そろそろ飽きてきたので本気出していこう

 パンドラとアンタイオスを倒し、俺、リリア、イーサン団長、リク団長で周辺を探索していた。


「敵影なし。気配もなしか」


 海には船が並んでいるが、そこまでの道に敵はいない。

 潜んでいるわけでもないだろう。完全にいなくなった。


「船に潜入します?」


「いや、そこまでの必要はないだろう。反対側に行った団長たちが気になる」


「あいつらも強いから心配はいらないと思うが……」


「私たちの惨状を見てもそう思うか?」


「それ言われると立つ瀬がねえな……」


 なんの合図もないというのはおかしい。瞬殺されるタイプじゃないし、トラブルかな。


「結界を張って、内部で戦っているな」


「大規模な魔力の衝突がある。まだ戦闘中じゃな」


 うっすら魔力を追える状態だが、これは激戦の予感だ。


「救援に行こうにも、中央の敵軍突っ切るわけにもいかねえなあ。よっしゃ、本陣戻るか」


「まてイーサン。本陣はそっちじゃない。移動している」


「はあ? 聞いてねえぞ」


「私がそう指示しておいた。本陣が砲撃されるからな」


 そりゃいつまでも同じ位置にいれば砲撃されますわな。

 俺だってそうする。だってそこにいるんだから。


「そうだな、ちょうど……」


 リクさんが指差す先は、どちらかといえば左側の軍に近い岩山だ。

 そこにビームが飛んでいくのが見えた。


「……今ビームが飛んでいったあたりだ」


「えええええぇぇぇぇ!? おいおいどうなっちゃってんだよリク! お前さんの読みが外れたのか!?」


「ありえん。なぜここまでピンポイントに撃てる? 合図でもあるのか?」


 困惑する俺たち四人をよそに、 ビームは新しい本陣へと突っ込んで消えた。


「どうする? 戻るか?」


「神剣はこちらにあるはず……」


「右側の陣にも同タイプの剣があるとみるべきじゃな」


「ならば右軍へ急ごう。できれば君たちも来て欲しい」


「わかりました」


「よっしゃ頼む! えーっと……」


 そういや名乗っていないな。でも本名でいいものか……あまりピンチのときに叫ばれても困るし、足取りを追えるようにすべきではないか。


「快傑フルムーン仮面とかどうでしょう」


「あからさまに偽名だよね!?」


「センスゼロじゃな」


「ならフウマ仮面……だめだフウマに迷惑かかる」


「フルムーンならよいわけではないじゃろ」


 俺にネーミングセンスとか求めないで欲しい。できると思ってんのか。


「よし、団長お願いします」


「なにがよし!? オレそんなん無理だって! リク!」


「私もできんぞ。頼られているのはイーサンだろう?」


「レッドマフラー!」


「ではそれでいきましょう」


「リアクションうっすい!?」


 イーサン団長によりレッドマフラーになりました。


「そっちの子はどうする?」


「わし?」


 リリアにもつける気である。必要かね……いや、俺だけというのもいかんな。


「よし、青いマフラーと仮面つけろ」


「なんじゃそのアホ丸出しな要求は」


「全員でマフラーつけようぜ。リク、マフラー出してくれ」


「断る」


 イーサン団長の提案は却下された。本格的な予定を決めよう。


「本陣に戻るか、中央軍突っ切って右軍へ行くかだな」


「中央軍が動いたぞ!」


 中央の敵軍が突撃を始めた。応戦するようにリュート軍も前へ。

 指揮できる軍が減っているのか、フィオナ軍と合同で戦っているようだ。


「あそこ本陣じゃないよな?」


「偽装させた。敵がまだ本陣はあると思ってくれればと」


「じゃあ本物の護衛は?」


「アリアと念の為にルルアンクを遊撃隊にしておいた」


 本陣が手薄だな。俺が敵だと仮定したら、狙うなら今だ。しかし場所が完全に割れていないのに、突撃なんてかけられるのだろうか。


『アジュ、聞こえる!』


 シルフィからの通信だ。なにやら焦った様子である。


「どうした?」


『本陣が砲撃されて! アリアさんがアンタイオスと変な女の人に!』


「落ち着いて順番に話すのじゃ」


「シルフィ様の声?」


 三人とも集まってくる。通信機能について教えていなかったな。


『神に襲撃をかけられたわ。アリアさんとマリーさんが敵と離脱』


 イロハの声だ。補足してくれる声の後ろから、戦闘の音が聞こえている。


「マリー?」


「アリアのとこの副団長だ」


