スルト・アルテミス・ルシファーを倒せ

 宇宙まで出たのはいいが、よりによってボスが三匹同時かい。


「男か。神ではないな」


「何に見える?」


 弓矢が顔のそばを通過していく。

 当てるつもりがないことは見抜いたので、動く気はない。

 隕石を何個か跡形もなく消しているが、威力としては致命傷じゃないな。


「口を慎みなさい」


 アルテミスの武器は弓。

 スルトは炎とニュートリノブレード。

 ルシファーがわからん。黒い羽を飛ばしてきた。

 八枚黒い翼があって、濃い紫色の髪だ。


「羽の数が増えるのか」


 興味が湧いて観察していたら、背後からスルトの攻撃が迫る。

 首だけを傾けて回避し、腹に蹴りを入れた。


「無駄だ」


 どうやら手加減しすぎたらしい。

 しばらく強い神と戦っていなかったせいか、加減も下限もわからんな。


「ルシファー、遊んでいる場合か? さっさと始末しろ」


「ふん、言われるまでもない」


 羽を束ねて剣にしているルシファー。

 それはもうやた子で見た。


「ふっ!」


 ソードキーならそんなもん切り裂ける。

 試しに切ってみると、羽が舞ってうざい。

 その機に乗じて挟み撃ちにするつもりっぽいスルトもまとめて回し蹴り。


「うっ!?」


「こいつ!」


 そして正面から矢が飛んでくる。

 正確に両断し、蹴り飛ばした二人に当たるよう軌道を調整。


「小細工を!」


「させてもらうさ。それくらいの面白味は必要だ」


 だがこんなもんじゃ死なないらしい。しっかり防御された。

 ついでにアルテミスに斬撃を飛ばす。死を察したのか、猛スピードで退避していく。


「弓矢ってのは、一回撃てば装填が必要だろ」


 狙うなら今だろう。

 だが虚空から同時に数億の矢が迫る。

 俺に当たるやつだけ適当に落としておく。


「神に人の理屈が通るとでも?」


「そらそうだ」


 人体の構造なんて神には適用されないわけか。


「その発想が人の限界です」


 ではお前の発想を超えてやろう。

 剣を回転させ、飛んでくる矢を全部巻き取り、くるりと横に一回転させる。

 遠心力と俺の魔力で速度を増してお返ししよう。


「なんだと!?」


 自分の矢が完全に見切られていると自覚して動揺したか。

 そこに隙ができる。

 矢の嵐に紛れて肉薄。腹パンかまして魔力を大放出。


「うあああぁぁぁ!?」


 豪快に隕石を貫きながら飛んでいく。

 その頃にはルシファーとスルトが武器を構えていた。


「ついでに教えてくれ。お前らの目的は何だ? いきなり攻撃してきやがって、俺が味方だったらどうする?」


 戻ってきたアルテミスとルシファーによる上下からの連射が始まった。

 そら宇宙だからな。全方位攻撃もできるか。

 光速の五百倍で動けば避けられる。


「ありえんな」


「断言できる理由があるのか?」


「人間の味方などおらぬ。我らの正義と覇道に、人の身では同行できぬ」


「お喋りはやめなさいスルト」


 元気だなアルテミス。殴られた時も自動回復していたっぽい。

 神ってのは不老不死が標準装備なんかねえ。


「追ってくる神々を可能な限り各個撃破する。それが我々の役目だ」


「そうアテナに言われたのか?」


 全員の攻撃で宇宙が埋め尽くされる。

 触れちゃいけない話題だったのかね。

 他の星や景観を考えろよ。


「とりあえず消すか」


「消す? 矮小な人間よ、また芸でもするというのですか?」


「んじゃリクエスト通り芸でいくか」


 ちょっと楽しくなってきた。面白おかしく遊んでやるか。

 億も兆も超えた神々の一撃を、適当に一息で吸い込む。

 そのへんの隕石とかも入ったけど気にしない。


「何だとっ!?」


 矢と炎を口の中で噛み砕き、魔法でコーティングしてみる。

 口に全部入るかと言われれば入る。

 物理法則なんて鎧には通用しないのよ。


「プッ!!」


 スイカの種みたいに飛ばし、神様の鎧をズタズタに傷つけてやった。


「ヌオオオオォォォ!?」


「防御障壁を貫くとは!!」


 なんかバリアを張っているので、それを突き抜けるくらい強く吹いた。

 所々から血なんか出している神々の皆様。血が出るタイプでございますか。


「ぺっぺっ、遊びすぎたなこりゃ……」


 嫌な予感がしたもんで、黒い羽は吸い込まなくてよかったぜ。

 あんなの口の中おかしくなりそうだし。よい子は真似しないようにしようね。


「ありえん。三神を相手にここまでできるとは」


「達人か王族ではなくて?」


「大国の達人と王族は、すべて会場内に保護されているはずだ」


 なるほどね。堕天使を大量に出したのは、そういう紛れを無くすためか。

 追ってくる神は大量にはならない。だから撃破できるか、できなくとも足止めをする役目なのね。


「化け物が……さっさと殺して月に行くぞ」


 月がどのへんにあるのか、ちょっと鎧で星を観測。

 さっきまでの記憶と照らし合わせる。


「やっべ」


 軽く吹いたつもりだったが、近くの星々を移動させてしまったらしい。

 数回息を吸ったり吐いたりして星を微調整した。

 よかった全部無人だ。これ以上破壊しないうちに行こうかな。


「それじゃ、俺は急ぐから」


