……どういうことだこりゃ……」
ザトーさんの戸惑う声が聞こえる。
ダメージが入ったのだろう。氷山はほとんど壊れていないのに。
「慌てて本体を分離させましたね?」
「わかるのかい?」
「ええ、選択肢が二個になりました。これで全開で撃てる」
天井知らずで魔力をブチ上げていく。限界など今の俺にはない。
勇者システムに適合し、氷山を狙って渾身の一撃を叩き込む。
「リベリオントリガー・マックスアナーキー!!」
塔を包むほどの雷光がほとばしり、完全に氷山が消えた。
目の前だけではない。塔に存在する氷が丸ごと消えたのだ。
蒸発でも粉砕でもない。本当に消えた。
ダメージを与えて殺したのさ。
「どうなってやがる……」
「ヴァン! 右にザトーさん!」
「あいよ!!」
反射的に右側へ攻撃しているヴァン。
その長いリーチの先には人間形態のザトーさんがいた。
「くっ、やってくれるねえ!」
見るからに神器っぽい長剣と銃がザトーさんの武器っぽい。
やはり普通に戦闘もできるようだ。
「アイスオブヘブン!!」
そして氷の牢獄が再誕する。だがあっちは俺たちを殺すことはできない。
どうしても手加減しての戦闘となる。
いかに達人といえどルール違反はできないのだ。
そこに活路がある。
「ヴァン、合わせろ。ザトーさんが本気出す前に終わらせる」
「どうすりゃいい?」
「俺と同時に適当な場所に攻撃しろ。氷山さえ狙っときゃいい」
「了解!」
再び生まれた氷をターゲットに選択。
放電を続けるハンマーと、赤く光る蛇のような剣が唸る。
「我道炎獄斬!!」
「雷光一閃!」
全方位を覆う氷を攻撃。豪快に割れる音と感触を残して消えた。
「おいおいやるもんだね。これ以上は殺しちまうし……こっちにも助っ人きてくれていいんじゃない?」
「乗ったよ。試練は過激な方が面白いよね」
全身真っ白な服を着た男だ。
無邪気な笑顔とでもいうのか、楽しそうに氷の上に立っているイケメンがいた。
「ジャックフロスト。面白そうだから参加するね」
氷とは違う。冷気だ。それも猛吹雪。
「うええマジかよ。アジュ、また攻撃だ」
「ダメだ。吹雪は現象で敵じゃない」
「正解。君すっごく面白いよ」
寒さは身体を雷にすれば感じない。
だが視界が悪いな。炎と雷で消そうにも、無限におかわりが来る。
「雪降らせてるあいつを止めりゃいけんだろ」
「やってみるか。プラズマイレイザー!」
位置はわかっている。勇者システムで選択して、命中判定に任せよう。
「おおっと!! これは……ちょっと痛いかな」
ハンマーで増幅して撃ってんのに通用しないか。
こりゃ厄介だな。
「大丈夫ですわ! 完全にやせ我慢ですわよ!」
「うるさいよアマテラス」
「しょうがない、今なら隠し玉が撃てるっぽいしやってみるか」
「お前まだなんかあんのかよ」
「ヴァンも見たことあるはず」
ハンマーさまさまですわ。普段の何倍も早く魔力を貯められる。
安定感が違うわ。
「ちょいチャージするから、敵の相手頼む」
「いいぜ。やってやる」
ジャックフロストに肉薄。壮絶な打ち合いを始めるヴァン。
「楽しいね……ここまで勝負になる人間がいるのか」
「ソニアのおかげさ」
「それもまた楽しい。人と神の形は様々だね。その可能性は希少で面白い」
チャージ完了。この純度で安定させなきゃ撃てないのか。
素の俺じゃまだきっついな。
「準備できたぜ。トールさん……でしたよね?」
「うむ、どうした?」
「これ俺も仕組みがわかんないんで、同じ雷で説明できそうなら後で聞きたいです」
「熱心だな。いいことだ。その勤勉さに免じて教えよう」
「助かります」
さて解説聞けるといいな。
ハンマーを前に突き出し、氷山へと一直線に解き放った。