 団長も副団長もいないってことかよ。かなりピンチじゃないのかそれ。


『気をつけて。真偽は不明だけれど、イーサン団長とリク団長は裏切り者らしいわ』


 とっさに二人を見て若干警戒する。

 どっちも驚いた顔をし、同時に顔の前で手をぱたぱたさせている。

 意外と行動パターン一緒なのかな。


「どういうことだ?」


 二人に静かにしていてとジェスチャーをし、事情を聞いてみることにした。


『二人が裏切って、場所を知らせてて、敵と合流する予定だったんだって!』


「おいリク、お前マジで裏切ってんじゃ……」


「あるわけないだろうアホめが」


 小声で口論始めそうな二人は放置でいい。まずは事実確認だ。


「誰が言ったのじゃ?」


『カイさんだよ! 神様を操る剣を持って逃げ帰るだけで精一杯だったって!』


 本格的に意味がわからなかった。全員首をかしげる。


「そういう段取りで?」


「いや、知らぬ。私の裏切りはフェイクだ。こんな作戦も支持していない」


「カイは現場にいたじゃろ」


『家族はみんな無事。かたまって戦ってるけど、兵に被害が出ちゃう!』


『そちらに余裕があるなら援軍をお願い』


「気をつけろ、おそらく裏切り者はカイだ」


 これしかない。本当にカイが証言したのか不明だが、現状一番の不確定要素は神剣を持つカイだ。


『どういうこと? イーサンとリクはどうなったの?』


「姫様、それは何かの間違いで……」


『おや、こちらにおられましたか。さあ、私と安全な場所へ参りましょう』


 カイの声だ。いけない、このままでは襲撃を回避できなくなる。


『私についてきてください。騎士団も護衛に付けます。本陣を離れる準備を!』


『はっ!』


『シルフィと私はここに残ります。どうかまずは敵の掃討を』


『なりません。いつ裏切り者の襲撃があるかもわかりませんので』


 拒否する具体的な理由が思いつかん。これはどうすべきだ。


「カイ、そこにいるのなら事情を説明しろ。どういうつもりだ?」


『団長?』


 リク団長の声が届いたようだ。少しだけ声が揺れているな。


「私もイーサンも生きている。あてが外れたな」


『裏切り者の言葉は聞きません。サクラ様とシルフィ様だけでも安全な場所に……』


「行くなシルフィ!!」


 直接行って黙らせる。二人の魔力を検索。同時に団長二人を方に担ぐ。

 リリアを背中に乗せたら出発だ。


「失礼します」


「おい何を……」


「一瞬でつきます」


「目指すは本陣じゃ!」


 光速の五千倍で猛ダッシュ。新本陣上空へと躍り出た。


『ミラージュ』


 適当に髪の色と服の色を変えておく。一応の保険だ。マフラーはそのままにしておこう。


「下に敵がいます。気をつけて」


「はっや!? 君どうなってんの!?」


「尋常ではないな」


 下にいる神の軍が、なぜか俺たちから遠ざかっていく。

 おかげで四人とも無事に着地した。


「やはり裏切り者でしたか」


 敵軍が俺たちの左右に並び、規則正しく整列している。

 まるではじめから俺たちの部下であるかのように。


「カイ。これはどういうことだ?」


「どう、とは? こちらのセリフですよ団長。なぜ神の軍があなたに従っているのですか」


「これは我々の意思ではない」


「ヌハハハ! とりあえず手伝ってもらえません? 私の負担半端ないんですけどー! ヌハハハハハハ!!」


 なんか吹っ切れた笑顔のルルさんがいる。そらしんどいよね。

 ほぼ団長いないんだから。受け持つ負担が尋常じゃない。

 だが敵はどんどん整列している。まるでボスを守るような布陣になりつつあった。


「説明してくれ。君たちが裏切るなどと思っていない」


 ジェクトさんは、いやフルムーン軍を含めたほとんどが信じていない。

 それだけ人望ってものがあるのだろう。


「パンドラという女が、剣を動力にして大砲を使っていました。その女を倒し、剣をカイに預けて逃したのです」


「逃した? どうして?」


「敵軍の数があまりにも多く、我々では勝てないと思い、なんとか剣だけは守り抜こうと思いました」


「そうそう! そのためにオレとリクは時間を稼いだんですって!!」


 おおーと感嘆の声があがる。この人達はどこの軍なんだろ。


「ならばなぜ無傷なのです? 神の軍と戦い、なぜ無傷で帰還できるのです? あの数はどうしようもなかったはず。私が逃げたから、敵のふりをする必要がなくなったのでは?」