 月のありそうな場所へとダッシュ。幸い場所は変わっていなかった。


「させん!」


 スルトの剣が輝きを増して迫る。

 さっきよりも更に強めに腹へと左足をめり込ませ、そのまま軸足にして右回し蹴りを放つ。


「げはっ!? なめるな!!」


 手から超高温の炎が飛んでくる。

 その場で縦に一回転。脳天に踵落としを決めて宇宙の流れ星へと変えた。


「ぬおおおぉぉぉ!!」


「そのまま地獄まで飛んでいってくれ」


 宇宙はいつもと違った動きができて楽しいな。


「もうお前を人間とは思わない」


「ここで宇宙の塵となれ!」


 これが全力ということか。さっきまでとは桁が違う。

 普通の人間なら放出されている魔力だけで消えるだろうさ。


「予定に遅れも例外も認めん。全力で排除する」


 数えるのも面倒なほど無限の刃が飛び交い、弓矢が光の線を宇宙へと描く。

 最上級神じゃないはずだが、三人がかりでそこそこチームワークが取れている。

 こういう連中って珍しいな。


「まだ考え事をする余裕があるか!」


「すまんね。光の柱はどこに伸びたのか気になってさ。月で何をする気なんだ?」


「黙りなさい人間。神のやることに口を挟むとは」


「俺だってお喋りは嫌いさ。だが聞いておかないと面倒なことになる」


「好奇心はしまっておくべきだったな」


 光速を遥かに超えて、神だけが入る速度へ。

 パワーが上がり続けている?

 ヒメノほどじゃないが、長期戦は連中の思うつぼということか。


「ちょっと本気出すかね」


「ぬかせ!」


 スルトを本日トップスピードでかわし、ルシファーへ。


「お前が一番弱い」


 顔と腹に二発蹴りを入れ、飛んでくる弓矢に向けて殴り飛ばす。


「止めろアルテミス!」


「もう矢は放たれました」


 無情である。矢の雨にさらされるルシファー。でも死なない。

 思った以上に頑丈にできているらしいな。


『ルシファー』


「んん?」


 聞き覚えある声というか、電子音声というか。


「アルテミス貴様!!」


「せめてあの方の役に立ちなさい。神でもない穢れた天使よ」


『ルシファー』


 さらに何度も音がなる。声もする。

 刺さっているのは矢だけじゃない。あの注射器型の薬品もだ。


「あの方も、本人に撃つとどうなるか、試してみたいとおっしゃっていましたよ」


「なんだもう使い捨てるのか。まだ戦えるだろうに」


「人間に一方的に負け、盾にされるなど……とても我らの同胞とは言えません」


 堕天使ルシファーの地位は低いようだ。かわいそうなやつ。


「ぐっ……オオオオ……オアアアアアアアアアアァアァァ!!」


 翼がさらに増えて大きくなっていく。

 体そのものが黒い羽で覆われ、巨大な黒い化け物へとその姿を堕とす。


「堕天使がさらに堕ちる。悪くない趣向でしょう?」


「相手させられる身にもなってくれ」


「だからやったのです」


「アアアアアア!!」


 速度も力も倍増なんてレベルじゃない。ここまで強くなるとは思わなかったぞ。


「アルテ……ミ……スウウウゥゥゥ!!」


 なんかアルテミスに突進していった。


「敵を前にして何をしているのです!」


「いやお前が悪いだろ」


 矢が刺さってもお構いなしに突撃する。ガッツあるね。

 そこへスルトが助け舟を出す。


「何をやっているのだ」


「ギャアアアァァァ!!」


 ニュートリノソードをルシファーに深々と突き立て、炎で焼いていく。

 煙出てんぞ。マジで何やってんのよ。


「その男を殺せ! 目的を忘れたわけではあるまい!」


「たとえ忘れていなくてもお前らが言うなよ」


「キィイイイイアアアアアァァァァ!!」


 ほーら猛スピードでこっち来るじゃん。どうしてくれんのよ。

 拳も羽攻撃もさばいていくが、尋常じゃないな。

 こりゃ他のやつだとかなりきついぞ。


「いい加減消えな!!」


 翼を根本から切り落とし、魔力波で焼き消しておく。


「ギギギギッギイイイイイイイイイ!!」


「そろそろ終わりだ。時間が惜しい」


 ルシファーだったものに剣を向け、頭から十字に大切断。


「はあっ!!」


 周囲に残る黒い魔力ごと崩壊させる。

 この程度ちょっと魔力は放出すれば容易だ。


「さて、あと二匹か」


 スルトがいない。アルテミスもそれに気づいたのか、きょろきょろ周囲を調べている。


「そこか! おのれ自分だけ逃げるつもりだな!」


「そやつの足止めはおぬしがやればよい。まずは月の確保が最優先だ」


「ならば私が月へ行きましょう。足止めに戻りなさい!」


「んじゃ両方の折衷案といこうぜ」


 月の位置をできる限り正確に調べ、必殺技キーをハイパー手加減して発動。


『真! 流・星・脚!!』


 星よりも眩く光る右足で、アルテミスとスルトを蹴りながら月へ直行する。


「うおおおぉおぉ! 貴様神を足蹴にするなど!!」


「か、体が!? 体が砕ける!!」


「このまま月まで行ってやるぜ!」


 二神をサーフボードみたいにして、隕石をも蹴りぬけ宇宙を滑る。

 そろそろ見えてきてもいい頃だ。

 光の先にはどんな月が待っているのか、少々期待しておこう。

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