ゴッドキャノンを破壊せよ

 青色のビーム砲をしのいでからというもの、フルムーンは大慌てであった。

 全軍に本陣への帰還命令を出し、強固な結界を張っての作戦会議となる。

 分散しているよりは、一箇所で防御を固める方針なのだ。


「で、なんだったんだいありゃ?」


「戦場の右側から飛んできたように見えましたが……」


「あーんなん聞いてないぜ」


「ちょっと反則なのー!」


 現場の混乱は、ひとまず王族と団長が抑えた。演説と結界で安心感を与えたのだ。砲撃が強力だとしても、防げた事実は変わらない。それが功を奏した。


「これじゃうかつに戦闘なんてできないぜ」


「敵が退いていったのも不気味だ。なぜ今攻めてこない?」


 こっちが撤退を決めた時、敵は攻めてこなかった。

 今も結界を攻撃する素振りすらなく、遠くで陣を張っているのみ。


「作戦はいくつかあります」


 リクさんがよく通る声で話し出す。こういう場に慣れているのだろう。誰もが聞く態勢をとった。


「まず全軍を集結させ、団長全員でビームを弾きながら、じわりじわりと進軍する。だがそれは、集中砲火にさらされ、敵の攻撃も一極集中するということだ」


「正直現実的じゃあないな。時間がかかりすぎる」


「ああ、だから団長に無理をしてもらうよ」


「やっぱりそれしかないのー……」


 どうも団長たちには答えが出ているようだな。

 一種諦めの色がにじみ出ている。


「やることは簡単だ。敵に感づかれないよう、団長数人で潜入し、ビームの元を断つ」


「少数精鋭での早期撃破か」


「それっきゃないねえ」


「だが地獄への友はどう決める? 選ばれし英雄である私が活躍することは使命である。だが本陣の守備も重要な任務であろう?」


「条件は二個あります。単騎で駆け抜ける隠密能力と、神であれ兵器であれ、確実に破壊できるだけの高火力を持った人物です」


 部隊を率いれば目立つ。行軍は人が増えれば増えるほど、当然だが遅くなる。

 ならば団長による超光速移動で短期決戦かます、というのは正解に近いのかも。


「回復役のアリアと、騒がしく炎で目立つリュートは除外。超高火力が必須という意味では、フィオナも除外した方がいいわね」


「仕方ないの。コバルト団長はどっちなの?」


「潜入部隊だ。ここにいても反応を読み取れない。ならば同行させて、危険なら全員を本陣までテレポートさせる」


 緊急脱出用の手段があるのはありがたい。ここに来て急速に神の殺意が高くなってきている。過激派が出てきたかね。


「神が待ち受けている可能性もある。慎重に選ばねば」


「そもそも移動されているかも……」


「その時はもう一発撃たせましょう。そしてビームの来た方向に最速で向かいます」


 すげえ作戦立ててきたな。肝が座っているというか、やられないという自信があるのか。流石は団長クラス。くぐった修羅場が違うのだろう。


「メンバーはコバルト、ナギ、私だ」


「おいおいリクはダメだろ。お前は全軍の指揮とかあんだろうが。軍師が前線行くんじゃねえって!」


「ならオレとイーサン団長も入れてくれなーいかい?」


「イーサンは防衛の要だろう。確かに火力は魅力だが、防衛も仕事だ」


 メンバーに困るんだよな……どうする? 俺もこっそり行くか?

