ヘリオス、ヒュドラ討伐戦

 さっさとカイとヒュドラと敵兵を倒そう。

 本陣、ヒュドラ、中央軍という順番で並んでいる

 つまり中央の軍が挟み撃ちの状態だな。


「お二人で適当に攻撃してください。背後から俺が消していきます」


「どういうこと?」


「つまりこうか」


 リクさんの魔法がヒュドラに飛んでいく。

 それに合わせて拳の風圧でフォローすると、見事にヒュドラの首が飛ぶ。


「こういう感じです。手柄と名声は全部そっち持ちでお願いします」


「君も不思議な男だな」


「手柄奪っちまうのは、オレとしちゃ気が進まないんだが」


「非常事態ということで」


 団長には注目が集まる。そして強さが実証されている。だから強くても疑わない。スケープゴートってこういう状況であってる?

 まあそんな感じでぱぱっといこう。


「ブルーマフラー、アンタイオス潰しといて」


「了解」


「いやそんな簡単に……」


 当然だがリリアは量産型の神もどきより強いのだ。体内に魔法をぶちこみ、急所を的確に切り込めば、神であろうと殺しきれる。かなり力を開放する必要はあるけども。


「君らどういうことなの……」


「慣れろイーサン。考えるだけ無駄だ」


「軍師のセリフじゃねえぞ」


 そこからは兵を退避させ、被害を気にせず狩るだけだ。

 誰にも見えない。感じることのできない光速手刀で、ひたすら敵の首を跳ね飛ばす。


「観念しろリク。最早説得でどうなるレベルではない」


「どうでしょうね。この剣は、神ですら傷つけられるのですよ」


 リクさんの光輪を切り裂き、吸収しているようだ。

 剣が輝くと、さらに敵のおかわりが追加される。


「適当に技名でも叫んでください」


「ビッグイーサンパンチ!!」


 拳から放たれる魔力に乗せて、そっと俺がアシストしていく。


「命名はリクさんでお願いします」


「遠回しにダサいって言われてるよね!?」


「強さは本物じゃ。安心してよい」


「強さも偽物じゃねえかなこれ!? オレの力じゃないしさあ!?」


 根が真面目なんだな。戸惑いながらも戦闘の手は緩めないし、ツッコミもしてくれる。そして強い。貴重な人材だ。


「どうしました団長。裏切り者となったくせに、団員は斬れませんか?」


 なぜかリク団長と互角の戦いを始めているカイ。

 なーんか挙動がおかしい。ついでに魔力もおかしい。


「やめろカイ! 必殺、筋肉の激情!!」


 防風災害のようなパンチのラッシュが飛び交う。

 だがカイはそれを避け、時には打ち返している。


「うっそだろお前!?」


「おかしい。カイにあれほどの力はない」


「試してみましょうか」


 そっと真空波を走らせ、カイの右腕を切断してみた。

 そして腕から緑色の光る血が流れ出す。なんだよ人間じゃないのか。


「お前カイ! それ……」


「ふっ、腕がどうかしましたか?」


 緑色の液体が溢れ出し、落ちた剣に絡みついて人体を構築していく。

 どっかで見たな……なんだっけあれ。かなり前に見た記憶がある。


「液状ニュートリノ?」


「じゃな」


「なぜ知っている?」


「お前管理機関か」


 前にカジノ魔王のところで戦った、カラスみたいな魔王が使っていた技術だ。


「聞いたことがある。フルムーンは入国禁止のはずだが」


 団長と軍師には知らされているらしい。どうせ迷惑かけたんだろう。


「私はフルムーンの副団長ですよ。国にいることに何の疑問が?」


「いいからお前らの目的を話せ。神に何を吹き込まれた?」


「目的がわからぬ。こんなことをして、神にどんな得があるのじゃ?」


「人が神の意思を語るなど、思い上がるな」


 上空より声がかかる。髪にあたる部分が炎で構成されている、無機質な……体が人間のものじゃない。鉱物に近い丸みを帯びたフォルムだ。顔も男性っぽいが、人間だという気がしない。


「人間ごときを潰すだけで、ここまでかかるか」


 明らかに神格の違うやつが出てきたな。今回の幹部クラスだろう。

 関節部分から炎が漏れ出している。


「ここまで人間と違うタイプは初めて見るな」


「人ごときに似る意味はない。喰らい尽くせ、ヒュドラ」


 さらにヒュドラが増えていく。本陣大混乱だよ。めんどいからささっと破裂させるが、また増える。なんか血肉が飛び散っていくので、魔力波で焼いておく。今まではそんな生物っぽいことはなかったはずだ。


