三人の気持ちを再確認しよう
「それでは張り切ってインタビューです。まずはシルフィ・フルムーンさん」
「はい。わたしからですね」
シルフィがお姫様モードだ。
やはりインタビューとかで失言しないようにしつけられているのだろうか。
「近接戦闘に加え、弓や鎖鎌も使いこなし、光と風の魔法もできる。最近では超人的な素早さと、手品みたいにいくらでも武器を取り出す戦法で強化されていますねー」
「よく調べてありますね」
「元からその美貌と気品に純粋さと元気な所が相まって、そりゃもう評判がいいのですよ。最近は明るくて恋する乙女な感じがさらに美しさに拍車をかけていると」
大国のお姫様で、本来並ぶ者のいない美少女だからな。
ただ存在するだけで評判なんぞ上がっていくだろう。
「そんなお姫様がFランクギルドで、フウマさんが一緒とはいえ男と一緒。これは意外や意外」
「はい、不思議な縁ですね。でも後悔はしていません」
「今のギルド以上に良い環境で、高ランクを目指すこともできると思いますが」
「わたしにとっては、このギルドが一番安心できます。ここがわたしの居場所です」
ここまで断言するくらいには、今の生活が気に入ってくれているのだろう。
そりゃまあちょっと嬉しかったりはするさ。
「ぶっちゃけた話、どうなんですかサカガミさんとは。記事にはしませんので」
「色々と助けて貰っています。とても大切で、かけがえのない存在です」
「マスターとして信頼しているみたいですね」
「はい。暖かさを表に出さない人ですから、誤解されがちですけれど。わたし達にはわかる優しさがあります」
物凄い恥ずかしいんだけどなにこれ。どういう気持ちで聞くのが正解なの。
「ギルド仲は良好と」
「みんな仲良しです」
「それはいいですね。他に誰か入る予定とかは?」
「ありません」
「記事にするなら書いておいてくれ。このギルドは四人だけのもの。追加メンバーは一切募集していないと」
はっきり言っておけば、余計なやつが来なくて好都合だ。
今だってミナさんとかいるし、同居人増えるのめんどい。
俺は本来共同生活とかできない人間だし。
「あの空間は特殊じゃ。よそ者が入って生活できる場ではないのじゃよ」
「ふんふむ。ではそこをきっちり書いておくとしましょうか。フルムーン王家との付き合いに関してはどうですか? サカガミさんとルーンさんは受け入れられました?」
「はい。おかげで今までより絆が深まったと思います」
「ほうほう、何かありましたか?」
「そこはノーコメントで。ですがこれからもっと楽しい毎日になると思います」
結構苦労したからなあ……良くなってくれないと困るわ。
「ほっほう。ジェクト王が男性と一緒にギルドにいることを許可したと。気に入られているのですね」
「嫌ってはいないけれど、わたしと一緒にいる男性ということで、少し親心が働いているかと」
「それは仕方がありませんね。ありがとうございました」
なんか本当に無難なインタビューだなこれ。
それほど警戒するもんじゃないのかも。
「ではイロハ・フウマさん。同盟国ですら、おいそれと歩き回れない神秘の国フウマ。国民が本業・副業どちらかで忍者を兼ねているという戦闘集団で、諜報や隠密行動に長ける。独特な文化やお菓子は評判がよく。どうやらフウマの忍術と、忍者科のものは根本が違うものみたいですね」
これはイロハというよりフウマの秘密的な話かな。
秘伝は伝えていないのだろう。部外者に完全な製法を教えることはないらしい。
コタロウさんがこの世界の忍者は、フウマ忍法とは別体系の忍者だと言っていたような。
「そうね。ちょっと違うけれど、忍者の役目自体はそう変わらないわ。非合法の暗殺集団ではないの。本来国に仕える存在で、外敵の侵攻を退けていた、が正しいわね」
「逸話山盛りですからね。忍者伝説とか出てくるくらいで」
ちなみに俺が最近はまっている本にも出てきた。
興味本位でコタロウさんに聞いたところ『あ、それ拙者でござる』とのこと。
やばいね。スペックがもう人類のそれではない。
