第二の試験とグリフォン戦

 インタビューを受けた次の日からも、試験は順調に進んでいった。

 ある時は大規模戦に行き、大挙するゴーレムを生徒だけで倒したり。

 ある時は拠点が三個しかないけれど、道が無数にある場所での拠点戦をやったり。

 そこそこ面倒だったよ。楽しかったけれどな。


「規定ポイント到達を確認。四人とも第一関門突破だ。おめでとう! 望むなら今からあの門の向こう側へのチャレンジも可能だ。だが半端な試練じゃないぞ。この街で準備をしっかり整えろ」


 夕方に巨大な門の前に行ったら、そんなことを試験官さんから言われまして。


「中には何があるんですか?」


「バトルアリーナさ。そこで個別に試練がある」


 うーわ最悪ですよ。よりによってバトルか。

 しかも勇者科は人が少ない。個人に課題を課せる。やばいな。


「慎重にいけ! 一番でゴールしても特典なんかなーんにもないからな!」


 ないらしい。ならゆっくり確実に安全にいこう。それがうちの方針である。

 ってなわけで突入前に買い物して、武器の手入れを学んで再突入した。


「ようこそ挑戦者よ!」


 門の中は長くて清潔な通路だ。絨毯も敷いてあるし、シンプルな照明が雰囲気を良くしている。


「ここは控室だ。好きに使ってくれ」


 試験官に案内された控室はかなり広い。

 長時間いることを想定しているのか、飲み物や食べ物も揃っている。


「君達四人の課題はこの資料にある」


「個別に決まっているんですか?」


「うむ。魔導闘技場には行ったことがあるか? あれと同じシステムでな。対象者でフィールドを変更する」


 マコの試験に使われた場所だな。

 召喚獣と一緒に戦った場所も似たような施設だったはず。


「戦闘系なら闘技場に。医療や薬学なら調合に使う清潔な部屋へと変える。一度見学してみるといい」


「げ……戦っている所を見られるんですか?」


「アジュ・サカガミとヴァン・マイウェイとルシード・A・ラティクスは申請すれば試験官だけが監視のもとで戦いが可能とある。事情は聞かん。内容を見て好きにするといい」


 ルシードって誰やねん。勇者科には知らないやつばっかりだよ。

 試験内容を記した紙束を貰う。どれどれどんな試験かな。

 予想通り魔物とバトルとか書いてあるじゃないか。


「うっわ…………」


 思わず声が出た。

 試験項目に『ヴァン・マイウェイと戦闘』がある。

 おいおいおいおいマジか。これ確実に鎧使わないとダメだろ。


「特定の人間と戦闘って……これ相手が試験に落ちていたらどうするんです? ずっと待つとか?」


「ヴァン・マイウェイは既に五連勝中だ。申請すれば次で戦えるだろう」


 アジュさんの逃げ道がどんどん塞がれていきますよ。


「別に受けなくてもいいんですよね? これだけあるってことは」


「大怪我でもしない限り、一通りやって欲しい」


 しんど……あいつ融合禁止なんだっけ。でも俺のように回数限定かもしれない。

 戦闘が試験官にしか見られないのが救いか。


「では健闘を祈る! 申請は受付で早めにな!」


 試験官さんが去ってしまわれたよ。


「……みんなどんな試験だ?」


「大丈夫アジュ? いつもより雰囲気が暗いよ」


「普段からあれなオーラなんじゃぞ、それ以上暗くなってどうするんじゃ」


「これを見ろ」


 みんなに見せておこう。対策練りましょうね。


「やっぱり戦闘系なのね…………あぁ、これは鎧を使うしか……」


「どうするマジで。まずこの会場壊れるだろ」


「強固な結界と特殊素材じゃ。リミッターの解除具合にもよるが、まあ問題ないじゃろう」


 壊れても修復できるらしいが、だからといって全力はまずい。

 最悪学園消えるし。簡単なミッション選んで、難しそうなら棄権するか。


「リミッターって、そういえば本気の鎧アジュはどのくらい強いのかしら?」


「本気で戦おうと一歩踏み出すと、それだけで数百から数千の次元が跡形もなく消え、その世界の歴史や存在そのものが無かったことになるレベルじゃ。しかも主人公補正が誰よりも高くなる」


