神剣と騎士団長
ゴッドキャノンを止めるため、イーサン・リク・カイ組を追っている俺とリリア。
影に潜み、岩陰に隠れて進む。ここは大きな岩山地帯だ。凹凸が激しく、上り下りの坂道もある。これなら簡単には見つからない。
「敵が少なくね?」
「じゃな」
あまりにも敵が少ない。申し訳程度に雑魚兵がいるだけ。
鉄の柵は作られているけれど、普通こういう重要拠点はしっかり防御すべきじゃね?
「山の上に陣を張れるんだから、要塞にしてビーム砲を守るべきだろ」
「余程のアホでない限り、守っているボスが強いか、罠であるかじゃな」
「どちらにせよ行くしかないってのが、また辛いところだが」
頂上で爆発音がした。もう戦闘が始まっているのか。
「少し急ぐか」
「見つからんようにのう」
そして頂上付近でしゃがみながら様子をうかがう。
てっぺんは広く、グランドキャニオンだっけ、ああいう感じなんだなーと思った。
「あれがゴッドキャノンか」
とてつもなくでかい砲台があった。イーサン団長が十人は余裕で入れる大きさだ。身長2メートル超えている、スーパーマッチョのイーサン団長がだぞ。
白くて豪華な装飾の入った、アホほどでかい砲台だが、これどうすんの。
「そいつは二度と撃たせねえぞ!」
イーサン団長が、例の黒フードと仮面の連中と戦っている。
奴らは三人。団長たちも三人。よっしゃ見守ろう。
「しばらく様子見で」
「じゃな」
団長が勝てそうなのにでしゃばるのはやめましょう。目立つし、手柄を奪ってしまう。
「俺も仮面つけとくか」
白い仮面を装着。デザインは変える。これでさらにばれなくなったぜ。
「とっととそのデカブツを壊して帰るぞ!」
「無駄だ。人の力で破壊できるものではない」
でかいハルバードと、やたら張っている声からして、あれがアンタイオスだな。
「どっせえええぇぇい!!」
圧倒的巨体から繰り出されるパンチは、重く速く確実に敵へと打ち込まれる。
イーサン団長強いなー。身のこなしも軽すぎるくらい軽い。
「やはり半端な攻撃では傷つかないか」
リクさんの攻撃が、ゴッドキャノンに直撃しても、特別傷ついた様子がない。
こりゃめんどい。根本的に破壊が難しいのだろう。
そして大技を使おうにも、神がいる。どっちを優先していくか、余力を残せるか不明なわけだ。
「ならば邪魔者から排除するとしよう」
背中と腕に光輪を複数作り、それを飛ばしたりムチのように伸ばしたり、なんか特殊な戦闘方法だな。あれがリクさんのスタイルか。
「消えろ。弱き人よ」
「そうはいかないさ。まだまだやるべきことは多くてね。困ったものだよ」
光輪は魔法陣の役割も果たすらしく、多種多様な攻撃魔法が出る。
自分に戻せば回復にも使えるらしい。攻防一体の技だな。
「ならば憂いを断ってやろう。その生命とともにな!」
猛スピードで迫る神を避け、カウンターで魔法と拳を打ち込んでいく。
人体の急所を的確に射抜く打撃だ。
イーサン団長が爆撃なら、リク団長はスナイパーの狙撃だな。
「接近戦ができないとでも思ったのか? これでも団長だよ」
「援護します。団長」
カイさんは普通の剣士だな。魔法剣士だ。凄くシンプルっていうか普通の騎士って感じ。
「無駄だと言ったはずだ。もう間もなくチャージは完了する」
「無駄ついでに教えちゃくれないか? あの大砲、どんな仕組みで動いてんだ?」
「私の希望を貸しているのさ」
仮面の一人は女か。高慢な大人の女という声色である。
「希望? この大砲がか?」
「その昔、パンドラという箱と女が作られた」
急になんか語り始めたな。あれか、パンドラの箱ってやつか。
