ご飯と今後の予定

 ヒメノが食材を持ち込み、卑弥呼さんに作らせたという海鮮鍋をみんなで囲む。


「最近鍋ばっかり食っている気がするな」


「あっしはこういう団らんが好きでございやすよ」


 メンバーは俺、ヒメノ、フリスト、ラーさん、卑弥呼さん、アルヴィト。

 結構な大所帯だ。丸くて広めのちゃぶ台を囲んでいる。


「今回の鍋は高級食材ですわよ!」


「あたしと卑弥呼様でなんとか仕上げました」


「ありがとうヒメノちゃん。アルヴィトちゃん」


「二人ともありがとう。でもヒメノ、できれば次回からは前日には言って欲しい」


 本当にな。アドリブで生きているのは、お前のような神だけだぞヒメノ。


「はいアジュ様あーん。熱いうちにどうぞ!」


 白菜をこっちに向けてくる。鍋から直接取ったやつだ。


「鍋をあーんはやめろ。芸人みたいになるだろうが」


「ならば口移しで! これならあっちゅい!?」


 自分で咥えて熱さに悶えている。アホだ。ここにアホが居るぞ。


「今のうちに食うぞ」


「はい。旦那、こちらが食べごろかと」


 フリストによそってもらう。

 気配りできるのは知っているが、もうちょいリラックスして食えばいいのに。


「うむ、美味いな」


 素材の良さがわかるいい鍋だ。

 深みがあって、なにより高級食材であることを意識させられる。

 だし汁が美味いのもグッドだ。


「はい、アルヴィトちゃんもどうぞ」


「すみません。卑弥呼様。あたしがやります」


「いいんだよ。好きにお食べ。こちらは卑弥呼とゆっくり食べるよ」


 あっちはごく普通に家族団らんっぽい。

 ならば静かに味わおう。

 身が引き締まって、それでいて旨味をぎゅっと詰め込んだいい魚だ。


「よし、冷ましましたわ! さあ!」


 ネギ咥えてこっちに近づいてくる。

 新種のモンスターかな。


「自分で食えや」


 もち巾着を箸でつかみ、口にネギごとぶち込んでやる。


「むぐうぅぅ!? あっちゅ!? あっちゅい!?」


「あんまり食い物で遊びたくない。懲りろ」


 悶絶女神をよそに、楽しい食事は続く。


「それでアジュくん、リリアとはうまくいっているかい?」


 続きませんでした。

 そういやご先祖様ですもんね。

 ここは無難にいこう。


「ええまあ、助けられています」


「まあ、それはよかった。リリアとはどこまでいきました?」


「学園から出ることは少ないので、フルムーンまでくらいですね」


 俺渾身のスルーが大炸裂。

 今のうまくないですか。最高の回避だったと自負しています。


「いえ、男女の関係についてです」


 卑弥呼さんが結構ぐいぐい来るタイプだったのは想定外だ。

 マジかよ。自慢じゃないが十年に一度の返しだぞ。


「仲良くはしていると、思います。まだ高等部一年ですし」


 こうなりゃ若さを言い訳に逃げよう。

 退路は複数作る。これは基本だ。


「なら徐々に手を出せばいいのさ。愛を育んでいくといい」


「リリアもアジュさんの側が、一番居心地がいいでしょうから」


 俺にとっちゃここが一番居心地悪いぞ。

 飯食っちまっているので、帰るに帰れないし。

 これは面倒なことになった。


「無理に急かしても、変に意識してしまうだけでございやすよ」


「そうだね。ゆっくり仲良くなっておくれ」


「はい。やってみます」


 流石でございやす、フリストの姉御。

 ヒメノの部下ってみんな気配りできるよね。


「味が染み込んだお豆腐が最高ですわ!!」


 ハイスピードで豆腐食ってる女神とは違いますわ。


「それと、申し訳ないんだけれど」


 ラーさんの顔つきが真剣なものになった。

 嫌な予感がするな。


「近い内に、動いてもらうかも知れない」


「それは、鎧を使わないといけない事が起きると?」


 やはりそういう話か。困ったな。

 フリストの依頼も終わったし、今はフリーだ。

 動けるといえば動けるが。


「もちろん、無理強いはしない。ただ妙な動きがあってね」


「アテナという神をご存知ですか?」


「面識はありませんが」


 ヘカトンケイルを騙した疑いのある女神か。

 迷惑千万。さっさと処分されてくれ。


「居場所を突き止めました」


「自分の宮殿を造り、そこに戦力を集めている」


「なら神々で話し合ってください」


 そこまでわかってんなら、後は証拠を見つけて捕まえたらいい。

 最上級神じゃないらしいから、ヒメノとラーさんが動けばいいだろ。


「神々により捜査は続いているが、なにせ大昔のことでね。証拠が出てこない」


「しかも宮殿内にヴァルキリーがいるわ」


「マジか」


「あたしなら探知できる。宮殿の近くまで行ったらわかったの」


 そういや司令塔の役割もった全部乗せなんだっけこいつ。

 鍋を粗方食い終わり、おじやを作っている姿からは想像できんな。


「怪しいな。本来アテナにヴァルキリーっているのか?」


「いいや、フリストやアルヴィトのようなケースは特殊だ。極めて稀なことさ」


「しかもアテナの宮殿に二人反応があるわ」


 おじやの入った器をもらう。会話を止めないように軽く会釈して質問。


「誰だか割り出せるか?」


「無理ね。結界が強すぎて、内部がちゃんと把握できないの」


 新設された宮殿で、人目につかないように特殊な結界で阻まれているらしい。


「怪しすぎるだろう。事情聞き出して踏み込めばいいんじゃないか?」


「本人はラグナロクに出る準備のため、秘密特訓中だから入るなと言ってきた」


「怪しいが踏み込むには足りないってところね」


 神のくせに小賢しいな。もうちょい堂々と自由にできんのか。


「ラーさんもヒメノも、アテナの目的に心当たりはないんですか?」


「あまり接点がなくてね。仲がいいわけではないんだよ」


「フルムーンにいる神族なら詳しいと思うわ」


「俺はポセイドンかヘファイストスさんくらいしか知りませんね」


 あいつらも詳しくなさそうだなあ。

 おぉう、おじやがさっぱりしていて美味い。

 出汁ががっつり染み込んでいるから深い味わいで、なのにあっさり食える。


「神界で引き続き目的を探るよ。もしかしたら学園に現れるかもしれないから」


「敵ですかね?」


「敵対してくる可能性はある。実はいい神様の可能性もある。危害を加えてくるようなら、殺すしかないかもね」


 これが面倒だ。いい神様でしたーとか言われても困るんだよ。

 まだ誰がどう動いていて、真実がどこにあるのか不明だ。


「そういえばアジュ様はラグナロクどうしますの?」


「何だその斬新にして珍妙な質問は」


 いきなりラグナロクどうするとか聞かれたの初めてだよ。


「ハーデス様に呼ばれたとか聞いたわ。行くならその期間は授業とか免除されるわよ」


「ハーデスって邪神だよな?」


 なんか冥界の神だったはず。罠の可能性高すぎて行きたくないです。


「まあ暗黒パワー半端ないですわね。でもお仕事には真面目ですし、単純に興味があるだけですわきっと」


「危害を加える気はないはずだよ。そういう裏工作はしないで、正面から叩き伏せる実力者だし」


「単純に強いと?」


「ええ、能力もあるけれど、純粋に戦闘能力が高い上級神よ」


 ストレートに強いタイプって対処難しいよな。

 鎧がなければ危険だろう。


「ひょっとしてアジュさんと組みたいのでは?」


「組むって……ゲスト枠のはずですが」


「ゲストも出場できるよ」


 聞いていませんけど。出たくない。疲れるの嫌いだし。


「チーム登録もできますわよ。神・魔王・人間で組むものもありますわ」


「死ぬわそんなん」


「鎧前提ですわね」


「そういう目立ち方嫌い。そもそも神族出てくるんだろ? 上級神が無双して終わりじゃないのか?」


「そんな無粋なことしたら、せっかくのお祭りが台無しだろう?」


 お祭りって言い切ったぞ。

 なんかプログラムかなり多いらしく、そこはちゃんと整理されているんだとさ。


「人間の王族も来ますわよ」


「行きたくない……偉そうなこと言いながら暴力振るわれたら殺していいか?」


 王族貴族とかってめっちゃ偉そうなイメージある。

 いやみったらしく暴力振るわれたら殺しそう。

 生首にツバ吐きかけてサッカーボールにしちゃう可能性大。


「わたくしもお手伝いいたしますわ!」


「流石に神族がいる場のゲストにそれはないと思うけれど……」


「王族以外の、逆に魔王で組むとしたら誰です? アモン様とお知り合いと聞きやしたが」


 おじやを食い終わり、ぼんやりした頭を動かす。

 実においしゅうございました。


「アモンさんは難しいな。アスモさんもあんまり会いたくない。パイモンは……まあ悪くないけれど……うーむ」


 アモンさんはもう出場を決めていそうだし。あのハイテンションがめんどい。

 アスモさんは色ボケなのできつい。絶対にヒメノと会わせたくないな。

 パイモンはどうだろ……俺の強さを知っていて、ある程度理解者でもあるが。


「マーラさんってどうだ?」


 なぜかマーラさんが思い浮かんだ。自分でもよくわからん。


「悪くないチョイスだね」


「魔族版の旦那でございやすな」


「あっちは物凄く美形だけど、知り合いだったのね」


「魔界で騒動に巻き込まれてな。その時に魔王の知り合いが増えちまった」


 というか知られているのかあの人。

 表舞台に出るタイプじゃないと思ったのに。


「学園は魔界や魔王とも連携していたりしますから」


 そういやバエルさんに役職押し付けられたとか言っていたような。


「中級神を倒せる魔族はごく少数でね。それで覚えているんだ」


 なんでも賞品をハーレムメンバーにあげるために、うっかり本気出しちゃったとか。

 まるで俺のようだ。気をつけよう。


「やっぱ出たくない……なるべくマーラさんとも不干渉でいたいな」


「なぜです?」


「魔族版の俺だとすれば、できる限り他人と関わりたくない。ひっそり好き放題暮らしているはず」


 そこに人間で目立つガキなんぞ来たら迷惑だろう。

 俺が逆なら断る。悪い印象のない人だし、人生謳歌して欲しい。


「ってわけで、できれば出たくないです。アテナが来るなら大捕物になる可能性もありますし」


「アテナはラグナロクに来るでしょうか?」


「来なけりゃ特訓が嘘になりますからね。今のうちにエントリーさせちゃどうです?」


「それはこちらでも考えていた。アテナはもう来ることが確定して、エントリーもさせた。チームは調整中だって言っているけれど、事前登録は必須さ」


「ならそれを早めに締め切ればいい感じですね」


 これで神族が動き、何事もなくラグナロクが終わり、アテナが善人側であればいいんだな。

 なんか儚い願いだなこれ。あいつらだけでも守ろう。


「そういえば、俺の扱いってどうなるんです?」


「ゲスト様はチケットに登録されているので、来ても来なくても構いませんわ」


「あっしとやた子はヒメノ様チームでございやす。できれば旦那もご一緒に」


「そうですわ! 秘密の密着二十四時間特訓ですわ!」


「ヒメノのところには行かない」


 どうせならゲストというか見物人になって、ヒメノやポセイドンなんかに囲まれていたほうが、あいつらも安全かもしれないな。

 最終的には行く方向になりそうだ。


「出るにせよ、今のうちに鍛えておくべきか」


 今後のこともある。鎧をミラージュキーでごまかすこともできるが、やはり手段は豊富であるべきだろう。


「でしたらチームメンバーを決めるためにも、魔王に会って来たらいかがです?」


「ほいほい会えるもんじゃないでしょう?」


「そこはこちらで都合をつける。紹介状を書くこともできるよ」


「あまりそういうものに頼りたくないのですが……」


 他人に借りを作る行為嫌い。あとから何を要求されるかわからないし。

 できれば貸し借りの繋がりは作らない方向で。


「リリアを助けていただいた恩もありますし」


「アヌビスの暴挙を止めてくれた恩もある」


「そりゃヴァンにあげるべきでしょう。倒したのはあいつです」


 ヴァンの事情を知っているから、手柄の横取りみたいなんは気分が悪い。

 他人の功績を奪いすぎると、いらんところで齟齬が生じ、結果的にトラブルから鎧を使う気がするのだ。


「謙虚なアジュ様も素敵ですわ!」


「立派ねアジュくんは」


「流石でございやす」


 ああ、これダメだ。俺の真意を理解してくれない。

 よくわからん理由でベタ褒めされても困るな。

 やはりリリアたちは必要なんだね。


「では両方にあげよう。単純に面白そうだしね」


 ラーさんの一言で、魔王面会ツアーが確定したのであった。


「最低限リリアたち三人もつれていきますからね」


 これだけは譲らなかったよ。

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