淫乱魔王には気をつけよう
なんかシルフィとイロハが、アスモさんと模擬戦やることになりました。
花の咲き乱れる、噴水とかある大きな庭で。
「花が吹っ飛ばないか?」
「幻影魔術で投影してあるだけですよー」
「本来は土と白い壁の部屋じゃな」
「一応配慮してんのか」
せっかく綺麗に咲いているんだ、もったいないからな。
「隊長の人間以外への優しさはなんなのですか」
「知らん」
俺とリリア、パイモンは二階のテラスで観戦中。
椅子に座ってお茶飲みながら応援モードだ。
「これで、これでマスターのハーレム入り。週五くらいのペースで抱いてもらいましょう!」
「認めないと言っているでしょう」
「やれやれじゃな」
「実際のところどうなんですか? 隊長のハーレムに加えるのです?」
「それはない。三人以外は不要っていうかハーレム言うのやめい」
これ以上増えてたまるか。胃が限界ギリギリだよ。
「やるならさっさと始めてください」
「ではいきますよ。楽しく、淫靡に、欲望にまみれてくださいな」
アスモさんからピンクと黒のどろどろしたオーラが立ち上る。
以前俺が見た、欲望の塊で攻撃するやつだな。
「ホーリーレイ!」
シルフィの魔力が光へと変換され、天より降りそそぐ。
だがその中を余裕の表情で突き進み、ピンクの槍を取り出す。
あれも前に見たな。装飾が増えている気がする。
「魔王なら光に弱い。安直よお姫様」
「やっぱりだめか……なら正面から!」
シルフィの剣はあっさりと砕かれる。
それを想定していたのか、すぐに次の剣を取り出し振り下ろす。
今度は大剣だ。だがこれもぶっ壊される。質が違いすぎるのだろう。
「無駄よ。本気でいらっしゃいな」
「なら本気にさせてもらおうかしら」
アスモさんに押し寄せる影の波。
それを押し留めたのはピンクの波。
影を防げるのか。やっぱ強いんだな。
「これでも魔王よ。そう簡単には負けないわ」
一瞬でイロハの背後に現れ、欲望をまとわりつかせた槍を振るう。
「テュール!!」
ぎりぎりで背中から神の腕を出し、槍とぶつけて凌ぐ。
衝撃波がこっちにも飛んでくるじゃないか。
「問題ないのじゃ。ここは結界が張られておる」
透明な壁が衝撃を阻んでくれているようだ。
こういう技術は凄いな。
「イロハ、大丈夫?」
「危なかったわ。でもまだ平気よ」
二人が合流し、並んで構えを取る。
どうやら共闘しないと危ないと気づいたようだ。
「見応えありそうだ」
「ここから目で追えなくなるじゃろ? ぎりぎりまで見てみるのじゃ」
「これもまた修行か」
「ですです。ん? なんですかー?」
パイモンが会議とかでメイドさんに呼ばれている。
魔王って大変なんだなあ。
「うぅ……まだ隊長と遊びたかったのに……さよならです」
「おう、行ってこい」
「代わりに見ておくのじゃ」
「隊長を野放しにしてはだめですよー。ではでは」
手を振り去っていく。
なぜあいつは俺を危険動物みたいに認識しているのだ。
「マスター、戦いますよ。ちゃんと見ていますか?」
「見ているよ。見続けられる自信はないけれどな」
どうやら俺が見るまで待っていたらしい。
妙なところで律儀なやつらだ。
「クロノス・トゥルーエンゲージ!」
「いくわよ、フェンリル!」
赤い鎧のシルフィと、影のイロハになる。この段階でもう魔力が計測できない。
漠然と強いとしか認識できない俺がいます。
「そうよ。それでこそ、魔王として戦う価値があるわ」
ピンク色の悪魔の翼が現れ、庭中を魔力が豪快に暴れまわる。
「あれが本気か」
「まだまだ様子見じゃよ。あの程度で魔王は名乗れんのじゃ」
どうやら全力ではないらしい。適度に解説お願いしよう。
「本気の色欲を見せてあげる」
アスモさんの姿が消え、ピンク色の光が飛び回る。
幾重にも描かれる光の軌道は、時に別れて二人を襲い。
時には爆裂し、その中からアスモさんが出てくる。
「動きが読めない……影をぶつけ続ける!」
イロハもまた黒い一本の線になるほど速く動いている。
だがそれでも追い縋ることで限界のようで。
「見えん。光速突破勢か」
「うむ、はっやいのう」
速いだけじゃない。イロハの拳とシルフィの剣を両手で受け止めている。
基本スペックがかなり高いんだ。
槍さばきだけでシルフィの技量を超えている気さえする。
「時を止めても実体がない。本体の場所もわからない……なら、目の前に本体がいるという事実に繋げたら!」
「あなたが危険になるのよ」
シルフィの目の前に現れ、自分が傷つくこともお構い無しで攻撃を続行するアスモさん。どうしていいのかわからず距離をとっていくが、そこを追撃し続けている。
「魔王はね、人間よりもちょっと特殊で丈夫なの。剣が刺さったくらいで死なないのよ!」
「なら別の方法を試してあげるわ」
影で作った巨大な腕と、テュールの腕で両腕のラッシュを開始。
