ヴァルキリーの目的と集う神々

 敵ヴァルキリーを米俵みたいに肩に担ぎ、金庫からそーっと退出。

 外に気配も監視魔法もないな。


「よし、次に行くぞ」


「次は……おかしいわ。またスクルドの反応が二個ある!」


「別の日から呼んだのじゃろ」


「金庫から行くか、スクルドから行くか」


「スクルドがこちらに来ると金庫が狙われる。じゃがそれは別の金庫も同じ」


 さてどうしたもんかね。とりあえず通信機で連絡取ってみるか。


「聞こえるか? ヴァルキリー確保。スクルドが二匹出たんで殺した。また増えたらしい」


『了解。こちらはほぼ片付いた。手の空いたものから三人組で外に出ている』


『そっちは平気?』


「問題ない。全員無事だ。敵の目的がいまいちわからんけどな」


 会場は全員無事らしい。できればそのまま待機していて欲しいところだ。


『すぐそちらに向かいますわ!』


「アルヴィト、だいたいでいいから敵の場所を探ってくれ」


「わかったわ」


 ヴァルキリーの場所を伝え、神々にはそこへ向かってもらうことにした。


「んじゃこいつを起こして聞き込みといくか」


「アジュ様ああああぁぁぁ!!」


 猛烈な速度でヒメノが走ってくる。なんか怖い。


「はっやいのう……」


「到着! アジュ様のヒメノが到着ですわ!」


「そうか、じゃあこいつがヴァルキリーな」


「もっと温かいコメントはありませんの!?」


 こいつのテンションが高いと冷静になる。

 そらこういう感じにもなるよ。


「ふざけるなよアマテラス。三人で行動しろと言われただろうが」


「先に行くなんてひどいわアマテラスちゃん」


 後から二人走ってくる。どこかで見た顔だな。


「もっと全力で走ればいいのですわ」


「団体行動を乱すなと言っている!」


「あら? そちらがヴァルキリー?」


 なぜか俺を見ている。いやいや一番可能性低いだろ。


「どう見ても男だが」


「男ですよ」


「男のヴァルキリー?」


 いかんこいつヒメノとは別の意味で厄介だ。


「こっちがヴァルキリーじゃ」


 リリアがヒメノに渡す。まだ眠っているスリマ。


「だろうな。アマテラスの部下か?」


「アジュ様は部下ではなく伴侶ですわ」


「ボケている場合じゃないだろ。アジュ・サカガミです」


「リリア・ルーンじゃ」


「女媧だ。まともに会話ができそうで安心した」


「ヘスティアよ。よろしくね」


 自己紹介と状況説明が終わり、三人はとりあえずスリマを連れて会場へ戻るつもりらしい。


「途中まで護衛しよう。応援も来た」


 別の神々が十人くらい来た。トールさんとジャックフロストもいる。


「ここは僕らが見るよ。急いでね、秘密兵器さん」


「無事に生きて帰れたら、雷の秘伝を教えよう」


「楽しみにしています」


 ヒメノチームを加えて六人でダッシュ。

 途中で女媧さんがストップを掛けてきた。


「止まれ! 罠だ!」


 よく見ると前方に光の線が張り巡らされている。


「ワイヤートラップみたいなもんか」


「アルヴィト、ヴァルキリー反応は?」


「近くにはないわ。ヴァルキリーの魔力でもない」


 ワイヤーが光り輝き、網のようになって飛んでくる。


「サンダースマッシャー!」


 攻撃魔法をあやとりのように穴を開けて避けやがる。

 これ意思でもあるのか。

 光が束ねられ、二本の剣となって飛んできた。


「面倒だ。広範囲攻撃で消すぞ」


 雑に殴り飛ばすと、さらに光のおかわりが到来。

 やってらんねえとはこのことよ。


「了解じゃ」


 そこで周囲の地面が盛り上がり、下から大量のマシンガンタレットが登場。


「機械出ちゃうか」


「管理機関の技術ですわね」


 別に銃弾なんかで死ぬやつはここにいない。

 俺とリリアで光の線を消し、他はタレットを破壊する。


「ライトニングフラッシュ!」


 手早く消したが、時間稼ぎをされている気がする。


