もうバトルは飽きたんじゃい!

 鎧でできることを増やし、無事にアルテミスを撃破。

 あとはアテナだけだ。


「しかし妙な装置だな」


 明らかにどこの世界でも使われていない科学だ。

 そもそも神の格や力をパイプで機械的に注入ってどういうことさ。

 作ったのは誰なんだか。


「よくも……よくも姉様を!!」


 悲しみと憎しみで溢れているって感じだな。

 猛烈に睨みつけられている。


「天界に、それもラグナロクに襲撃かけといて何言ってやがる。何が目的でこんなことをした」


「あの方のため。そして世界の平和のために! 障害は排除する!」


 盾とビームを飛ばしてくるが無駄だ。

 もうそんなもんで傷つくレベルの戦いじゃない。


「それでも、私はやらねばならないのです!」


 アテナの足元に、見たこともない魔法陣が映し出される。

 一瞬だけ光り、アテナの瞳から光が消えた。


「今度はなんだよ」


「人間……強き人間……待っていた……」


 アテナの声じゃない。肉体を乗っ取られたか。


「お前が黒幕か?」


「勇者の意志を守るもの」


 いきなり殴りかかってくる。

 攻撃に意思が感じられない。殺気もない。だが速い。


「ちょっと寝てろ!!」


 顔に向けて一直線に蹴りを放つ。

 両腕をクロスし、その場でガードしやがった。


「止めた!?」


「足りない」


 阿修羅モードのアルテミスでも吹っ飛ぶ力で蹴ったんだぞ。


「まだ足りない」


「なら満足するまでやってやるよ」


 明らかにおかしい。アルテミスとは格が違う。

 全能力で圧倒的に上だ。


「ビーム」


 目から放たれるビームを、腕のスナップをきかせて受け流す。

 そのまま宇宙をどこまでも貫いていく赤い光。


「目的くらい話せ」


 敵の拳に魔力が集まっていく。

 どす黒い力と、神聖な光が溶け合い、まったく違う力が渦巻いている。


「どうしたもんかね」


 これじゃ話を聞くどころじゃない。もうアテナの力を感じないぞ。


「見つけましたわああぁぁぁ!!」


「無事か!!」


 ヒメノとトールさんが降りてきた。


「なんとかやれているようだね」


「これは……どういう状況だ?」


 ヤルダバオトと女媧だ。

 全員こちらを見つけて走ってくる。


「迎撃」


「来るな!!」


 アテナの拳が発動する直前、俺の右拳を打ち付けて相殺を狙う。


「ちっ、馬鹿力が……」


 猛烈な嵐が吹き荒れ、衝撃により月全体が、漏れ出た力が宇宙を震わせる。


「なんて力……これはどういうことなんだい?」


「こっちが聞きたいわ!」


 力の衝突で幻影が剥がれてしまった。

 俺の素顔と鎧を晒した罪は重いぜ。


「修復完了」


 アテナの右腕が神力によって再生している。また例の注射器とパイプだ。


「妙なことになっておるのう……」


「来てよかった。これはちょっと、君だけに託すには重い」


 リリアとラーさんも来た。さてどう説明したもんかな。


「操作盤だ。そいつでアルテミスはパワーアップした。アテナは知らん。魔法陣っぽいので乗っ取られた」


「誰に?」


「わからん。端末操作頼む」


「うむ、任せるのじゃ!」


 パネルをいじるのが最善策だろう。システムを止めちまえばいい。


「迎撃続行」


「やめろつってんだろ!」


 リミッターを外し続ける。

 どんなイカサマしているか知らないが、それを上回れないほど、鎧は弱くない。

 あいつらに手出しさせないよう、殴りつけて遠くへ移動だ。


「そっち任せる!」


「あれが本気のサカガミか……恐ろしいな」


「神でも何人が到達できるか……」


「あの程度ではありませんわ。こちらに、世界にダメージを与えないよう、戦闘が制限されていてあれですわ」


 解説している暇があったら操作を急げ。

 徐々にこいつの力が増しているせいか、周囲のものが壊れ始めた。


「お前、今回の件に関係ないだろ? どういうつもりで攻撃してきた」


 なんとなくだが、これをやっている相手と、アテナ一派は別だ。

 完全に別件だろう。だからこそ目的がわからん。


「勇者の意志を守る」


「さっきも聞いた。そりゃどういう意味だ」


「全世界の平和と、真実を守る」


 はぐらかしている雰囲気じゃない。完全にそれしか考えていないのだろう。


「この個体は別で司令を与えた。そちらでは操作不能」


「最悪だよこの野郎」


「この個体のロストが、扉の鍵」


「消していいんだな?」


「それを推奨する」


 しょうがねえ。戦いが長引きすぎている。さっさと決着つけるとするか。


『ホウ! リィ! スラアアアァァァッシュ!!』


 必殺技発動。光の刃ですべてを浄化する。


「踏み入るに達した人間。歓迎する」


 それだけ言って消えやがった。後味の悪いというか、不完全燃焼だな。

