拠点戦終了

 ギルメンが知り合いとバトル中。俺はゴーレム潰しながら応援だ。


「よっ、ほっ! いよっ!」


 俺の一撃離脱戦法は健在。

 しかもゴーレムでダメージを与えてから攻撃すりゃ安全である。


「順調順調。このまま狩り尽くしてやる」


 制圧している拠点のメリットに、ゴーレムが補充されるというのがある。

 敵はゴーレムが破壊されればそれまで。

 対してこちらは防衛していれば補充されるから、数で上回り続けることもできるわけさ。


「あの弱そうなやつから叩くわよ!」


「了解!」


 なんか赤い鎧の男女二人組がこっち来る。両方とも知らん顔だな。

 ゴーレムけしかけて足止め。股下から電撃通していく。


「サンダードライブ!」


 ゴーレムは電撃にビビらないし、傷ついても補充がきく。

 しかも俺の属性に染まっているから通用しないという便利なやつ。


「むっ! やりおる!」


「げ、あんたさっきのやつ……」


「誰だ?」


 俺を知っているようだ。さっきということは、戦闘中に会ったのだろうか。

 鬱陶しい。ギルメンの応援と観戦を邪魔するなよ。


「最初にあんたらに捕まった一人よ!」


「へー」


「ちょっとは興味持ちなさい!!」


 ごめん興味がない。よし、リリア達は平気っぽい。

 ピンチになんてならんよなあと考えながら大きくバックステップ。

 同時に距離を詰められないようにゴーレムを前に出す。


「ええい逃げるな! 男らしく戦いなさい!」


「はっはっは、俺に正々堂々という言葉はない」


「いいわ、来なさいフレイムパペット!」


 召喚魔法か。関節と頭が炎でできた人間サイズの木製人形。

 いやなんで燃えないんだよあれ。


「それ召喚魔法だろ? 使っていいのか? ルール違反じゃないだろうな」


「失礼な。両軍に許可が出ている。フリーズドール!」


 こっちは氷の山みたいな形状だ。尖った氷山に足と手がついている感じ。

 ゴーレムで消耗させるも、どうやら元を叩かないと増えるな。


「すぐ影に隠れちゃってみっともない。あんた女の子にもてないでしょ」


「ふっ、どう見ても女人に好かれる男ではあるまい」


 まあ俺を見た女ならば、ごく普通の感想だな。

 逆にぱっと見でそう思わない女は頭おかしいと思うよ。


「一人ぼっちでベッドの中で死んでいきそうなくせに強いわこいつ」


「このまま生きてりゃそういう末路もあるだろうな。で、それは問題なのかね?」


 他人といるのが煩わしくてしょうがないからなあ。

 死ぬ瞬間まで他人がいたら邪魔くさそう。

 だがこの二人に言われるのはちょいと気に入らんのだ。


「出てこいキアス! 目の前の非処女どもをぶっ飛ばすぞ!!」


 召喚スロットからキアスに呼びかけ召喚完了。

 念のため待機してもらっていた。


『委細承知!』


 こいつら非処女だ。俺の処女厨としての勘が警鐘を鳴らし続けている。

 そんな連中にコケにされたんだ、戦闘中というこの絶好の機会を利用させてもらおうか。


「ユニコーン!?」


「驚いている暇はないぜ。ライトニングフラッシュ……弱め!!」


 電撃の広範囲技を、ぶっ壊された壁側に立つアホ二人へと放つ。

 これで身動きができなくなってくれればいい。


「う……ぐぐっぐぐぐぐ……」


「魔力障壁が削り取られていく……敵を甘く見たか」


「任せるぜ同志よ」


 こっちには神獣がいるのだ。俺が決めなくてもいいのだ。

 キアスの強さを最大限活かそう。


『期待に応えよう同志よ。ホーリーハリケーン!!』


 光の渦が、雷の波に乗って暴れまわる。

 風と波がぶつかりあって消えないのは、キアスの魔力コントロールがうまいから。

 波長が合うのも理由かもしれない。


『清らかなる光で浄化されるがよい』


「防げな……い……うあああぁぁぁ!?」


「一度ならず二度までもおおぉぉぉ!?」


 はい非処女さん達は赤拠点の方向へとふっ飛んでいきましたとさ。


「自分の貞操すら守れない分際で、俺達の攻撃を防げると思う浅はかさよ」


『それほど甘い見通しだから、貴様らは非処女なのだ』


 キアスには更に他の助っ人組を潰してもらって帰還。礼は言っておいた。

 さてあいつらはどうしたかな。

 軽く視線を動かせば、シルフィ達がこっちに来るところだ。


「そっちも終わった?」


「おう、お前ら早いな。俺は苦労して戦ってんのに」


「結構楽勝ムードだったじゃろうが」


 楽しそうなシルフィと、ツッコミ入れつつも俺を褒めようとしているリリア。

 対象的にファーレンスとホノリはぐったりしていた。


「おぉ……なんか死にそうじゃないか?」


「大怪我はしてないはずだよ」