「その中には災厄とともに、たった一つだけ希望が収められた。災厄を切り裂き、絶望の運命を否定するために、神の定めた宿命に逆らい、神を切るために神が生み出した剣。それが神剣という希望」
女が仮面とフードを取る。短い金髪で、両目が赤い。
だがそんなことよりも、体の大半が無機物で構成されていることが気になった。
「そんなパンドラの箱を守るために作られたのが、同名のパンドラという女だった」
機械なのか錬金術なのかわからないが、明らかに生身の人間じゃない。
「神の手によって作られた神造人間。それがパンドラ。神剣を箱から出し、動力源とすることができる、唯一の存在だ」
大砲の後ろ部分が開き、淡い光を放つ剣が出てくる。
「ほう、神の武具とはレアじゃな」
「あれ、やばいのか?」
「それなりに危険じゃよ。おぬしの鎧ほどではないがのう」
「さあやれ、アンタイオスども」
フードを吹き飛ばし、二人のアンタイオスが現れる。寸分違わず同じ格好だ。
「どうなってやがる!」
「こいつらはワタシと同じ神造人間。ワタシと神剣が合わされば、完璧に制御できるのさ」
「そうかい。ならそいつをぶっ壊せばいいってことだなあ!!」
「それはできないねえ、ヒッヒッヒ」
敵の戦い方が変わる。今までは攻撃を避け、受け止め、人と人の戦いに近かった。
だがこれは違う。圧倒的な魔力と神格を纏い、ダメージを無視して攻撃してくる。
その行為はカウンターになる可能性が高く、この後も戦いが控えている団長には厳しい。戦闘不能になるわけにはいかないのだ。
「ちょい不利っぽいぞ」
「あの剣で操作しておるんじゃ。あれがある限り、おそらくパワーの供給は止まらんじゃろ」
「がっはぁ!?」
イーサン団長が傷を負い、動きが鈍くなっている。
少々まずいことになったな。
「最悪あの剣だけでも奪うぞ」
「団長……ぐふっ!?」
「カイ!」
「終わりのようだね。いい絶望をありがとう。おかわりをあげるよ」
さらに敵が増えた。人数を覆すことができず、じりじりと負傷していった。
形勢不利か。仕方がない。これ以上は死人が出る。
「行くか」
「いや、何かが妙じゃ」
リリアが不穏な空気を感じている。それは俺もだ。何かが噛み合わない。
「ちっくしょう……もう大技一発分くらいしか残ってねえ。リク、せめてあの大砲だけでもぶっ壊すぞ。カイ、お前は本陣に報告に行け!」
「しかし団長を置いていくなど!」
「そうか、もう動けないか、イーサン」
「ああ、情けねえ話だがな。だからリク、オレとお前の最後の力で……」
「それは都合がいい」
リク団長の光輪が、イーサン団長の肩から胸にかけて、一文字に切り裂いた。
「やはりタフだな。弱ってくれるまで時間がかかりすぎた」
「リク……? なんの冗談だ?」
イーサン団長はがっくりと膝を付き、全身が痙攣じはじめている。
「ああ、残念だよイーサン。本当に残念だが。私は神になりたいのだよ」
おいおいおい、あいつ裏切り者かよ。イアペトスが言っていたのはリクか。
「ヒッヒッヒッヒ!! バカなやつよ! この大砲はぜーんぶ、団長をおびき寄せて殺すための罠だっていうのにねえ!!」
「リク……おい嘘だろリク!!」
「しかしまだ口がきけるのか。かなり強力な薬と呪術をかけたんだがな」
パンドラの横へと歩いていくリク。余裕の笑み……いや、表情が読めない。何を考えている。
「そんな、裏切ったのですか団長!」
「リクウウゥゥゥ!!」
「そこのマッチョとザコは死ぬ。帰ってこない団長を心配して、また団長クラスがやってくる。当然油断する」
「なぜなら私が敵と戦っているふりをするからな。あとは各個撃破していくだけだ」