「飛べばいいんだろ」


『エリアル』


 全員飛べる。このまま空から進もう。

 会場側にトラップが仕掛けられていることも話しておく。


「いた! あそこよ!」


 指差す先はまだ遠い。だが鎧のおかげで確認。スクルドと誰かがいる。


「女媧、ヘスティア、わたくしはアジュ様と行きます。敵ヴァルキリーを会場へ」


「神がいれば戦力になる。そんなやつでも上級神だ。うまく使え」


「気をつけるのよアルヴィトちゃん。サカガミくんもルーンちゃんも」


「そちらはお任せします」


 空中で別れてさらに飛ぶ。見えてきたのは同じタイプの金庫だ。


「そういやお前と共闘するのって初めてか?」


「初めての共同作業ですわね!」


「言わなきゃよかった……」


「言っている場合でもないようじゃ」


「スクルド! 止まりなさい!」


 四人で大地に降り立つ。スクルドは手から何かを転送したようだ。


「遅かったのですね。この妾はもう一仕事終えましたよ」


「今何をしたのか答えなさい!」


「観念なさいな。逃げ道などありませんわよ」


「アマテラス……最上級神は分が悪いですね。ですが時間くらいは稼ぎましょう」


 金庫から出てきた天使数匹が変貌を遂げる。

 その姿は黒い六枚の翼に全身を走る紫の線。


「ルシファー化ですわね」


 そうだ、前にも似たやつを見た。

 つまりルシファー化させる薬は量産できる可能性が出てきた。


「あら、ご存知でしたか。神界上層部も間抜けではないようで」


 ルシファーの群れが光速の三倍くらいで動く。


「こんなもんか」


「ザコじゃな」


「無意味ですわ」


 アルヴィトを守りながら三人で瞬殺する。

 一撃で消すのは簡単だ。ここにいるのはそういうメンバーなんだよ。


「まだまだ改良の必要がありそうですね。人間にすら勝てないとは」


「観念して目的を言いなさい。あんたらここまでして宝が欲しいの?」


「必要だから集めているのですよ」


『必要なのは座標か、それを知る装置……』


 突然全域に放送がかかる。

 どうやらスリマが目覚めたらしい。

 会場から声を魔力で飛ばし続けているのだろう。


『そして鍵。起動にはそれが必要』


「捕まりましたか。使えない子」


『鍵と座標は何に使う?』


『月に』


「月?」


 急に出てきたな。月の座標なんて調べりゃ出ているだろう。

 こんな真似してまで知る必要があるとは思えない。

 そもそも一定の場所にあるのか? この世界じゃ周期とかあってもおかしくない。


『どういうこと? 詳しく説明して』


『知らない。上層部しか知らない』


『上層部とは誰?』


『スクルド。他の神とは会っていない。スクルドが橋渡し』


 どうも覇気のない無機質な口調だ。魔法かなんかで自白させてんなこれ。


「さようなら」


『うあう!?』


 何か爆発音のようなものがした。

 スクルドは魔力を放っていない。


「情報を喋ると自爆するように、あらかじめ呪いがかけられているのですよ」


「やるね。遠隔操作は送受信を切られちまえば終わりだ」


「ええ、ですから本人が起動キーになることが一番です。援軍を呼ぶ時間は稼げました。さあこの数をどうさばきます?」


 大量にルシファーもどきが登場。

 だが一匹から感じる魔力はそれほどでもない。

 おそらく素体にした天使が弱いんだ。


「ぱぱっと倒してみせますわ!」


「スクルド、戦闘機能停止。両手を上に挙げて、抵抗はしないで」


「なるほど。ではこの妾もここまでですね」


 潔く自爆。それを合図にするかのように、一斉に敵が飛びかかってくる。


「邪魔だ!!」


 光速を超えた拳圧と手刀で解体開始。するりと切断できる。

 やはりクオリティに差があるな。


「やれやれじゃのう」


 リリアの魔法弾を脳天にくらい、破裂を繰り返して消えていくザコ。