「いやなんというか……わたしゃ例の一戦を見ていたけど……ここまで自分と差があるとはね……」


 力の差を思い知ってショックを受けたか。

 神様の血が入っているからなあ……ん、ホノリもそうだったような。


「己の未熟を思い知らされた。特にルーン殿だ。フルムーン殿が強いのは知っていたが、ルーン殿は弱点がない。接近戦で、しかも槍の扱いで圧勝されるとは思わなかった」


「なんか得意ジャンル全部で負かされたぞ……どうなってんのさ……」


 リリアより上の天才が存在しないとかどうとか聞いたような。

 圧倒的な才能と、それを磨き続ける鍛錬により、他者を寄せ付けないほど強いらしいよ。


「それくらいできんと、アジュの横にはいられないということじゃな」


「アジュ攻略は厳しいのです!」


 大小対象的な胸を張っているリリアとシルフィ。元気そうで何より。

 元敵の二人が引き気味で呆れ顔なのは仕方がないな。


「わたしゃ一生アジュのヒロインにならなくていいな」


「なろうと思ってなれそうもないだろうが、遠慮しておこう」


「気にするな。なられても俺が困る」


 ホノリは友人枠だから恋愛感情もないし、欲情もしない。

 好きな女のタイプなんてほぼ存在しない俺だが、嫌いなタイプは山ほどいる。

 ファーレンスは嫌いじゃないけれど、好みから大きく外れているので除外。


「そうね。アジュもあの家も私達だけの特権なのよ」


 イロハ登場。怪我した様子もない。

 落ち着き払っているようだが、いつもより少し不機嫌な気がした。


「おつかれ。ももっちは?」


「逃げたわ。不利だと判断したのでしょう。忍として戦局が読めるようね」


「ああ、あいつそういう引き際見極めたりが得意でね。私も世話になってんだ」


 忍者として優秀なのは、期末試験で共闘したし明らかだ。

 妙に明るくて得体の知れないところも含めて、あいつは忍者なんだろう。


「そう、生き残るためには必要だもの。いいと思うわ」


「まったくだ。で、ここに入ってりゃいいのかい?」


 ホノリ達を捕獲ゾーンに連れてきた。ここなら安全である。

 俺達も戦いをやめて談笑ムード。


「ああ、抵抗しなきゃ攻撃もしない」


「そりゃよかった。改めてそっちのギルドとは戦いたくないと思ったよ」


「さあ、頑張ったわしらへのご褒美は!」


 目を輝かせてご褒美を要求してくる。

 今そういう感じじゃなかっただろ。急にどうしたんだ。


「ねえよ。この状況で何をしろってんだよ」


 一応戦闘中である。といってもほぼ決着はついているが。

 あとは敵ゴーレムを全部潰したら、この拠点は終わりだろう。


「こんな感じでずーっとおあずけされておる」


「別にいやらしいことをしてって言ってるわけじゃないのにねー」


「絶対要求きついだろ。なんか性的な感じ入ってくるのは目に見えているんだよ」


「すまん。我らにはどう慰めてよいか見当もつかない」


「気にしなくていい。ファーレンスは真面目に受け取りすぎだ」


 武の道へ邁進するタイプだな。何でも真面目に考えてしまう。

 長所といえば長所だろうし、俺がとやかく言うことじゃないかもな。


「でもご褒美はあってもいいと思うわ。ただでさえ試験中で抑圧されているのよ。いつ暴発するかわからないわ」


「えぇ……とりあえず要求だけ言ってみろ」


「普通でいいよ。頑張ったら、よしよし、流石俺のシルフィだーとか言って頭を撫でてくれたら嬉しいです!」


「結構ハードル高くしやがったな」


 シルフィの中で俺はどういうキャラなんだろう。

 間違いなくやったことない要求されたぞ。

 やったことないから要求されたのかも。


「そうでもせんとこう……欲望の処理ができんようになるのじゃ」


「今かなり限界です! もっとふれあいが必要だと思います!」


「一緒に飯食ったり戦闘したりしているだろうが」


 俺からすればもうそれすら異常事態だぞ。

 他人と行動するということが本来苦痛なのだから。


「今のふれあい度合いを甲・乙・丙で例えるなら『無理』にあたるわ」


「無理!? 何がだよ!?」


「勿論のこと我慢がよ」


「怖い!? こいつら怖いよ!?」


 なんだよそのハンターのような目は。

 選択肢間違うと、試験終わった時に俺の貞操がやばい。慎重にいこう。


「あーもう……人前で撫でるのは無理。戦闘に関しちゃよくやったよ。流石ギルドメンバーだ」


「俺のーとか愛するーとか言って欲しいです!」


「愛するはしんどいので却下します」


「わしらに感謝とか多少の好意はあるじゃろ?」


「それはもちろん。それ大前提だな」


 嫌いなら側に置いておかない。今回勝てているのも、すべては完璧に動いてくれているこいつらあってのこと。それくらいは理解しているし、そこに感謝も当然ある。

