突入 第三の月
スルトとアルテミスをボード代わりにし、宇宙を滑って進む。
「神にすることか貴様!」
「このまま月まで送ってやるよ」
かなりのスピードだったせいか、目的地が近かったらしい。
突然何もない場所にぶつかり、神が悲鳴をあげる。
「ぶげえ!?」
「ううう!!」
「ここか? 何も見えんな」
鎧の力で探知開始。
透明化と気配を消す魔法、それに強固なバリアが張られている。
歴史や記録からも消えるように改変魔法までかかってんなこれ。
「並の技術じゃないな。こいつはどういうことだ?」
「教えるとでも思ったか!!」
スルトの剣をかわし、はたき落としてキャッチ。
どうせ他人の剣だ。バリアに突き立ててみる。
「…………ん?」
「貴様に扱えるものではない!」
バリアに弾かれる。というか感触がおかしい。
破裂しない風船つっついているみたいだ。
この剣は使えん。投げ返してやる。
「いいだろう。奥の手を見せてやる」
「まだ何かあるのかよ」
『スルト』
自分に注射器使ってやがる。
アルテミスも自分のやつを使ったな。
「それ暴走負けフラグだってさっきわかっただろ」
「どうかな?」
魔力と神格だけが上がっている。
体は……少し体格よくなったくらいかね。
「我らは神。そして抗体持ちだ。堕天使ごときと同列ではない!」
「抗体?」
「お喋りはここまでです」
速い。
アルテミスの弓がビームソードのように輝き、俺の懐で爆発する。
「やるね」
後方へ緊急退避。傷はないが、光速の二千倍までは到達したか。
「その余裕もここまでだ!」
宇宙を緑の炎が満たす。驚くほど高密度だ。
まとわりつく魔力と炎が不快感を増していく。
「潰れろ!!」
巨大な炎の手で握り潰そうとしているのか。
氷人間とか炎の神とか、特殊なやつをよく見る日だな。
「ぬるいな」
炎を殴りつけて距離を取る。炎すべてを移動させるよう工夫して殴るのだ。
「甘いわ!」
アルテミスの矢を掴む瞬間、嫌な予感がして光速離脱。
消えた矢が俺の背後から首を狙ってくる。
「空間か次元をいじってんな。小細工に堕したか」
殴れば砕ける。ただし膨大な数と爆発する機能がついて、どこに出るか不明。
「焼けただれるか、ひとおもいに貫かれるか。好きな方を選べ」
「二択がクソすぎる不具合」
どうやら接近戦もできるらしく、そっちを主体にして攻めてくる。
神による乱打地獄が始まった。
「人間の体力は有限。その力を刈り取ってくれる」
「それが神のやることか」
両者の攻撃をさばき、数多の星を越える斬撃を撃ち落とす。
いい加減ケリつけるか。
魔力を集中。さっさと倒して内部へ行こうとしたが。
「魔力と光を吸収しているな」
今までの戦闘も、光の柱も、月に何かを送っている。
それに気づいた。前にもそんな装置があったな。
どっちが先か気になるが。
「気づいたとしてどうだというのだ?」
「今はお前らの処理が先だな」
拳に魔力を集中。余波で月を壊さないよう、方向を調整。
あとは不意打ちで殴ればいい。
「しぶとさは認めよう。だが終わりだ!!」
スルト渾身の攻撃に正面から当たりに行く。
「バカな!?」
全段ヒットするも、俺に怪我はない。
全力の攻撃だからこそできる隙。
当たったのに無傷で直進してくるからこそ対処が遅れる。
「ここだあああぁぁぁ!!」
右ストレートで腹を貫き、さらに増幅させて魔力でかき回す。
「ぬ……がっ……」
「スルト!?」
「消えろ!!」
回転と無限増幅を繰り返す魔力波により、その姿は粉微塵に消えていく。
「こんな……炎が……消える……」
周囲の炎も消え、残されたのは機械仕掛けの剣だけだ。
「こんなはずが……神を凌駕するなど……」
「残るはお前とアテナだけだ」
そこで周囲が光り出す。今までのような傲慢な輝きではない。
どこか温かみのある神聖な光だ。
「どうやら時間稼ぎはできたようですね。そこは褒めましょうスルト」
バリアの中で膨らんでいく輝きは、やがてその姿を完全に宇宙へと見せつける。
「月は輝きを取り戻した! あの方の理想が叶う!」
確かに見た感じ月だ。クレーターもある。図鑑とかで見るやつそのもの。
「もはや貴様らは手遅れ。念願成就せり!!」
月のバリアをすり抜け、アルテミスが逃げていく。
「逃がすとでも……」
いや待て。こいつを逃がすふりをして案内させるか。
「待ちやがれ!」
それっぽく焦る雰囲気を出しておく。
あいつは神。その魔力と神格を隠してもいない。