 だがまだ城にすらたどり着けていない。この状況で知られるのはまずい。

 敵の警戒レベルを無駄に上げるのは……そう考えているとジェクトさんが手をあげた。


「よし、いっそ私が行こう」


「王族が行くなああぁぁ! どこの世界に王様特攻部隊に入れる国があるんですか!!」


「…………どうかお考え直しください」


 はい、大不評でございます。あたりまえだよなあ。


「味方の目が厳しい」


「あたりまえよ。立場考えましょうお父様」


「コバルトとナギにキールは確定だ。それぞれの軍師は各軍の指揮を取ってくれ。両方いなくなるわけにはいかない」


 そんな感じでまとまった。だが妙に嫌な予感がする。

 なんだろうなこの……言い表せない雰囲気は。

 会議が終わり、本陣から戦場を見渡すが、不気味なほど静まり返っていた。


「これよりゴッドキャノン破壊作戦を開始する!」


「せめて皆様に回復と祝福を」


 アリアさんの癒やしの力により、その場にいる全員が回復する。

 俺の魔法とは規模も威力も段違いだ。どうやってんのかすらわからん。


「ありがとう。では行ってくる」


「吉報を待て。選ばれし者に敗北の二文字など不要だ」


「まーかせときなって。なんとかするからさ」


 コバルトさんとキールさんの横にいるのがナギさんかな。

 薄い水色の長髪を後ろで束ね、青いひと目は遥か先を見つめている。

 黒い迷彩柄の服で、手甲と足には装具。服の中には鎖帷子っぽいものが……え、なんか忍者っぽいんだけど。


「来たぞ!!」


 ビームがこちらに迫っていた。なんて都合のいいタイミングだ。


「こんだけ団長がいればなあ!!」


 イーサンさんが前に出る。同時に残りの全団長が必殺技をぶち込み、ビームの発射元へと潜入メンバーが駆けてゆく。


「オオオオオォォォォォ!! 燃えろオオオオォォォ!!」


「リュートがうるさいの……」


 その場の全員が、結界を張るか攻撃するかでビームを抑え込む。

 かなり負担が少ない。やはり優秀だな。超エリート集団だもの。そりゃこうもなるってもんさ。


「出っぱなしってのが厄介だね」


 ビームはどうやら放出し続けるタイプらしい。

 最後の瞬間まで迫ってくるのは、正直うざいのだ。足止めをするつもりなら上策だろう。


「潜入メンバーは?」


「もう岩山へ行ったぜ!」


 やがてビームは消えた。さっきと魔力が同じ。つまり兵器か同じやつが攻撃してきている。


「全軍警戒を怠らないで。負傷者の確認と、結界の補強を急いで!」


「了解!!」


 疲れを見せずに動き始めるみなさま。タフだなあ。日頃の訓練とか過酷なんだろうな。


「なあサカガミくんとその仲間よ」


「はい?」


「今の、前と同じ攻撃だったか?」


「違いは感じませんでした。色も威力も、込められているエネルギーも、俺にはわからないほど同じでした」


「わたしもそう感じました」


 第一波を防いだ人間全員が同じ感想らしい。なら間違いはないだろう。


「頼んだぞ」


「あの連中なら心配はいらないさ。なんせ団長だからな」


 さて、俺たちは奥で引っ込んでおこうかな。邪魔しちゃ悪い。


「邪魔にならない場所へ行くぞ」


「はーい」


「少し休める場所を探しましょう」


「王族のテントでよいのではないか?」


 隠密部隊が行ってからまだ五分程度だ。何が起こるというものでもないだろう。

 王族のテント内には、フルムーン家の四人と、俺のギルメンしかいない。

 外ではフィオナさんが見張りをしている。


「このまま終わってくれればいいんだが……」


「そう簡単にはいかないわよ。まだ敵が何者かすらわからないのよ」


 フルムーンに喧嘩売るというのは、あらゆる意味で損しかない。

 まず国土が半端ない。他国が奪ってすぐどうにかできるもんじゃないし、間違いなく周辺諸国が切れる。

 次は自分たちかもしれないし、フルムーンとの国交をぶち壊すメリットが皆無に近いのだ。だから奪っても奪い返される。


「国を乗っ取るなら、少々手順がおかしい」


「唐突に神様だー。これから国を治めるぞーで納得しないじゃろ」


「宝物庫の財宝とか?」


「神が金目当てか? いや、ノアってどうなった?」


「ヒメノ一派が警備しておる。今回の件で、手に入れるならそこじゃからのう」


 なら問題はないだろう。あいつらを実力で突破するのは厳しい。

 ヒメノチームにラーさんとか手の空いた神が混ざる。無理ゲーだな。


「国内の誰かに恨まれているとか、こう……王位継承で揉めたりとか」


「ない」


 即答されるとは予想外だよ。


「なんか王宮での派閥争いとかどうのこうのって……」


「わたしもあんまり知らないけど……みんなサクラ姉さまに納得してるよ」


「万が一それにシルフィが巻き込まれて怪我したら、全員アジュくんに殺されるでしょ?」


「ちゃんと選別はしますって」


 無差別に人殺すメリットがないだろう。そういう効率悪くて手間かかるの嫌い。

 家で二度寝する時間を減らすんじゃないよ。


「家族仲は良好だよ。助けてくれた者のおかげで、より結束は深まっている。横槍を入れる隙間などないさ」


「騎士団も立派な人ばかりよ。私と夫が国を治めている間、内輪の物騒な話もないわ」


「フルムーンって社交界の権力がどうとかないのか?」


 このへん完全に漫画知識だ。だって俺庶民だし。ファンタジー大国の事情なんて知るか。


「王族はみんな慕われているわ。国民からの人気も高いし、この国で大貴族になるということは、有能で誠実であることが求められるの。本当に小さな小競り合いはあっても、王族や騎士団に手をかけたりはしないわ」