 むしろ無いわけ無いだろ。


「そういうことを口に出さないから、シルフィ達が不安になってんじゃないか?」


「ホノリの言うとおりじゃ。言わなくても伝わるというのは悪習じゃぞ」


「なんかなあ……口説くみたいで嫌なんだよ。そういうキザったらしいことそのものが嫌いでな……」


 どうしても抵抗がある。褒められた経験もないので、褒め方もわからん。

 そもそも他人を、しかも女を褒めるという行動はイケメンがやるものだ。


「褒めるほど俺の顔面偏差値が高くないだろ」


「んん? なんでアジュの顔だ? シルフィ達の顔じゃなくてか?」


「あー……しまった。そこを解決しておらんかったのじゃ……」


 理解できていない顔の四人。全てを瞬時に理解し、そのうえで難色を示すリリア。


「これは染み付いた、というか染み込んで染まりきった考えだから、簡単には変わらんぞ。無意識に心がストップを掛ける」


「にゅおぉ……攻略で横着などできんということじゃな」


「リリア、ちゃんと私達にも説明して」


「そうだよー。またアジュが拗らせてるんでしょ?」


 身も蓋もない言い方はよしなさいシルフィさんや。


「もうちょい深刻じゃ。これは生まれ育った環境において絶対のルール。取り除くことは並大抵ではないのじゃよ」


「むしろ感謝とかをたまーに示すだけでもましになってんだよ」


「女の子を褒めると罪になる、という風に取れるわね」


「概ね間違っておらぬ。こやつのいた場所は、まずイケメン以外が女に話しかけること自体が大きなリスクなんじゃ」


「なんだいそりゃ? 妙な風習だな」


 いわゆるカルチャーショックというやつだろう。

 まず理解できていない感じが伝わってくる。


「女の権利が圧倒的に強いんだ。当然触ることなんて禁止。だから怪我や事故にあっていても助けない。自分から話しかけたりして関わらない。イケメン以外が自分の将来と身を守るためには、女に近づくことはデメリットでしか無いんだよ」


 いよいよ理解の範疇を超えているみたいだ。

 俺を責める雰囲気が消えている。


「リリアが本気っぽいし、本当なんだね」


「なんというか修羅の国だなそこ」


「悪いが利き腕とか生活習慣みたいな無意識のもんだからなあ……矯正は難しいぞ」


 できないやつは社会的に死ぬ世界だったからな。

 今この瞬間に利き腕を左にしろと言われるようなもの。絶対に無理。


「なら褒める練習が必要だね!」


「それじゃ!」


「無理」


「即答!?」


「迷いなくさらっと答えたわね。これは根が深いわ……」


「お前らはよくやってるよ.。感謝もしている」


 はい褒めたのでおしまい。さっさと終われや拠点戦。


「とりあえず名前と好きだという気持ちを込めてみよう!」


「えぇ……いや戦闘中だし」


「もう終わっとるのじゃ」


 はい拠点さんが青くなっています。後はしれっと帰るだけだ。


「他人に聞かれるのが恥ずかしいんじゃろ?」


「当然だろ」


「ならば耳元で囁やけばよいのじゃ!」


「できるか!」


「それだ!」


「それだじゃねえ!」


 それ漫画とかアニメのイケメン以外がやっちゃいけないやつだぞ。

 なぜ俺に求める。仮に美形でも結構ハードル高いと思うよ。


「褒めるのではなく、こちらの質問に答えてもらうのはどうかしら?」


「逆転の発想じゃな」


「言っている意味がわからん」


「私を見て性的に興奮する部分がどこかを三個答えて」


「できるかボケ!」


 しれっと三個も要求してきやがる。この子の貪欲さが怖いわ。


「じゃあお嫁さんにしたい女の子のタイプは?」


「もう褒めるとかどこいったんだよ」


「一箇所だけ体の匂いを嗅いでいいならどこがいいかしら?」


「フェチ心は隠せ」


「もう理想の初体験でも語ればよいじゃろ」


「投げやりに凄え注文付けやがるなお前」


 これストッパーがいない。というより機能していないのか。

 どこかで発散させるという、アホっぽい提案が必要なものとして襲いかかる。

 そんな大ピンチの俺を助けるアナウンスが。


『拠点戦を終了いたします』


「よっしゃ」


「今よっしゃって言った!」


 はい声に出ちゃいました。出ちゃうくらい助かったと思いました。

 俺の心がちょっとだけ救われたぜ。


「では食事でもしながらゆっくり聞くのじゃ」


「そうね。それか部屋に行って褒めてもらいましょうか」


 救われた心が挫けそうだぜ。

 この先に不安を残しながら、拠点戦は勝利に終わった。

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