あの人のいた世界の有名武将は、隕石くらい壊せて当然らしいよ。
「そうね。次第に戦闘以外でも生計を立てていったみたいよ。学園にも少しだけお店があるわね」
「フウマのお店いいですよね。学園のあんみつとかお団子とか……ファンも多いんですよ」
「女性から好評のようね。私も食べて育ったから、気に入ってもらえるのは嬉しいわ」
人気だよなあ。俺も薬とかクナイとか色々見るの好き。
せんべい売っている店とか珍しすぎて貴重。贔屓しちゃう。
「また脇道に逸れてしまった……イロハさんはフウマの次期頭領であり、多種多様な装備を使いこなす。属性は闇と水。でも忍術によりほぼ全属性使っていますよね」
「魔法との相性にもよるわ。苦手なものは苦手よ」
「最近では影を駆使した特殊忍術で活躍。そのクールビューティーな風貌と、忍者という異国の珍しさが合わさって、隠れファンもいるそうです。どちらかというと女性人気が高いですね」
完全無欠な美少女というものは、手を出そうとする人間が少ない。
高嶺の花というやつだ。しかも忍者伝承のある一族のトップ。
下手なことすりゃ国に消されるかも、という恐れもある。
「そう、意外ね。でも私は私の役目を果たしながら、アジュとみんなと生きていくだけよ」
「あまり欲がないといいますか、現状に満足しているといった雰囲気ですね」
「大切なものはもう、沢山貰っているわ。これ以上はこぼしてしまうわね」
こういうことを言われると、そんなに何かしてやったかなという気持ちになりますね。
もうちょい思い出を作ってやるべきかもしれない。
「サカガミさんとの仲はどうなんです?」
「こちらの好意を素直に受け入れてはくれないけれど、心をひらいてくれている実感があるわ」
リリアとシルフィがうんうん頷いている。実感なんて俺が一番無いよ。
「おぉ、シルフィさんよりコメントが直接的ですね!」
「私は里公認だもの。隠す必要はないわ。記事にはしないで欲しいけれど」
「そりゃまたどうして?」
「アジュが目立つのを嫌がるのよ。彼が嫌がることはしないわ」
「さり気なく彼とか言っちゃいます?」
「どうせアジュはそういうことに気づかないわ。だからこそ自然に恋人っぽい言葉を挟み込んでいくの」
はい気付きませんでした。彼ってそんな意味深かな。
普通に紹介で横にいたら彼、もしくはこの人とかになるだろ。
「ほらわかっていない顔よ。彼という言葉の意味を考え過ぎて、好意を向けているという事が伝わってくれないのよ」
「なるほど、難儀ですね」
さらに強く頷く二人。リコもそこに同情の目を向けている。
「それでも好きになったのだから仕方がないわ」
「ちなみにサカガミさんのどこがお気に入りですか?」
「体臭、いえ優しくて、何度も助けてくれて、その過程で好きになっていったわね。全てが愛おしいわ」
完全に体臭って言ったなこいつ。いやまあ助けたのも事実だし、匂いフェチも事実だからいいけどさあ。
「撫でる時にいやらしい気持ちがなくて、優しさが感じられるのも高ポイントね。最近少しくらい男としての反応があってもいいとは思っているわ」
「ここカットで」
「なるほどー。ありがとうございました。では続いてリリア・ルーンさん」
「真打ち登場じゃな」
「謎の存在という意味では真打ちですよ。リリアさんは魔法全般を使いこなし、無詠唱で全属性同時使用が可能。敵の攻撃魔法を空中で回復に変換するというあり得ない離れ業も見せる。ヒメノさんと学園長と親友。しかし詳細は謎。試験中の戦闘から、魔法抜きの戦闘もできることが発覚。まさに万能型ですねえ」
「ここまで手放しに褒められるのも、むず痒いものがあるのう」
言う割には動じていない気がする。妙に冷静だよなこういうところ。
「実は王族だったりします?」
「しないのじゃ」
「うーむ、ルーンって名前の有名人って知らないんですよね。勉強不足なのかな。魔法関係漁ってみたのですが、そこまで無茶苦茶なパワーなら、親族が歴史に名を残しているはずなのに見つからないんですよ」
