インタビューされました

 拠点戦が終わり、かなりポイントを稼ぐことに成功。

 だもんで洋風レストランで飯を食い、七百ポイントの高めの宿に泊まった。

 部屋が広く、風呂とトイレも広い。そしてベッドも広い。

 つまり広いんだよ。あと高級感しゅごい。インテリアとか。


「うむ、高級だな」


「庶民派コメントじゃな」


「俺は庶民なんだよ」


 仕方ないじゃないか。王族の城以外の高級な場所知らんし。

 学生で何度もたっかいホテル泊まっているやつって少ないだろ。


「今日は普段より疲れた……鎧なしってきっついなあ」


「ほれ、水でも飲むのじゃ」


「すまんな」


 心なしか水まで美味いぞ。

 無料で部屋にある冷たい飲み物が、高い部屋だと認識させてくれた。


「安心せい。ちゃんと成長しておるよ」


「だと楽なんだがねえ」


「そこらへんは夜にでも話すのじゃ。せっかく同室なんじゃからのう」


 なんとこの宿、二人部屋が存在した。

 夜になんかあった時に困るということで、俺・リリア組とシルフィ・イロハ組に別れたのだ。


「試験終わりが怖いぜ……」


 そりゃもう誰が同室かで揉めましたよ。

 けれどお姫様が男と同室はまずいという結論に達し、試験が終わればなにかするという約束のもと、リリアで決着がついた。


「試験中の危機は回避できておるのじゃ。よしとせねばのう」


「俺の貞操がピンチだぞ」


「問題なしじゃ。そんな中途半端に一線は越えんじゃろ」


「それはまあ……なんとなくわかるけれども……」


 そこは大切にしているようで、俺に願い通りに清らかな体でいてくれる。

 だがキスとか迫られると躊躇するし、やはりへたれるのが俺だ。


「もう今日は飯食って、早めに風呂入って寝たい」


「風呂に入浴剤とかあるのじゃよ」


「お、いいな。入る時に使うか」


 入浴剤好き。あまり花の匂いとかきついと無理だが、温泉の香りと効能とかあるやつを使っていた。


「アジュー入っていい?」


 シルフィの声がする。部屋の確認したら来ると言っていたな。


「いいぞ。開いている」


「お、いちゃいちゃしてないね」


「するわけないだろ」


「それはそれでどうなんじゃ」


「疲れたから無理」


「疲れていなくてもしないわよね」


 それは言わない約束じゃないっすかイロハさん。

 空気変えよう。このままではいけない。


「よし、ちょっと専用ラウンジ行くか」


 そして綺麗で広くてリラックスできるラウンジ様にご到着。

 まあリッチだこと。こんな場所に縁がないわあ。

 一階にある専用フロアでは、庭に出られるように、一部の壁がガラスであり、庭木や花が見られる。


「ソファーがまたいいやつじゃな」


「金かかってるな」


 サービスで紅茶とか出てくるので、冷たいものを頼んでリラックス。

 戦闘は楽勝でも重労働だよ。戦闘して帰ってこなきゃいけないんだぜ。


「これ下手すりゃ寝るぞ」


「運んであげるわ」


「何もするなよ?」


「いいんだ……」


 気が緩んでいます。だってもう空間全体が俺を癒そうとしているもの。


「どうしても疲れたらな。そこで手をだしゃしないと……いいなあ」


「そこは信じてみましょう」


「失礼します。ギルド、ジョーク・ジョーカーマスターのサカガミさんですね?」


 話しかけてきたのは、エメラルドグリーンの癖っ毛女。

 淡々とした、抑揚のない口調だ。冷静沈着って感じだな。

 俺より頭ひとつ分くらい身長が低い。


「ええまあ。仕事の依頼ですか?」


 うちはEランクだ。名指しの依頼なんて来ないはず。

 なのにこいつはギルド名を出してきた。面倒なことにならなきゃいいが。


「報道科高等部一年、リコ・セティです。依頼といいますか、ちょーっと皆様にお話し聞かせてもらいたいなーと」


 少し声に明るさが入る。よくわからんやつが来たな。


「新学期から数ヶ月。謎多き勇者科の皆様と、新規ギルドさんの調査なんぞやってたりしましてね」


 なるほど、異常がないかチェックする人間は必要だな。

 ヘタに騒動にしても面倒だ。適当に対応しておこう。


「ぶっちゃけ単位絡みでして、試験中の皆様の成長っぷりとか調べるのですよ」


「それが本音か」


「まあまあ、ちゃーんと少ないですがギャラもお渡ししてます。今日はもうのんびりモードで、緊急クエが発令されないのもこれですよ」


「まあよくあることじゃ」


 あるんかい。だが緊急クエなしはありがたいな。

 もう夕方近い。今からは動けません。


「記事にされるのが嫌なら、学園側への報告で済みますし」


「他の人にも取材をしていると?」


「それはもちろんですよ」


 全員取材は受けることになった。でも何を話すべきさ。

 メンバーには、俺と付き合っているとか、そういうことは言わないように普段から言ってある。


「わたし達の戦闘データとかもあるんですか?」


「ありますよ。拠点戦とか試験官と一緒に見たりします」


「それも授業の一環で?」


「ええ、情報の収集と取捨選択とかですね」


 学園の方針はよくわからん。それは的確な授業なのか。

 まあ専門外の科に何を考えても無駄だな。


「俺達は話せるほど特別なことがないんだ」