 急いでリリアの所へ戻ろう。


「サカガミくんが戻ってきたぞ!」


「あいつは倒してきた。ここがなんなのか説明しろ」


「神々が封印した地。ノアに近いですわ」


 なるほど。内側に自由な世界を作る機能とかあったな。

 あれと似たようなものか。


「ただしまったく未知の技術で作られている。正確には複雑すぎるし、専門家を大勢呼ぶわけにはいかなかった。存在を知るものは少ない方がいい」


「わしも知らんかったのじゃ」


「ここは最上級神数人と魔王サタン。人間なら過去の葛ノ葉と、大昔のフルムーン王くらいしか知らん」


「本当にごく少数だけで封印したものですわ」


 それだけ危険視していたということか。納得だ。

 こんなもんが知れ渡れば、パワーバランスがおかしくなる。


「壊すわけにもいかなかった。どう作られているかわからないからね。動力源がわからない」


「さっきの敵は、勇者の意志を守ると言っていました」


「勇者の?」


「意味はわかりません」


 思考を遮るように、扉がゆっくりと開いていく。


「開いたか……さて、勇者の意志とやらを見せてもらおうか」


 立体映像に写った文字を誰かが読み上げる。


「入れるのは人間のみ。神に委ねるものはない」


「本当に入れませんわね」


 扉の先へ腕を伸ばすも、見えない壁に阻まれているヒメノ。

 一応全員扉に触れてみる。俺とリリアだけが入れるようだ。


「扉の前は責任持って守護しよう。危なくなったら戻ってきてくれ」


「そうだね。無理に解明しなくても、また封印したっていい。リリアをよろしく頼むよ」


「わかりました。行ってきます」


「なんとかやってみるのじゃ」


 軽く手を振り扉の中へ。中は意外にも豪華な絨毯とシャンデリアのある廊下。


「超えたな」


「じゃな」


 次元が歪んだ。この中はまた別の世界だ。

 少々狭いが、確かに世界を構成する物質が違う。


「世界も錬金術か?」


「映像を投影、質量をもたせて錬金術もかけて、さらに即時に無害な物質だけで世界を構築できるよう、それっぽく世界の歴史がくっつけられておる」


「高等技術だな」


「わしと学園長とヒメノでやればなんとか、というレベルじゃな」


「誰が作ったんだか……」


 やがて豪華な扉が目の前に現れた。


「今回扉ばっかだな」


 押せば開く扉だった。中には真っ白な天井・壁・床。

 そして家具と機械的な制御装置。

 中央には光る玉が台座に備えられていた。


「…………生活空間……っぽく見えるな」


「私室……かのう……さすがに解説できんのじゃ」


 私室というには圧倒的に広いが、そもそも家具があることの意味がわからん。

 つまり誰かが暮らしているのか?


「待っていた」


 淡い輝きを携えた宝玉から声がする。

 男か女かわからん。強いて言えば女寄りかね。


「これは……」


 玉の光が立体映像となり、人が映された。

 ギリシャのような白い服の性別不明なやつ。


「お前が犯人か」


「記録の守護神。名前はない。この地を守ることが役目。そうプログラムされた」


「AIに神格をもたせておるのじゃな」


「異世界さんにあっていいもんじゃないぞー」


 境目を見失いそうになる。これ誰がどういう経緯で作ったんだよ。


「そうだ、ここは誰がどういう目的で作った? なぜ攻撃してくる?」


「すべてを話すには、まだ足りない」


 そして部屋の奥に誰かが映し出された。

 ゆっくりと空を飛び、俺たちに向かって降りてくる。


「記録にある邪神を再現した。まずはこれを倒し……」


「もういいわボケエエェェ!!」


 さすがに腹立ったので、アッパーで吹っ飛ばす。

 ノリでやったが、どうやらここ超頑丈らしいな。

 天井に穴が空いていない。


「一撃。合格。では第二試練。最上級神を模したプログラム……」


「やめんかオラア!!」


 右ストレートで消してやる。お前ふざけんなよもうマジでさ。


「おおう、とうとう切れおったのう」


「なっがいんだよ!! ラグナロクからずーっと戦いっぱなしだろうが! 普通に疲れるわ! どんだけ戦わせりゃ気が済むんじゃボケ!!」


 今日だけで飽きるほどバトルしたよ。

 もう半年くらいマジ戦闘はご遠慮ください。

 アジュさんは戦闘向きの性格じゃないぞ。


「この戦いに、世界の真実がある」


「知らんわ! よく考えたら別に俺と関係ない!!」


「わしら別に因縁とか無いからのう」


「いいからさっさとしろ。でなきゃ月ごと破壊する」


「…………わかった。戦闘力的には申し分ない。一時的に継承者とみなす」


 ようやくかよ。さっさと話聞いて帰ろう。もうしんどいわ。

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