決戦開始と謎の砲撃

 いよいよ始まった大規模戦だが、当然のようにフルムーン優勢だった。


「撃ち方やめー!!」


 敵が騎馬で動き出した……この馬もなんか化け物っぽいデザインで、普通の生き物じゃないんだが、まあそれを止めるように、徹底して魔法の集中砲火を浴びせた。


「正規兵ってのは凄いねえ」


 爆音が響けば敵が減っていく。数人の魔力を束ね、それをビーム砲のように撃ち出したりもしている。やり方はわからんが淀みのない動きだ。


「ちっ、やはり結界が張られたか」


 半透明の結界だ。あわよくばと海や城に向けて撃っていたが、歩兵の後ろあたりに結界がある。おそらく神の張ったやつ。簡単には抜けないだろう。


「重歩兵隊、前へ!!」


 盾と槍で武装した歩兵隊が前に出る。残った騎馬突撃を潰すようだ。


「よおおおおおおっしゃああ!! 止めるぞロン!!」


「自分は頭脳労働担当するんで、団長だけで半分止めてください」


「うそおおぉぉ!?」


「ほらもう来ますよ。歩兵混じってますね」


 あの人らは変わらんなあ……この状況で平然と……いやいいのかあれ?

 俺には判断できん。がんばって。


「イーサン隊、一番隊二番隊はオレと一緒に前へ!」


「ロン隊、六番隊はサポートだ。強化魔法かけつつ援護!」


 そして敵とぶつかり合う。魔法の雨をくぐり抜けてきた連中だ。傷を負っていないやつは手練だな。


「オレの! オレの両腕!! どっこいしょおおおおぉぉいい!!」


 両腕の形に膨れ上がった、巨大な魔力が、押し寄せる騎馬兵と歩兵をがっつり止めている。

 イーサンさんは本当に一歩も下がっていない。っていうか敵の槍が刺さっていないっぽいんですが。


「こんなもんで、オレの筋肉に届くかあああああ!!」


「いやあ脳筋団長ですねえ。自分が半分斬っときましたよ」


 止めた一瞬で、騎馬兵の半数が斬り落とされた。


「ナイスだロン! 筋肉の賛歌を奏でたらあぁぁ!!」


「聞きたくないですね。自分は遠慮しときますよ」


 受け止めていた敵兵を、両腕を振り抜いて吹き飛ばしている。

 いやあ馬鹿力だわあ……魔力が籠もっているとはいえ、団長クラスは人間やめてるねえ。


「よっしゃあ!! お前ら続け!!」


「うおおおぉぉぉ!!」


「暑苦しいったらないですねえ」


「オォォォォォ!! 燃えろ我が魂!!」


 敵兵が止まったのを見計らってか、リュートさんが駆け出した。


「我が鉤爪は勝利を呼ぶ! 燃えろ! 激・大炎葬!!」


 両腕の鉤爪が光り輝き、敵兵中腹を灼熱地獄が襲う。

 黒い鎧の群れが、為す術もないまま蒸発していった。

 そしてリュートさんを先頭とし、止まった敵部隊を撹乱しながら殲滅していく。


「はっやいなー」


 部隊そのものの突撃が速すぎる。全員が全力疾走しながら、一撃離脱で確殺していくのだ。


「イーサン団長の部隊が国防のための盾なら、リュートの部隊は先陣切って最速で斬り刻んでいく突撃部隊。並の部隊じゃ、動きは捉えられないよ」


 アカネさんが説明してくれる。見事なもんだ。職人技、という表現で正しいかわからないが、熟練の業だな。


「そろそろだね」


