厄介なアルテミスの倒し方

 第三の月は楽園のような落ち着いた場所だった。

 そこにある祭壇でアテナとアルテミスが何やら操作している。


「やはり扉を開ける鍵は別のようです」


「出現だけさせましょう。あとは解析に回します」


 祭壇の奥に、縦に五メートルくらいの両開きの扉が出現。

 蜃気楼のようにぼやけている。


「座標入力完了」


「転移する世界は前の?」


「今回のために無人の世界を作ったはずです。しばらくそこに潜むつもりだとか」


「ならば急ぎましょう」


 無人の世界か。そのくらい俺か上級神なら余裕だろう。

 となると座標を記憶しておく必要があるな。


「別世界を作っているらしいぞ」


『それを調べるか、いっそおぬしだけでも行ってみるのじゃ』


「あいつらはどうする?」


『捕獲できるなら事情を聞きたいですわ』


 しばらく様子見だな。

 あいつらはパネルをいじり続けている。

 しばらくすると遠くに家ができた。


「もう少し住みやすく、広く作りましょう」


「では庭も追加して……」


 何かの粒子で、無から完成された有を構築しているようだ。

 スピードも尋常じゃない。ほぼ一瞬だ。

 錬金術と科学技術両方だな。明らかにオーバースペックだろ。


「月をまるごと楽園に変える。言うは簡単ですが、まさかこのような……」


「封印するのもうなずけます。誰がどんな目的で、どうやって作ったのか一切わからない」


 これを作れるやつは、よほどの達人と神なのだろう。

 鎧なら可能だが、それはつまり鎧以外じゃあ相当骨が折れるということでもある。


「何か出ましたね」


 出所のわからない光が、二人を頭から爪先までゆっくり照らす。

 モニターにでっかく不許可と出た。


「何か条件があるようですが」


 条件を検索しているようだが、あの光が何らかの認証システムであることは明白。

 そして体温や皮膚やら血液やらの検査ができる、とにかく超高レベルの人間ドックみたいなもんだろう。

 判定は力か、それとも種族か。


「さてどっちだかね」


 操作に四苦八苦している様子を眺めるも、有力な情報はなし。

 どうやら次元移動も許可されないらしく、暗雲が立ち込めてきましたよこれ。

 いやですわね。じっと待っているのは無駄に神経使いますわ。


「そこに誰かいるのか!」


 俺の体も光が照らしやがった。

 しかもスポットライトみたいなやつを出してやがる。


「にゃー」


 おちゃめに猫の鳴き声マネとかしてみる。


「まだこの星に生物は作っていない」


「作れるんかい」


 一応こっそり連絡とっておこう。


「悪い見つかった。適当にやるわ」


『うむ、そっちに任せるのじゃ』


 これでよし。さて時間稼ぎでもしましょうかね。


「やはりお前か。どうやって入り込んだのです?」


「突然のことで覚えていないんだなこれが」


「姉様、この男が?」


「ええ、スルトとルシファーを殺した男です」


 そんなこと言うから、アテナさん露骨に盾構えちゃったじゃん。


「あれは事故だ。とりあえず何やってんのかだけ教えてくれ」


「戯言を。ここで決着をつけましょう。一切の話し合いはいたしません」


 無理か。正直こいつらも理解していない節がある。

 次元移動させて、専門家っぽい連中に丸投げする気だろう。


「今宵も私の盾が血を欲しがっています」


「それ剣で言うセリフじゃねえかな?」


 こいつもどっかずれてんな。神って普通のやつがいないねえ。

 普通の神ってどういうやつなんだろう。

 無駄な思考にはまりそうなので中断。


「月を汚さぬように、早急に排除します」


「安心しろ。こんなやばいもん壊すつもりはない」


 捕獲するとしたらアテナだな。

 アルテミスはあの注射器を使っている。

 弱くて安全な方を選ぼう。


「いきます!」


 シールドに神格を込めて投げつけてくる。

 俺に傷がつくほどじゃないな。受け止めてみるか。


「フリスビーか。ハイカラな遊びをするもんだな」


「はっ!!」


 手から盾が消え、アテナには槍……じゃないなハルバード?

