休日は休むための日です

 休日というのは休む日だ。少なくとも俺の中ではそうだ。だから家から出たくなかったんだけど……明るいうちは外に出ろと言われて、一人で外出中。

 ついでにシルフィに合う剣を探してみるも、一人じゃわからん。しかも高い。


「貧しくても金の貸し借りだけは絶対に嫌だ……」


 誰かに金借りるのは嫌いだ。

 あとこの世界で金貸しは、国営で行われているものしか存在しない。

 昔、金に困った卒業生が、闇金から限度額いっぱいまで借り、悪人成敗の戦利品として皆殺しにし、金庫の金を押収するという夢の錬金術を発明したから。

 非合法の金貸しという、犯罪者のカスの分際で、誇りとかもっちゃうバカばっかりで狩りやすいという噂が流れると、全世界で空前の闇金狩りブームが巻き起こる。かくして国営のもの以外は全滅したと授業で習った。


「あっても借りる気はないけどな」


 借金だけは絶対にしないのが心情だ。

 ローンとか縛り付けられたいアホがやるもんだと思っている。

 仕方ないので商店街をうろうろしてみることにした。

 少しベンチで休んでからな。


「おおーあじゅにゃんだー!」


 なんか知らん女が俺がいる場所に向かって話しかけている。

 え、これ俺に言ってる?


「おっす、あじゅにゃん!」


「……俺ぇ?」


「おうさ!」


 一ミリも身に覚えがない。なんだこいつ。なっげえツインテールの女だ。

 髪は薄紫。赤い目が俺をあじゅにゃんだと信じて疑っていない。

 曇りのない目だ。本当に誰だよ。。


「今日はお礼に来たよ!」


「意味がわからん。人違いじゃないのか?」


「いいや、あじゅにゃんだね。私の目に狂いはないよ」


「いきなりそのテンションじゃサカガミも引くだろふつーにさ」


 もう一人の金髪外ハネヘアー女が出てきたけどマジで見覚えがない。

 黒いケモ耳と尻尾からして犬かな。新型のヴァルキリーか?

 両方制服着てるけど、そんなもん基準に出来ない。


「人違いじゃないみたいだな。悪いが見覚えがない」


「ああ、会話すんの初めてっぽいな。勇者科一年、ホノリ・リウスだ」


「同じく、ももっちだよ!」


「しょっぱなからあだ名とかどういうことだ」


「なあに軽いお礼さ。とっときな!」


 なんだこいつ……さてはめんどいやつだな。


「ほのちゃん! あじゅにゃんがめんどくさそうな顔してる!」


「ならきっと私も同じ顔してるぞ」


「つまり面倒なやつなんだな」


「それで正解だな。よろしく。サカガミでいいか?」


「よろしく。変な名前つけなきゃなんでもいいさ」


 ホノリはまともなやつだな。こいつからはこちら側……周囲の人間のせいでツッコミに回らざるをえない人間、同類のにおいがするぜ。


「できればフルネーム教えてくれ」


「んもー、エリザ・モモチだよ」


「苗字だったんかい。まあよろしくな」


「うん! さああじゅにゃん。なんでベンチに座ってぼーっとしてたのか教えてもらおうか」


「休憩中だったんだろ」


「そうだよ。単純に剣が重くてな。腰がやばい」


 うん、腰がしんどい。みんなよく武器持って歩けるなおい。

 ももっちは短めの……槍か? 両端に布被せてあるけど多分槍もってるし。

 ホノリは籠手と足に装具つけてるから接近戦主体だろう。

 それでも重いだろうに。凄いなこいつら。


「そんな重いの? ちょっと貸して」


 別に困らないので手渡してやる。


「んー? そうでもないよね?」


 普通に片手でブンブン振ってやがる。鞘付いたままだから、重さプラスされているはずなのにだ。身長百六十ないくらいなのに……これも達人候補の素質かね。


「俺は体力ないからな。今ならなんと金もないぜ」


「いやいや、それでどうやってあの女倒せるんだよ。あの肺活量は体力あるやつのそれだろ」


「……あの女?」


「身体測定のときにいたじゃん! あじゅにゃんがぶわー! っと殴って倒したやつ」


「…………あの場にいたのか!?」


 まずいとこ見られてるな。っていうか意識あったのね。

 かーなーりイラついてたんで後先考えてなかったな。つまりいつものことだ。


「倒れてたやつらの二人だよ。うちらは最初だったんでね」


「回復も一番早かったのさ!!」


「それでお礼に来たと」


「そういうこと! 水の迷宮でも助けてくれたんでしょ?」


「いよいよマジで覚えてねえわ。長い通路の先だよな?」


 倒れてた女のことだな。リリア達以外の女とかどうでもいいので、顔なんて覚えていない。


「そこで倒れてた連中の中にいた二人さ。本当に世話になったな」


「気にするな。たまたま近くにいただけだ」


「お礼を言わない理由になってなーい! と、いうわけで『ありがとうあじゅにゃん』と題しまして、何かします!」


「曖昧だな」


「本人に聞くのが一番だよ! ほらほら、なにか探してたんじゃない? 相談乗るよ。初回タダ! 次から有料!」


「金を取るな金を。私達はただ恩を返したいだけさ。なにか悩んでいたみたいだし、協力できるか?」


 どうするかな。まあ一人で考えててもいい案は浮かばない。

 だったらイマイチ信用ならねえけど、話すのも悪くはないか。

 どうせまだ腰痛いから動きたくないし。


「安くて伝説の剣を探している」


「いや無理だろ」


「安い伝説しか残せていない剣?」


「それはそれでいやだなおい。シルフィ……あーフルムーンいるだろ? 同じ勇者科の。あいつに神様でも斬れる剣があれば教えたい」


「むしろ金で買えるなら安いもんだろそれ」


 まったくもってド正論だな。

 よかったホノリはまともだ。まともな人もいるんだ。


「フルムーンちゃんとお友達?」


「俺のギルドメンバーだ。一緒に住んでる」


「ルーンちゃんというものがありながら!?」


「意外とやるな……サカガミ」


 なんか誤解されてる気がする。

 ルーンってリリアだよな? リリアというものがありながら?