「よくわかんないけど凄いんだね」


「うむ。半端な上級神や魔王。太古からいる邪神が塵芥のモブ戦闘員扱いじゃ。故に全力は出せぬが……問題はソニアとクラリスじゃな」


「素の俺とヴァンなら。ヴァンの勝ち。特殊戦闘なら俺の勝ち。極端だな」


 みんなが心配してくれているのがわかる。いや鎧使えば確実なんだけどさ。

 三回だけしか使えない。そしてヴァンを入れてくるということは、こちらの事情を知っているものがいる。


「つまり三回以上鎧を使わせるプログラムの可能性が高いってことだ」


「めんどうじゃのう」


 とりあえず保留にして、できそうなものからやってみることにした。


「戦闘が多いな……タッグマッチ? また妙な……」


「念のため簡単なものをクリアしてみるのじゃ」


「そうね。感覚を掴みましょう」


「じゃあこれどうかな?」


 グリフォンと戦闘と書いてある。え、強いやつじゃないのかこれ。


「俺単騎でやれって書いてあるぞ……」


「グリフォンはゲームとかで見た事あるじゃろ? あれのまあ……二メートルくらいじゃよ。大きめのライオンサイズじゃな」


「つまり危険じゃねえか」


「試験のレベル調査にはちょうどいいわよ」


 お前ら基準で言いやがって。だが他は何十体も狩れとか、明らかにしんどい。


「しょうがないこれでいくか」


「腕輪のオートガードと、ガードキーは忘れるでないぞ」


「わかってるって」


 申請して空き時間。ただ待つのも時間の無駄だ。

 武器の手入れをちゃんとやることにした。


「さ、一緒にやってみるのじゃ」


 この世界には携帯砥石というものがあるので、初心者用に小冊子付いているやつ買った。


「まさかの初心者マニュアルつきだよ」


 元の世界に似たようなものがあるかは知らん。だって武器の手入れグッズとか学生が知るかよ。

 今回はそれと普通のサイズらしい砥石を購入。自分で磨いてみる。


「前にも何回かやったけどさ、回復魔法あっても怖いなこれ」


 指をすぱっといっても回復魔法がある。

 けれどやっぱり痛いだろうし、そもそも怖いぞ。


「そりゃそうじゃろ。おぬしは武器の扱いがさっぱりなんじゃ。こういう機会に知っておくのじゃよ」


 仕様に準備がいらない砥石らしく、そのまま研げばいいとのこと。

 カトラスは片刃だからまだいい。両刃とか怖すぎるわ。


「ゆっくりでいいわ。角度が大事よ。勢いを付ける必要もないの」


 こういう時に後ろから胸を押し付けてきたりせず、正面や横からアドバイスをくれるあたりに優しさを感じる。

 ふざけると大変危険だからな。


「イロハはともかく、シルフィもできるんだな」


「本格的には無理だよ。簡単なお手入れができるだけ」


「それでも凄いけれどな。ミナさんか?」


「そうだよ。ミナはなんでもできるからね」


 謎メイドエルフことミナさんは万能だね。

 あの人も神族だったりするんじゃなかろうか。


「ほれほれ、集中せんと手を切るのじゃ」


「そうだなっと、こんなもんでいいのか?」


 連戦で使い通しだったからな。ここいらでちゃんと綺麗にしてやりたい。


「うむ、よい感じじゃ。あとは綺麗に拭いておけばよい」


 拭いてやると、刀身が光を反射して綺麗に光る。

 綺麗になると強くなった気がするし、剣そのものがかっこいいぞ。

 ちょうど終わったところで、都合よく試験官が呼びに来た。


「試験の準備ができたぞ。闘技場へ、他のものはここにいるか観戦席へ行け」


「それじゃ、上から見ているわよ」


「応援してるからね!」


「どーんとやってくるのじゃ」


 送り出されて闘技場へ。

 円形のひろーい場所に、土と草が敷き詰められている。

 その奥に四本足の生き物がいた。


「…………でかくね?」


 確実に二メートルじゃない。その倍はある。

 鳥のような顔と鋭いくちばし。頭部に生えている茶色い毛。

 首から下は動物のような四本足で白い毛だ。尻尾もある。


「まんまグリフォンだな……」


 こちらを見つけたのか、翼を広げて臨戦態勢に入っている。


「アジュー頑張ってー!」


 高い壁の上にある観客席で、シルフィ達が応援しているのが見える。


「落ち着いて対処すれば、それほど危険ではないのじゃ」


「キュオオオオォォォ!」


「めっちゃ吠えてんだろ。危険なのは確定的に明らかなんですがねえ」


 とりあえず剣を構え、何をしてきても対処できるように距離を取る。


「サンダースマッシャー!」


「クオオオ!!」


 うげ、結構速い。横っ飛びでかわされた。


「サンダースラッシュ!」


 なら今度は横薙ぎに電撃の線を飛ばしてみる。

 これも避けられ空へと舞い上がるグリフォンさん。


「飛ぶのずるくないかな?」


 空中戦は避けたい。全方位から攻撃されると不利だ。

 空はあちらに分があるだろう。


「クエエエェェェ!!」


 上空から急降下してくる。

 くちばしと爪に注意して、注意深く見ていれば当たることはない。

 問題はどう致命傷を与えるかだ。


「ライトニングフラッシュ!」


 面攻撃に移行。そこそこダメージはあるみたいだが、それが怒らせたのだろう。

 こちらへ猛スピードで突撃してくる。


『ソニック』


「ここしかないよな」


 カトラスに貯めておいた魔力を二個消費してサンダーフロウ。


「サンダーフロウ、二枚刃!」


 ソニックキーの効果が続いているうちに、左の羽を斬り落として駆け抜ける。

 やはり素の俺では十数秒が効果時間らしい。


「ギイイィィ!?」


「ちゃんと研いでおいてよかったな」


 あまり抵抗もなく斬り落とせたのは大きい。


「サンダードライブ!」


 次に両足を集中攻撃。とにかく魔法を撃ちまくる。


「そのまま決めるのじゃ!」


「言われなくても!」


 翼も足も動かない状態にすれば、あとは離れて一撃だ。

 魔力を集中。徐々にこの工程に慣れてきている。

 編み出したときよりも格段に早く撃ち出せた。


「プラズマイレイザー!!」


「クエエエェェェ!?」


 青白く輝く雷光の渦は、グリフォンの膝から下を残して消し飛ばした。


「それまで! アジュ・サカガミの勝利!」


「はあ……なんとかなるもんだな」


 装備と鍵はしっかり使い方さえ考えれば万能だ。

 ちゃんと使って、出来る限り安全にいこう。


「やったね! かっこいいよ!」


「ちゃんと自力がついておるのう」


「成長しているのがわかるわね」


「そいつはどうも」


 しばらく大怪我もなく、第二試験は続いていくのだった。

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