フリストを訓練してあげよう
桜舞う広々とした景色の中で、フリストの訓練に付き合ってあげよう。
「旦那、次はもっと意外性があって圧倒的な感じでお願いしやす」
「注文が結構難しいな」
「アジュ様ならできますわ! わたくしとの結婚すらも!」
「では行きます!」
「よしこい!」
流石フリストだ。俺より早くヒメノをスルーしやがった。
「はあぁ!!」
魔力を込めた斬撃に、二刀流で実態のある斬撃を混ぜてくる。
規則的なように見せかけて、ランダムに軌道を変えているな。
適当に喰らいつつ、踏み込みの甘い部分を避けたり弾いたりしよう。
「いい感じだ。これシルフィの剣か?」
風のように自由に軌道を変え、相手の懐に入りながら移動する。
フルムーンの剣術にミナさんの指導がプラスされた、シルフィの動きだ。
「はい。せっかくなので使ってみようかと」
「よくあの動きができるな」
「かなり独特で、完全なコピーは厳しいものがありやす。おそらく、クロノスの力を込めておられるかと」
「だろうな」
それでも鎧で認識できないほどじゃない。
風には風ということで、軽く息を吹きかけて、刀の起動をそらしてやる。
面白くなってきた。暴風を起こして動きを制限したり、決して切り崩せない風の壁を作ってみた。
「なんという肺活量」
「万能だねえ鎧さんは」
「ならば一点突破で!」
今度は真正面から顔を狙っての突きが来る。
意外性を狙う……よし、右目で受けてみよう。
「なっ!?」
そのまま刃が結構な勢いで眼球に当たるが、当然痛くも痒くもない。
「ほいっと」
ついでにウインクで刃を砕いてやる。
柄の手前まで綺麗に粉々にしてやった。
「こんなもんでどうだ?」
「………………はっ!? 流石でございやす。感服いたしやした」
口を半開きにし、呆然と立ち尽くしてから数秒あって正気に戻るフリスト。
意外な表情が見られて面白いな。
「アジュ様のウインク、悩殺ですわ! しっかりとわたくしに届いておりますわよ!!」
「……誤射って何発まで誤射だ?」
「堪えてください旦那」
あいつに届けた覚えなど無い。
なんだろう、なんとか誤射ってことで攻撃できんかね。
「刀が折れちまいやしたね」
「すまん。それ高いやつか?」
「いえ、それほどでも。備品扱いなので経費で落ちやす」
「……もうお前らがよくわからん」
こいつらについて深く考えることは、すなわち負けを意味する。
おおらかな心でいきたい。俺の精神の安定のためにも。
「格闘術もお願いしやす」
「ん、やってみるよ」
鎧から知識と経験を引っ張り出して、適当に構えを取る。
フリストも刀を置き、半身の構えだ。
「正面からいくぞ」
ハイ・ローを混ぜたキックに、正中線のみを狙った突きをプラス。
ヴァルキリーに通用するかどうかは知らん。
体の構造が違う生物っぽいタイプもいるし。
「このくらいはかわせるか」
「もう少し特殊でも問題ありやせん」
んじゃ武術からフリストに教えられそうなものをチョイス。
重心は後ろの足に、両手を少し前に。前足を少し曲げて。
「膝と肘でいく」
極めてシンプルな肘打ち。そこに回転を加えたものを混ぜる。
更に打ち下ろし、打ち上げ、突きを全部肘でやっていく。
全攻撃を重くすることを意識して。
「コピーできそうか?」
「やってみます。しかし、なぜこれを?」
「怪力だしな。パワーを活かした技もあっていいかと思ったんだ」
膝も斜め下からや横から、飛び膝なんかも伝授。
すり足に近い形での前後移動なんかもやりますよ。
超手加減している。鎧で威力乗っちゃうと危ないし。
「うぐっ……これは危険ですね」
「ザコなら今のままで倒せるだろ? だから基礎でも一撃が重い技を選んでみた」
「な、るほ、どっ、せい! あっしは身長が高い方じゃございやせんから、リーチ長めの打撃も知っておきたいです」
「いいぜ、今度は軽くて手数の多い打撃だ」
戦法変更。体重を乗せないパンチの雨を降らせる。
同時にフリストが習得し始めている肘と膝をパンチで打ち返し、弱点を教える作業もこなす。
「そういやどうしてコピー能力というか、見ただけ、読んだだけでわかるんだ?」
「あっしは援軍のヴァルキリー。どんな戦況で、どんな戦場でも援軍として馳せ参じることができるよう、あらゆる闘技を習得できるのでございやす」
「援軍ね。確かにフリストが来たら助かるな」
来てくれたら役に立つという保証というか、安心感がある。
別に戦闘だけじゃなく、その場をなんとなく和ませつつ円滑にしそう。
「便利だよな、その特性」
「旦那も鎧状態と同じ動きをすればできるのでは?」
「無理。接近戦きついし、同じ動きはできない」
鎧のブーストがついているおかげで使えているが、本来これは全世界の武術を合成・改良・最適化まで自動でこなし、経験を付与して裏打ちできるものだ。
基礎すらできん俺に、究極の応用パターンしか無い武術など不可能。
「寝技の訓練ならわたくしがお相手いたしますわ!」
「ヒメノって斬ったら血が出るか? ルミノール反応とかどうなる?」
「旦那、完全犯罪を狙うのはおやめください」
「体術の基本は相手の体を意識すること。筋肉や重心の動きをよく見て、そうですわ! アジュ様が一回全裸になれば! 興奮してきましたわ!」