「なんでここでリリア? あいつ別に恋人とかじゃないぞ?」


「なぬ?」


「ほえ? 違うの? 俺のものって言ってたじゃん」


「……………………ちょっと待てちょっと待て。いやほんと待って。どこから聞いてた? どっから起きてた!?」


「壁ぶっ壊して現れて、壁ぶっ壊して消えるまで」


「全部じゃねえか!? うーわ最悪だわ……他にも聞いてたやついんの?」


「わかんないけど私達は聞いてたよ」


 うおう地味にきつい。絶対聞かれたくなかったのに。

 問題は何処まで記憶されているかだ。


「他になんか覚えてるか?」


「他人の鼻にピーナッツを詰めさせたら右に出るものはいないぜ、とか」


「絶対もっとうまいやついるわそれ」


「そこじゃないぞー。落ち着けサカガミ」


「右の鼻より左の鼻に多く詰められるぜ! ってね」


「人によるだろ」


「マジ返しはしないでやってくれ」


 いかん。無限に続くぞこれ。この永劫覚めない悪夢を振り切ろう。


「俺に恩返しどうのって話どこいった」


「剣が欲しいんだっけか。フルムーンにプレゼント?」


「んなことするか。そういう剣があるって教えてやるだけさ」


 素直に答える気はない。初対面の相手ならなおさらだ。


「そこは甲斐性とかの見せ所だよあじゅにゃん」


「甲斐性なんてめんどくっせえもん死ぬまで持つ気はない」


「なかなかに珍しいやつだなお前……」


 珍しいとオブラートに包んでくれるあたり、ホノリはいいやつなんだろうなあ。


「サカガミの剣は普通のやつだな。軽さと作りからして、扱いに慣れていない奴向けか」


「ああ、それは昨日買った練習用なんだよ」


「私は鍛冶科で武器作りを重点的にやってるんでな。なんとなくわかるんだ。練習用なら戦闘用もあるはずだよな?」


「そっちも見たい! それと同じやつがあるかほのちゃんに見てもらおうよ!」


 ほのちゃんはおそらくホノリのことだろう。あだ名つけまくるタイプか。


『ソード』


「ほい、これだ」


 ソードキー使って見せてやる。二人とも右手からにゅるっと剣が出てくるのに驚いているな。ホノリに手渡してやると、尋常じゃないほど驚いた顔になる。


「無理だな」


「即答かい。やっぱレアものなのかねこれ」


「レアとかいうレベルじゃない。なんだこれ…………どんな技術と素材使ったらこんなもんできるんだよ……」


「ほのちゃん的には激レアなんだね」


「断言してやる。同じ物なんて全世界探しても絶対に出てこない。これにちょっとでも近づくためには、何百……千年以上はかかる。それもこれを作り出せる鉱物が奇跡的に見つかること前提でな」


 仮にも武器作ってる奴に言われると説得力あるな。


「いや……本当に凄いな……うまく言葉が出てこないけど……見られてよかった。ハンパないもん持ってるな」


 なんか感謝された。そして、生半可な武器ではダメってこともわかった。


「やっぱ本人強化するしかないか」


「フルムーンってかなり強いんじゃないのか?」


「お友達のフウマの一族も強いしねー」


 フウマの一族て。なんか妙な言い回しだな。


「イロハも強いさ。いつも助かってる」


「……まさかフウマとも同棲してんのか?」


「人聞き悪いわ。ギルドメンバーなんだよ」


「普通自然と男子と女子別れるだろ」


「んん? マジで? あとメイドさん一人いるんだけど」


「性豪だ、性豪がいるよほのちゃん!」


「性豪言うな! 手ぇ出してねえよ!!」


 ええー同棲扱いか。見えなくもないのか?

 手を出してねえからまあセーフだろ。


「疲れないのかそんな環境で」


「慣れた。みんなちゃんと気を遣えるし、いがみ合っているわけじゃない」


「お姫様と同棲とかあじゅにゃんは凄いことしてるね」


「考えたら負けだ。しかし剣がダメとなると……どう慰めたもんかね」


「フルムーンちゃんはへこんでるの?」


「ん、まあな。気晴らしにいい話でも持ってきゃいいと思ったんだよ」


 とりあえずシルフィを思いつめさせるのは嫌なので、なんとかしてやりたい。


「よし、慰めてあげよう! あ、ルーンちゃんにもありがとうって言っとかないと!」


「だな、サカガミ。もう帰るのか?」


「ああ、日が暮れてきたし、腰もしんどいし」


 俺の腰の弱さ大爆発だよ。足腰鍛えないとな。


「よーしあじゅにゃんのお宅訪問だー!!」


「はあぁ? なんでそうなる」


「お礼だよ! 覚えているうちに出発!」


「サカガミの都合とか考えろよ」


「お礼くらいならいいさ。言わないでいるのも、なんかもやもやするだろ、そういうの」


「悪いな。お言葉に甘えるよ」


 俺じゃどう慰めていいかわからんし、明るい奴がいたほうがいいだろう。

 腹が減ってきたので、ちょいと早足で二人を家まで案内することにした。

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