 刃のついた槍と斧の中間みたいな武器があった。


「散りなさい!」


「そいつはできん相談だ」


 迫る刃の腹を拳で砕き、本人の脇腹に蹴りを放つ。


「甘いですよ」


 盾が三枚重なって蹴りを止めてきた。

 そのまま蹴り抜けるも、アテナはバックステップで距離を取る。


「死期が伸びるだけだぜ」


「ならば伸ばせるだけ伸ばしましょう」


 アルテミスから矢の嵐が吹き荒れる。

 遠近揃ってんのか。厄介な連中だ。


「おとなしく消えなさい。人間には、神に勝てるほどの力など無いのです」


 砕いたハルバードの代わりに装飾のついたロングソードを構えている。

 アルテミスが渡したようだが、あんなものどこから出した。


「その浮いている剣は何かね?」


 アルテミスの周囲に、同じような剣が大量に浮いている。

 どれも業物だ。間違いなく国宝級。


「作ったのですよ。ここはあらゆるものが作り出せる。例えばそう、エクスカリバー」


 さらに剣が増える。なぜか見た目は違うのに、同一のものであると認識できる。

 つまり面倒なもん出しているわけだ。


「この武器は素晴らしい。どんな世界でも極限まで研ぎ澄まされた名剣です」


「武器の展示会でもやったらどうだい」


「いきますよ、アテナ」


「ええ、終わりにしましょう」


 聞く耳もたんねこいつら。そして剣の加護がまるごと姉妹にかかっている。

 光速の何万倍だこれ。よくわからんレベルのラッシュを押し付けあう。


「武器はまだまだ出ます。デュランダル、蜻蛉切、妖刀村正、ゲイボルグ、方天画戟、青龍偃月刀、ヴァジュラ。そして不思議なエネルギーで動くロボット」


 やけに手数が多いと思えば、伝説に武器が自発的に動いてやんの。

 ロボットもミサイルやレーザー兵器つき。


「自主性は大切だが、もうちょいしつけが必要なんじゃないかい? 月が壊れるぜ」


「お喋りはしませんよ」


「口数は変わっちゃいない気がするね」


 ソードの魔力コーティングをやめる。

 あとは雑に切り裂けばいい。伝説の武器だろうが無駄だ。

 一瞬で存在ごと切り殺せる。ついでにロボも切っておこう。

 爆破するという現象も斬り殺す。これでガラクタになる。


「なっ!?」


「口が開きっぱなしだぜ。本当はお喋りしたいんじゃないのか?」


「姉様!」


 アルテミスだけ切り裂くつもりが、アテナにカットに入られた。

 ナイスカット。俺はバッドカット。んな言葉があるかは知らん。


「うああぁ!?」


 芯まで切れたわけじゃないな。まだ復活はできるだろう。

 直前で加減もしてやった。


「下がりなさいアテナ。ここからは私がやります」


「秘策でもあるのかい?」


「端末は操作しておきました。あとは効果が出ればいい。少しお喋りでもしましょうか。そちらの要求どおりにね」


「俺は他人と会話するのが苦手でね…………んん?」


 立体映像に『採用 試験開始』と出ている。

 二人が気づく前に消えたが、嫌な予感しかしないね。


「なんか噛み合っちまったようだな」


 地面から注射針のついた細長いパイプが何本も伸びてくる。


「姉様!」


「これでよいのです。どうせ抗体があるとはいえ、あの方のいる場所まではもたない。ならば障害を排除するのみ!!」


 アルテミスの鎧が黒く美しい輝きを放つものへ変わっていく。

 同時に肌が灰色の粘土みたいになっている。

 やつの体内に複数の神格も感知。斬っておくか。


「逃げなさいアテナ。パネル操作をお願いします」


「俺が見逃すとでも……」


 無限の武器群が俺に向けて落ちてくる。

 あまりにも多すぎて空が埋まってやがるな。


「俺は慈悲深いからな。うん、見逃そう」


 言いながら全部斬って消す。どのみちアテナは残す予定だ。

 そしてパネルから離れることがないなら好都合。


「始めましょう。これより修羅と化します」


「いいだろう。好きにやってみな」


「紫黒の阿修羅」


 六本の腕にそれぞれ武器を持っている。腕が増えることはもうつっこまん。


「しこく? 紫の黒で紫黒か。わかりづらいネーミングを」