「いえいえ、とにかく謎のギルドですよ。Fランクギルドを作って、今はEランク。これはおめでとうございます!」


「はあ、どうも」


 こいつのキャラがつかめない。遠回しに話すやつってめんどい。


「クエスト内容はほぼ普通。草刈りとか、初心者用の魔物狩りとか、まあFやEの受ける仕事です」


「そりゃそうでしょ」


「ですが、勇者科の期末試験で準優勝したと聞きました」


 余計なことが伝わっているな。だが準優勝だ。

 ぶっちぎり優勝じゃないから多分セーフ。


「んなもんメンバーに恵まれたんだよ。全員一年だし」


「なぜかたまーに極稀に先生から依頼を受けていますね」


 簡単な資料をもらっているらしい。あとは自力で調べたとか。


「依頼内容をぺらぺら話すわけないだろ。先生からの依頼を暴露しろなんて、衛兵や騎士科とか動くぞ?」


「う……極秘なら極秘とだけ言ってもらえたらいいなーって」


「クエストは依頼人との契約です。他人に話したりはしません」


 これで大抵は通る。依頼人には言われたくない秘密もあるのさ。

 それを不当に聞き出そうとすれば、それこそこいつが問題になる。

 学園はマスコミの力が強くないため、押し通ることができない。

 不正や悪事は文字通り切り捨てるからだ。


「依頼については簡単じゃ。先生と知り合った時に新設ギルドじゃから、無難なクエスト貰ったんじゃよ。初心者応援的なやつがあるじゃろ」


 初心者応援キャンペーン的なクエストを出す教師は結構いるらしい。

 ポケットマネーで実験の手伝い募集したりとかな。

 学園の教師は高給取りが多い。なぜならその道の達人だから。


「ううむ……ではなぜ、どうやってお姫様を二人も勧誘できたのか教えてください」


「運が良かったんだ」


 これは本当。完全に運が良かった。それだけ。本心からそう思う。


「そうね。運命というものね」


「余計なこと言わんでいい」


「ではここから個人にインタビューします。まずサカガミさん。雷属性というかなりレアな存在で、攻撃・召喚と回復の魔法を使う。戦闘は素人ながら、たまに使う特殊な魔法は剣を出したり、空を飛んだりと多彩。小細工や小賢しさを心情としている節があり、実際やっかいそうですね」


 よく調べてあるな。誰かに聞いたのだろうか。


「勇者科に何人か友達がいますよね?」


「まあ少しだけ。勇者科なんですからそうなるさ」


 本当に少しだけな。友人は増えすぎてもうざいのである。


「一般的な知名度はゼロ。友人も極めて少ない。なのに、その少ない友人はほぼ全員が王族貴族や魔王なんかのお偉いさん」


「学園は王族もいますから」


 ここまで完全に運がいいだけ。真実なのでそれ以上は何もない。


「フルムーンおよびフウマとは、王家との付き合いまであるそうじゃないですか。それになぜか魔王と親交があり、最近ではヒカル家やリウス家のような王族大貴族の友人もいて、あのヒメノお姉様にまで気に入られているとか!」


「お姉様て……あいつやっぱ有名なのか」


「それはもう。なんだかいい仲だという話もありますが?」


「あいつが一方的に言っているだけだ。俺は被害者なんで」


 あいつどこまで話してんだよ。超迷惑だわ。今度厳重注意だな。


「ヒメノは部外者よ。私達とは関係ないわ」


「そうそう、ギルドメンバーじゃないし、アジュと一緒にいてはいけないのです!」


 あいつ押しが強いからなあ。ぶっちゃけ邪魔なのよ。


「ヒメノさん美人だと思いますよ? ギルメンさんとくらべても遜色ない……っていうかヒメノさんに匹敵する美少女揃いっていうのがおかしいです。あの人学園でも屈指の美人さんですし」


「見た目に騙されているんだよ。正直あいつのハイテンションアドリブがきつくて」


「明るいいい方ですが……」


「……あいつ『今日は結納にはいい日ですわ。結納といえばそう、夫婦の契り。しかも今は夜。つまり夫婦として合体も辞さない覚悟ですわ』とか言って突然家に来るぞ」


「えぇ……」


 ドン引きしている。そりゃそうだろう。俺も引いたし。


「最近はラッキースケベ的なものを狙ってくるという、猛烈な邪魔くささすら兼ね備え始めたのじゃ」


「狙ってくる? 男の人がするんじゃなくて?」


「俺はされる方です」


「そこは共通認識じゃな」


 そこに理解があるかどうかで、俺の好感度が上がったり下がったりするんじゃないかな。


「好奇心といいますか、一度許したらどうなるか気になりますね」


「絶対に駄目だ。あいつにそんなん許したら、初手で俺の股間握ったところからスタートするだろ」


「ラッキーでもなんでもないスケベですね」


「ただの迷惑な痴漢だよ」


 インタビューがヒメノメインなんだけれど、これでいいのだろうか。


「はっ……これではヒメノさんのことばっかり。いけないいけない」


 気付きおった。ってことはまだ続くなこれ。


「そ・れ・で・は。ギルドメンバーへの取材を始めましょうか!」


「えらい嬉しそうだな」


「だって王族独占インタビューですよ?」


「よいのか? 下手なことを記事にでもすると……」


「首が飛ぶだけじゃ済まないですよねえ……無難にいきましょうか」


 これ終わったら飯食って風呂入って寝よう。

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