VS魔王マーラ
マーラと模擬戦っぽいことをすることになった。
「リベリオントリガーを使うのじゃ」
「いきなりかよ」
「もう維持できるじゃろ?」
「まあな……リベリオントリガー!」
もうかなり安定している。一発目だけなら身体の痛みすらほぼない。
「ほう、なかなかに美しい。命の煌めきを感じるぞ」
「そんな大層なもんかね? 俺に似合わないぞ」
「気にするな。俺がそう感じただけだ。来い、アジュ」
「あいよ、サンダースマッシャー!」
とりあえず魔法を撃ち込んでみる。
結構本気で撃ったんだが、赤い鎖に叩き落とされた。
「これでも魔王だ。手加減無用」
「この部屋は結界で強化されておる。魔力を出し切るのじゃ」
「プ・ラ・ズ・マ・イレイザアァァァ!!」
今度は本気だ。少しくらい魔王にもダメージがあるかと思えば。
金色の鎖が巻き付き、電撃の渦が固定された。
「マジで?」
「返すぞ」
そのまま俺の攻撃魔法を絡め取り、上から勢いよく振り下ろしてくる。
「おいおい……」
あれを撃ち落とせるかは怪しい。
なら回避……いや、気に入らないが接近戦に持ち込むか。
マーラに近づけば、それだけ爆発の被害から逃れられる。
「面倒なやつ」
できる限り高速移動。
背後で光と音が弾け飛び、室内を支配していく。
うまいことその風に乗りって急接近。
「雷光一閃!!」
カトラスの魔力を三個全部放出。
横薙ぎに切りつけた一撃は、マーラの持つ剣で止められた。
「また豪勢な剣だな」
「ああ、神界の宝剣だ。褒美として頂戴した」
宝石が埋め込まれ、彫刻の刻まれた美しい剣だ。
少し細身のロングソードといったところか。
「神格のある剣か。魔王にゃ似合わないぜ」
「いいや、俺という絶対的な魅力を持つ男ならば、何であろうと似合う」
「その自信はどっから来るのかね!」
剣戟とは言えない力任せの打ち合いに入る。
そこに技術などなく、ただ刃のついた棒で殴り合う感じ。
品性とか欠片もないやつですよ。
「おおう、びくともしないな」
「魔王とはそういうものさ」
嫌な予感がして上空へ退避。
マーラの横に現れる、黒いモヤのような鎖の正体がわからない。
それが天へと伸びた時、背中に見えない何かが伸し掛かる。
「うおっ、こいつは……」
原因は天井へと伸びている鎖だろう。
雷の腕を伸ばし、魔力を込めて焼き切ろうとするが。
「無駄だ。その程度では切れん」
「だろうな」
『ソード』
んなもん想定済みだ。
雷の腕は右肘から出している。
つまり両手は空いているのさ。
「こいつならどうかな!」
ソードキーの剣は天下無敵。
ぶん投げると楽勝で鎖を切り裂き、重さが消えた。
「ほう、美しい剣だ。美も武も兼ね備えている。剣というものの完成形だな」
「今の何だ? 何やった?」
剣を呼び戻しつつ聞いてみる。
今までの連中とはタイプの違う攻撃だったな。
「わが魅力と鎖は、世の理ごとき改変可能だ。天井付近の重力を縛り付け、引っ張れば」
「俺に向かって重力が落ちてくる、と。やーばいなこりゃ」
「その気になれば、俺が勝利するという可能性を魅了し、1%から100%まで引き上げることも可能だ」
因果の操作とかも可能らしい。
なるほど、神を倒せるってのは伊達じゃないな。
「魔王の中でも珍しいタイプと聞いてたが……こいつは厄介な。どうやりゃそんなことになるんだよ」
「アジュ、お前と同じだ」
「同じ?」
「ほんの少しだが、主人公補正が使えてな」
こいつ本当に俺と似ているな。
主人公補正を自覚して使いこなせるのなら、魔王が神を屠ることも可能だろう。
「これは……勝負にならんぞ。俺にどうしろっつうのさ」
雷光一閃は片手で止められた。
プラズマイレイザーは無傷。
素の俺ではどうしようもないな。
「二発目じゃ。リベリオントリガーの進化をここで確定させるのじゃよ」
二発目の引き金は安定しない。そもそも成功率が極端に低いんだ。
そして、おそらくリリアはこれをどうにかするために、この場を選んでいる。
マーラは協力者だ。そこまで理解しても、今の俺にできるかと問われれば。
「できるのじゃ。今までの経験から下地はできておる。あとは気持ち次第じゃ」
「己の力を信じるのだ」
「それが一番難しいんだよ」
そういう機会に恵まれなかったからこそ、俺という人間は形成されていったのだ。
「うむ、確かにその通りじゃ」
「だろう?」
「……それでいいのか?」
マーラさんがちょっと小首をかしげていらっしゃる。
これが俺たちだ。よって問題なし。
