連休とクエストのお知らせ

 違うんだ。軽い気持ちだったんだよ。言い換えれば軽く見ていた。

 いつものリビング。いつものソファー。そして俺の膝にリリア。両サイドにシルフィとイロハ。物凄く警戒されている。俺がじゃない。正面に座っているホノリとももっちがだ。


「――――助けてくれ」


 とりあえず目が合ったホノリに助けを乞う。

 楽しそうにしているももっちとは正反対に居心地悪そうだ。


「無茶言わんでくれ」


 拒否られましたー。そらそうだ。しくじったぜ。

 客を連れて来たと言って、二人を家に入れたところ猛烈に警戒された。

 とりあえず表面上はお客様として扱いながら、俺の側を決して離れない。

 お礼を言いに来たと言ってもだ。


「そんなわけで、ルーンちゃんもありがとね!」


 普通に軽く振る舞えるももっちはどんな胆力してるんだよ。バケモンだな。


「つまらないもんだけど、五色シュークリーム買ってきたから食べてくれ」


「おぉ……これ人気のやつだ!!」


 反応したのはシルフィ。食い物に弱いな。女の子だから甘いものに弱いのか。

 箱の中から甘い匂いが漂っている。果物の匂いかな。


「最近話題の五つの味が堪能できる五色のクリーム! とかいうやつじゃな。限定品のはずじゃが」


「うちらの知り合いに店員がいてね。頼み込んで一つ予約したのさ」


「さあ食べたまえあじゅにゃん。ルーンちゃん」


「じゃあまあ、一つもらうか」


「うむ、厚意はありがたく受け取るのじゃ」


 一つ掴んで頬張ってみる。サクっとした歯ごたえに続いて、普通のクリームの味がする。質がいいのかしつこさも、甘いもの独特の、口の中がもやっとする感じもない。そこからチョコの味に変わり、果物の味に入れ替わる。ミカンのような酸味の効いた味だ。追い打ちでりんごの様に爽やかな味になり、最初よりもあっさり目のクリームに戻る。後味最高。貶す部分ゼロ。


「おぉ……こいつは美味いな。一つ一つの味が間違いなく最高にうまい」


「スイーツの頂点じゃな。今まで食べたものの中で、ぶっちぎりのトップじゃ」


「喜んでくれてよかったよ」


 シルフィが食いたそうにこっち見てる。イロハも俺を掴む手に力がない。

 口には出さなくとも食いたいんだろう。


「六個あるし全員で食っていいぞ」


「うむ、みんなで食べるのじゃ」


「いいの?」


「ありがたいけれど……アジュへのお礼でしょう?」


「サカガミがいいなら、うちらはそれでいい」


「あじゅにゃんとルーンちゃんへのお礼だからね」


 二人ともお礼を言って食べ始める。一口食って手が止まった。

 そしてなんかぷるぷるしとるぞ。


「ふおおおおぉぉぉ……おいしい!!」


「しばらく他のお菓子が物足りなくなるわね」


 しっぽがぱたぱたしている。気に入ったんだな。


「警戒せんでもよかったのう」


「ええ、ごめんなさいね」


「ごめんね。ちょっと色々あってさ。アジュ取られるんじゃないかと」


「別にサカガミを取って食おうとしているわけじゃない。二度助けられて礼もしない恩知らずになりたくないだけさ」


「そうそう。同じ勇者科だもんねー」


「いがみ合わなくていいなら助かる。効率悪いしな」


 甘いもので機嫌直ってくれてよかった。ホノリ達が本当に俺を狙っていない、普通のやつだと伝わったんだろう。


「いがみ合うで思ったんだけどさ。まあなんつーか……よく仲良くできるなお前ら。一応アレだろ。サカガミ狙ってんだろ?」


 おおうド直球だ。ズバっと来たな。ノーコメントで成り行きを見守ろう。


「うえぇ!? あぁ……その……」


 シルフィは俺をチラチラみている気配がする。多分顔が赤い。

 なので絶対に見てはいけない。コメントを求められるからだ。


「おおーフルムーンちゃんがかわいい! 乙女だねえ」


「ほれほれ、ほぼ初対面の人間でもそれくらい丸わかりなんじゃ。おぬしも観念せい」


 まあこれがリリアの反応だ。女の子に抵抗をなくす方向で、ハーレム推奨してくる。でも渋々というか、俺に対する申し訳無さがちょい混じっていることに気付き始めた。後でこの辺聞いてみよう。