「この子に回復してもらったからだ」


「神の攻撃を治療できるのですね? あれほどの強敵だったというのに」


「ああ、そこはオレも驚いたぜ」


「疑問はそれ以外にもあります。あの神の軍勢、失礼ですが生還できるだけでも奇跡のはず。逃げ帰ったわけではないのなら、どうやって倒したのです?」


 そこ聞いてくるか……まいったね。真実を話すと面倒だし、逃げ切れたで通すしかないかな。


「私が広範囲に魔法を使い、彼らが撹乱してくれたのだ。煙幕や閃光でな。最小限だけ倒して逃げ延びた」


「ならその男は何者です? どこから現れ、どうやって団長の戦闘に付いてきたというのです?」


「レッドマフラー君だ。横の子はブルーマフラー。頼りになる味方だぞ」


 イーサン団長の紹介はすこぶるうさんくさい。これは怪しまれる。

 そもそもフルムーン軍は俺と面識がない。完全に謎の人物だからねこれ。

 なんせ団長二人も知らんのだから。


「だからそれは誰なのです? どこの部隊です? 失礼ですが怪しすぎる」


「部隊ではない。助っ人の超人だ。フルムーンの危機に、隠し玉として用意した」


 ジェクトさんがフォローしてくれる。ありがたい。俺に証明の手段はない。


「ジェクト様、ご存知なのですね? ならば名を教えて下さい」


「それは……彼らは匿名を条件に協力してくれている。味方であると保証しよう」


「カイ、彼らは敵ではありません。フルムーンのために戦ってくれているのです」


「そうよ、決して敵ではないわ」


 レイナさんとサクラさんもフォローに回る。

 兵が動揺しているな。王族だけが招待を知っていて、庇うような動きだからねえ。

 本格的にどうしたもんかな。カイを殺せば一件落着にはならんよなあきっと。


「名を明かせないと? 達人超人の有名所は知っています。誰なのかわかれば、兵も納得しましょう」


「カイ、今は敵を倒すことが先決では? 彼らは兵を傷つけたりしません。まずは止まっている敵に対処しましょう」


「王家にのみ正体を知られる超人ですか。特定の付き合いがあると」


「カイ、この軍は私が動かしているのではない。お前の持つその剣で号令を出し、裏切り者に見せかけているだけだろう」


「ならばこの剣で号令をかけてみてください。できますね?」


 妙な自信があるな。動かせないという保証があるようだ。


「少なくとも、私の対峙した敵はそうだった」


「それは剣ではなく、あなた相手だったからでは? 何の証明にもなりませんよ。まあいいでしょう、お貸しします」


 普通に剣渡したぞあいつ。本当に動機がわからん。

 勘違いしているという線は薄い。カイこそ裏切り者だろうが、その理由と目的がわからない。


「この陣より下がれ」


 敵兵は動かない。さてどう巻き返すのかね。

 面倒になったら敵兵皆殺しでいい。


「捕まえるならオレとリクだけにしろ!」


「名も明かせぬ怪しい輩を見逃せと? さあ、剣をこちらへ」


「剣は返す。だが内輪もめをしている場合ではない。私とイーサン、そしてお前を同じ場所に隔離していればいい。アリアも見つかっていないのだろう? 回復役がいなくなるということは、莫大な損失だぞ」


