明らかに敵が弱いんですが
リリアとアルヴィトを連れて、桃源郷を走る。
「いたわ! あいつよ!」
少し先を女が走っている。軽鎧装備で、魔力や気配がもう人間じゃない。
「天界側の部隊? 想定より動きが早い。ここ任せるわよ」
「ちっ、わあったよやってやんぜ。止まれそこのボケども!!」
茂みからモヒカン出てきた。
とてつもなく馬鹿っぽい。殺していいやつの可能性大。
「意外と敵の質が悪いようじゃな」
「あぁ!! んだテメエはよぉ!! 調子こいてっと粉々にして食っちまうぞオラア!!」
「なんだこいつ?」
「テメエいまなんつったコラァ!! 誰に向かってこいつ呼ばわりしてっかわかってんのかオイ!」
「敵か?」
「邪神ね。それも名前すら知られていないような」
「悠長にお喋りしてんじゃねえぞタコが! 礼儀がなってねえなあ。一発かまされてえのかボケコラァ!!」
「こんな風にか?」
腹を軽く右腕で貫いてやる。
「うっぼえ!?」
「これでも食ってろ」
内蔵を抜き取り口にねじ込んでやる。
「あう!? おべ! うげえぇぇ!?」
「あの世でな」
裏拳入れて粉々にする。雑魚だな。こんな兵隊しか残ってないのか。
「追うぞ」
「あんた容赦ないわね……」
「悠長に遊ばないだけ成長しておるのじゃ」
さっさと追跡開始。さっきの後ろ姿が見えてきた。
「追ってきた? 本当に使えない邪神……こいつらをどうにかしろ。私はアテナ様の元へ行く」
アテナつったな。なら追いつかないように調整して逃げさせるか。
横を見るとリリアとアルヴィトも頷いている。
ここで意思疎通ができるのはありがたい。
「さあて足止めしなくっちゃあねえ」
骨まみれの鎧に虹色の翼を広げた変な男だ。
指輪も首輪も骨でびっちりで、ティアラが骨だ。
鎧に頭蓋骨が大量にくくりつけられている。
敵か味方かわからんが、面倒事には違いないか。
「派手ねこいつ……」
「派手、それでは褒めていることにならないなあ。どうかな君? この私の服装を見て、何か言いたいことでもあるんじゃないかな」
「別に。他人の趣味嗜好に興味はない。勝手にしろ」
どうでもいい。ぶっちゃけ服装どうこうじゃなく他人に興味がない。
「それは私がパンツ一枚で歩いていてもかあい?」
「どうでもいい。俺の邪魔だけはするな」
「ノータイムで言われると、なんとも不思議な気持ちだねえ。新感覚う。なあるほど。これが君たちに出会った……」
話長くなりそうなんで桃の木を見る。
「あの桃って食えるか?」
「うむ、健康になるのじゃ」
「ちょっとは興味もってくれなあい? 純粋に悲しいよ」
「木を傷つけないように取りたいな」
「そーっとそーっとじゃな」
桃をゆっくりゲット作戦開始。慎重にいこう。
「あの子たちはどうなっているのかな? 君だけだよ、私の話を聞いてくれるのは」
「あたしだって聞きたくないわよ。ああもう、ちょっと自由すぎるでしょ! 節度を保ちなさい!!」
「わかったよ。ほら一個やるから」
無事ゲットしたので一個渡す。
うまいなこれ。甘さとみずみずしさが絶妙のバランスで溶け合っている。
「あんたがわかんないわ……思考回路が普通じゃない」
「にゅっふっふ、こやつを理解できると思わんことじゃ」
「そういうことだ」
やはりリリアは特殊ケースだな。これを実感するのは嫌いじゃない。
「君は社交性とか無いのかあい?」
「無いよ」
「最近マイナスからゼロにしたところじゃ」
「これよりひどかったのね……」
桃うめえ。けど一個でやめとこう。飯が入らなくなる。
「生意気な態度もここまでだあよ。この骨はね、私が殺した999人の骨で作ったのさあ」
「そこそこ頑張ってんのな」
「老いも若きも泣き叫ぶ無力な女子供でも容赦なく殺してきた」
「えー……それカウントするのずるくね?」
「どういうことだあい?」
「無抵抗な女子供でいいなら、いっくらでもカウント増やせるじゃん。そこは強者999人とか殺そうぜ。しょぼいわ」
別に千人斬りくらい手間と時間かけりゃできるだろ。
そこで横着して子供とか斬ったらもう一気にイージーモードだ。
「アピールポイントが小さいよお前」
「そういう問題なの?」
「違うと思うのじゃ」
「だが天使や堕天使、魔族も殺しているよ」
「そんなもん俺でもやったわ」
魔王も神も国王も人間も斬ったはず。
個別に記憶している敵は少ないけどな。
「そもそも天使とか骨残んねえだろ。もういいつまらん」
「なら面白くしてあげないとねええ。骨牢獄!」
敵の骨鎧が開き、俺を迎え入れてくれる。
「じゃあお呼ばれしようかな」
がっちり掴まれ敵のそばへ。
骨ごときで俺を傷つけることはできん。
うーわ鎧の下全裸じゃねえかこいつ。
「きっしょ」
腹パンから上に振り抜いてアッパーにもっていき、上半身をふっ飛ばした。
「おっぴぇい!?」
下半身も魔力波で消した。
「やっぱ弱くないか?」
足止め要因が明らかに弱い。おかしい。
アテナとスルトとアルテミスとルシファーは確定で敵側にいるはず。
スクルドもいるはずだし、まだまだ戦力はあるだろう。
「温存しておるか、そもそも連れてきておらぬか、罠か」
「まあいいか。アルヴィト、案内頼む」
「わかった。こっちよ」
そしてまた背中が見えてくる。こいつの目的地は遠いのだろうか。