「ヒュドラの首は九個じゃ。しかも本体は血肉が毒になっておる」


「最悪じゃねえか」


 騎士団に相手をさせると、無駄に死人が出る。そして首が八個しかない。


「一個隠してやがるな」


「下がれ」


 名も知らん神が、カイに逃げろと言っている。もう共犯確定なんだけどいいのかね。


「私は騎士団です。最後まで裏切り者と戦い……」


「貴様では勝てぬ」


「…………さようならリク団長」


 諦めたな。どうやら転移魔法陣でどっか行くらしい。


「いや逃さないけどな」


 長いっつってんだろ。お前を逃がすと、まーたうだうだするだろうが。

 真空波で魔法陣を切り裂き、ボディブローを入れておく。


「がっはあ!?」


 意識を手放すカイ。やはり弱い。こいつどうしよう。


「剣と一緒に壊しちゃっていいですか?」


「かまわん」


「いいのか?」


「事情を吐かせる時間がないじゃろ」


 だもんでどばーっと魔力を流して消しました。さらば副団長。なんかキャラ立ち薄かったぞ。


「あとはヒュドラと燃えているおっさんだな。最後に聞かせろ。フルムーンに喧嘩売る意味はなんだ?」


「気に入らんのだ」


「はあ?」


「なぜ人が大手を振って歩いている? なぜ神を崇めない? 人は神の許しなしに大地に存在してはならぬ」


「人間界は人間のものだろうが」


「神が与えてやったのだ。生きる権利を貸し与えているだけに過ぎぬ。つけあがるな」


 なるほど。これが過激派なのね。人間の取り決めに従うことそのものが嫌と。まあわからんでもないよ。人間のルールって結構めんどいからね。


「名前を聞いておきたい」


「ヘリオス」


 やつの手に四個の光る球体がある。膨大な熱を内に秘め、それはゆっくりと膨張を初めて馬の形へと変わる。


「この熱量は……ちょいと厳しいかね」


 いかんな。太陽と同レベルの熱量だ。こいつ今までの神もどきじゃない。

 俺はよくても騎士団が焼け死ぬ。


「全員で神もどきの相手をしろ。こいつは俺がやる」


「図に乗るなと言ったぞ。人間」


 内に秘める灼熱を、解き放たれる前に蹴り飛ばす。


「できると思うなよ。遅延行為はここまでだぜ」


「小賢しい。分際をわきまえろ」


 ヘリオスと俺の拳が激突する。その衝撃だけでヒュドラの首が三個消えた。

 毒を最速で浄化し、ヘリオスを敵軍まで蹴り込んでいく。

 敵中央軍で炎の柱が上がり、味方にまで迫っていた。


「ああもう!」


『ガード』


 ガードキーで結界発動。これで騎士団は守られる。この壁は残しておこう。

 そのまま炎の中を突っ切って、敵軍とヘリオスを見つけた。まだかなり残ってんな。


「神を足蹴にして、生きて帰れると思うなよ」


「うっさい。こっちはもう飽きたんだよ」


「やれ」


 敵兵とヒュドラがこちらへ進軍開始した。だがもう力を隠す意味もない。

 ヒュドラを根本から切断し、持ち上げて振り回す。


「ぶっ飛べアホが!」


 巨大な丸太をぶん回しているようなものだ。

 どんどん敵をなぎ倒し、飽きたら投げて爆破する。

 これだけで何割か減っただろ。


「俺を倒したきゃ自分で来い」


「二度とその口を開くな。不愉快だ」


「そりゃすまんね」


 炎の馬が地面を溶かし、温度を上げて突進してくる。

 いや迷惑行為だなこれ。俺は熱さ寒さとか問題ないが、やっぱり騎士団が死ぬ。

 まーたヒュドラが増えてますわ。毒も効かねえから下がって。邪魔だよ。


『ソード』


 最適解でいきましょう。例の剣を取り出し、ヒュドラを傷つけた。

 あとは俺の意思で痛みを増幅させて、隠れている本体まで届かせる。


「ギョアアアアァァァ!!」


 叫び声を上げながら、地中より飛び出す蛇の首。あれが本体だろう。

 九本同時に一刀両断でござる。きれいさっぱり消滅した。


「次はどうする?」


「神に刃を向ける下衆よ、何者だ? 人の届く領域ではないな」