そりゃ本名じゃないし。葛ノ葉の一族は神様に関わる重要機密みたいなもんだろ。
神々が恩と後ろめたさを持っている以上、無闇に傷つけようとすればヒメノのような上級神が動く。ある意味国より厄介な後ろ盾が、ひっそりとあるのだ。
「ちょっとくらいミステリアスな方が魅力が引き立つと、過去のいろんな人が言っておるじゃろ」
「まあ完全に美少女ですよねえ。小さめなのに万能で、言動とのギャップが人気の秘訣ですかね」
「そんなところじゃな」
見事に別タイプの美少女三人揃っているからな。
よくよくわけのわからん生活しているもんだな俺は。
「サカガミさんの相談役といった印象です。疑問に答えるといいますか、二人で相談していることが多いですね」
「いいとこついておるのう。わしはこやつの案内人じゃ。アジュが望む全てを手に入れられるよう導き、わしの力の全てはアジュとともに歩むために。それがわしの存在理由じゃ」
「おおー、ド直球ですね」
こいつの想いは知っている。
その上でよどみなく、一点の曇りもなく言い切られると、それこそ俺がむず痒い。
「よくフォローに回ってますよね。それとなく誘導といいますか、危険から回避させているような」
「ついでにストッパーも兼ねておるからじゃろう」
「ストッパー?」
「手段に殺しや拷問とか、グロテスクなものが入らぬように。卑屈外道な発想で後ろ向きになりすぎないように。マイナス思考に陥っていたらプラスに仕向けるのじゃ」
「えぇ……」
はいリコがちょっと引いています。
助かっていますよ。そこは認めよう。認めるけれど、絶妙に腑に落ちないぞ。
「アジュには必要だからねー」
「一番アジュについて詳しいのは、悔しいけれどリリアよ」
「初対面の人に勘違いされるようなことを言うな。俺は普通の一般人だよ」
鎧と鍵が無ければ、俺はレア属性持ちのごく普通の一般人でしかない。
「殺人鬼ではないと」
「違うわ!? 別に必要がなければ殺しなんてしない。殺しは手段だろ。無意味にやっても体力と時間の無駄だ。クズを殺すのも……まあ状況によるが、家で寝ていた方が快適だな。こいつらに敵意むき出しで攻撃でもしなきゃそれでいい」
「お、馬鹿にされると許しちゃおけねえぜって感じですか?」
「悪口言ったくらいで一々殺したりしないぞ。俺なんかと一緒にいるんだ。色々言われるだろうよ。こいつらはそれも承知だろ。それだけで手をあげたりはしない……多分な」
ヒメノ親衛隊の時がわかりやすいだろう。
俺達に過失ゼロの難癖をつけ。
こいつらを侮辱し。あざ笑い。
傷が残り、死者の出る可能性がある攻撃魔法を、関係ないリリアにぶっこんだから殺した。
攻撃してきた、という所が最大のポイント。
「実害が出るような風評ばら撒くとか、暴力に出たら殺す。じゃなきゃ勝手に生きていけ。俺達に関わるな」
「ここもカットでお願いするのじゃ」
「なるほど、こういう風にサポートするのですね」
その通りでございますよ。リリアに助けられた回数は一回や二回じゃないからな。
身に沁みているわけさ。
「と、熱烈なアプローチですがサカガミさん。お気持ちをどうぞ!」
「悪くないよ。ギルドはこのまま四人でやっていくつもりだ」
「はいギルドに話をそらしました。アジュの悪いアジュが出ています」
「これじゃよ。これが難敵なんじゃよ」
「三人で協力してやっとここまでこぎつけたのよ」
最近三人とも気づくからかわせないんだよなあ。
それだけ俺の言動に慣れ親しんでいるのだろう。うむ、プラスに考えよう。
「ちょっと応援したくなってきましたよ」
「ありがとう。頑張るわね」
「四人で恋人同士になったら記事にしていいですか?」
「絶対に断る」
結局インタビューは無難に終わったと思います。
三人の気持ちとか再確認できたので、有意義な時間だったと思う。
だからもうしばらくインタビューは止めて欲しい。心の平穏のためにも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます