唐突な魔界訪問

 フリストの訓練に付き合ってから数日。

 俺たちは再び魔界に来ていた。


「魔王の家って豪華だよなあ……」


 ここは魔王の大豪邸。誰のかは知らん。

 魔王が集まっているとかで、手間が省けるから来てくれとのこと。

 別に来たくなかったのに、ヒメノとラーさんはどう話をつけたのか。


「つーかオレらも来てよかったのか?」


「いいんだよ。きつい試練は任せる」


 ヴァンも一緒だ。ソニアとクラリスはあとから合流するらしい。

 別々に行く予定だったが、多いほうがいいとかなんとか。


「そういうことか。いいぜ、強くならなきゃいけないんでな」


 門番さんに事情を話し、開けてもらったら、魔界だというのに真っ白で綺麗な宮殿内部へ。

 豪華絢爛な玄関ホールに、見覚えのある人々がいた。


「おう、よく来たな。元気してっか?」


「隊長、魔界にようこそですよー!」


「久しいな同類よ。楽しんでいくがいい」


「いらっしゃいマスター。記録より記憶に残る日々にしましょうね」


 とりあえずバエルさん・マーラさん・パイモン・アスモさんがいる。

 全員貴族っぽい豪華な服、いやパイモンだけゴスロリのままだな。

 出迎えてくれたってことはだ。


「つまりそちらの四人が」


「はい。マスターと愉快な仲間たちをお相手いたします」


「意外だったかい?」


「意外っていうか初耳ですね」


 なんか大事になっていませんかね。すこぶる面倒な気配がしますけれども。


「ラグナロクで組むかも知れないから、親交を深めつつメンバー探そうぜ的なふんわりした目的だっただろ」


「よくアジュがそんなんで動いたな」


「ヒマだったし、行ってみたいと言われてな」


 しかし人が多いな。ちょっと帰りたくなってきたぜ。


「修行つけてやってくれって書いてあったぜい」


「あ、そりゃオレです。アジュ関係ないですね」


 どうやらヴァンがお願いしていたらしい。

 よし、いいぞ。そういうことと俺は無関係だ。


「そうかい。せっかく作ったってのに。お前さんしか使わねえってのも味気ねえが」


「作った? 何をです?」


「この家だよ」


 どうやら訓練場として数日かけて豪邸作ったらしい。

 よくわからんことを。金持ちの発想は理解できん。


「なのでこのお家は誰のものでもないのですよー」


「しっかり寝泊まりできるようにしてあるから、安心するといい」


「しんどそうだな」


「なんでだよ? 修行するのはオレだけじゃねえのか?」


「まず他人の家で寝泊まりってのがしんどい」


「そこかよ」


 そこだよ。こちとら自宅以外にオアシスなんてないよ。

 自宅と大図書館くらいだぞ落ち着けるの。


「マスターには豪華なお部屋と、いつものお部屋を混ぜたものをご用意してありますよ」


「リリアさんとキアスさんによるものですよー」


 どうやら俺が逃げ出さないようにプロデュースしていたらしい。

 そういやキアスも魔界にいた時期があるんだったか。


「魔界の知り合いが多くなってきたな」


「よいことじゃ。そうやって社交性とか身につけるのじゃよ」


「社交的なアジュ……斬新ね」


「一緒に頑張ろうね!」


 メンバーが乗り気なので、無駄に否定することもないだろう。

 よし、社交性あるな。そして各自部屋に荷物を置きに行く。

 俺の部屋は左半分が豪華で、右半分がいつもの部屋っぽい。


「広いな」


 真ん中でくっきり別れていて、なんかもうギャグだな。

 片方だけで三十畳を超えているだろう。広すぎませんかね。


「そうね。一人で使うには広いわ」


 隣にイロハがいました。音もなく部屋に入りやがったな。

 自然に俺の横に立ち、窓の外を眺めている。


「二人で使えば広さも気にならないわよ」


「そうはさせるかー!」


 扉からシルフィ登場。お前ら何なんだよ。


「気づくのが早くなったわね」


「旅に慣れてきたからね。準備を終えて、念の為にアジュの部屋に寄ったらこのありさまさ!」


 俺の部屋の向かいがシルフィとイロハの部屋である。

 全員個室で、どうやら同じように広いらしい。

 他はちゃんと豪華な客室なんだと。


「学習してきたわね」


「親友歴が長いからね!」


 めんどいので荷物を置いて、ベッドを確認。

 高級素材だな。ふっかふかですよ。真っ白で肌触りもふわふわとすべすべが両立されている。


「素晴らしいな」


「じゃろ? 寝てみれば悪くないのじゃよ」


 既にリリアが寝ている。だからお前らはどこから来るのさ。


「もうリリアがいる!」


「なぜ忍者より速いのよ」


「そら裏技じゃよ」


「裏技はずるいので禁止です!」


 すると意外にもベッドから出る。

 抵抗もせず言うことを聞くとは。単にじゃれついていただけか。


「仕方がないのう」


「あっさり引くわね」


「うむ、ちなみにこの扉じゃが」


 ベッド横の扉を開けている。

 そういやなんでそんなところにあるのだろう。


「わしの寝室とつながっておる」


 そうきたか。隣の部屋の寝室が見えた。同じ形のベッドがある。

 そういやこいつ部屋の監修に関わっているとか言っていたな。


「今回リリアがすごい……」


「やられたわ……私達は来る前から負けていたのね」


 絶望に打ちひしがれた顔のアホが二人。

 なんですかこの茶番は。俺の部屋でやるなや。


「隊長、入りますよ?」


 ノックとともにパイモンの声がする。

 この状況を打開してもらおう。


「どうぞ」


「おじゃまし……」


「お邪魔しますわマスター。あなたのアスモデウスが参りました」


「どうも。その入口は出口にもなってますので、よろしければどうぞ」


「相変わらず冷たいお方。それがさらにぞくぞくしますわ!」


 くっそ、そういやそっち系の変態かこいつ。

 俺としたことが不覚。


「親交を深めるということで、このお家で遊びませんかー? 色々楽しい施設も……」


 そこで爆発音がする。豪邸は揺れないが、震源は近そうだ。


「敵襲?」


「ここ敵来るの!?」


 ちょっと身構えて、鎧使うか思案中。魔王がいるところに敵って来るかね。


「あらら、もう始めちゃいましたか……」


「気が早いわねえ」


 パイモンとアスモさんに焦りの色が見えない。

 なんか関係者の仕業なんだろうか。


「今の音はなんじゃ?」


「ヴァンさんとバエルさんが戦っている音ですよー。特訓して強くなるんですって」


「おぉ……絶対行きたくないなそこ」


 間違いなく修羅場だろう。

 言葉通りの、修羅と化した戦士が激戦を繰り広げているという意味で。


「血気盛んね。でもそうねえ、マスターにいいところを見せられるかも知れないし、どうかしら。ハーレムメンバーのみなさん、一つお手合わせなど」


 ピンク色の魔力が漏れ出している。

 色欲の魔王だっけ。素で浴びると魔力の桁が違うことがわかるな。


「アジュにいいところを……」


「悪い案ではないわね。レクリエーションは必要よ」


「三対一では分が悪かろう。わしは一緒に見ていることにするのじゃ」


「揉めるからやめろ」


 ほらもうみんなこっち見ているじゃないのさ。

 三対一は俺もどうかと思うよ。


「じゃあパイモンくんは私と一緒に戦いましょう。いいですかマスター?」


「えぇ!? 嫌ですよー。隊長の女の子に手をあげるのはしんどいです」


 露骨に嫌な顔をしているな。

 見た目女の子だけど男だから、そういうことに抵抗があるのかね。


「仕方がないわねえ……なんとか私だけでシルフィさんとイロハさんを強くしましょうか。あとからゲストも来ますし」


「私とシルフィなら相手にできると?」


「こちらが何も知らないと思って? 二人は人間としては強いわ。余程の強者でなければまず勝てない。けれど、それでマスターとずっと一緒にいられるかしら?」


 部屋の空気がひりついた冷たいものへ変わっていく。

 なるべく感じさせないようにしていたが、アスモさんにはっきり言われてしまった。


「……わかりました。わたし、やります」


「そうね。未熟なのは認めるわ。やりましょう」


 声がいつになく真剣だ。実力のことは、俺が触れないようにしていた。

 けれど、こいつらはそういうことに感づくほどには仲を深めてしまったのだろう。

 気づけば止まらないか。


「頑張れよ」


「任せて!」


「期待に応えるわ」


 俺には応援することしかできない。

 精々運動後の飲み物と、回復魔法くらいはかけてやろう。

 あと労いの言葉とか。


「いいとこ見せて、私もマスターのハーレム入りよ!」


「それはだめ」


「何が何でも、絶対に認めないわ」


 よくわからない陰謀渦巻く戦闘が始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る