「それもあなたの作戦通りなのでは?」


 言い合いしているところ悪いんだけど、完全に飽きてきた。

 これだから人間が増えすぎるとうざいんだよ。


「まずは敵兵を倒すことからだ。我々でこいつらを倒せば、少しは信じてもらえるか?」


「それでいいんじゃないですかい」


「ロンか、君は知らなかったのかい?」


 ロンさん登場。さてここからどう逆転するのか。


「ええ、あんたがこんな無駄な計画練ってたなんて、考えもしませんでしたよ。いろいろ理由はありますがね、うちの団長は裏切りなんて器用な真似できませんぜ」


「褒められてる……よね?」


「感情論か。もっと論理的な思考をする人だと思ったが」


「わかってませんねえ。裏切らず、最後まで他人を信じ切るお人好し。それで笑われようが笑って貫き通す。だから第三騎士団長なんですよ、その人はね」


 ロンさんの背後に第三騎士団が集まっていく。

 誰も裏切りを信じていないあたり、結束が強いのだろう。


「裏切り者扱いなら勝手にすりゃあいい。自分は明確な敵である神を切るだけです」


「こちらの指図は受けないと」


「自分はイーサン団長以外の人間につく気もなけりゃあ、あんたに従う義理もない」


「不穏分子、ということだね」


 カイさんの背後にも騎士団が集まる。

 そのどちらに属していいのかわからない騎士が、様子をうかがいながら成り行きを見守っていた。


「いいでしょう。なら証明してください。あなたがたが裏切らないよう、ここで見張ります。神の軍勢を退治してください」


 これが狙いか。疑いを晴らすため、口実を作って戦力を削ぐつもりだ。


「いよおおおおおぉぉし! 出てこいオレの究極限界パワー!!」


「始めよう。騎士団長としての責務を」


 二人が魔力を高めると、それに呼応するかのように敵軍が武器を構える。

 それを見て騎士団全体に緊張感が走った。

 本来なら、ここから神の軍勢による大乱闘があったのかもしれない。


「おおおおおりゃあああぁぁぁ!!」


「セイヤアアァァ!!」


 二人が敵軍に巨大な衝撃波を放つと同時に、光速の十五万倍で両腕を動かし、手刀の真空波で細切れのサイコロステーキにしてやった。


「雑じゃよ」


「ごめん飽きた。うだうだやる時間が長すぎる。テンポよくいこうぜ」


 誰にも聞こえないように会話し、成り行きを見守りましょう。

 だって長いんだよ。この後シルフィのお誕生日会の準備とかあるんだぞ。

 いつまでだらだらやってんだアホか。


「うおおおおぉぉぉ!! さすが団長! すげえや!!」


「やっぱり団長だよ! あの強さは姑息な真似してちゃ出せないぜ!」


 よーしよーし騙されてくれた。いいぞいいぞ。このまま終わっちまえ。


「自分の覚悟どうしてくれるんですか。なんか恥ずかしさで死にそうなんですけど」


「……何をした?」


「お二人のアシストを少々」


「まったく見えなかったぞ」


「そういう風にやりました」


 歓声の中で会話する俺たち。団長には意図が伝わっているようで、無事あちらの手柄となった。やったぜ。


「くっ、そんなに簡単に倒せるはずがない。やはり無抵抗の敵を殺しているのでは?」


「往生際が悪い。いなくなったアリアの捜索が最優先だろう」


「そちらにはもう人を……」


 うっせえもう茶番やめろ。こっちは飽きたんだよ。


「結局俺たちをどうしたい?」


「捕縛し、然るべき場所に隔離するべきです」


「そうか。さあどうする正義の騎士団。お前たちが決めろ。どちらが正しいのか。誰に剣を向けるのか」


 リクさんの声がよく通る。それを聞き、全員がカイから離れていく。


「残念だよカイ」


「ジェクト様!  この男を信じるのですか?」


「そういう次元ではない。もうそんな些細な話ではないのだ」


 そもそも国に興味はない。シルフィが大事にしているから、なんとなく協力しているだけだ。

 これより先は暴力で黙らせる。


「正しいと思うのなら、お前が剣を向けてみろ。賛同者と一緒にな」


「お前が築き上げてきた、仲間と国への信頼などこんなものだ。裏切り者のカイ」


 カイが後退り、神剣を握りしめる。往生際が悪い。ついでにテンポも悪い。


「めんどい。ここから先は、権力も知名度も信頼も肩書も実績も地位も関係ない」


 なんか本陣近くからヒュドラが出始めているが知ったことか。全部潰せばいい。


「本物の暴力を教えてやる」


 さっさと倒すぞ。はいフルムーン救済RTAいってみよう。

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