 アカネさんの魔法が一発、上空に打ち上げられる。それは戻ってこいという合図だ。


「戻るぞお前らああああぁぁぁぁ!!」


「ウオオオオオォォォォ!!」


 大きく弧を描いてUターンしてくる、リュートさんの部隊。

 徹底的に蹂躙され、混乱の中で体勢を立て直そうとする敵を、さらに引っ掻き回して帰ってくる。


「ベストタイミングじゃな」


「当然さ。アタシはずっとあいつらの軍師だからね」


「魔法部隊! 撃ち方用意!!」


 そして準備を終えた魔法部隊が、再び射撃を開始する。

 敵にとって、これほどの地獄もないだろう。

 シンプルに強い。そして統率が取れている。対処しようにも、緩急を自在に変える臨機応変さだ。


「これで五万くらい減ったか。上々だね」


「多いのか少ないのか」


「普通の戦争なら頭おかしい減り方じゃな。初撃で数千とか減ると大打撃じゃぞ」


 騎士団の性能と、この世界の戦争がよくわからん。データ不足だな。

 おそらくめっちゃ早いんだろうけども。この状況が現実離れしすぎている。


「団長が全力を出せることが大きいわ」


「あのアレスとかいう化け物と戦えるのは、こういう頑丈な土地じゃないとね」


「フルムーンの国土で戦うとどうなる?」


「国がやばい。この世界がまず頑丈すぎるんじゃよ」


 オルインは特別頑丈にできている。だから星が砕けるには、相当の力が必要だ。

 それこそ神々の全力勝負とかな。だからフルムーンの中で先頭は厳しいんだけど。


「ここなら存分に力を出せるわけか」


「どうやら全力出さなきゃいけないようだね。アタシがここを離れることがあったら、きっちり姫様を守るんだよ」


「アカネ?」


「敵の動きが変わった」


 敵が隊列を変えていく。その動きが、どことなく軍隊に見える。見えるくらいには統率が取れている。


「指揮官がいるねえ」


「厄介じゃな」


 アカネさんがまた魔法を派手に打ち上げる。これは陣形変更の合図だ。

 前方を結界と重装備で固め、左右から敵を迎撃する布陣か。


「じわじわ来るつもりだね」


 敵の歩みがゆっくりだ。だが前方に重歩兵を配置し、結界により縦列を作って進軍してくるので、ちょっと面倒だ。


「さて授業をしてやるよ。こういう場合、警戒するのはなんだい?」


 なんかアカネさんの特別授業始まったぞ。しかも俺を見ている気がしますねえ。


「俺ですか?」


「イロハ姫は仕込まれてんだろう? シルフィ様もアタシが教えてたからね。今はあんたの番さ」


 まあこういう機会は必要かな。今のうちに学んでおこう。


「敵は一本の矢のようになっています。接敵から全速力で来ると、突破力が馬鹿にできないかと」


「そうだね。他には?」


「前方の盾役が捨て駒だった場合、その後ろの部隊に秘密兵器でも隠せるかなとは……こちらは左右から囲む陣形なので、一点突破には対応が厳しくもあります」


 地形は開けているので、割と見渡しやすい部類だと思う。だが相手がいまいちわからないのだ。黒い敵兵は中身がない。正確には黒い霧みたいなものがびっちり詰め込まれているらしく、それが動力源くさい。動きが読めないのだ。