なるほど効率がいい。この戦争、どれだけ効率よく団長クラスを戦闘不能にできるかにかかっている。
「しばらく様子見るぞ」
「うむ、やるなら敵を全員まとめて倒すのじゃ」
うつ伏せに倒れているイーサン団長と、アンタイオスに阻まれて身動きが取れないカイ。これは詰みに近いな。
「パンドラよ。騎士団長イーサンの首、ぜひその剣で跳ねてやりたい。少しだけ権利を私に貸してくれないか? あの巨体だ。刃こぼれしてしまうよ」
「ヒーッヒッヒッヒ! 面白いじゃないか!! やっておしまい!!」
「なんちゅう悪趣味な」
「おぬしが言えたことではないじゃろ」
神剣はリクの手に渡り、その輝きを一層強くする。
「団長、どうして!!」
「カイ、邪魔をしないでくれ。アンタイオスはどう操作する?」
「念じれば居場所がわかる。あとは指示を出してやりゃあいいよ。ヒヒヒ」
「アンタイオス、カイの行く手を阻め。うるさいから今後一切喋るな」
命令どおりにカイの前に立ち、武器を構えている。
あんな簡単に操作できるのかよ。
「この剣は人類の希望でもある。神の力が宿り、莫大なエネルギーの塊と言ってもいい。つまり……神に傷をつけられると保証された武器だ」
「リク! 正気に戻れ! お前はそんなことをするやつじゃない!!」
「団長! やめてください!」
「ずっとこれが欲しかった。このために……」
剣を見つめ、横のパンドラに笑いかけるリクは、とめも満足そうな顔をしていた。
「リク! リクウウウゥゥ!!」
リクさんの手がぶれ、パンドラの首が宙を舞った。
「このために、人も神も裏切った」
首が地面に落ちる音だけが、場を支配する。
全員何が起きたのかわからなかった。
「バカな……あんた……何を……」
パンドラが首だけで声をかける。その声は屈辱か困惑か知らんが、震えていた。
「この事件の裏にいる、無粋な輩を消したくてね。一芝居うたせてもらったよ」
「じゃあ団長は……」
「悪かったなイーサン。それはあと数十分で痺れが取れるはずだ」
「お前……お前この野郎おおおおぉぉぉ!!」
泣きながら笑っている。仲間が裏切っていなかったことで、緊張の糸が切れたのだろう。いい人なんだな、イーサン団長は。
「始めっから、ワタシを裏切るつもりで……」
「自分の長所短所を理解し、フルムーンを守るため、最も効率がいい方法を選んだだけだ」
「逆方向の敵も活動を停止させた。じきに大砲は破壊される」
「クソ……クソがああぁぁ!! こんなことをして、お前をここから帰すとでも思ってんのかい!!」
「地獄でやるといい」
パンドラの首に剣を突き立て、その生命が途切れるのを見送った。
俺たちはどうすりゃいいのさ。来ただけ無駄やん。
「これは……無駄足じゃな」
「言うな」
だが無駄じゃなかった。新たな神格を持った敵が複数飛び出してきた。
「リク! その剣で頼む!」
「止まれ」
止まる気配ゼロである。早速効かねえのかよ。
「指揮系統の違う敵を用意していたか。ならば」
神剣の力を解放し、ゴッドキャノンを両断している。とりあえず砲撃だけは止めるつもりだな。いい判断だ。
「おいおい囲まれちまったぞ! どうすんだリク!」
「あの程度なら倒せないか?」
「オレまだ動けねえんだよ」
「だらしのないやつだ」
「お前のせいじゃああぁぁ!!」
漫才やっている団長はいいとして、あの敵は厄介だな。
黒い鎧の兵士とは違う、もっと鎧が豪華で、頭にツノが二本ある。指揮官かね。
「担いでいく余裕はないぞ」
「しょうがねえ、オレは残るぜ。逃げる時間くらい稼いでやるよ」
「再び剣が奪われることだけは避けねば……カイ、急ぎ本陣まで戻れ。報告するんだ」