どこに行くのかも知りたい。
「もう来たのか。必ずここで足止めしろ。先はないぞ。私は行く」
「ああいいぜ。オレは他の半端もんと違ってきっちりやるよ」
お、そろそろゴールっぽいな。今度のやつは迷彩服の男だ。
装備からして軍人……ていうか腕に重火器あるな。
「あんたの装備、管理機関のものね。どこで手に入れたか白状しなさい!」
「ん~? 嫌だけど? 死ぬやつに話すとか時間の無駄だし」
ナイフを数本取り出し、魔力を込めて投げつけてきた。
適当にキャッチして握りつぶしておく。
本命は背後に回っている敵。
「わかりやすいなお前」
俺の首に迫るビームブレード。
その前に超光速拳を打ち込んであるので。
「ぶべじゃげん!?」
時間差でぶっ飛んでいく敵さん。
「おいおいマジでこのレベルかよ」
本格的におびき寄せる罠という線で考えるべきなのかもしれない。
「いってて……手加減されちゃったか。あまりなめないでもらえるかな?」
「なめられない程度に強くあってくれ。頼むから」
こいつ素の俺でもなんとかなる疑惑が浮上しつつある。
嘘だろ。雑魚モンスター以外に俺が倒せるやつなんて敵にいるのかよ。
「ヴァルキリーの反応は?」
「この先ちょっと行ったところね。止まっているみたい」
「目的地があるのじゃな」
「こっち無視してお喋り? 余裕だねえ。女の子は狙われないと思っちゃった?」
アルヴィトに狙いを定めたっぽいので、のろのろ動いている横っ腹に蹴りを入れる。
「うげえぇ!?」
ごろごろ転がっとります。油断させる作戦なのかな。
「君強いね。けど完全にオレを怒らせちゃったのはミスかなー。よく言うだろ」
男が変貌していく。黒くて犬っぽい体毛が伸び、顔が犬そのまんまになった。
「普段温厚でにこにこしているやつほど、キレたら怖いってなあ!!」
爪で攻撃してくるので右腕を切断してあげた。
そんなとがった爪とか生活するうえで危険だからね。
「なんだと!? うああああぁぁぁ!!」
「たまに物語とかで言われているな。お寒いよなそういうの」
動揺しているアホの顔を踏みつけてみよう。
頭がめきめきいっている。頭蓋骨が踏み砕けそう。
「普段温厚だろうが聖人君子だろうが関係ない。結局強いやつが強いんだよ」
「わ、わかった! 降参する! だから見逃してくれ!」
「アホかお前」
「悪人が心を入れ替えて真面目に生きるって言ってるんだよ。正義の味方なら、良識があるなら見逃してくれ。きっと誠実に生きるよ」
「あんたそんな言い訳が通ると思ってんの!!」
「都合のいい話だってことは理解しているよ。けどそっちは大義とか正義とかあるだろう? ここで殺すより、更生させて社会の役に立てようって気になって欲しいんだ」
アホだなあ。適当に首はねて殺そうと思っていたのに。
そういう小賢しさ見せちゃうか。
「いいぜ。どこへなりと行きな」
「アジュ!?」
アルヴィトがえらい驚いている。やはり俺を理解できていないな。
「ありがとう。君たちは高潔だよ。それじゃあ逃げさせてもら……」
このクズの両手足を切断した。
「うっが!? 何するんだ! 見逃してくれるって……」
「ああ見逃すさ。さあさっさと行けよ。行かないってことは、ここで死にたいってことだよな?」
這いつくばって血を吹き出しながらじたばたしている。
うむ、クズの悪党にはふさわしいな。
「まあこうなるに決まっとるのう」
「こんな怪我でどうやって逃げるんだ。頼むよ。そんなに改心するって言ってるものを殺すのは楽しいか?」
「ん~? 知らんなあ~」
うんうん、惨めったらしくて素敵よ。
屁理屈こねなきゃ楽に死なせてやったのにな。
さらに頭をぐりぐり踏みつけてあげちゃう。
「潔いねえ。逃げずに名誉ある死を選ぶか。褒めてあげよう。いい子いい子。悪人だけど」
「頼むよ。君の中の良心や正義の心に聞いているんだ。見逃してくれないかい? ちょっと魔が差したんだよ。金もらえるって言うし。頼む血が止まらないんだ」
「魔が差しちゃったり、金で言うこと聞くやつは危険だから消しておかないとな」
傷口に電流流してあげる。体が跳ねているのが少し愉快だ。
「あああああぁぁぁぁ!!」
「よしよし、これで血は止まったぞ。俺はなんて親切なんだろうな」
「オレが甘かった……この男……想像以上に狂って……」
「さようなら。その姿は虫けらみたいで面白かったよ」
足から五百億ボルトの電流を流し込み、骨すら残らず消しておく。
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁ!!」
「無駄な時間使っちまったな。行こうぜ」
「なんかアジュが一番邪神っぽいわね」
「否定できんのう。わしのフォロー台無しにしおって」
「俺は一般人だよ」
しばらく走るとヴァルキリーがいる。
とっさに木の陰に隠れた。
「あの建物は?」
新築っぽい小さな小屋がある。
金庫のようにも見えるな。
「いくつかある宝物庫だと思うわ。どうやって開けるのかわからないし、ちょっと様子を見ましょう」
「いいだろう」
さて敵の目的は本当にお宝なのかね。
こういうの探偵っぽくて楽しいな。
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