「私とシルフィは元から親友よ」


「リリアももうお友達だし」


「あじゅにゃんを独占してにゃんにゃんとか考えないの?」


「ふっ……甘いのじゃ。アジュ初心者が陥りがちなミスじゃな」


 リリアがやれやれみたいなポーズ取って遠くを見ている。

 もちろん俺はノーコメントだ。


「アジュ相手にそんなことをしていて攻略できるわけないじゃない。女の子への嫌悪感が増すだけよ」


「三人で力を合わせても、ゆっくりゆっくり攻略するしかなくて、みんなで頑張っているうちに仲良くなるんだよ!」


「このヘタレを口説き落とすには、いがみ合っている余裕はない。一人で籠絡する力も、わしらにはないのじゃ」


「お、おう……まあそれでいいなら、うちらはなにも言わないことにする」


 ホノリとは短い付き合いだが、ドン引きしていることが、ひしひしと伝わってしんどい。


「それでは、これから何卒よろしくお願い致しまする」


「急にかしこまってどうした?」


「ほっとけ。エリザに意味を求めても無駄だ」


「それはどうなんじゃ……?」


「さ、それじゃあお金稼ぎの計画でも練ろっか!」


「急になによ?」


 そういや来る前にそんなこと話したっけ。忘れてたよ。


「あじゅにゃんがお金がないから剣も買えない。みんなで遊びにも行けないって言ってたし」


「ばらすなや!?」


「剣? もしかしてわたしの剣のこと?」


「うるさい違う気のせいだ忘れろ」


「これは正解ね」


「正解だね! ちゃんと考えてくれてるんだ!」


 三人の機嫌が露骨に良くなっている。シルフィが俺の袖をくいくい引っ張っているけど、直視すると照れてしまう可能性が高いのでスルーだ。


「これが攻略を進めるということじゃ!」


 アホみたいな宣言をされる。リリアが背中を預けてきた。

 こういう時は機嫌がいい時だ。なんだかんだ喜んでいるということだろう。

 しかしまずいことを知られてしまった。


「いやそこまで喜ぶことか? 普段のサカガミはどんなやつなんだ……」


「それを言うと好感度が下がるわ」


 流石イロハさん。隙がない。もうちょい日頃の行いってやつを変えようかな。

 心配かけすぎている気がする。


「金がない。厳密には売る材料はあるんだけど。それ以外の財産がない」


「材料ってなんだ?」


「龍の牙とか爪とか目」


 龍の目は傷の度合いが少ないほど綺麗な結晶になる。こいつはマジックアイテムとして凄く値が張るのさ。だから今も家の倉庫で保管されている。


「なんで持ってるんだよ? Fランクギルドだろ?」


「前にドラゴンのお肉食べに行って、ついでに剥ぎとったよー」


「ついでで取れるんかい……お前ら凄いな」


「……俺Fランクって言ったっけ?」


「私の情報網をお舐めになるでないよ! 探偵科も入ってるんだよー」


 ももっち探偵らしい。正確には探偵の卵。こんな騒がしいのにか。


「あじゅにゃんの浮気調査もお任せさ!」


「それは…………問題無いわ。自分でできるもの」


「まず浮気なぞせんじゃろ。そんなことに休日と金を使うなら、部屋で二度寝でもするタイプじゃ」


「なんつー信頼のされ方だよ」


「あじゅにゃんは残念なイケ……てないメンだね!」


「ただのダメ人間じゃねえか!」


 つまりいつもの俺だ。うむ、ダメ人間だな俺って。


「アジュは結構イケてると思います!」


「たまーにかっこよいじゃろ」


「恥ずかしくなるからそのフォローはやめろ!」


「話が進まないな。こんなチラシ見つけたから持ってきた」


 ホノリが持ってきたのは、低ランク限定。ファイブリスペクト前にガッツリ予習しちゃおうクエストのお知らせ!! と書いてあるチラシ。


「なんじゃこりゃ?」


「ファイブリスペクトが近いしね。外の世界に慣れてない学園生に向けて、観光地付近のモンスターや気候の変化なんかを体験して、対策を覚えましょうっていう講習だよ!」


 なんとも俺向けの講習だこと。生徒に死なれないためかね。

 学費取れなくなるしな。


「ファイブリスペクトってなんだよ?」


「そう、もうすぐ五連休だよ!」


 代表してももっちが説明してくれる。

 名前かっこいいけどリスペクトと連休が繋がらない。


「なんでファイブリスペクト? 誰をリスペクトするんだ?」


「今日から五連休にしてやる! だからオレをリスペクトしろや!! って言い出したおっさんだよ!」


「誰だよ! おっさん呼ばわりしてるじゃねえか!」


 そんなおっさんの一言で連休が出来たらしい。アホだな。


「全国を五連休にしたんだ。並の偉人じゃあ追いつけないほど尊敬されるってばさ!」


「なるほど、そら語り継がれるわな。サンキューおっさん」


 つまりちょっと遅れたゴールデンウィークみたいなもんか。

 おっさんに感謝しよう。


「うちらも参加するからさ。出てみたらどうよ?」


「戦闘とか怖いんだけど。俺は心の準備が出来そうにない」


「サカガミ……お前強いんじゃないのか? 剣で腰痛めたり、体力なかったり謎なやつだな」


「人には事情があるってことだ」


「大丈夫! あくまで観光地の危険ってやつを知るためだから、ひ弱な坊や以外は負けないよ!」


 つまり俺負けるじゃん。モンスターとの戦いで負けって死ぬだろ。じゃあ怖いわ。


「今のうちに知っとくべきじゃな。医療班もおる。わしらもおる。損はなしじゃ」


「最後までクリアすると賞金出るわよ。しかも二単位貰えるわ」


「お得だね! 行こうよ。わたし達が守るから!」


「サカガミ守られる側かい」


「言っておくぞ。俺は守られることへの情けなさなど微塵も感じていない」


 ちょいウソだけどな! しばらくは仲間なしじゃしんどい。集団行動大嫌いだけど、こいつらとなら苦じゃない。命を大切に扱うためにも頼っていこう。


「わたしはアジュの騎士だからね! 凄い守るよ!」


「私は生涯アジュの影。どこにでも寄り添うわ」


「そしてわしはアジュの案内人じゃ。出不精なこやつを導くのが使命じゃな」


「と、いうわけで行くことになるわけだ」


「いい仲間じゃないか」


「あじゅにゃんは友達に恵まれたね」


 友達に恵まれる、というのはこの世界じゃなきゃ経験出来なかったことだ。

 大切にしよう。出来る限り。


「明日からか、筋肉痛にならなければ行こう」


「ちゃんと行けって」


 行きたくなってきたさ。行けたら行くよ。いやマジで。

 朝弱いから確定ではないけど。昼から行けるはずだし。


「ちゃんと朝起こしてあげるからね」


 行くことが確定した瞬間である。

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