「しかし団長!」
「託したぞ」
剣をカイさんへ投げ渡し、光輪を大量に出して構えている。
同時にイーサン団長へ回復魔法を駆け続け、なんとか動ける状態まで戻す。
「行ってくれカイ。お前さんが剣を持ち帰れば、フルムーンは救われるかもしれねえ」
「応援が来るまで持ちこたえてみせる。行け!!」
「ご武運を」
カイさんは岩山を飛び出し、本陣まで駆けていく。
その間にも、神の援軍は魔力を跳ね上げ、数を増やして取り囲んでいく。
「あーあ……死んだかねこりゃ。騎士団の秘密兵器はどうした?」
「反対側の応援に行かせてしまってね」
「はっ、そりゃついてねえや」
最後の力を振り絞り、神の軍勢へと攻撃をかける二人。その力は凄まじく、光速を突破している軍勢を怯ませる。
「何匹やれると思う?」
「一対一なら三匹まで」
「オレなら五匹はいけるぜ」
敵はやはり致命傷に至っていない。神造人間というのは、神格を得た何かなのだろう。血を流し、それでも表情を変えずに挑んでくる。
「適当なところで逃げろよリク」
「ぬかせ。お前などに救われてたまるか」
光速の百倍を超えて動き、月が消えるほどの力で殴り、ようやく敵の動きを止められる。さらに力を込めて数発殴って活動を停止させ、立ち止まらずに次へ。
それを数回繰り返せば、どちらの傷も増えていく。
「情けねえな。第三と第四の騎士団長がいて、このざまだぜ。もっとがんばれよリク」
「私に責任を押し付けるな、アホめ。口より手を動かさんと死ぬぞ」
疲労がピークに達しているのだろう。肩で息をしながら、猛攻に耐えている。
周囲にはもう、俺たち以外の味方はいないだろう。
背後から敵の軍勢が突撃を仕掛ける。
「行くか」
敵の剣が届く前に飛び出し、まとめて殴り飛ばした。
粉微塵になっていく敵兵を横目に、団長の安否を確認する。
「んなっ……なんだあ!?」
「新手か!」
「助けに来ました」
無事みたいだな。急所は避けてくらっていたんだろう。
打撲と出血はあるが、リリアの回復でほぼ治る。
「とりあえずこいつらを……」
言い切る前に殺到するザコども。マフラーの両端を伸ばし、背後の連中を串刺しにしつつ、前方の敵全てを手刀の衝撃波で切断する。
「回復は?」
「もう終わるのじゃ」
「君は……シルフィ様と一緒にいた……」
「上じゃ」
羽の生えた敵が無数に急降下してくる。邪魔くさいな。
光速の六千倍で右アッパーを繰り出し、まとめて吹っ飛ばす。
「おいおい……なんだそりゃ!?」
「ありえん…………あれほど苦戦した兵を……」
「そのまま回復しておいてくれ」
「ほいほい」
敵も知能はあるのか、分散しつつ俺を殺そうと動き出した。
面倒だ。マフラーを巨大化し、両端から敵を掴んで丸めていく。
「お前らにかまっている暇はない」
中間をしっかり掴み、雑に何度も地面へぶつけていく。
大地が揺れ、崩れ、中身がひしゃげる音がする。
適当なところで上に投げ、魔力波ぶっこんで消滅させれば、大半の敵は排除完了。
「えええぇぇぇ!? いやそいつそんな雑に倒せないから!? オレすげえ苦労したからねそいつ!!」
「こいつで最後か」
最後の一匹に右ストレートで穴を開けて、魔力を解放したら、爆発してお掃除おしまい。
「マジかよ……」
「とりあえず無事ですね?」
「少し状況を整理する時間が欲しいが……まずは礼を言う。正直危なかった」
「ありがとな! 恩に着る! 誰だか知らねえけど、すっげえ強いじゃねえか!!」
よしよし、どっちも元気だ。さてここからどうするかね。
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