「まあ普通の戦場ならそうだね」


「妥当じゃな」


「だが陣形を今から直すには、敵さんが来ちまってるよ?」


「左右の部隊で敵中腹を挟み撃ちにするか、リュートさんの部隊にかき回してもらうというのはどうですか? 横っ腹に突撃入れてしまえば脆いかも」


「悪くはないね。基礎はどんな時でも一定の効果がある」


 また合図が上がる。展開していた部隊が、さらに散開し始めた。


「正面はイーサンがいりゃ大抵止められる。問題は、その背後さ」


 背後の土煙の中から、なにか白い塊が見えている。うっすらとだが、騎馬兵よりも二回りはでかいな。


「各員距離を保ちつつ側面から叩け!!」


 白い塊は、獣の頭部をかたどった戦車だった。大きく口を開けた獅子の彫刻が彫られた、四輪の戦車だ。古代ローマとかで作られていたチャリオットの強化版かな。

 口から大量の炎を撒き散らし、側面からは無数に刃が飛び出てくる。


「おー……これは予想できないです」


「気にしなくていい。これは個性を把握していることが前提だ。基本を覚えるんだね」


「わかりました」


 魔法を弾き飛ばしながら爆走する獅子戦車を、相当に硬い素材で作られていると判断した。先頭に馬がいないということは、動力源は別なのだろうか。


「どっせい!!」


 真正面から激突しても、イーサンさんに傷はない。どういう鍛え方したんだよ。

 戦車を二個掴んでぶつけ合わせ、粉々に砕いている。

 中からは黒い瘴気が出るか、黒い敵兵が落ちてきた。


「どういうシステムだよあれ」


「車輪などつけたことが、貴様らの敗因だああああぁあああ!!」


 リュートさんの炎により、戦車前方の地面が溶け、簡易的な落とし穴になる。

 それ自体も高温であるため、落ちて灰になるか、直前でブレーキを掛けていくしかない。


「この状況、自分が敵ならどうする?」


「戦車に派手な自爆機能でもつけますね。どうせ中身は黒い霧でしょうし」


「またアジュが変な発想を……」


「ほほう、いいんじゃないかい? 敵の軍団なら、それくらいしてくるはずだねえ」


「それがないってのがわかりません」


 むしろそうやって戦場をかき乱すはず。あいつらに正々堂々なんて概念があるのかね。アレスやイアペトスみたいな武人タイプだけじゃないだろう。


「今は指示が先だね」


 さらに別の合図が上がり、即座に全軍が動き出す。


「ロン、負傷兵を下げろ! 三隊連れて行け!」


「了解! ロン隊、四番隊、五番隊は負傷兵を本陣へ! 六番隊は自分と結界で道を作るぞ!」


「了解!!」


「リュート隊、一番から四番まで隊長とともに左右から突撃!! 活路を開く!!」


「ウオオオオォォォォォ!!」


 大穴を左右から避けて突撃をかけていく。それは戦車の破壊というよりは、味方の援護に近い動きだった。


「アカネ、負傷兵はどちらに?」


「アリア、あんたは持ち場にいな」


 金髪碧眼の、白を貴重とした服を着た女だ。白に少し金のラインが入った修道服っぽい感じ。二十代中盤くらいだろうか。美女のカテゴリーだな。


「本陣内の負傷兵の回復は終わりました。前線の様子を確かめに来たところです」


「団長が持ち場離れてどうすんだい。伝令でいいじゃないか」


「全軍が本陣で控えています。動くなら私です」


 何やら話し込み始めた。そりゃ回復頼みたいのに前出られたら困るわ。

 だがそれよりも……ううむ、なんだろうな。


「どうしたのアジュ?」


「いや……」


 念の為シルフィに確認を取る。話し込む二人に聞かれないよう、そーっとな。


「味方でいいんだよな?」


「そうだよ?」


「素行は?」


「問題ないわよ。むしろ慕われているわ。傷を癒やしてくれるのだから、騎士からの評判も良好よ」


 イロハでも知っているほど人望があるらしい。俺の思い過ごしなのだろうか。


「戻ってくる兵の回復を始めます」


 聖なる光が場を清め、身も心も癒やされていく。

 戦闘中の兵士も同じようで、その淡く美しい煌めきは、俺たちまで癒やす。


「ありがとうアリア。けど無理はしないでね」


「もったいないお言葉です。十六騎士団長、聖女アリア。フルムーンに捧げたこの身、最後の最後まで命を救うために使います」


 さらに輝きを増すアリアさん。聖女の呼び声に相応しい魔力だ。


「よくやったアリア。安全な場所まで下がっておいて」


「わかりました。どうかお気をつけて」


「危ない!!」


 シルフィの声がして、反射的に振り向いた。

 俺たちのいる本陣に向けて、暴力的なまでの青い魔力が突っ込んでくる。

 巨大なビームのようで、無意識にガードキーを取り出していた。


「止まれええぇぇぇ!!」


『ガード』


「火遁!!」


 ガードキーの結界とシルフィの時間停止。それにイロハの忍術が混ざる。


「ええい、なんじゃいこれは!」


 結界をリリアが補強してくれるが、ビームは勢いよく放出され続けている。


「止まらない! わたしでも、勢いを緩めることしか……」


「おいおいマジかよ」


 閃光が視界を埋めていく。やばいぞ。こんなもん直撃すれば、俺たち以外がどうなるかわかったもんじゃない。


「リリア! どうすりゃいい!」


「とにかく攻撃魔法でも必殺技でもいいから当て続けるんじゃ! 威力を減らす!」


「アリア! 手伝って!」


「了解しました! シャイニングフレイム!」


 全員で技と魔法をぶつけ続ける。やがて威力が減衰し、戦場が見えてくる。


「もう少しだ! プラズマイレイザー!!」


「手の開いてるやつは全員加勢しな! 弱くてもいい! ぶつけ続けろ!」


「了解!!」


 そばにいた騎士団の人たちも加わり、やがてビームは完全消滅した。

 本陣全体を覆っていた結界のおかげか、奇跡的に被害は出ていない。


「なんだったんだよ……」


「神の力が混ざっていたわ」


「急いで被害状況の確認を! 伝令急げ!!」


 二十秒に満たない時間だっただろうが、恐ろしく長く感じた。

 体感三十分くらいだぞ……きっつ。


「簡単には終わりそうもないな」


 あっちも秘密兵器があるってことか。面倒なことしてくれやがるぜ。

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