「インフィニティヴォイド!!」
白い光が溢れ出す。まるで粘性でもあるかのように重いビームだ。
「アイスロック」
氷の壁を何の引っ掛かりもなく突き進んでいく。
前は上から垂れ流すことしかできなかったが、やはり神器は違うな。
「防げないか。こりゃ死ぬんじゃないかね」
ザトーさんの出す氷も結界も障害にはならない。
付着した虚無が周囲の氷まで飲み込んでいく。
「なんだいこれ? 吹雪が食べられてる?」
「俺もわからん」
「さがるのだザトー殿。雷光よ!!」
トールさんの落とした雷がインフィニティヴォイドを阻む。
「おぉ……何かに止められたのは初めてかも」
「よっしゃ、がんばれトールの大将。こっちは離脱するぜ」
ザトーさんが逃げようとする。せめて氷を消して逃げろ。
何増やしてから逃げようとしてんだ。
腹立ったので転移魔法陣に蹴りを入れて消す。
勇者システム使えば遠距離でも打撃が入るのだ。
「ヴァン、やっておしまい」
「あいよお!!」
「ちょちょちょマジかい。もうちょい優しくうううぅぅ!!」
魔力コーティングされた大剣で、ド派手に場外まで吹っ飛んでいった。
「さて……あとは魔法をどうするかだな」
トールさんと雷のぶつけ合いをしているわけだが、ちょっと俺優勢かこれ。
「雷すらも喰らうか。奇妙な術だ」
「とりあえずこれの止め方を教えて下さい」
「どういう意味かな?」
「制御できないんですよ。消そうとしても難しくて」
前もそうだったが、完全撃ち切り型で消し方がわからん。
「トールは頑丈ですわ。どうせ死にません。思い切ってぶつけちゃえばいいのですわ」
「黙っていろアマテラス」
「あいつ静かにさせる方法があれば大至急……」
「そんなものが教えられたら神界は苦労していない」
はい無理っぽいです。渋い表情から苦労がにじみ出ていますね。
「いま出ている分を全力で何かに当てちゃえば?」
「よし、神々のバリアーじゃ」
「よかろう」
ヒメノ、ジャックフロスト、ザババ、トールさんという豪華メンバーによるバリアが展開され、インフィニティヴォイドを止めてくれる。
俺はもう撃ち出しを止めたので、あとは残った分だが。
「ああ、これもまた愛の形ですわね」
「集中してんだからボケんな!」
ツッコミで威力増しちゃったよ。
本当にコントロール難しいな。
「お、小さくなってきた」
「バリアが液体に溶かされているようで気持ち悪いのう」
じわじわとスライムが消火しているような雰囲気も出している。
俺どうしてこんな魔法使えるんだろう。
「ぬううぅぅぅ……戻れミョルニル!!」
最後にトールさんがハンマーでぶん殴ると大爆発。
爆発するのか……いやあっちがそうしたのかも。
これは要研究だな。
「うわあバリアが粉々だよ。爆発させると飛散するねこれ。復元も難しい」
砕けた床を魔法で直そうとしたのだろう。だがその魔法を食い始める。
結局数分で消滅したので事なきを得た。
「アジュ様は素晴らしいということで、終わりですわ終わり」
「そんな雑に終わっていいのかよ」
「いいんだよ。これはこちらが満足するかどうかだから。楽しかったよ」
「これなら問題あるまい。ゆっくり休んで、やつらには気をつけてくれ」
「やつら? まだなんかあんのかい?」
「わしらはラーやポセイドンと同じ。連中を警戒している組じゃよ」
なるほど。だから実力試しに来たのか。
こいつは心強い。むしろ全部解決してくれ。
「わかりました。そちらもお気をつけて」
さっくり別れてVIP席へ戻る。
死ぬほど疲れたが、なんとか大怪我もせず終われたな。
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