試験終了と動き出す敵
なんとか試練を突破し、VIP席に帰還した。
もうしばらく動きたくない。
「帰ってきおったな」
「おかえり、怪我してない?」
「調べるからじっとしていなさい」
すでにギルメン三人が戻ってきている。
ジェクトさんやコタロウさんもいるな。
「試験どうした?」
「全員合格じゃ。ほぼ身内で戦ったからのう」
「そらよかった」
「は-……流石のオレも疲れたぜ。神ってのはバケモンだな」
ヴァン、ソニア、クラリスも転移してきている。
とりあえず全員怪我もなく終われてよかった。
「やつらに動きは?」
「無い。一切無いのだ。今の試練でも静観を決め込んでいた」
ゆっくり座って飲み物もらったら現状確認だ。
流石に試験中は外の動きを探れん。
「もうラグナロク終わっちまうぜ? なんも仕掛けてこねえ気か?」
「……神々の戦力を把握するためだけに来た、ということも考えられるね」
「ヴァルキリーは?」
「参加数は多かったよ。隠している子がいる可能性はおおいにあり」
ここまできてアテナ一派が手の内を見せない。
戦力的には見せているのだが、何も仕掛けてこないとは不穏だ。
「各国の密偵からも、人間界に異常なしと報告が来ているでござる」
「魔界も異常なし。肩透かしだね」
「アテナとアルテミスが偽物という可能性は?」
「無い。このハンサムは同郷の神だ。会場内なら絶対に間違えることはない。魔力も神力も本人のものだ」
『はーい勇者科のシャルロット・ヴァインクライドです』
先生が舞台中央でマイクを持っている。
まだ何かあるんじゃないかと少し身構えてしまう。
『ヤルダバオトだ。勇者科の期末試験はこれにて終了。全員合格だ。成長しているようで、シャルロットも喜んでいるよ』
『お疲れ様。ゆっくり休むのよ。まだまだ学園生活は長いんだからね』
「はあ……どうやら無事終わったようだな」
「だがこれでトラブルが終わったとは思えん」
終わってくれ。もう出番はないので、普通に観戦して帰りたい。
「今は休んでいてくれ。こちらで解決するに越したことはない」
「そうします」
「イシスたちもここにいていい。戦力は多い方がいいだろう」
「そんじゃお呼ばれしましょうかね」
そしてのんびりラグナロクを堪能した。
少しヴァンたちと席が離れているのは、確実に気を遣われているだろう。
『これにて全日程を終わります! お前らよく戦った!! 立派だったぜ!』
『とても素晴らしい大会でした。特に人間で戦い抜いた人は誇っていいでしょう』
『んじゃまた来年……はあるかどうか知んねえけど、次回で会おうぜ!! おつかれ!!』
花火と風船が空を彩り、拍手が沸き起こる。
俺たちもそれにならって拍手し、健闘を称え合った。
なんだかんだ来てよかったな。
魔法のヒントも得たし、有意義な時間だったよ。
『そんじゃ会場に転移ゲート開いていくから、保護者や守護神と一緒にそれぞれの……なんだあ?』
突然会場全体が光の柱に囲まれる。
柱の内側に入れられているようだ。
『おいおい随分でっけえ魔法陣だな。聞いてねえぞ』
どうやら予定外のことが起きているようだな。
会場内にざわめきが広がっていく。
「全員いるな?」
「無論」
「気を抜くでないぞ」
『緊急連絡! 会場がワープしています。どこか別の場所へ飛んでいる模様!』
「どういうことだ?」
何も感じない。転移させられているという感覚がないのだ。
得体のしれない魔力を感じるのは会場の外。
「箱の中身を個別に移動させるのではなく、箱ごと別の箱にくっつけるつもりなんじゃ。それなら箱を慎重に運べば中身は崩れんじゃろ」
『転移確認! 場所判明! 第三桃源郷!!』
「第三ってなんだよ!?」
桃源郷が複数ある事自体に疑問とかないのかお前ら。
「第三……? 確か宝物庫のような使い方をしていたはず……」
『王族貴族および人間の方々は、守護神や達人から決して離れず、一人にならないようにしてください! まとまって状況が落ち着くまで待機!! 神と魔王は近場の人間を守るように動いてください!!』
『これは訓練でもイベントでもねえぞお前ら! 神の意地見せやがれ!!』
「誰かが会場の外に出てるわ。同族の気配よ。複数いる」