これこそ平常運転である。
「ま、せっかく魔界くんだりまで来て成果なしってのもつまらんか。やるだけやってやるよ」
この部屋の魔力が更に高まっている。
俺を補助するように。できるだけ負担を減らすように。
リリアができると言っているのだ。なんらかの保証か、可能性があってのことだろう。
「はああぁぁ……」
リベリオントリガーの第一段階は、慣らし運転だ。
運動前のストレッチ。やっておけば、身体がほぐれて動きやすい。
全身を雷光に浸す下準備ができているということ。
「リベリオントリガー…………二発目!!」
魔力が全身を駆け巡り、すべてが俺を介して一つになっていく。
溶け合い、混ざり、俺のためだけに世界は染まる。
「はああああぁぁぁぁぁ!!」
明らかに限界を超えた魔力が吹き荒れ、天井を貫き湧き上がる。
「魔力を押し止めるのではない! 身を任せ、同化することで支配権を得るのじゃ!」
リリアの言うことが感覚で理解できる。
魔力の主はこの俺だ。俺ができなきゃ誰にもできん。
「…………意外といけるもんだな」
魔力量やコントロールに怯む必要はない。
俺にならできると思う傲慢さ。それこそが主人公補正を、世界を変える力だ。
それさえ悟っちまえば、あとは前と同じ。
「待たせたな。こいつが今の俺の全力だ」
「面白い。ならば見極めてやろう。鎖よ!」
繰り出される七色の鎖を、一条の光となってすり抜ける。
電撃は完全に俺の支配下にあった。
「オォッラア!!」
両手を組み、巨大な雷球として射出する。
同時に右足を鋭利な電撃の鎌とし、足払いをかけていく。
「魔力の質量化と増幅・変化を同時に行うか。いいセンスだ」
雷球は宝剣により両断され、爆破する前に鎖へと変換された。
変換後の鎖はそのまま俺を襲う武器となる。
「打ち砕く!」
腕を可能な限り増やし、徹底的に鎖を打ち払う。
しかし魔力の総量が違うのだ。このままではジリ貧になる。
まず攻撃が届かない。だから作戦は考えてある。
「同じだ、あの時と。何も変わらない。マーラを、斬る! 俺が斬ることを選ぶ!」
魔力を全開放し、俺自身の身体能力を上げ続ける。
カトラスに魔力を流し続け、最大級の雷光一閃を準備。
「動いてくれ。いや動け、世界よ! 俺の意のままに! 俺の望みを叶えろ!」
「何だ……? 行動が読めん……鎖よ、俺を守護しろ!」
「その前に、最速で斬り抜ける! リベリオントリガー・マックスアナーキー!!」
最速で、全速力で、マーラの遥か頭上を斬り抜ける。
事情を知らない他人からすれば、それは見当違いの方向を攻撃している間抜けだろう。
だがこの手に残る感触が、鎖とマーラに届いた手応えを伝えている。
「ぬうぅ!?」
マーラが軽く怯む。鎖も数本切れた。
だが決定打ではない。それは俺が一番理解している。
俺の力では、魔王を倒せるほどではないのだ。
ただ攻撃を当てただけ。
「火力不足はどうしたもんかね」
一応は攻撃魔法の新型もぼんやり浮かんでいる。
この状態ではっきりしないということは、相当にレベルが高いものを編み出そうとしているのだろう。
それが完成しないことには、神話生物には歯が立たないままだ。
「まずはその形態に慣れるのじゃ」
「うむ、しばらく付き合おうではないか」
「感謝しているよっと」
三本の右足でハイ・ロー・ミドルを同時に繰り出す。
雷に決まった形などない。使いこなせば相当便利だな。
「基礎体力の増加も課題となるな」
全弾右足で蹴り返された。マーラの速度はおそらく光速を超えている。
現状対策としては、圧倒的物量で押すか、動けても関係ないほど広範囲かつ高威力の攻撃をするしかない。
「どっちも俺に向かないな」
「基礎が足りておらんのじゃな」
それはたった今実感しています。
ただでさえ体力ないのに、こんな無茶苦茶な戦い方して疲れないわけがないだろうが。
「そもそも純粋な人間って光速突破できるのか?」
限界ギリギリぶっちぎりで強化魔法かけて、身体が稲妻になってようやく雷速だぞ。こんなん突破できるわけ無いだろ。
「まあなんとかなるじゃろ」
「軽いなおい」
「まだまだ時間はある。もう少し付き合おう。楽しくなってきたのでな」
それからも、状態を維持するために戦闘は続いた。
部屋のおかげもあるが、もう少ししたら二発目も自由に使いこなせるかもしれない。
だもんでつい熱中し、食事の時間まで魔法の訓練は続いた。
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