マーラさんと領地談義

 シルフィたちの戦闘が終わり、三人は休憩に入った。

 そこでマーラさんに声をかけられ、広い部屋で相談中。

 本が少ないけれど、書斎っぽい作りの部屋だ。


「領地の資料は?」


「持ってますよ。一通り目は通しています」


 俺の領地の地図と資料を呼び出し、検討してみる。

 ほどほどの山。大きめの湖。そして知り合いの魔王と隣接した土地。


「では原則魔王と四人のみ立ち入りを可能とし、生態系を壊しかねない生物の調査と……」


 以前与えられた領地の経営というか、管理など教えてもらっていたり。

 ほぼ俺たち四人の場所だ。知っておかねばならないことは多い。

 普段はアモンさん、アスモさん、パイモンの領地に隣接しているため、三人の部下が領地の境目で守備についているらしい。


「比較的穏やかな地方みたいですね」


「ああ、だが季節によって気性が荒くなる生物もいる。そういったものが流れて来ると、生態系が荒れてしまう」


「なるほど。定期的に調べるべきと」


「水質や固有の食材もだな」


 こりゃ特定の管理人がいたほうが楽だろう。

 けれどあまり人を入れたくない。


「うーむ……他人を住ませるのはちょっとしんどいんですよね」


「我が領地では、楽園の住人たちで管理されている」


「俺は学園生活がメインですし、そちらほどメンバーが多くないので」


「そちらも女性を増やす気は?」


「今のところはありません」


 こればかりは俺のこだわりだ。

 ヒメノのように、謎の好意を寄せてくるやつもいるが、やはりしっくりこない。


「であれば管理人を見つけるか……いっそ魔界の召喚獣にでも管理させてはどうだ?」


「なるほど……召喚獣に……ある程度強くて、意思の疎通ができて、友好的じゃないと厳しいですが」


「そこは相性だろうな。だが便利だ」


「マーラさんも?」


「ああ。何体かいる。それとマーラでいい。こういう話ができる人間は貴重でな。興味深い。敬語もいらん」


 興味があるし、面白いので敬称略でいいと。

 なんとなく理解できる。


「んじゃマーラ、召喚獣はユニコーンと……不本意だがアスモさんがいる」


「……あやつか。少々性格に難はあるが、強いことは強いぞ」


「それはさっき見た……が家の管理させると、下着とか漁りそうだな」


「漁りそうではない。漁るぞ」


 確定らしいですよ。もうなんだよあいつ……強いやつほど自由だな。


「ううぅぅむ、できれば男は入れたくないんだよ」


「わかるぞ。邪魔になる」


「男がいて、なんかの可能性が生み出されるのはダメだ」


「アウトだな」


 これが正しい危機管理だ。

 細心の注意をはらいつつ、平和を維持しましょう。


「設備、施設に関してはどうだ?」


「あんまり自然を壊さないようにして、リゾートっぽくする必要もないかと」


 そもそも四人で巨大なリゾート建てたって無意味だ。

 普通に暮らせる大きめの家があればいいのさ。


「参考までに、こちらの地図と施設がこれだ」


「おぉ……こいつは凄い」


 簡単に言えば、避暑地とリゾート地の詰め合わせだ。

 海も山も川も湖も雪山もある。


「魔界は気候が特殊だ。真夏の海と、真冬の山が逆方向に存在していることもある」


「こらいいな。年中遊べるわけだ」


「うむ、我が楽園だ」


「しっかし管理が大変そうだな。行き来するだけでも重労働だろ」


「人が通れるよう、しかし景観を崩さぬように通りを作るのだ。普段使いと非常用で分けて、そこに魔物や原生生物が寄り付かぬ工夫があれば……」


 結構熱心に教えてくれる。やはり魔王だ。賢い。

 力も知性もあると、とてもよいな。

 どっかの色ボケ変態魔王も見習ってほしいです。


「治水だけは金を惜しまぬこと。これは最低限ではなく、できる限りの資産を投入だ」


「やはり水ですか」


「水だ。作物にも関係する。魚もな」


「なるほど……どっか業者に頼みました?」


「ああ、魔界でも指折りのな」


 フルムーン王国かフウマの里の職人でも呼ぼうかと思っていたが。

 そうか、地元の構造がわからんと難しいか。


「やっとるのう。ほれ、一息入れるのじゃ」


 リリアが人数分の冷たいお茶とクッキーを持ってきてくれた。

 そこで一旦休憩タイム。


「助かる」


「すまないルーン殿」


「よいよい。アジュがお世話になっとるからのう」


「なかなか飲み込みがいい。アジュはいい生徒だ」


「そらどうも」


 習っていることは、それほど複雑ではない。