アルヴィトが反応している。
つまりヴァルキリーがこの状況で会場から出ていることになるが。
「アテナは?」
「まだVIP席に」
「アルテミスがいないな」
「スルトってやつは?」
「わかりません。後半にはいなかったような」
つまりそいつらとヴァルキリーがどっか行ったと。
まずいな。何が起きるかわからんぞ。
「やつらの狙いは人間界でも魔界でもなく、天界の神器では?」
「なら追わないと!」
「敵味方がわからなくなるわ」
「会場内の探索と、外へ行く組を分けるしかないね」
面倒だ、物陰でこそっと鍵を使おう。何かあればこれで潰せる。
『ミラージュ』
『ヒーロー!』
「外が俺だろ?」
「わしが案内じゃな」
ここまで確定。どのみち誰かがついてきてくれないと土地勘がない。
「ならアルヴィトちゃんをつけます。桃源郷は広いので、ヴァルキリーの探知能力を持つアルヴィトちゃんが役に立つはずです」
「卑弥呼様の命令なら行くわ。アテナと敵対している勢力の誰かがいた方がいいでしょう」
神との橋渡し役は必要だな。案外適任かもしれない。
「わかった。んじゃ三人で行ってくる。二人はできる限りここから動くな」
「気をつけてね」
「危なくなったら連絡するわ」
ここなら上級神が多い。安全を確保してくれるだろう。
俺が外で手早く暴れて敵を始末すればいいだけだ。
それまでの時間を稼いでくれればいい。
「わかった。会場が安定したら援軍も増えるだろう。無茶はしなくていい」
「こちらはお任せください」
「しっかり護衛してるでござるよ」
「行ってきます」
そして三人で通路へ出る。人がいない。
VIP席と観客席で待機しているのだろうか。
「まずどこから行く?」
「一番近いやつに全速力よ!」
「失礼、ここは今……」
「あたしよ、アルヴィト。ラー様と卑弥呼様の」
係員さんっぽい人たちが止めに入る。
けどアルヴィトを見て道を開けてくれた。
「こちら側か。一番近い出口はこっちだ」
「ありがとう。ヴァルキリーは?」
「わからん。だがあまり出歩くと……うわあぁ!?」
なにもない空間に突然闇の渦が現れ、黒い羽の何者かが係員さんを襲う。
「ちっ、敵でいいんだよな?」
言いながら拳圧を飛ばして、敵だけを壁まで吹き飛ばす。
「あ、ありがとう……助かったよ」
「これは堕天使じゃな」
「全滅したんじゃなかったか?」
記憶が曖昧だ。魔界で大半は消したはず。
『緊急連絡。会場内に堕天使発生。神魔は原則五人以上で討伐に当たってください。非戦闘員は速やかに安全を確保するよう……』
『戦えないやつを守るのが最優先だ! 動けるやつは周りと協力してぶちのめせ! 邪魔なんだよ堕天使がオラア!!』
『食堂が、広いですね。近くの方は私が行くまで耐えてください』
『よっしゃダッシュで行くぞメジェド!!』
あっちはあっちで大混乱だな。これは急いだ方がいいかも。
「我々は念の為に神の所へ戻る。もうすぐここも戦場になるだろう」
「そちらもお気をつけて」
「無理するでないぞ」
別れを告げて会場の外へ。
そこは一面桃の木で埋め尽くされた世界だった。
「なるほど、理想郷って雰囲気だな」
綺麗な空。空気も澄んでいる。気温もほどよい。
風すらも別に思えるほどだ。
「観光は後よ。急いで!」
アルヴィトの前に堕天使軍団が湧いてくる。
ネトゲのザコ敵かお前らは。
「邪魔よ!」
西洋剣二刀流か。どこかで見た戦闘スタイルだな。
「せいっ!」
地面を蹴って飛ばした土が斧に変わり、堕天使を切り裂いていく。
「そういや全部乗せなんだっけか」
「うむ、全ヴァルキリーましましじゃな」
「言ってないで手を動かしなさい」
「もう終わったよ」
俺もリリアも敵は初手で全滅させている。
いまさらこの程度じゃ障害にならん。
「そういや強かったわね」
「案内を頼む」
「今日は案内役が二人じゃ。豪勢じゃのう」
「感謝しているよ」
さて確実に厄介事に首突っ込んじゃいるが、これも俺たちの平穏な生活を守るためだ。少しは気合い入れてやりますかね。
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