これは対処が難しいようで、目に見えて動くが遅くなる。
「いける。わたしが撹乱するから」
「私が仕留めるのね」
シルフィが時間を止め、戻し、ふっとばし、早送りし、様々な武器で攻撃して足止めに徹する。
そこをイロハに一撃入れてもらう戦法だ。
「しょうがないわね。こっちもパワーアップさせてもらうから、ちょっと待っててね」
そう言って、テラスの手すりに立つアスモさん。
いつ来たのかわからんが、ゆっくり服を脱ぎだした。
「何やってるんです?」
オーラで見えなかったが、この人ほぼ裸のような黒い服だ。
パーティードレスの露出高くて戦闘しやすいカスタムというか。
「ではマスター、たんとご覧あそばせまし、私の胸を!」
「えぇ……」
なんかしらんが乳出してますよ。頭のおかしい人がいます。
『グラビティ』
「さあ、次は下を見せるわびょぼお!?」
とりあえず重力を五十倍にして、一階に落としてやった。
「ふっ、ふふふふふふふふ」
轟音とクレーターを生み出したのに、とても楽しそうに笑っている。
いやきもいなおい。
「端的に言って死ねばいいのに」
「まったくじゃな。ちなみに胸を見た感想は?」
「どうでもいい」
すまない。女性に興味というものがないんだ。
こいつら以外の存在はどうでもいい。
さっさと記憶からこのアホな思い出を消し去りたい。
「アジュに言い寄る悪い虫は」
「おしおきします!」
二人がアスモさんへ、おそらく全霊の攻撃をぶちかます。
だがそれを、何気ない所作で、しかも片腕で弾き返した。
「そんな!?」
かなり意外だったのだろう。全員の行動が止まる。
「私は色欲の魔王。みずからの欲望に比例して、どこまでも強くなる」
「つまり?」
「マスターに胸を見られ、なじられ、雑に扱われて……とても興奮するわ!!」
「うっわめんどくせえこいつ!」
つまり欲情すればするほど強くなると。
アホだ。アホがいるぞ。最近アホによく会うな。
「ふふっ、このほんの少し残った服が、さらになんだか興奮するの!」
乱雑に繰り出される槍の乱舞。
そのどれもが必殺の一撃なのだろう。空を裂き地をえぐる。
「見られている。マスターにいやらしい目で見られている!」
「見るかボケエ!!」
そもそも動きが速くて、ろくに三人の姿が捕捉できんよ。
「ちょっと下も脱ぎますので、タイムとってもよろしいかしら?」
「いいわけないですよね!?」
「魔王というのはやっかいな存在ね」
「魔王さんへの風評被害が加速しているな」
あいつどんどん魔力が上がっている。
シルフィの時間停止がほぼ無効化されるほどに。
「マスター、机の上に黒い布がありますわね? ちょっと取ってみてくださる?」
「これか?」
いつ置いたのか知らんが、確かに折り畳まれた黒い布がある。
開いてみると、なんか三角の布で。
「マスターが私の下着を! 履いていた下着を! ふおおおぉぉぉ!!」
「きったねえ!? 何しやがる!!」
こいつ凄まじいセクハラかましてきやがる。
男女逆なら完全に捕まるぞこれ。
「ただの変質者じゃのう……これは引くのじゃ」
「……効果があるのかしら?」
「試すにはちょっと勇気が出ないかな……」
「いいかお前ら。同じ事やったら一ヶ月俺の部屋に入ることを許さん」
禁止令を出しておく。本当にやりかねない恐怖があるからだ。
「短期決戦しかないね。イロハ、服お願い」
「影筆!!」
シルフィが時間を止め、イロハがアスモさんに『服をちゃんと着せる。脱げない』と書く。
「あぁ! マスターの欲情ポイントが下がっていくのを感じるわ!」
「アジュがそんなもので欲情するわけがないでしょう」
「清純さが足りません!」
二人のキックが炸裂。乱打戦へともつれ込み、明らかにアスモさんの旗色が悪くなっていく。
「とどめよ」
「いきます!」
「不用意に近づきすぎよ。インフェルノブレス!!」
槍を地面に叩きつけ、アスモさんを中心に吹き上がるマグマ。
その勢いは凄まじく、中庭をマグマのプールに変えていく。
「このマグマこそ私の煮えたぎる情欲そのもの! マグマを友とし、この情熱を届けます!」
「いやあっついわ!」
蒸し風呂みたいになってきた。
シルフィとイロハは上空に逃げている。
安全を確認してから、アスモさんに魔力波ぶち当てた。
「きゃん!? 私の援護かしらマスター?」
「熱いんだよ! 戦闘中止! リリア!」
「もうやっておる」
マグマを一瞬で冷凍し、寒くならないうちに宙に浮かせて消し飛ばす。
無駄のない動きだ。いいぞリリア。
熱くも寒くもならないように、風魔法でさっと空気を入れ替える心配りまである。
「はいもう戦闘終わりな。こっちが死ぬわ」
こうしてよくわからない戦闘は幕を下ろす。
戦っていないのに超疲れました。
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