「社交界でどれだけの人脈と権力を得ても、アジュ一人が暴力で全部潰せるのじゃ。じゃから上層部ほど、王族を巻き込む争いはしないのじゃろ」


「いや俺のこと知っているの王族だけでしょ? 騎士団長だって知らないのに」


 なんとなく察している団長や軍師はいた。それは団長になれるほど研ぎ澄まされた勘というやつかもしれない。


「つまりそれだけ善人が多いということね」


「フルムーンの貴族に会ったことはなかったかしら?」


「ホノリくらいか? リウス家の」


 意識したことはないが、交友関係が希薄だからね。おそらく少ないはず。


「リウスか、彼は心配性でな。作る武具は超一流なのだが、あまり精神的にくる扱いはしたくない」


「遺伝なのね」


 ホノリも苦労人っぽいからなあ。今回の件に巻き込んだらしんどそうだったので、内緒でここに来ている。長巻の恩もあるし、健やかに生きて欲しい。

 よくわからんことを考えていたら、外からバカでかい衝突音がした。


「なんだ!? どうした!!」


「大変なの! またビームが飛んできたの!!」


「おいおいマジかよ」


 全員で外に出ると、本陣先方でビームを止めている人々が目に入る。


「行くわよ!」


「加勢します!」


 警戒して人数を割いていたからか、無事に処理できた。人的被害もない。

 ちょっと焦ったのは秘密だ。


「あっぶねえ……」


「ご無事ですか! 今回復します!!」


「同じ場所から飛んできたな」


「まだ団長たちから報告はない。どうやら手間取っているようだ」


 少し重苦しい雰囲気を消し飛ばすように、もう一発ビームが飛んできた。


「えええええぇぇぇ!?」


「うっそだろお前!?」


 現場大混乱だよ。それでも迎撃し、被害が出ないのは流石の一言である。


「おいおいおいおい! どうなってんだよ! 別方向から飛んできたぞ!!」


「嫌な予感があたったようだな」


 逆方向から、左側の岩山から飛んできた。最低でも二発撃てるということだ。


「くっ、こうしてはおれん! イーサン、私に続け! カイ!」


「ここに!」


「ともに駆け抜けるぞ!」


「了解!」


 リクさんとカイと呼ばれた人が続く。赤い神と金色の目で、リクさんと同じ服装だ。こっちは黒基調で紫の線が入っている。リクさんは黒基調で赤の線。あれ第四騎士団の制服なのかね。


「あの人は?」


「リクの副団長だよ。わたし見たことある」


「おおい勝手に行くなって!」


「行くしかあるまい!」


「ちょっと急過ぎるのー!」


 三人は光速移動で走り去っていく。おかしい、意図的に分断してきていないか。

 これでは本陣をどう守る。騎士団と軍師ばかりになるぞ。王族はどうする。


「サカガミくん。こちらへ」


「急いでアジュくん」


「はい?」


 ジェクトさんとサクラさんから、テントの中へ手招きされる。急いで中へ入った。


「どうか彼らにこっそりついて行ってくれないか?」


 唐突にそんなことを言われる。

 確かに心配だが、俺がここを離れるということは……。


「我々はここを動かない。リュートとフィオナも常に近くにいてもらう。隠し玉もいる」


「私もいるわ。シルフィを危険な目には合わせない」


「リリア、アジュをお願い」


「任せるのじゃ」


 どうやら議論している暇もないか。


「リリア」


「ほいほい」


 リリアに人払いの結界を張ってもらい、イロハキーを使う。


『イロハ!』


 黒く軽い装甲の付いた忍装束に、赤く長いマフラー。この姿も久しぶりだ。


「いってきます」


「頼んだよ。くれぐれも用心してくれ」


「気をつけてね二人とも」


「そっちこそ」


 影に身を潜め、気配を消して、二人で後を追うことにした。

 これ以上事態を引っ掻き回されてたまるか。ここで片方だけでも潰してやる。

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