 全属性魔法を一発に込め、相手に着弾すると全種類が爆発して混ざるのか。

 相変わらずむちゃくちゃしやがるな。


「アジュ様の前で張り切るわたくしの輝き!!」


 ヒメノはなんか光っている。すごい光ってるよこれ。

 その光にあたったやつから即座に蒸発していく。


「アジュ様に愛される喜びが、今輝きとなって敵に!!」


 さらに光る。ちょっと邪魔。敵がもうかわいそうだわなんか。


「あれ! 柱があるわ! 光ってる!」


 天に向けて、光の柱が何本も伸びている。

 それを守るように、空からルシファーもどきがぽこじゃが降りてくる。


『緊急連絡。光の収束先を特定……何もない? 宇宙の何もない場所に収束しています』


「なんだそりゃ?」


「月……座標…………鍵? 三番目の月ですの!?」


「三番目?」


 桃源郷といい、何でも三個は作らないと安心できんのか。

 保存用観賞用的なグッズかい。


「この世界の月は現在三個ある。だが普段見えるのは二個。一個は誰にも見えないように隠され、封印されておるのじゃ」


「授業で習わなかったぞ」


「これは遠い昔に神族と魔王が隠したものじゃ」


「ヴァルキリーの反応が三個! 全部光の柱を昇ってる!!」


『ソード』


「切っちまっていいんだな!」


 ソードキーの剣なら、柱の光と昇っているヴァルキリーを切れる。

 スパッと切り飛ばし、無防備になったヴァルキリーを二匹まとめて切断した。

 完全にスクルドだ。何匹出しゃ気が済むんだよ。


「一匹残したが、スクルドじゃないな」


「でもあれが最後ね。少なくとも桃源郷にはいないわ」


 何やら輝く鎖が空中を乱舞し、ヴァルキリーを巻きつけてこちらへ叩き落とした。


「これでいい。俺の鎖からは逃げられん」


「マーラ!」


 マーラの横に女が二人いる。かわいい系と美人系だな。


「同志よ、面倒を押し付けて悪かったな」


「アルヴィトの保護と、ザコの排除は任せろ。ぬかるなよ」


「はっ!!」


「仲間なのか?」


「俺の女だ。酒呑童子と毘沙門天」


 前にどっちかの話を聞いた気がする。

 ていうか強いな。ごく普通に敵を圧倒している。


「聞こえるか? 敵は三番目の月ってやつを狙っている可能性が高い」


『了解! そのまま宇宙まで追跡できる?』


 一応連絡したらそんな質問が返ってきた。


『正直王族を守りつつ、桃源郷も守るので数を使わされている。信用のおける強者を送りたい』


「あまり目立ちたくはないが、やらなきゃこっちにも被害が出そうだな」


 ミラージュキーで白い仮面をつける。

 服装も全身を包む黒い鎧へチェンジ。あくまでそう見える幻影だけど。


『すまない。鎮圧次第援軍に行く』


「それじゃあ恒例行事行ってみようか。ヒメノ、リリアを頼めるか? あんまり公にしたくない」


「わたくしに全幅の信頼を寄せてくださいまし!!」


「ここを片付けたら、みんなに紛れて行ってやるのじゃ」


 最悪九尾の力を使わせちまいそうだ。慎重にいこう。

 どこに光が伸びているかは一目瞭然というやつだ。

 光速すらも楽勝で超えて、宇宙へジャンプ。


「光は……あそこか、っと!!」


 突然黒い羽が襲ってくる。

 瞬時に叩き落とすと、その中を飛んでくる光る矢。


「鬱陶しい!」


 拳で弾き飛ばすと、目の前に緑色に光る剣を持った男。

 反射的に横にずれ、回転して拳圧を顔に飛ばす。


「ぐぅ!?」


 ダメージはそこそこかな。全行程が光速の百倍くらい。

 いきなり強いやつが増えたな。


「名乗りもせず不意打ちか? 余裕のない連中だな」


「アルテミス」


「スルト」


「ルシファー」


「おいおいマジか」


 アルテミスとスルトだ。見た目も魔力も神格も本人っぽい。

 まいったね。まさか同時に三匹出てくるとは。

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