「フルムーンの秘密兵器さ」


 光速の三千倍で繰り広げられる乱打戦も、今となっては特別じゃない。

 もっと強い神がいた。もっと厄介なやつもいた。こいつはただ熱くて強いだけ。


「燃えつきろ。灰すら残ることを許さん」


「やめろっつっただろうが!」


 炎の馬を全部敵軍に投げ飛ばす。馬そのものは炎だ。無限に出せるんだろう。

 本人倒すしかないねこりゃ。


「最後に聞かせろ。神の世界にするなら、カイはどうして仲間になった? 機関も神も人間も、思惑が噛み合わないだろ」


「これから死ぬ人間に、説明が必要か?」


「その自信はどっから来るんだよ」


「ヌウウアアアアァァァ!!」


 炎の塊が飛んでくる。おそらく何億度も何兆度も出るんだろう。

 それを適当にさばいて敵軍へ方向転換させる。


「バカな!!」


「消えてくれ。こっちは忙しいんだ」


『ホウリイ! スラアアアァァァァッシュ!!』


 残る中央軍ごとまとめて必殺技キーで切り刻む。


「ウウウゥゥ……ガアアァァァ!?」


 大爆発を起こして、ようやく一息つける時間になりそうだ。


「そうだ、あいつらどうなった」


 瞬時にリリアの元へ帰還し、シルフィとイロハの無事も確認した。

 フルムーン一家も生きている。


「怪我はないな?」


「うむ、こっちは敵が少なくてのう」


「レッドマフラーさんが敵をひきつけてくれたからよ」


「ありがとう。強いのは全部そっちに行ったみたい」


 よしよし、全員無事ならそれでいい。そーっと物陰へと移動し、鎧を解除して現場へ戻る。リリアも仮面とマフラーを外した。


「おっ、帰ってきたな」


 団長数人とロンさんがいる。みんな笑顔で迎えてくれた。


「なんか騎士団が騒いでますが、まだ敵が?」


 勝利の雄叫びっぽい。勝ちどきとかそういう声かな。戦場の経験が少ないのでわからん。敵襲じゃなきゃいいな。


「そりゃ敵軍がほぼ壊滅したからな」


「しかもたった一人で神の軍勢を叩き潰したやつがいる。そりゃ湧き上がるってもんでしょう」


「強い人もいるもんですね」


 すっとぼけておきましょう。察してくれるはず。


「ああ、ちゃんと礼をしたいが、どうせ見つからないだろうな」


「秘密兵器は秘密のままってやつだな!」


「いやあ驚きましたよ。自分の想像を超えるやべーやつがいたもんですね」


「ヌハハハ! いやあいっそ清々しいくらいに強かったですねえ! 変な笑い出ちゃいました。ヌハハハハハ!!」


 ちゃんと話を合わせてくれる。いい騎士団だわあ。ありがたい。


「これで巻き返せるかね?」


「裏切り者が一人ならって前提ですが」


「難しいところだな。まだアリアも見つかっていない」


「ご心配をおかけしました。私は大丈夫です」


「アリア団長!」


 しれっと戻ってきた。大怪我もしていないようだが、どういうことだ。


「マリーも一緒です。今は部隊の再編をしています」


『こちらコバルト。大砲の破壊に成功した。秘密の助っ人が海で暴れている。そちらがピンチなら戻る』


 おっとテレパシー来たな。リクさんが魔法で答えている。


「こちらは神の襲撃を撃退。敵中央軍はほぼ壊滅。こちらの被害は軽微だ」


『壊滅? 先程異常な魔力を検知したが』


「こっちにも助っ人がいたのさ」


『了解。我々は戻るべきか?』


「怪我をしない程度に海を制圧してくれ。けが人はいないな?」


『問題ない。健闘を祈る』


 どうやらあっちも無事らしい。どうやら助っ人ってのはとてつもなく強いみたいだな。


「まずは被害状況の確認だ。その後、本陣を移動させつつ進むぞ」


「了解!」


 これで決着が付いたとは思っていない。敵の神はまだまだいるだろう。

 だが大きく前進したことも確かだ。この調子で終わらせてやる。

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