 袈裟斬りに斬りかかると、まったく同じ軌道でエクスカリバーをぶつけてきた。


「足りんね」


 相手の剣だけを両断する。

 ついでに斬撃の真空波も飛ばしたが、こいつは避けられた。

 さらに加速しているようだ。


「強度を十億倍へ。以下壊れる度に同じ処理を」


 新しい剣がアルテミスの腕に飛んでくる。


「上げられるだけ上げていいぜ」


 今度は横薙ぎ。そして今度も同じ軌道を描く。


「敵の斬撃トレース完了。プログラム拡張。倍率を四百兆へ」


「ほう、愉快な機能がついてやがるな」


 たしかに俺の剣の軌道そのままだ。

 力は俺が上だが、それでも動きが似てきている。


「武器を刀剣へ修正完了。剣戟乱舞」


 さらにパワーもスピードも上がり続ける。

 いいだろう、乗ってやるよその余興。


「どうだい、俺は切れそうか?」


「なぜ追いつかない?」


「そのシステムに聞いてみな」


 じりじりと距離を詰めてやる。

 こちらは片腕一本。とくに大振りでもない。

 ただ突っ立って好きに剣を振り回しているだけ。


「六本でも追いつかない? 武器の加護を集中! 神格をさらに注入開始!」


 背中に何本もパイプが突き刺さっている。

 痛々しいというか、よくその状態で戦えるな。


「終わりにしようか」


 本日最速の一閃。頭から縦に真っ二つ。


「さて、次はアテナの……」


「神格分離、結合開始」


 左右のアルテミスが膨らみ、二人になった。

 ちゃんと黒い鎧も全身を覆っていく。


「どういうトリックかね」


「システムにでも聞いてみますか?」


「もっといいもん持っているよ」


 再び剣戟の乱舞が始まる。

 試しに四本の腕を切り落とすと、さらにアルテミスが増えた。


「なるほど。そういうことか」


 パイプから送られている神格により、アルテミスの力は増えている。

 大きくなってもいるが、同時に数も増えているんだ。


「残機制か。何でもありだな神様よ」


「どうとでも言いなさい。無限に神の命が供給され、武器も自在。私は神を超えたのです」


「にしちゃあさっきと状況が変わっている気がしないな」


 単純に数が増えただけ。俺はそのまま突っ立って攻撃続行。


「ありえない……神が……ここまで人間に手も足も出ないなんて……」


「姉様! 援護いたします!」


「動くな。お前の役目は別にある」


 地面に斬撃飛ばして動きを止める。

 これ以上は面倒だ。時間も稼げたし、必死に操作するアテナのおかげで法則性も掴めたよ。


「ちょっと本気を出してやる」


 鎧と剣は何でもできる。俺の常識でその力をセーブしてしまうのが一番ダメだ。


「私を殺す手段でもあると?」


「ああ、一撃でな」


 魔力を剣に流し、鎧の知識と技術を流用。

 俺が念じれば、切りたいものは何でも切れる。

 それは限界なんて無いはずだ。


「喜べ、お前みたいなやつの殺し方が確立された」


 極限まで研ぎ澄まされた一閃。

 一番近くにいたアルテミスの胴を切り離した。


「無駄です……何度でも神格を上げ、注ぎ込み、私の……これはっ!!」


 すべてのアルテミスが消えていく。一体の例外もない。


「お前の存在を、どれだけ数が増えようと、どれだけの時代や次元にいようとも、紐付けてまとめて殺す。その能力も魂も、俺が斬り殺したいと願ったから。だから殺せる」


 スクルドの殺し方はこれでいいはず。

 これから命が無限に増える敵だっているだろう。

 いくつもの次元にまたがって存在するやつもいるだろう。


「加護や特殊能力で守られているやつもだ。それを能力ごと例外なく確実に殺す……一応礼は言ってやる。お前の死は無駄じゃない」


「こんな……こんなこと……アテナ……」


「姉様ああぁぁ!!」


 妹に看取られ、アルテミスは跡形もなく消えた。


「次はお前だ」


 少しでも情報を吐かせたいが、できないなら確実に潰そう。

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