『ソード』
「旦那、旦那、マジ切れはご勘弁ください」
無言で剣を抜き放ち、なんとなくどう斬ろうか考えていたら止められた。
「何をどう考えたら全裸なんて発想になる。ダメに決まってんだろ」
「ご安心くださいまし。アジュ様が人よりちょっとサイズが小さくても、わたくしは気にしませんわ!」
「どうしても死にたいようだな」
「旦那、死なない程度に加減をお願いいたしやす」
別にサイズを気にしているわけじゃあない。
単純に邪魔が入るのも、騒がしいのも好きじゃないんだよ。
「どうしても見られたくないのであれば、電気を消してしまえばいいのですわ!」
「完全に屋外だよ」
「では屋内に参りましょう!!」
愛の巣と書かれた小屋登場。なんか全面がピンクだ。
「もうお布団が敷いてありますわよ!」
面倒になった。ヒメノの背後に光速移動。
腕を取り、そのままヒメノ家への転移魔法がある方向へぶん投げた。
「なぜですのおおおぉぉぉ!?」
「悪は去った」
ついでに家は魔力波で消した。
景観を損ねる建築物は撤去しましょう。
「本当にご迷惑をおかけしまして」
「気にするな。続けるぞ」
ついでに投げ技も伝授。お互いに投げあって、感覚を掴ませてあげる。
「やっぱ力強いな。一般人にかけるとき注意だぞ」
「はい。肝に銘じやす」
ついでに魔法も見てやることになった。
フリストは強化魔法主体。魔力による刀の強化も可能。
「俺の属性付与と似ているな」
「同系統でごいやすよ」
強化された刀を、雷で作り出した疑似腕で掴む。
本来リベリオントリガー状態じゃないとできないが、そこは鎧。
「おぉ、高等技術でございやすね」
「らしいな。鎧って凄い」
「素の状態でもできるとお聞きしておりやす。旦那は魔法の素質もセンスもおありですから、もっと自信を持ってもよろしいかと」
「……うっさい」
電撃の腕を四本追加。さっきまでの体術を使わせてみる。
肘と膝攻撃も電撃で増やしていく。
「旦那、さては褒められ慣れてませんな? 照れが見えやすぜ」
「よーし、ちょっと強めにいくぞー」
威力を上げて、更に腕を追加。余計なことを考える余裕をなくしてやろう。
「ぬおおぉぉぉぉ!?」
そんなことやっていたら、フリストのスタミナが切れたので休憩。
「ううぅ……旦那、途中から容赦なさすぎです」
「すまんな。これでもかなり手加減していたさ。もう怪我とか無いな?」
一応回復魔法をかけてやった。大怪我している感じでもない。
「おかげさまで。鎧の力を使った依頼でございやす。多少の怪我は承知の上でございやすよ」
そこでちょいと疑問が浮かぶ。
鎧の力を断片とはいえ知っているものはいるわけで。
「王族貴族から名指しの依頼ってほぼ無いよな。それほど鎧が強いと思われていないってことか?」
「依頼…………ああ、そういうことでございやすか。簡単に言ってしまえば義理でございやす」
「義理?」
「はい。旦那に命を救われ、その戦いは国家機密の中でも最重要。身内の恥もありやす。それでも利用しようとするほど、厚顔ではないということです」
それだけで放置してくれるとは、随分と優しい王様だな。
感謝しきりだけど、なんとなく受け入れきれない。
「貴族ってもっとしたたかで、隙あらば丸め込んで利用しようとするイメージだけど」
「そうですな。フルムーンの場合なら、旦那を便利屋として使わないように、神々とリリアさんがたが説明してあるのです」
「説明?」
そういや毎回でかい戦闘が終わると寝ちまうからな。
何をどう言いくるめているのか、詳しくは知らなかった。
「旦那はリリアさんいわく、起爆条件が不明で瞬間移動している極大爆弾のようなもの。自分以外には制御できないから、かかわらないことが一番国益につながると言っておりやした」
「俺そんな感じなの!?」
「強く否定はできませんな」
「頼むからしてくれ」
そこまで見境なしじゃないって。
まあ依頼で振り回されることがないってのはありがたい。
ならば好き放題に学園生活をエンジョイしよう。
「アジュ様! フリストちゃん! 卑弥呼がご飯を作ってくれましたわ!!」
ヒメノがこちらに走ってきた。
卑弥呼さんの料理の腕を知っているからか、物凄く笑顔だ。
「さあ、せっかく作ってくれたんですもの、冷めないうちに頂きに参りましょう」
「そもそも卑弥呼さんの家に行く予定なかっただろ」
「だから急遽わたくしがお願いしましたわ!」
「えぇ……お前ちゃんと手伝ったか?」
完全に無理言って作らせている空気じゃないか。
こんなんが親友だと大変だな卑弥呼さん。
「わたくしはアジュ様といちゃいちゃしなければなりませんもの、食材だけ負担いたしましたわ」
「…………怒りにくいやつめ」
食費全額負担らしい。ただサボっているなら怒れたが、いいや大人しく行こう。
「お疲れ様でした旦那。いい勉強になりやした」
「気にするな。俺も面白かったよ」
「わたくしよりフリストちゃんの好感度が上がっている気がしますわね」
「安心しろ。お前のは下がっているから」
「なにゆえですの!?」
無駄話をしながら、飯のために卑弥呼さんの家に向かったのであった。
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