簡単に探知できる。
「聞こえるか? 月が出てきた。ルシファーとスルトは殺した」
一応通信機で聞いてみよう。その間にバリアへ触れる。
『了解ですわ。こちらもほぼ制圧完了。みんな無事ですわよ』
「バリアは破ってもいいか?」
『うむ、そのまま追うのじゃ』
「了解」
俺の剣ならバリアも切り裂ける。適当に入り口作って侵入。
そういやアルテミスはどうやって入ったんだろう。
「今のは……?」
幻影だ。幻影の膜を通り過ぎた。
バリアと幻影で普通の月や星に見せかけていたのか。
「これが……月?」
それは月というには緑に溢れすぎていた。
緑と水のある星。神殿のような建造物まである。
クレーターのクの字もない。殺伐さの欠片も見えないぞ。
『その月は緑と青の星じゃろ』
「知ってんのか?」
不思議だ。敵意を感じないし、星そのものから独特な力を感じる。
『わしも聞いたことがあるだけじゃ。三個あった月のうち、奇跡としか言えないものがあったんじゃと』
『星自体が特殊な環境で、まるで守られているような、避難場所のような、恐ろしいほど洗練された星。むしろ人工物と言った方が正しいほどですわ』
「それを封印したんだろ」
『封印装置を強化して、神々がさらに鍵をかけた、が正しいのう』
歩いていても不快感がない。
ゆるやかに風が吹いているし、酸素もある。
しっかり土の道まである。人が通れるようにしてあるのか?
『アルテミスの位置はわかるかの?』
「わかる。応援待つか? あいつらがこれを動かして何をするか知らんが、阻止できるかも」
『慎重にいくのじゃ。無理そうなら誰か行くまで待機じゃぞ』
「わかっているさ」
完全に気配は消した。このままアルテミスを追う。
気配の先には大きな神殿があるな。あれに何かあるのか。
『どこか別の次元へ拠点を移す気かもしれませんわね』
「移動機能付きか」
『うむ、おぬしならオルインの座標特定も、次元移動も簡単じゃろ。転移しても慌てるでないぞ』
「ああ、お前らがどこにいるかまで完璧にわかる。安心しろ」
神殿が見えてきた。そしてちょい訂正。あれ祭壇だ。
何かを奉る感じ。アルテミスとアテナの気配もする。
「アルテミスとアテナがいる。祭壇っぽい」
『気をつけるのじゃ。まず目的を探るのじゃ』
『その先へは行けないはずですわ。慎重になさって』
「鍵はあるんだろ?」
『正確には月の機能を半分だけ使えるようになり、扉の手前まで行けるのですわ』
「扉?」
『鍵を使うと祭壇が制御室になります。同時に大きな扉が出ますの。鍵穴のない扉が』
どうやら上級神でもこじ開けるのは容易ではないとか。
どこに通じているのかも、何のために誰が作ったのかさえわからないらしい。
『何が起きるか見当もつかぬ。無理に開こうとするでないぞ』
「了解。まず聞き込みだな」
やつらの会話を聞いてみよう。
限界まで近づき、物陰で息を潜める。
「姉様? その姿はどうしたのです?」
「途中で人間の抵抗にあい、薬を使うしかなかった。ルシファーとスルトも死にました」
「まさか……姉様がいて……」
「事実ですアテナ。バリアがあるとはいえ、いつ破ってくるかもわからない。急ぐのです」
あいつら姉妹なんだっけ。関係性まで聞いていなかった気がする。
とりあえず何を急いでいるのか知りたいね。
「鍵は使いました。あとは制御がうまくいくかです」
「科学というのはあまり馴染みがありませんね」
立体映像がそのままモニター兼タッチパネルになっているようだ。
アテナが四苦八苦している。そこはファンタジーの住人なんだな。
「立体パネルっぽい近未来の操作盤が出ている」
『使い方を知っている? もう少し隠れていてくださいまし』
『浄化が終わってから上級神をそっちによこすのじゃ』
「了解」
「姉様、これがライトのようです」
祭壇に明かりがつく。魔法でも科学でもない。
どっちとも言えるし、どちらも混ざっているようだ。
鎧で検索。知識なんかを引っ張り出してみる。
「……どうなってやがる」
結論から言えば両方だ。両方を完璧に極めている。
管理機関よりもさらに高いレベルで。
「ようやく起動した……」
「これでしばらく拠点には困りませんね」
さてここから何が起きるのかね。
できれば穏便に都合よく終わっておくれ。お願いだから。
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