 しかもマーラの解説はわかりやすいというか、初心者がやるべきことを端的に告げる。だから理解も早いわけだ。


「もう少ししたら舗装の依頼でもしてみるといいかもれんぞ」


「金が溜まったら考えるさ。というか今じゃないんだな」


「今は魔界の領地が増えた。誰かさんが三倍に広げたからな。だから依頼がひっきりなしさ。他の魔王が発注しているだろう」


 なるほど。ちょっと期間を置こう。

 改めてえらいことしたな。もともと魔界を広げるという目的のパーティーだったとはいえ、ちょいと一気に増やしすぎたかも。


「今のうちに学んでおくのじゃ」


「領民もいなければ、過度な政策も必要ない。近隣は知人の魔王だ。悪さもせん。外敵に気をつければいいだけだ」


「だといいけどな」


 これマジで統治とかしている魔王さんって凄いよな。

 アモンさんとか絶大なカリスマで引っ張っているらしい。


「アモンさんがいい人で、シンプルに強いから好感度高いのは聞いた。他の魔王ってなにやってんだ?」


「バエルのように地獄の管理も任されているものはそれだ。あとは副業で好き放題生きている」


「地獄は何層にも重なっており、その地獄ごとの管理者がおるわけじゃ。そんな面倒事を押し付けるのじゃから、ある程度好きに領地で騒いで良いというお達しじゃよ」


「なーるほど」


 魔王には魔界でやらなきゃならんことがあるらしい。

 大変だな。人間界との交流とかあるんだし、苦労しているのかも。


「やはり解説ならルーン殿が適任ではないか?」


「わしら以外の理解者が少ないからのう。ちゃんと話し合いとかできるように練習じゃ」


「そんくらいできるっての」


 そこからも少しだけ説明は続く。

 俺は魔王ではないが、領地持ちになっている。

 そういう人間もゼロではないから、特別不安要素はないらしい。


「アジュも領地内で好きに生きるといい。バエルなど、領地内に巨大な酒造場がある」


「ああ、酒とか似合いそうだなあの人」


「パイモンはデザイナー兼学園の生徒だな」


 あのゴスロリは趣味と仕事の両立だったのか。

 魔王ってなんだよ。なんか謎が深まってんぞ。


「趣味と副業を作ることをおすすめする」


「いいね。なんか考えておこう。今は魔法が楽しいんで、もうちょいあとになるかな」


「ならば魔導の道、少々ご教授しよう」


「なに?」


 そんなわけで唐突に別の訓練場へ。

 天井になんか風景画の描かれている、どちらかといえばダンスホールのような場所だ。

 床も大理石っぽいなにかと絨毯だし、部屋の四隅や壁にクリスタルの掲げられた像や柱がある。


「ここは魔法の練習場だ。部屋に結界が張られており、入室者の魔力が減ると、自動的に回復できる装置が取り付けられている」


「なんか魔力がみなぎってくるな」


「対象の魔力を底上げして、一時的なブーストをかけている」


「ここなら新魔法も開発できるじゃろ。頭だけでなく、たまには体も動かすのじゃよ」


 なるほど、頭がすっきりしているのはそれが原因か。

 魔力も充填されているし、ちょっとくらい動くにはいいだろう。


「最初に言っておきます。鎧無しの俺は一般人でも弱いほうです」


「知っているさ。軽く戦って、魔法を編み出すだけだ」


「わしはここで見ておる。アドバイスもするから頑張るのじゃ」


「へいへい。がんばりますよー」


 カトラスを抜き、魔力を三個ストック。

 あとはアドリブでいこう。


「ではこちらもいこう。煌めくがいい。我が魅力よ。世界を縛る鎖となれ」


 手に持った赤い石が輝き、石と同じ色の透き通った鎖が現れる。

 全部で四本。どれも色が違うが、部屋に差し込む光を反射し、美しく輝いていた。


「実体がある……宝石か?」


「ああ、宝石は我が魔力をよく通す。融合させ、同調させ、武器とするには相応しい」


「アジュも宝石好きじゃろ」


「まあ確かに好きだけどな。綺麗だし、とても面白い存在だ」


 本来ただの綺麗で色のついた石だ。

 なかなかお目にかかれないほど貴重ではあるが、それでも石だ。

 なのに金より高く取引されることもある。

 綺麗な石っころに、そこまでの価値があるということが面白い。


「おしゃべりはここまで、そちらの闘技すべてをここに示せ。新魔法が完成するまで、俺がアジュの訓練相手をする」


「助かるよ。ただ俺は本当に弱いからな。マジで慎重に戦ってくれ」


「ふっ、承知した。ではいざ尋常に」


「勝負」


 こうしてよくわからんまま訓練に付き合ってもらうこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る